届けたいから考える とあるデザイナーのキャリア変遷
こんにちは、デザイナーの青木です。
わたしは自身のロールとして「コミュニケーションデザイナー」を名乗っています。
さて、コミュニケーションデザインとはどんなことをするデザインだと思いますか?
コミュニケーションをデザインする?
8月末にコンセント本社オフィスにて、デザイナー交流会「DESIGN HALFWAY」第二弾が開催されました。(株式会社SmartHRさん・SHE株式会社さんとの共催)
コミュニケーションデザインに携わる各社のデザイナーが、それぞれのコミュニケーションデザイン観を語るという内容で、わたしとしては頷くことばかりでした。
一方で終演後の懇親会では「まだコミュニケーションデザインが何なのか、わからないところがある」と話す参加者の方も。
コミュニケーションということばの意味が広すぎて、さらに「それをデザインする」となると、どうしてもぼんやりとしたイメージになってしまうようで…。
そこで今回は、青木という・いちデザイナーのコミュニケーションデザインにまつわる仕事が、キャリアとともにどんな変遷を辿っていったのかについて書いてみようと思います。
わたしのコミュニケーションデザイン遍歴
1.エディトリアルデザインで
コンセントの公式な職種名に「コミュニケーションデザイナー」の名称が登場したのは2年ほど前のこと。
社会変化にともなって、デザイナーの役割やアウトプットのかたちが拡がり、「グラフィックデザイナー」や「ウェブデザイナー」のように限定した職能だけを想起させる肩書きだと、実態と異なることが増えてしまったからだと解釈しています。
(2021年に「日本グラフィックデザイナー協会」が「日本グラフィックデザイン協会」に名称変更したことも象徴的だと思います)
では、コミュニケーションデザイナー以前のわたしが何だったのかというと…。
エディトリアルデザイナー/アートディレクターを名乗っていました。
わたしが新卒入社した19年前、コンセント(当時はアレフ・ゼロ)は雑誌やカタログ、広報誌といった紙媒体のディレクションとデザインをメインに行なっていたためです。
エディトリアルデザインを通してやっていたことは、単なるレイアウトではありません。
「とあるもの・ことを届けたい相手に向けて、伝わるかたちにして届けること」であり、 それは送り手(編集者)と受け手(読者)のコミュニケーション創出のお手伝いそのものでした。
誰に何を、どんな文脈で、どんな順番で、どんな世界観でデザインすれば、「届く」かたちになるのか。
わたしのキャリアのはじめは、紙媒体というアウトプットでのコミュニケーションデザインをしていたというわけです。
2.コンテンツディレクションで
その後、インターネットやスマートフォンの浸透、さらには新型コロナによるリモートワークの普及などによって、世の中のコミュニケーションのあり様はどんどん変化します。
それに伴いウェブデザインやサービスデザイン、組織デザインなど、コンセントの扱うデザイン範囲は大きく拡がりました。
わたし自身も紙媒体はある程度やり切ったという思いがあったため(ライフスタイル、グルメ、教育、マネー、中高年男性向け、主婦向けなどいろいろな雑誌を担当したなぁ)、従来のアウトプットに捉われないデザインにチャレンジするようになっていきました。
そこで、約15年にわたり編集者とともにガッツリ雑誌制作をしてきた経験を活かし、コンテンツの企画・編集にも踏み込むように。
ビジュアル面ではなく、コンテンツ面からのコミュニケーションデザインです。
亀田製菓さまのコーポレートサイトリニューアルでは、アートディレクションやデザインではなく、新規コンテンツのディレクション、そしてライティングを担当しました。
こうしたコンテンツを、どういう流れと語り口で見せるべきか。
ロジカルに文脈形成しつつも、読者を惹きつけるためにある種の「ノリ」でインパクトを出すような勘所は、間違いなくエディトリアルデザインで培われたと思っています。
3.クライアントとのコミュニケーションで
またアウトプットとは別の観点として、クライアントとのやりとりの中でコミュニケーションデザインをしているなと感じることもありました。
某企業の新規サービス推進のための営業用パンフレットを制作した時のことです。
サービスのプロトタイプ段階ということでまだまだ検討中の部分が多く、価値の言語化やサービスの活用法などの具体的なイメージが不足しており、外に向けてどう伝えるべきか手探りの状態でした。
そこで、わたしがオンラインホワイトボードツールのMiro上で作成した構成案を、クライアントとオンラインで議論しながら、その場でどんどんブラッシュアップしていくやり方を行ないました。
これまでは、デザイナー側で固めたイメージを一度先方に預けてフィードバックしてもらうことが多かったのですが、今回は「まだ世の中にない、検討段階のものを扱う」という性質も相まって、双方で仮説を持ち寄りながらスピーディーに可視化、ブラッシュアップしてくアプローチが合っていたと感じました。
この「可視化しながら必要な情報と絵をスピーディーに整理していく」ことも、その場に最適なコミュニケーションを探る、一つのコミュニケーションデザインだったと思います。
4.チームマネジメントと後進育成で
コミュニケーションデザインは、社内に向けても行われます。
30代前半までは自分自身のスキルアップなど「プレイヤーの自分」に関心が向いていましたが、次第に「自分のことしかやってなさ」に危機感を覚え、「他者の成長のための何か」をしたいという気持ちが芽生えるように。
そこから、積極的に若手と協働したり、チームマネージャーを務めたりするようになるのですが、振り返ってみるとこれがまさにコミュニケーションデザインでした。
「どうぞよろしく」のアイスブレイクからはじまり、目標を設定し、達成のために周囲に働きかけ環境を整える。情報の伝え方、フィードバックの仕方といった接し方は、メンバーの特性によって調整することも必要です。
寄り添ったり、プッシュしたり、あえて遠くから見守ってみたり…。
マネジメントもプロジェクト同様、メンバーの成長というゴールのためのコミュニケーションをデザインする行為だなと感じています。
5.小学校や高校という教育の場で
そうこうしているうちに、だんだんデザインを通して自分が得た気づきを、社会に、特に未来をつくる若い世代に還元したいと思うようになってきました。
そこで、最近は小学校の総合や図工の時間、高校の表現教育の場をお借りし、同じ志を持つメンバーとともにデザインのワークショップや授業を行う活動をしています。
もちろんこうしたプログラムの設計・実施でも、コミュニケーションデザインの視点が必要です。
わたしたちが伝えたいことをどんな仕立て方で提供すれば、児童・生徒たちが自分ごととしてわくわくできるか。どんなことばづかいがわかりやすいか。どんなスライドやワークシートなら前向きに取り組めるか。
そして、その場でどんな声がけやフィードバックを行えば、気づきを無理なく促せるのか。
(誘導しすぎないようにするのがかなり難しいのですが、ちょっとした声がけで皆の発想がグッと広がる瞬間を見たときはとても嬉しいです…泣)
児童・生徒の反応を見て、その場で説明や対応の仕方を改善することもあり、常に臨機応変にコミュニケーションをリデザインする心構えが必要だと感じます。
活動後には必ずアンケートで授業の感想や改善点を聞き、次回に活かせるようにしているのですが、そのアンケート設計に至るまでコミュニケーションデザイン!
当然、大人に向けたものとは聞き方が異なるわけで、いつもメンバーとうなりながら設問を作っています。
届けたい相手がいるかぎり
ここまで5つのトピックから、わたしのコミュニケーションデザイン遍歴を振り返ってみました。
共通するのは、生活者なり、クライアントなり、届けたい相手がいて、そのひとたちに向けてどう伝えたら伝わるのだろうと考え続けていたということ。
その結果、アウトプットの方法や活動の場が自然と拡がっていった。
「書店で売られる雑誌」という明確なアウトプットが先にあった状態から、「目的に合わせたコミュニケーションのかたち」をつくるという有形・無形によらないアウトプットのデザインへ拡がったとも言えそうです。
この先もきっと、何かを届けたいと思う相手がいるかぎり、コミュニケーションデザインが求められるフィールドは拡がり続ける。
わたしもそんな流れに乗っかりながら、ゆるやかに、いろいろな所に出没してみたいなと思っています。