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002 ロンドンの建築事情

日本で認知されているイギリスの建築家というとZaha、Foster、 Richard Rogers、Chipperfieldあたりが有名だと思うが、実際にはそうしたスターアーキテクツ以外にも様々な事務所がイギリスにはある。

私が所属している事務所は20−30人規模の、主に国内にプロジェクトを抱える現地企業だ。日本ではアトリエ系と呼ばれる小規模事務所か組織設計事務所という二項対立で語られることが多いが、イギリスにはその中間のような立ち位置の事務所が多いように思う。プロジェクトの規模もマスタープランから個人住宅の設計まで様々だ。

特にロンドンでは近年続く住宅不足の問題に対して、住宅の供給を増やすよう具体的なプランも発表されており街中で新築タワーブロックの建設現場を目にする機会も数年前と比べて格段に増えた。と同時に集合住宅の設計に関わる事務所は今現在かなりあるのではないかと思う。私の会社ももれなくその種の仕事が数件あるのだが、ただ設計すればいいだけではなくて、その住宅供給数のうち一定数(たとえば10%)はaffordable housing( 入手可能な価格の住宅)として提供しなければいけない。

それ以外にもイギリスの住宅にはいくつか保有形態(tenure)があり、

1. Private Rented: 民間の大家が所有し、テナントに貸し出すもの。(家賃は市場価格なので、ロンドンなどでは高騰し続けており都市部に低所得層や若者が住めないという問題が深刻化している。)
2. Shared Ownership: Housing Associationと共同で所有するもので、住居の保有率、年月や利率などの支払いの仕組みはそれぞれ異なるが通常の方法では住居を購入することが困難な若い人や低所得者層のために導入されている。
3. Social Rented: 地方自治体または民間の登録社会住宅提供者がaffordableな価格で貸し出すもの。周辺地域の家賃の80%以下でなければならないというルール付き。

こうした各種保有形態をクライアントからのブリーフのもと、ミックスさせて計画することが多い。しかしながら利益にシビアなクライアントとしてはできるだけprivate rented housingを供給したいところだし、affordabe housingの供給は周辺住民に対してプロジェクトの社会的価値をアピールする為にも必要な訳で常にそのせめぎ合いである。日本での集合住宅設計がどうかはわからないが、こうした事情はイギリス特有なのではないだろうか。


ここでふと、以前Barbican Centreで見たドキュメンタリーを思いだす。


Push (2019) 1h32mins/documentary

あらゆる都市で深刻化する住宅不足を題材としたドキュメンタリー。投資家によるマネーゲームで片上がりする家賃高騰により家を失い、漂流する人々に国連特別報告者であるLeilani Farhaがインタビューをするのだが、そこで彼女が発するWho are cities for? (誰のための都市なのか)はあまりに切実で、自分の仕事の価値とは、、と見終わってからしばらく考えていた。

もちろん結論などすぐに見つかるわけもなく、ただ自分がしている仕事の他の側面に常に自覚的でいたいなと思う作品だった。

ネットで全編は公開されていないのが残念だけれどtrailerのリンクを貼っておくので興味のある方は是非に。


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