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夏至の火祭り in ドイツ

ドイツの一部の地域では、毎年夏至の時期には火祭りが行われている。ドイツに住んでいた当時の僕は、同僚に誘われていつも参加していた。

その火祭りは「聖ヨハネの火(Johannifeuer)」と呼ばれている。名前から想像できるように、キリスト教のイベント。もしくは「真夏の火(Sonnwendfeuer)」とも呼ばれる。

聖ヨハネはキリスト教の聖人で、イエス・キリストに洗礼を施したため、洗礼者ヨハネと呼ばれている。

そのヨハネの誕生日は、イエス・キリストの半年前とされている。イエス・キリストの誕生日は冬至間近の12月25日と定められているため、その半年前の6月24日、つまり夏至間近が聖ヨハネの誕生日と定められている。

冬至とキリスト、夏至とヨハネ

過去の記事で書いたように、イエス・キリストの誕生日、つまりクリスマスは、冬至の祭りと結びついたという説がある。

それはなぜか。

イエス・キリストの誕生の意味は、「キリストが神から世に遣わされて、それ以降は世の中に希望の光がもたらされた日」。

一方で冬至の意味は、「この日以降は、太陽の光が強くなっていく日」。

そういう視点では、キリストの誕生日と冬至は、両方とも同じような意味合いを持っている。

だから、両者の日が近いのは偶然ではなく、意図的に結びつけられたという見方がある。


そして、半年後の夏至の時期。この時期に古くから行われていた夏至祭も、ヨハネの誕生日と結びつけられたという見方がある。

ヨーロッパでもキリスト教が広まる前は、やはり自然崇拝の思想が強かった。自然の中で最も存在感が強いものは太陽。特に緯度の高いドイツや北欧などヨーロッパの北の地方では、長く暗い冬を嫌がり、夏の時期に人々は切実に太陽の光を求める。

という背景から、その太陽が一年の中で最も強い夏至の日は、盛大にお祝いをするのもうなずける。

実際、いまも自然崇拝の意識の強い北欧では、現代になってもこの夏至の祭りはたいそう盛大に祝われている。

なぜ夏至の日に火祭りかというと、この日以降は太陽の力が弱っていく。だから火を焚いて、太陽を力づけて活力が衰えるのを防ごうとした、とされているみたい。

ドイツの夏至の火祭り

ということで、僕の住んでいた地域の夏至の火祭りについて。

この日は街の中の自然あふれる場所に、巨大なキャンプファイヤー状の薪が置かれる。

その街では、まだまだ日の光が強い19時からイベントが開始される。キリスト教の司祭と子どもたちが、薪の近くで故事にちなんだ儀式を行った後、薪に火をつける。

また、別の街の場合だと、地元の伝統衣装に身を包んだ男女が、伝統の踊りを踊ってから薪に火をつける。

そうそう、あと街ではなくて、山でもキャンプファイヤーが焚かれる。山のキャンプファイヤーは、人が山の上まで薪を持って上がって、山のいろんな場所に薪を積み上げて、それらに火を点けていく。それらの炎は麓から一望に見られるので、麓の街からは山のあちこちから火の手が上がるのを見ることができる。

熱い炎

ちなみに街で火が点けられるキャンプファイヤーは、薪の高さが5mとか10mくらいの高さまで積み上げられた巨大なもの。

そんな巨大な薪が盛大に燃え始めると、炎が20mくらいの高さまで上がる。そして猛烈に熱い。炎から10mくらい距離をとっても、カーっと焦がされるし、炎を見ていたら目がカピカピに乾いてしまう。コンタクトの人はご注意を。

そんな夏至の日、熱い火にあたっているドイツ人たちがどうするかというと・・・

そう、ビールを飲まないわけがない!

ということで、このイベントにはビアガーデンが欠かせない。キャンプファイヤーの近くには、ビアガーデンの机と椅子が設置されて、大人たちは1リットルのビールジョッキを片手にワイワイと長い日を楽しむ。子どもたちはいつまでも明るさが残る中、豊かな自然の中を走り回って遊ぶ。

という感じで、キリスト教の行事と、日が長い良い季節を楽しみたい人たちの欲求がマッチして生まれたようなお祭り。

嗚呼、懐かしい・・・

ひとことコメント

ヨーロッパといえば、キリスト教というイメージが強いと思う。

でもヨーロッパであっても、現実には元々あった自然崇拝の文化と融合されている部分もあって、ベターっと画一的なキリスト教文化一色というわけでもない。結局のところ宗教とは人間が信じるものだから、人間の感性にあっている部分は文化として残るものだと思う。

そう考えると、これまで宗教にはイマイチ共感できない、と思っていた人でも、いくらか身近なものに感じられる、ということはないでしょうか。

by 世界の人に聞いてみた

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