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分断のモルドバ ~モルドバで聞いてみた③

「旅先で聞いた話」シリーズのモルドバ編。今回は第3回目。

第1回目は、モルドバは経済的に生活がとても苦しいという話。第2回目は、そのために多くの人が国外へ出稼ぎに行かざるを得なくて、家族と一緒に生活ができないということについて。これらのテーマで現地の人たちから聞いた話を書いてきた。

今回は「分断のモルドバ」について。モルドバは一つの国にも関わらず、言葉、価値観、国土などなど、いろいろなものがバラバラだった。

では、具体的に見ていこう。

(1)バラバラな言葉

モルドバで話されている言葉は、モルドバ語(≒お隣の国のルーマニア語)が主流だけど、ロシア語が喋られる地域もある。なぜロシア語かというと、ロシアから実質的に支配されていた時代が比較的長いから。

で、モルドバの中でも、地域によってどちらの言葉が母国語として喋られているかが違うらしい。

あるモルドバ人が言うには、
私が育った南部の地域では、みんなロシア語を喋っていた。でも大学に入って首都のキシナウに出てきて、同じクラスの人を遊びに誘おうと思って話しかけたら、『ごめんロシア語は分からない。モルドバ語しか話せない』って言われてびっくりした。少し前までロシア語は公用語だったのに。。。だから、社会人になってからはモルドバ語を勉強して話すようになった

と言っている人がいた。

一方で別のモルドバ人は、
「モルドバで多くの人がロシア語をしゃべってるって、おかしくない?それはモルドバの言葉なんかじゃない、ロシアの言葉だよ!確かに100年くらいはロシアの支配下にあったけどさ、それだけの話じゃない。私がモルドバ語をしゃべると、変な顔されて、『おいロシア語を喋ろよ!』って言われる。ふざけるなってんだ」

と言っている人もいた。

という真逆の主張していたこの2人は、同じホテルで働いている同僚同士なんだけど。。。

(2)政治的な立ち位置がバラバラ

ヨーロッパ周辺で経済が苦しい国は、多くの場合EUに加盟して現状を打開しようとしている。特にバルカン半島の国々(ヨーロッパの南東部)ではその傾向が顕著。

僕はてっきり、モルドバでも多くの国民がEUに加盟したがっているだろうと思い込みながら、いちおう政治的な立ち位置を聞いてみたところ・・・。

モルドバ人
「この国の政治は本当にひどくて、その時その時のムードや流行りで、EUへ近づこうとしてみたり、ロシアへ近づいてみたりする。でもね、EUに近づいたら、ロシアからしっぺ返しの制裁を受ける。逆にロシアへ近づけば、EUから意趣返しを受けて農作物の輸出を止められたりする。最近ではEUへのリンゴの輸出を止められたんだよ、難癖をつけられて。モルドバのリンゴはちっちゃいけれども、自然のままなのになぁ。。。

もう、EUとロシアのどっち側に寄っていっても、その反対側から叩かれてしまう。外交的には袋小路に迷い込んでしまった国民もロシア派とEU派がだいたい半々くらいで、まとまりがない


「えっ!?シンプルにEU派ってわけじゃないんやね。えーっと、じゃあモルドバはルーマニアと言葉も文化も同じでしょ。だったら、ルーマニアと一緒になるのは嫌なの?

モルドバ人
「いやー、あの人たちはモルドバを見下しているし、社会の仕組みや体制も全然違うから、一緒になりたくない。一緒になったら、ルーマニアが自分たちの都合が良いようにモルドバを食い物にするのが目に見えている

と、お隣のルーマニアに対する警戒心も強い。

政治的な立ち位置がバラバラということは、つまり国民の価値観もバラバラということを意味していると思う。となると、どうにも打開策が見つからない。

↓ モルドバの政治の中心、国会議事堂。

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(3)国の主権が及ばない地域

モルドバ南部の「ガガウジア」という地域には、トルコ語に近いガガウズ語という言葉を喋る人たちが住んでいる。この地域には、モルドバの主権があまり及んでいない。それよりもトルコとの結びつきが強いって言っていた。以前ベラルーシの旅行記でも書いたように、人はやっぱり母国語が通じる人に親近感を持つのかな。

ちなみに、旅行が終わってからガガウジアについてググってみたら、ガガウジア周辺ではさらに別の言葉を喋る少数民族が多いらしい。そのため、意思疎通するためにモルドバ南部全般では、共通語としてロシア語も喋られるとのこと。なるほど、上記(1)に出てきた「南部出身でロシア語を喋る」と言っていた女性の話と符合する

他にもモルドバには、東部に「沿ドニエストル」という地域(国家)がある。ここは国際社会的にはモルドバに属するけど、事実上の独立状態にあって、モルドバの国家の主権が及んでいない。モルドバの博物館で説明されていた内容によると、その地域には歴史的に昔から多くのロシア人やウクライナ人が入植していた場所で、元々モルドバ人自体があまり住んでいなかったらしい。それもあって、沿ドニエストルは現在でもロシアと関係が深い。でも国際社会は独立を承認しておらず、「未承認国家」と呼ばれている

こういった国の主権が及ばない地域があることに対して、モルドバ人が言っていた。

モルドバ人
モルドバの政治家たちは、この国の国土の一部を、外国へ切り売りしている。だからモルドバの国土は、アチコチが外国勢力の支配下にある。

でもモルドバの政治家たちが、そもそもなぜそうやって国土を切り売りしているのか、目的すら分からない。彼ら政治家が袖の下のお金をもらうためなのか、何なのかすら、分からない。とにかくこの国の政治家たちは、控えめな表現をしても〇×△以下の存在だ」と毒づいていた。
(筆者注)「〇×△」は公序良俗に反する言葉なので伏字にしています。

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ウクライナでも似た状況の地域が

ちょっと話が逸れるけど、いまウクライナとロシアの間で緊張が高まっている。そのウクライナも、国の東部は政府の主権が及んでない地域がある。旧ソ連時代にウクライナ東部へロシア人たちが大量に入植していって、ウクライナの中に多くのロシア系の人たちを抱えているから。これはモルドバの沿ドニエストル地域と似た構図。

そうそう、ウクライナのことを書いていて思い出した。

ウクライナ東部出身の友人(現在はドイツ在住)がいて、彼女が言っていた。彼女の親は、その「政府の主権が及ばないウクライナ東部地域(ドンバス地方)」までわずか30kmの地方に住んでいた。2014年にロシア派がその地域を実効支配してからは、その街の上空を戦闘機が頻繁に飛ぶようになってしまった。だから彼女の親は、いつ自分たちの住んでいる地域にも危険が及ぶかも知れない、と身の危険を感じるようになって、結局は西に逃れていって首都キエフの狭いアパートに引っ越しせざるを得なかったって。

日本だと国の中に主権が及ばない地域があるって、ちょっとピンとこないけど、ヨーロッパに住んでいるとかなり身近に感じる。

ひと言コメント

さてモルドバに話を戻して、今回モルドバ人がこうした話をしながら何度も「この国に未来はない。希望もない」と言っていた言葉が、本当に彼らの実感なんだろうと感じた。確かに、話を聞いていて、これだけ分断されて経済状態も悪い状態が、一体どうすれば良くなりそうなのか、見当がつかなかった。。。

自分がモルドバの人と話をしていて特に印象に残った感覚は、社会の透明性がないというか、視界が悪いというか、みんな自分の周囲以外のことが見えにくい感じだった。政治がどうなっているのか、他の地域の人たちがどういう生活をしているのかが、見えていないか、もしくは見ようとする気がないのか。そしてその結果なのか、モルドバでは社会に対する信頼度がとても低いのも印象的だった。

これらのキーワードでちょうど対比になるのが、北欧の社会。北欧の人たちは、とりわけ「社会の透明性」と「社会への高い信頼度」を大事にしていると僕は理解している。モルドバで感じた印象は、ちょうどまさにそれらのキーワードに難がある社会だった。

ではまた次回、別のテーマでモルドバ人から聞いた話について書きます。

↓ この写真はモルドバの首都キシナウの中央駅。一日に数本しか電車が来ないから、だーれもいない。

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by 世界の人に聞いてみた

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