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行動の源

ああ、あの時ああすればよかった。と後悔する瞬間は沢山ある。
その中でも最も反芻回数が高いのは、「恥」という感情だ。


あの時、なんであんな行動をしてしまったのだろう、なんでそう言ってしまったんだろう。
「恥ずかしい」言動や行動は、心に深く杭を打つ。しかもその杭の痛みで、たびたびその瞬間がふっと思い出すのだから厄介だ。
ああ、恥ずかしい、と思い出したくもない光景を何度も思い出し、そのたびにうまく感情を扱えずゾワゾワと胸がさざめく。


その日も、”恥”の感情を抱えて東京を歩いていた。
詳細は伏せるが、午前中、自分らしくない行動で相手を困らせてしまったのだ。 一瞬でも思い出してしまうと、何度もその光景が浮かんでは消える。

どこかにいるドラえもん、今すぐタイムマシーンをください。私はその直前に戻って、必死に自分を止めたい。あんた、それすると1日引きずることになるぞ、と忠告したい。



しかし、そうは思っていても現実は進んでいく。その時の情景を、パーフェクトなまでに復元する脳に、頭を抱える。
お昼時の東京の地下鉄に揺られながら、感情がソワソワとしている。早く忘れてしまいたいのに、ちょうどその日は、次の予定まで暫し時間があった。一人でいると、永遠とゾワゾワして、反省して、自己嫌悪に陥ること間違いなしだ。


ひとまず、何か気を紛らわすことを…と、私は行動を始めた。
そこで一番最初に思いついたのは、前々から勇気が出なかった「ボードゲームカフェ」だ。


少し前から、Youtubeなどの動画を見て、ボードゲームに興味があった。しかし、何名か集まらないとできないという制約の都合上、友達が少ない私はなかなか手が出せない代物となっていた。
そんな時に知ったのが通称ボドゲカフェ。ボードゲーム愛好家たちが集まり、カフェでゲームを楽しむ。調べてみると、初心者でも、一人でもOKという場所も多く存在した。いつか行ってみたいと、ずっと考えていたのだ。



そう、その瞬間は、今である。なぜならば、私は先ほど大恥をかいたので。

もはやその恥を忘れたいという方の思考が優った私は、勇気という力すら使わずに、カフェに電話をして予約を取ることに成功をした。


そしてそのまま、ボドゲカフェに初めて出向き、楽しい時を過ごした。
実際に行ってみたら、ボードゲームはとても面白い。さらに、相席したみなさんは、初心者の私に涙が出るほど優しかった。実際に涙は出てなかったが、傷ついていた心は号泣していた。みなさん「こういうゲームだと遊びやすいからこれにしよう!」と遊ぶゲームを提案してくれたり、「ルールはこうだよ」と丁寧に説明をしてくれた。先ほどまで「恥ずかしい」でいっぱいだった心は、その優しさによって癒されていく。


なにより、ゲームで遊んでいる間は、一切そのことを思い出すことがなかった。初めての経験だから一生懸命だったというのもあるだろうが、優しい仲間と出会ったことも大きい。ありがとう、ボードゲームカフェ、そしてボードゲームを愛する方々。そして、また時間があれば絶対に行こうと思った。


カフェからの帰り道、私は2度目の地下鉄に揺られながら、その日を反芻していた。

確かに大恥をかいた。しかし、それがなければきっとボードゲームカフェにいく勇気も持ててなかっただろうし、そこでの出会いもなかっただろう。
あの忘れたい瞬間は、最終的に、新しい趣味を見つけるきっかけを作ってくれた。


行動の源は、恥であったのである。
そう考えると、あの時の私の行動も、必要なものであったのかもしれない。ドラえもん、いなくてよかった。

目的地へ向かう、電車に揺られながら、心がザワザワすることはもうなくなった。
私は、また恥をかくのだろう。そうしたら、何か次の行動をするチャンスだ。次は、サバゲーをやりたいなと思いながら、都内が遠ざかるのを見つめていた。

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