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なぜデンマークは幸福度が高いのか?

【デンマーク人に聞いてみた、2019年の春】

国連の「世界幸福度ランキング」について、ニュースなどで目にしたことがある人も多いのでは。このランキングではいつも北欧の国々が上位を占めていて、その一員であるデンマークも常に世界トップクラスに位置している。2019年の春にデンマーク人とゆっくり話をする機会があったので、その人に「幸せの国」の秘訣を聞いてみた。


「幸福度ランキングのことで話をしたいんだけど」

デンマーク人
「あぁ、ヒュッゲのことが聞きたいんでしょ、ニヤリ」

まずはヒュッゲの話から

『ヒュッゲ』という言葉を見たり聞いたりした人もいるかも。「デンマークの幸福度がなぜ高いか」という話になれば、だいたいヒュッゲが引き合いに出される。簡単に言えば、仲のいい人と部屋の中でローソクを灯して、居心地の良い雰囲気を作ってくつろぐこと。そのデンマーク人は、これまで『幸福度ランキング→ヒュッゲ』という流れでさんざん質問されたことがあるようで、すぐにヒュッゲの話になった。実際、僕もデンマーク人の口からヒュッゲについて聞いてみたいと思っていた。

デンマーク人
「デンマークで誰かと集まってローソクを灯せば、それでヒュッゲ。家族でもそうだし、友達が家に来てテレビでサッカーの試合を見ながらローソク灯せばヒュッゲ。職場でも、誰かが食べ物を持ってきて、それでローソクを灯せば職場でヒュッゲが始まる。特別なイベントではなく、極めて日常の風景だよ」


「なぜにローソク???」

デンマーク人
「たぶん、北欧のような寒い地域で生活していると、冬は日照時間が短いから、本能的に心がローソクのような暖かい明かりを求めるようになるんじゃないかな」


「ヒュッゲが幸せを生み出す秘訣なの?」

デンマーク人
「いや、僕の考えではね、秘訣は必ずしもヒュッゲじゃないと思ってる」

そこから話は思いもよらず『社会と信頼』に移る

デンマーク人
「幸福度が高い理由は『社会の中で信頼関係』があるからじゃないかな。社会の中でお互いがお互いを信じられる、そしてお互いを尊重して生活している、というのは幸福なことだと思うよ」

すぐにはピンとこなかったので、具体的に『社会との信頼関係』って何のことか聞いてみると、大きく分けて2つの要素が挙げられた。

国民は高い税金を払って、正しい用途で返ってくる

デンマーク人
「まず、デンマークは北欧の他の国と同様に『社会民主主義』の社会体制。つまり『ゆりかごから墓場まで』と表現されるように、福祉を充実させている。国民は50パーセント以上の高い税金を払う代わりに、例えば教育も医療も基本的に無償。簡単に言えば『たくさん政府にお金を払って、それが最終的には正しい用途で国民に返ってくる』という構図。これは、政府と国民の信頼関係がないと成り立たないよね。つまり、自分たちが払った税金が正しく使われているって信頼できることが条件。あと、デンマークでは汚職も非常に少ない。これも信頼できると思える大切な要素」

つまりアメリカ型の『自分の身は、自己責任で自分で守る社会』ではなく、『国民全体で共生している社会』。

自分たちの手で国を正しい方向へ

デンマーク人
「あともう一つは、自分たちで社会体制を現代にも続く形へうまく適応させてきたこと。ヨーロッパの多くの国は革命で社会をひっくり返して変えてきたけれど、デンマークは革命で社会を変えたわけでなく、状況に合わせて自分たちで社会を変えてきた。そして今でも社会体制がうまく機能していると思う。つまり国民が自分たちで議論しながら、自分たちの手で国を正しい方向に修正しつつ運営できてきた。そうやって、この150年かけて政府と国民の間で信頼を築いてきた、と思っている。この状況が、高い幸福度につながっていると思うよ」


ということで、幸福度が高い理由は『社会との信頼関係』ということらしい。実はこの翌年の2020年には、この『社会と個人の信頼関係』の話を次々に聞くようになって、それでようやく言わんとしていることが理解できるようになってきた。でも、この時に初めてこの世界観を聞いたこの時には、分かったような、でも未だピンとこないような、という印象だった。

でもとにかく、この説明を聞いた時に僕が感じたのが、「成熟した社会だなあ」という印象だった。

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成熟した社会

彼らは別に、世界の中で自分たちの経済的・政治的な地位が相対的に上がるか下がるかによって、自分たちの幸せ度合を決めているようには見えない。激動する社会や生活の中でワクワク感を楽しんでいるわけでもない。それよりも、

①例えばヒュッゲのように、家族や友人など身の回りの人たちと良い関係を築く風土がある

②自分たちできっちり国家や社会を運営して、自分もその一部として参加していると思える(=自分が社会を運営している実感がある)

③その国家や社会が、自分たちが正しいと思う形を保っている

というような重要な要素を満たしていると思えるなら、それで自分たちは幸せだと感じられている様子。

つまり、彼らにとって幸せとは、数字で測るものでもなく、外国との比較で測るものでもなく、エキサイティングな人生の中に求めるわけでもない。それよりも国民の多くが、身の回りの人たちと緊密で良い関係を築いて安らかな心を保ち、正しい社会を維持できて、それに自分が参加できている実感があれば、それで国民の多くが幸せと感じられる、という印象だった。

いま改めて思い返しても、やっぱり「成熟した社会だなあ」と感じる。

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by 世界の人に聞いてみた

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