見出し画像

ブレグジットの経緯を聞いて太平洋戦争に思いを馳せた

今年もやってきた「この季節」。8月の上旬から中旬にかけて、日本では太平洋戦争および終戦にまつわるニュースやドキュメンタリーが増える。

僕自身は特段の政治的・民族的な主義主張はないんだけれど、太平洋戦争に関わるドキュメンタリーをときどき見るようにしている。戦争について頭だけで考えず、現実に何が起こるのかを定期的に心に沁み込ませることって必要だと思って。

で、ずっと昔にNHKのとあるドキュメンタリー番組をみたんだけど、その話は以前イギリス人同僚からブレグジットの経緯について聞いた話と共通点があったので、「この季節」に投稿しておく。

ブレグジットについて聞いてみた

まずはブレグジットの話から。僕はちょうど1ヶ月前にブレグジットに関する記事を書いたところ。

その記事で書いた内容を要約すると。ブレグジットが決まった後でイギリスはEUとの離脱交渉で大変苦労することになったので、多くのイギリス人が「EUを離脱すべきでなかった」と考えているのかと思いきや・・・。良識あるイギリス人に聞いてみたところ、「やはりブレグジットは正しい選択だったと信じている」という話を聞かせてくれた。

今回の話は、この記事の話を聞いたあと、さらに半年以上の時が進んで離脱交渉が一層熱を帯びていた2018年秋のころ。

その時点でイギリス側もEU側も、離脱の条件についてそれぞれ譲れない線を譲っておらず、条件が折り合っていない。このまま合意(妥協)なしに離脱すると、主にイギリスが大きなダメージを受けるから、イギリスは不利な立場に立たされていた。

イギリス政府も大混乱。当時首相だったテリーザ・メイは穏健なEU離脱方針に沿って交渉を進めていたが、議会をまとめるのに苦心。この混乱に乗じて、強硬な離脱を主張するボリス・ジョンソンが首相の座を狙っていた、という状況。(実際、その翌年には彼が首相に就任する)

そんな経緯でカオスな状況に陥った当時。さすがに今ではEU離脱を中止した方が良いと考えるイギリス人も増えているのではではと思い、僕が働いていたドイツ企業にいたイギリス人同僚に、EU離脱についてどう思っているのか飲み会の席で聞いてみた。


「あのさ、もし気に障るなら答えてくれなくてもいいんだけど・・。EU離脱について、いまこの状況でイギリス人たちはどう考えているのかな?」

その瞬間に、50代前半くらいのイギリス人同僚(男性)の何かのスイッチが静かにオンになったのが感じられた。

彼はイギリス紳士らしく物静かに、でも周りの同僚たちみんなに向けて有無を言わせない調子で語り始めた。

イギリス人同僚
「まず、いまの時点でEU離脱派と残留派はどちらが多いかは、簡単には分からない。離脱が決まった国民投票時点で、票はざっくり半々だった。でも投票以降に意見が変わった人たちがたくさんいるから」

詳しく話を聞いていくと、いくつかの要因が人々の意見に影響を与えている、ということが分かった。

イギリス人同僚
「まず、当初EU離脱に賛成票を投じた人たちの中には、EU残留派に鞍替えした人たちがいる。なぜなら投票時点まで、多くのマスコミがEUの悪い面ばかりに焦点を当てて報道して、それでEU離脱派が形成されていった面がある。けれど、離脱が決まってから離脱による負の影響が報道されるようになって、それでようやく光と影の両面がある、ということを人々が理解し始めたんだ」


「以前はそんなに報道が偏っていたの?」

イギリス人同僚
「そう、それが根本的な問題の一つなんだ。マスコミはEUのことをフェアに報道していなかった」

彼の物静かだったトーンは、このあたりから「べらんめえ調」を帯びていく。

イギリス人同僚
「あともう一つおかしいことがある。EU離脱派が票を伸ばした大きな理由が、移民に対する拒否反応。『EUから離脱して、国境管理を取り戻せ!』という政治家の煽動があった。たしかに、EUから離脱したら東欧とかEU域内の移民はシャットアウトできるようになるさ。けれど、それが本当にイギリス人たちが実現したことだったのか?いや、そうじゃないんだ。現実にイギリス人が困っているのは、EUに属さない他の国々からの移民の問題。それが実際に解決したいことだった。なのに政治家やマスコミはあえてひとくくりに「移民」という大きな概念の言葉で括って、人々を勘違いさせた」


「政治家やマスコミが、あえて人々をミスリードしたってこと?」

イギリス人同様
「そうなんだ。実際にはEUに残留しようが離脱しようが、イギリス人にとっての移民問題は何も変わりはしない。EU離脱を実行したところで、現実に困っている問題への対策になり得ないんだ。論理的に間違っている考え方が支持されてしまったのさ。この部分も正しく理解されていなかった」

ということで、彼の見方によると、国の将来を左右する話なのに結構お粗末な面があった様子。

イギリス人同僚
「でも逆に、当初EU残留に投票した人の中には、EUが嫌いになってEU離脱派に変った人もいる。ほら、現実に何が起こっているか見てみろよ。イギリスはEUの官僚たちから嫌がらせとしか思えないような仕打ちをさんざん受けて、多くの人がうんざりしている。それに、イギリス人はあまのじゃくな性格の人が多い。人に指図されると、それが正しかろうと間違っていようと、指図に従うこと自体を拒否する人が多い。EUは上から目線で押しつけがましくアレコレ指図していると人々は感じているから、それに反感を持って離脱派になった人たちがいる」

彼から聞いた話はここまで。最後は顔を真っ赤にして熱弁をふるっていた。

ブレグジットに至る主な要因

さて、ここからが本題。そのイギリス人同僚が述べたことは、あくまでも彼の個人的な見方だから、イギリス人たちの平均をカバーしているかはもちろん分からない。

ただ、ここで彼が挙げてくれたブレグジットに至ったポイントを整理してみると、なかなか興味深いことが浮かび上がってくる。

① 外国との軋轢

EU自体に対する懐疑、EU官僚との確執、移民に対する問題

② それに乗じて内部で権益拡大を図る勢力

一部のイギリス政治家が、EU離脱を利用して自分の立場を高めようと動いた

③ フェアではないマスコミ

国民受けする偏った報道によって、無責任に国民を煽動

④実行にあたっての政府の迷走

離脱の実行にあたって当初は穏健なEU離脱方針だったが、EU官僚との交渉が難航したことにより、イギリス国内で反発が高まった。その後、穏健派の首相が辞任して強硬派であるジョンソン氏が首相に就任。

このように、ある国が外国との軋轢にさらされると、その問題を国の内部で自分のために利用しようとする人が現れる。それにマスコミが便乗して煽ると、国レベルでかなり大きな決断につながることが起こりうる。その決断を国が実行しようとするが、もともと無理がある行動なので迷走する、という構図になると整理できそう。

太平洋戦争に至る要因

で、この話を聞いてメモとして整理していた時に、フト思い出したことが。

2011年にNHKで放映された「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」というシリーズのドキュメンタリー番組。日本が太平洋戦争への道を進むことになった原因を検証し、開戦に至る主な要因を以下の通りに分類していた。

①外交での外国との軋轢、孤立化

②陸軍暴走(組織の権益拡大)

③マスコミによる熱狂の創出

④開戦、リーダーたちの迷走

これらの要因は、ほとんどそのまま第四話目までの各回のタイトルになっている。

こうやって比較してみると、前述のブレグジットで整理したキーワードと、ほとんど同じなことに気が付いた。つまり、ブレグジットへの道と、NHKが分析した日本の戦争への道って、構図として共通している面があるのでは。

もちろん、行動の動機や背景などは、僕からみても大きく違う面がある。そして何より、そもそも誰に責任があるとかを議論しはじめたら、構図が全然違うということもできるだろう。

ただ、動機や責任とか因果関係はさておいて、ここでは「加速装置」という表現が最も適しているだろうか。「良い悪い」とか「そもそも」ではなく、「国の動きを加速させていく動力源」が何だったのか。僕がブレグジットで聞いた話の内容と、NHKが総括した内容では共通するキーワードが出てきた。

これらの共通点は、「社会ってなんだろう?」「人間ってなんだろう?」という問いについて、何らかの示唆を与えてくれるように見える。

ドイツ人と話したところ

さらに、上記の僕が考えたことを、ドイツ人同僚に話してみたところ、「その開戦までの流れは、ドイツが第二次世界大戦を起こした経緯とおんなじだと思うよ」って。

ドイツ人同僚が言っていたことは何を意味していたのか。それは、ドイツが第一次大戦の戦勝国から巨額の賠償金を課されて国民に不満が高まり、その負の感情に乗じてヒトラー率いるナチスが台頭し、それをマスコミが無責任に煽った、ということを指している様子。

まとめ

つまり結局、こういった国際社会で大きな動きが生まれるにあたっては、いずれも似たような構図が繰り返されるのかも。

人類って本質的に同じような状況に置かれると、本当に同じような動きをする性質をもっている。つまり人類にとっての「再現性の高い挙動」ってあると思う。

その見方が正しいとした場合。我々にできることは何だろうか。

たとえば、歴史から学ぶこと。そして、その学んだことに基づいて、自分の頭で考えたことを声として挙げること。さらに、たとえ小さな声であっても人々はその声にフェアに耳を傾けること、といったことだろうか。

前述のNHKのドキュメンタリーをみていて、僕にとって印象的なことは一つ。どれだけ優秀な人が命を懸けて努力しても、世界や社会といった大きなものの流れは変えられない。結局、世界や社会をかたちづくっているのは、一人ひとりの人。一人ひとりが「賢く」なる以外に、よい流れをつくることはできないと思う。それが「流れ」というものだから。

by 世界の人に聞いてみた

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?