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25年という月日の清算方法〜仕事を引退するとは〜

2年前、長らく営業していた一軒の居酒屋が人知れず閉店をした。

自分が結婚をしてセンター南に住み始めたのが約5年前。センター南というニュータウンの住宅街の中に佇む赤提灯がぶら下がった古めかしい居酒屋。

天下のGoogleもYahooもこのお店の場所は特定させない情報社会からは隔絶されたそんなお店。

初めてお店を訪れた日は忘れもしない。

帰り道に自宅へ向かう帰路、誰も入った気配を感じさせないひっそりとした居酒屋にふと立ち寄った。

ガラガラと両開き戸を開ける、カウンターに座るおじいちゃんの後頭部と横顔が見えた。二人とも巨人戦に夢中で扉が開いたことに気づかないのかそもそも興味がないのか、全くの無反応。

「ここはお店ではない」と判断した自分はそっと扉を閉めて気を取り直して帰ろうと思ったその時、店主のおばあちゃんが「やってるよ」と声をかけてくれた。

その日は一杯だけ生ビールを飲んだ。その際に店主とは2、3回会話を交わしたもののとても静かな店内だった。

お客さん(今思えばヨネさんにマエダさん)も野球をジッと観戦していて自分がいる間は一言も発しなかった。

そこからだいぶ時間は経ち、ふと立ち寄った時、「お疲れさん」の一言と頼もうと思っていた生ビールがスッと提供された。

なんでもないように、また「なんで覚えてるんですかぁ」なんていう若者然とした言葉が無粋に思えるような空気が自分には新鮮に思えた。

5席のカウンター、2つの卓袱台に4つずつの座布団。家に帰ってくるようにどかっと座るおじいちゃんたち。

楽しまなきゃという焦りもなく、楽しませなきゃという接客もない小さな小さなお店。

そんな時代遅れのお店は時代遅れであることをまったく恥じることなく毎日地元のおじいちゃんたちの拠り所として存在していた。

25年前にとある夫婦が開いたこのお店はニュータウンがニュータウンになる前から赤提灯を灯し続けて来たらしい。

そのお店が今日を最後に閉店をした。20年は通っただろうヨネさんは最後に「じゃおやすみ」とだけ店主に挨拶をして一度も振り向かずに店を後にした。

主役と写真を撮り、何度も別れの言葉を交わすような最後しかみてこなかった自分にはヨネさんがめちゃくちゃカッコよく見えた。そのヨネさんに最後の挨拶もしない店主も。

和海さんありがとう。仕事の悩み家庭の悩みを聞いてくれてありがとうございます。「結婚記念日くらい花をプレゼントしな!」と言われ荷物を店に置かせてもらって花を買いに行ったのも良い思い出です。

こんないい笑顔をたくさん産んどいて知らんぷりのお母さんの生き方はとてもカッコいいです。


25年という月日をこんな静かに清算していいのかと自分は思ったけれど、仕事を終えるということはそんな大げさなことではないのかもしれない。

「明日も早いから閉めるよ」なんていって夜9時にはお客さんを出しちゃうそんな最後のお店があることを何だか伝えたくなり投稿しました。

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