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国境が入り乱れる街

今回は小ネタの記事。

むかしドイツに住んでいた時、車でベルギーへ小旅行をした。

その旅行の途中で少し足を延ばして、以前から行きたかったオランダにある「バールレ・ナッサウ」という街に寄った。

なぜこの街に寄ってみたかったのかといえば、日本に住んでいた時にテレビで見て、いちど行ってみたいと思ったから。

ここはかなりこじんまりしたオランダの街。その中にベルギー領の飛び地が21個ある。さらに、そのベルギー領の飛び地の中には、逆にまたオランダ領の土地が7個ある、という状況。

つまり、国境が入り乱れていることで有名な街。

黒い線が国境で、かなり複雑に入り乱れている

飛び地ができた背景

なぜこんなことになったかと言うと、数百年前にこのあたりの土地を所有していた公爵が土地をバラバラと人に譲渡して、そしてその譲渡も途中で終わってしまった結果として、このように細切れで所有者が異なる土地ができたから。

このような状況を解消するため、オランダとベルギーが土地を交換することで飛び地を解消しようとしたものの、住民の反対などがあって実現せず、現代までこの状態が継続しているらしい。

国境を股にかける息子。右足(Bの側)はベルギー領、左足(NLの側)はオランダ領

なぜ住民が反対するのか?それは次の理由があるから。

「いいとこどり」ができる

国が違うと、各種の制度が異なっている。オランダとベルギーでは、たとえば税率が違っていたり、バーの営業時間の規制が違っていたり、兵役の期間が違っていたり。

それぞれの国にはそれぞれが望む社会があって、その理想を実現するために、税率・商業施設の営業時間・兵役といった個別の事柄について、具体的に適切と考える数字を法律で定めている。

特にベルギーとオランダは、西欧におけるカトリックとプロテスタントの境界線になっているから、理想とする社会の考え方が少々異なっている。それに伴って、各種の制度や数字も異なっている。

となると、住民としてはいずれにせよ自分に都合の良い方の制度が適用されることを望むもの。

ベルギーの制度が適用されていて、その方が都合がよい家庭の場合は、オランダ領にされてしまっては損をする。そのため、自分の土地がオランダ領に交換されてしまうことに反対する、という構図。

しかも、自分で「いいとこどり」をする方法がある。

この街では国境線が家の中を通っているケースも多い。そのような家はどうやって所属する国を決めるのか?それは「家の正面玄関がオランダかベルギーかどちらの領土に存在しているか」によって所属する国が決まるようになっている。

そのため、オランダの制度が適用された方が都合がよい場合は、オランダ側に正門をつくる。ベルギーの制度が適用された方が都合がよくなった場合は、家やビルを工事して、ベルギー側に正門を付け直す。ということをしている家庭や企業もあるとのこと。

建物を横切って国境が。この建物は右側の入り口から入る部屋はベルギー、左側の入り口から入る部屋はオランダに帰属するはず。でもこれ、たぶん建物の中に入ると繋がってるよね・・

観光素材として

ちなみに、うちの家族が旅行でこの街を訪れた時には、テレビが取材に来ていた。

すると、付き添っていた市役所の観光課とみられる職員の人が、アジア人の僕たちに気付いて声をかけてきて、興味津々で質問してきた。

「どこから来たの?なぜこの街に来たの?何を見てこの街が有名だって知ったの?」

そう、この街は、国境が入り乱れているという特異な観光資源を有しているから、こうやって僕たちみたいな観光客が集まって活気が生まれる。

現代においては、どの国においても地方の街って一般的に過疎化が進み、維持するのが難しくなっている。産業革命以降は世界中で工業化・情報化が進み、数百年単位で都市化が進行していく一方だから。

でもこの街には国境が入り乱れているという特異な観光資源があって、観光客が適度に集まってくる。現代においては観光素材となっている状況を考えると、街としても飛び地を解消して「ありふれた街」に戻すことは考えにくいんじゃないかな。

ということで、地続きにいろんな国がひしめいているヨーロッパらしい街でした。

by 世界の人に聞いてみた

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