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クシャミの季節

ハーックション!

僕は花粉症なので、この季節は花粉に反応して盛大にクシャミをしている。アレルギー反応特有の、大きなクシャミ。

むかしドイツで生活していた時も、かなり花粉に反応していた。

ドイツと日本は木の植生が違うから、人によってはドイツで生活している方が花粉症が激しくなるケースもあれば、日本の方が花粉症が激しいケースもある。

僕の場合は「どっちもどっち」くらいだろうか。ドイツで生活していた時は、ヘーゼルナッツの木と白樺に強く反応していた気がする。季節でいえば冬から春にかけて。

今回は、そんなクシャミの季節で思い出した話を。

乳白色の空

ドイツに住んでいた当時、ちょうど今くらいの季節に雪山へ登りに行った時のこと。

家からその山まではちょっと行きにくくて時間がかかる。その分、かなり山脈の奥の方まで入って行くから、絶景が見える気に入った山だった。

その日は雪が深く、山の七合目くらいからはスノーシュー(かんじき)を履いて頂上まで。天気は最高の快晴

頂上からの景色を楽しみに、さあどんな景色が眺められるのかとワクワクしながら、頂上から山の向こう側を覗いてみると・・。

空気が乳白色に霞んでいて、遠くが見えない

正午なのに、まるで夕方のように霞んでいる

なぜだろう。こういう時は、現地の人たちに聞いてみるに限る。

翌日、会社で同僚に聞いてみた。

ドイツ人同僚
「いまアフリカのサハラ砂漠から砂が飛んできているからだよ」

遠くはるばるサハラ砂漠から!?

聞いてみると、白っぽく見えているのは、雪山に降ってくるサハラ砂漠の砂。

日本の黄砂と似た現象で、一定の気象条件が揃うと、アフリカからサハラの砂が風に乗ってはるばるドイツまで飛んでくるらしい。年に数回くらい発生するとのこと。

左側が南でサハラ砂漠の方向。たしかに白い

どういう気象条件なのかを具体的に言えば、まずはアフリカのサハラ砂漠で砂嵐が起こって、砂が上空へ舞い上がる。

20年以上前に一人旅で訪れたチュニジアのサハラ砂漠
モロッコのサハラ砂漠

サハラ砂漠で砂嵐が起こった時に、スペイン上空でも反時計回りの強い風が吹き、同時にイタリア西側の地中海で時計回りの強い風が吹く、という条件が揃った時。

舞い上がったサハラの砂の右側でも左側でも、両側から北向きの強い風が吹き、それがブースターのように作用してサハラの砂を北方向へすごい勢いで飛ばしていく

そうやってサハラの砂が、地中海→フランス→ドイツへ飛んでいくらしい。

どや、この手作り感。

クシャミとザラザラと

それで色々と合点がいった。

登山の何日か前くらいまでは、日中でも気温が零下だったのに、登山の前日くらいから気温が急に20度くらいまで上がって、半袖で外を歩けるほどの気候に激変。

それはアフリカの熱い空気が入ってきたからだった。

そして激しくクシャミが出る。
なぜなら細かい砂に鼻が反応するから。

職場の机の上がザラザラする。
それはサハラの砂が降り積もるから。

実はこれまでも何度かそういう現象があって、不思議に思っていた。これでようやく理由が分かった。

何でも現地の人に聞いてみるもんやね。

春に同じアングルから撮影した写真。やっぱり遠くの雪を被った山脈までクッキリ見えてるやん。

ムズムズとモゴモゴと

ちなみにドイツでは、クシャミをすると、その人に向かって周りの人たちが

ゲズントハイト!

と声をかけるのが習慣。そして言われた人は軽く「ダンケ(ありがとう)」とお礼を言う。

ゲズントハイトとは「健康」の意味で、なぜそう言うようになったのか、由来は諸説あるみたい。

ドイツで働いていた当時、花粉症が激しくなる冬から春にかけては、僕がしょっちゅうクシャミをして、それに対して周りのドイツ人同僚たちがイチイチ声をかけてくれる、という申し訳ない状態に陥っていた。

ドイツでは花粉症の人はあまり見かけず、僕の花粉症のクシャミであっても、みんな律義に何度でもゲズントハイト!の言葉を浴びせてくれる。

そんな風習のドイツで8年近く生活してみると・・、クシャミをした人に対して声をかけるというのは習慣になってしまった

なぜなら、誰かがクシャミをしていることに対して、みんなで声をかけることで「クシャミの行為を共有している」という感覚を持つようになった。だから日本で、クシャミをしている人に対して何もせずに放置している状況が、冷く感じてしまうようになったから。実際、うちも息子も家族の誰かがクシャミをしたら、とりあえず「大丈夫?」って声をかけてくれる。

これって日本でいえば、「お疲れ様です」というフレーズとちょっと共通点があるように思う。心がこもっていようがいまいが、そういう言葉をかけること自体が共同体で感覚を共有するための潤滑油になっている面もあるような気がする。

という「僕の中の常識」の変化があったから、日本に帰った今でも周りで誰かがクシャミをしたら、何か声をかけたくなって自動的に口がモゴモゴしてしまう。

そう、いま職場では自分も含めてたくさんの人たちがくしゃみをするこの季節。

僕にとっては、鼻がムズムズするのに加えて、口がモゴモゴする季節でもある。

まとめ

如何だったでしょうか、クシャミの季節に思い出した話。

「風が吹けば桶屋が儲かる話」という表現があって、「因果関係がとっても遠いところで影響が出る」という意味で使われたり、更には「因果関係が遠すぎてこじつけに聞こえる」といったことを意味している。

今回は『サハラ砂漠で風が吹けば、ドイツで「健康!」と声をかけられる話 』なので、これとちょっと共通点のある話でした。

最近すっかり春めいてきて、次の季節へ移りつつある。そんな春の季節になると思い出す「体の記憶」に対して、年を重ねるごとに情緒を感じるようになってきているから、この季節に紐づいているドイツでの思い出を書いてみた。

by 世界の人に聞いてみた

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