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世界中の同僚たちと目の前で一緒に働く方法

さてさて、このお話はまだパンデミックが広がる前、2019年の秋に聞いた話。

もう今では一般的になりつつあるけれど、当時はなかなか先進的で興味深かった働き方について書いておく。

新しい働き方

僕が当時働いていたドイツの会社で同僚だったドイツ人が、別の会社へ転職していった。その彼が「久しぶりに会って、ゆっくり話をしようぜ」って食事に誘ってくれた時のこと。

ドイツには珍しいちょっと洒落たベトナム料理のレストランで食事しながら、彼が転職先の会社でどのように働いているかについて教えてくれた。

彼の名前は、仮名でロルフとしておこう。

ロルフ
「いま僕が働ている会社がどういう業種かというとね、建築業と先端計測技術の融合とでも言うのかな。昔に建てた巨大な橋や建築物などが、まだ充分に強度があるかどうかを計測して、必要に応じて補強工事をする会社なんだ。技術と経験に基づいたノウハウが必要なサービスだから、価格競争にならなくって安定してよい収益を稼いでいるよ」

という、いかにもドイツの優良企業らしい匠の技術の経験で価値を提供している会社。従業員は数千人の中堅規模で、彼はCFOを務めていた。

ロルフ
「うちの会社は世界中で事業展開していてね。自分の部下は50人くらい。彼らは世界の十数ヶ国で働いていて、大きな拠点だと事務所で部下たちが一緒に働いている。小さな拠点だったら、個人の自宅で仕事をしていたり」

これもドイツ企業でよくある事業展開のスタイル。国ごとに少人数の拠点を配置して、人事や経理などの事務処理は全てドイツから管理するパターンもあれば、現地の人を少人数だけ雇って、ドイツと連携しながら事務処理を行うパターンもある。

つまり、必ずしも「大きな現地法人をつくって駐在員を派遣する」という、国ごとに完結した運営をするわけではない。各国が連携しながら少人数で効率よく仕事をするという、国をまたいだ連携が前提となっている運営方法を取っている。

ロルフ
「部下は世界中にいるから、ドイツの事務所に出社してもあんまり意味がないんだよ。だから今は、だいたい家の書斎からオンラインを使って働いている」

という、今ではすっかり一般的になった在宅勤務をメインとして働いていた。

興味深かったのは、世界中の部下たちと繋がりながら働いているその方法

世界中の同僚たちと目の前で一緒に働く

ロルフ
「毎日どうやって働いているかというと、時差を最大限に活用するんだ。何を言っているかというとだな。。。まずドイツの朝はアジア時間の夕方だろ。まず朝イチは、香港とシンガポールの部下たちとテレビ会議をつなげて働き始める

僕が朝のコーヒーとか飲みながら、ウオーミングアップがてらに雑談交じりに相談に乗ったり、承認などの業務を行う。そのうちに話すことがなくなったら、一つのモニターで彼らと映像をつなぎっぱなしにしながら、もう一つのモニターで自分の仕事に取り掛かる。

だから、常にみんなの顔が一つのモニターに映し出されていて、逆に僕の顔もみんな見えている。つまり、香港とシンガポール、そしてドイツの僕がみんな目の前で働いているのと同じような状況をオンラインでつくるんだ。

そうやって仕事をしながら、部下たちに聞きたいことが出てきたら、彼らに話しかけて相談する。いちいちメールを送ったり電話で呼び出したりしなくていいから、気楽だよ」

日本では、オンライン会議といえば必ずしも映像はオンにしないケースも多いのかな。僕が働いていたドイツの会社では、ヨーロッパの人たちとオンライン会議するときは、普通は映像をオンにしておくものだった。

ロルフ
「そうやって2時間くらい働くと、アジアが終業時間を迎える。そしたらアジアとの接続を切って、次はインドの同僚にテレビ会議をつなぐ。ちょうどそれくらいの時間は、インドの午後だから。そうやって、今度はインドの同僚と雑談したり、打合せをしたり。話が終わったら、またつなぎっぱなしにして、もう一つのモニターで仕事をする。

そうやって2時間くらい働くと、インドとの接続を切る。そして次はヨーロッパの同僚たちとつなぐ。ヨーロッパは午後だからね。そして最後、ドイツの夕方になったら、アメリカや南米の同僚につなぐ。

そうやってアメリカや南米の同僚と仕事をしていると、ドイツは夜になって仕事を終える」

つまり彼は、各地域の時差を利用して、常に世界中の同僚たちと繋がり続けながら仕事をしていた。

まるで、世界中の同僚たちと同じオフィスで働いているかのように。

ロルフ
「こういう働き方って、世界中の同僚が目の前で一緒に働いているみたいで、とても効率的だと思わない?最近は、家の通信環境でも映像をつなぎっぱなしにできるくらいの通信スピードがあるから、やろうとしたら誰でもできるよ。これが普通になってくると、逆になんでみんなこの働き方をしないのかな、って思っちゃうよ」

実際、その後のパンデミックでオンラインで働くことが一般的になった結果、今ではヨーロッパの会社では既にこんな働き方がもっと一般的になってきているんじゃないかな。

因みに、この話について日本で働く日本人へ説明したことがある。けれど、どうにも話が噛み合わない。まずスタート地点として、上司と部下が違う場所で働くという概念が消化できない様子だった。上司と部下は地理的に結束されているものであって、特に上司と部下が別の国で働いているということが心理的に腹落ちしない様子だった。

確かに、日本で働くことは「職場の仲間」という意識がベースになっているから、地理的な結束は重要な要素。

だけどヨーロッパで働くことは「仕事の役割や機能」の意識がベースになっていて、更にヨーロッパは小さな国がたくさん乱立しているから、地理的なつながりよりも、仕事の役割や機能による結びつきの方が強いことが多い。

だから、前述のような「部下は同じ事務所にはいなくて、世界中に散らばっている」という働き方が馴染む。

更に自動同時通訳機能が実用化すると

ここから先は自分が思ったことだけど・・。

今や、オンラインで喋った声を同時に相手の国の言葉に変換してくれる「自動同時通訳機能」の実用化が、目の前までやってきている。それが実現すると、語学の障害も地理的な障害もなく、「世界中の同僚となんら障害なしにオンラインを通じて一緒に仕事ができる時代」がやって来る。

元々、オンラインで映像を送り合うことは技術的に可能だった。けれど、心理的な影響なのか、あまり普及していなかった。その後、パンデミックへの対応でオンライン会議が世界中で普及し、もはや時差による障害以外で地理的な障害は殆どない

次は実用的な自動同時通訳機能が実現すれば、言語も障害にならない

そうなると、何が起こるか。

僕の息子世代は、まずは学校で世界中の学生たちと、言語の障害もなくオンラインで自由に交流するようになるだろう。

そして息子が社会人になったら、最初から世界中の人たちとまるで目の前で一緒にに働いているような働き方をするのだろう。

うらやましいなあ。

by 世界の人に聞いてみた

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