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着物と料理

写真は、50数年前?の私です。
母も着物好きなので、小さい頃は割と着ていたのかもしれません。
参観日に、当時流行りの黒の絵羽織を着ていた母を、うっすら覚えています。

少し大きくなってからは、七五三の晴れ着も七歳は母の手縫いのドレスでしたし、その後はとんと着る機会もなかったように記憶しています。

大学生の時に友人の結婚式に招ばれ、近くに住む叔母の若草色の着物を借りて出た時には、
自分のあまりの老け見えに愕然としたものです。

以来、背も高く腕も長すぎることも手伝って、自分に着物は似合わないのだと結論づけ、つい数年前までは、なんの興味も持てずにいた私。


それから時は流れ、母になって
どなたにもいずれやってくる、ごくありふれた節目が、私をここまで変える切っ掛けになるとは、思いもよりませんでした。

節目とは、娘の成人の祝いです。
自分の好きな振袖ではなく、母が私に仕立ててくれた総絞りの振袖を着てくれるという娘のために、なんとか古臭くならないように小物を揃えてやりたいと準備をあれこれ始めました。
当日のヘアメイクに着付けも、全て快く引き受けてくれた仕事仲間に恵まれました。
その当日の作業の手伝いに役立つかと、着付け用具の名や着方を学びはじめるにつれ、次第次第に着物周りのものたちの美しさに、魅せられるようになってしまったのです。

まずはじめに虜になったのは、半襟でした。
一見、似合わないかな?と思われる色合いの着物も、最も顔に近い場所にある半襟の色や素材、風合いによっては嘘のように馴染みやすくなったりするのです。
さらに帯締め、帯揚げなどの小物の色を重ねていくたびに、全体の表情がなんどもがらりと変わっていきます。
それがなんとも不思議。
小さな組み合わせの妙が面白くてたまらなくなっていきました。
半襟も必ずしも専用のものでなく、普段自分で着る分には、手拭いでも端切れでも構わないという自由さにも惹かれました。

下の写真は、使わなくなった麻のテーブルクロスの端を縫い付けたもの。
夏に心地よい半襟になりました。

そして、自分で着る、ということの奥深さ。
洋服ではこんなことはないのですが、
毎日着ても、少しずつ違います。
一枚の平面的な布を紐で身体という立体に巻き付けるわけで、しかも、真っ直ぐでなく、衣紋という襟足の部分は拳ひとつ分開け、胸元は90度でしっかり閉じ合わせ、というように多少斜めに纏っている感じなのです。
着終わって畳むとぺたりとまた平面に戻るのも、片付け易く心地の良いものでした。

こうして、いつのまにか自分で着るプロセスの面白味と奥深さの虜になっていったわたし。

着物が着られるようになってしばらくすると、自分に似合う色だけでなく、柄行き、風合い、雰囲気などが、少しずつわかってきます。
そんな中で、小津安二郎監督の映画の着物に出合いました。
晩春の原節子さんの花柄の小紋、彼岸花の山本富士子さんの型染めやバーのマダムのキリリとした縦縞、お茶漬けの味の木暮美千代さんのモダンな幾何学柄、秋刀魚の味の岩下志麻さんの立涌(曲線の縞模様)など、全ては普段の着物で、すぐに真似したいと思う素敵さに溢れています。
小津映画の中の着物をはじめ、暖簾や、インテリアまで全てを手がけた浦野理一さんという名高い染織家がいたというのを、のちに知りました。

今も大切に着継がれているのを時折見かけますが、
お手頃中古の着物で楽しんでいるレベルの私には到底手が届かない、貴重な逸品ばかりです。

私の同年代の方でしたら、サントリーのオールドやレッドのウイスキーのCMで、大原麗子さんが着ていた着物、と言えば思い浮かばれるでしょうか。
地味なようでどこかモダンで、可愛らしさもあり、今も唯一無二の魅力を放っています。

こうして着物と帯や、小物の色合わせの妙を楽しんでいるうちに、仕事で組み合わせる器やテーブルクロス、箸などの色合わせ、皿の中の食材の色合わせにも、通底する何かが見つかりはじめました。

もしかしたら私のなかだけの気づきかも知れず、また、ごく感覚的なことで上手く言い表せないのですが、明度や彩度、色の清濁など、相性が以前よりも鮮明に際立ってくるように。
どんなことも何かに通じ、役に立つのだと、気づかされた思いでした。

こうしてどんどんと着物は私の暮らしに入り込み、家事のほか運転もし、時には仕事も洗える着物で出たりも。
見た目よりも、思いのほか動きやすいのです。


歳をとって、私のように洋服があまり似合わなくなってきたな、と思われた方がいらしたら、
試しに着物を羽織ってみられてはどうでしょう。

季節ももうすぐ春。
白髪の80代の方がお似合いのピンク色をお召しになった姿を見て、歳をとるのが楽しみにもなりました。
日本人では、それはドレスではきっと難しいことかもしれませんが、着物ならまだまだ。
お楽しみは、これからたくさん有りそうです。

#note #着物 #小津安二郎 #浦野理一  

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