CSUN2022の総括 デジタルアクセシビリティ リーダーシップ メンタル系 DX 
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CSUN2022の総括 デジタルアクセシビリティ リーダーシップ メンタル系 DX 

さえら

ようやく参加できたCSUN2022だが、3年ぶりに来てみると、実に多くの変化が感じられた。いくつか気づいた点をまとめてみたい。

①デジタル・アクセシビリティという言葉が、独立して使われるようになった。

数年前は一般的な意味では使われていたDigital Accessibilityという言葉が、独立した重要なキーワードとして使用されるようになってきた。Webサイト、携帯アプリ、あらゆる情報端末(Kiosk)、AI、ロボット、電子書籍、XR(VR,AR,MRなど)、IoT、スマートホーム、放送メディア、映画など、あらゆるデジタルの機器、サービス、コンテンツなどの全てを、アクセシブルにするという意味で使われていた。

WCAGのカバーする範囲も広がってきているが、KIOSKの音声機器接続などハードウェア部分も多いため、より広い意味でのアクセシビリティ確保が求められるようになってきたといえる。また、「デジタル・アクセシビリティ法」という言い方で、508条、ADA、CVAA、EUのEAAなどを総称することもあった。今後も、デジタルで生み出されていく多くの機器やサービス、コンテンツ、新技術を、すべてアクセシブルにしていくことを、GAFA、MS、IBMなどのテクノロジーイノベーターを始め、政府も推進していくことが明確に示されていた。

②トップのリーダーシップや戦略が重要という認識が増えた。

企業や組織が、アクセシビリティやDEIへの取組を、企業全体の戦略として語る例が増えた。店頭のKIOSKについてはCVSストアやマクドナルドが、大学の映像のキャプションについてはハーバード大学が、全行サイトのアクセシビリティについてウェルズファーゴ銀行やインドのIT大手HCLが語るという状態である。各企業や組織が、IT部門の中に正式にアクセシビリティ担当を置き、開発の最初からアクセシビリティを含んで設計に着手し、企業文化全体を変えていくという事例が増えた。例えばCVSストア(日本でいえばウェルシアやスギ薬局か?)が、システム部門に3名もアクセシビリティ担当を置き、サイトや処方箋、Covid情報に至るまで、アクセシビリティの確保に尽力し、多くの障害当事者によるユーザーテストを行っていると語っていたが、これはなかなか素晴らしいことである。もちろんトップの意識改革と共に、グラスルーツ、草の根の、特に障害当事者社員からの意見を開発部門に届ける仕組みの重要性も語られていた。

なお、デジタル・アクセシビリティを進める理由についての企業への意識調査があったが、企業として77%が、個人的なモチベーションとしては93%が、「障害のある人のインクルージョン」をトップの理由に挙げているのが印象的だった。なお、第二位は「全ての人に最高のUXを届けるため」が82%である。法律の遵守という回答は38%に過ぎない。企業の意識が大きく変わってきていることを実感した。

デジタルアクセシビリティの推進理由についてのアンケート結果
この前には企業としての回答もあり、そこではインクルージョンは77%だった

③メンタル系、神経系、認知系の発表が増えた。

以前からあったのかもしれないが、今年は精神障害や発達障害の当事者が語るセッションが増えた気がする。またCovidと認知障害等に関してのセッションが目立った。Covidは罹患後、少し時間が経ってからBrainFogなどの後遺症を発症する可能性が高く、そのことが不安症、抑うつ、集中力欠如、記憶障害、情緒不安定などの神経症状を引き起こす。学生の場合は成績不振や不登校につながりやすく、若年層ほど仕事が難しくなる。このような人の就学や就労を継続するためのデザインに関する報告もあった。WCAG 3.0でもCOGAという発達障害のタスクフォースが21年から出来ており、Googleなどが参加している。この分野のアクセシビリティ研究が、できるだけ早く進むことが期待される。

④UXやユーザビリティとの関係が強まった。

これまではどちらかというと、アクセシビリティはデザイン部門の中でもすみっこにいる印象だったが、今年は、ユーザビリティの一環として考えるという傾向が顕著になった。これまでCSUNにはあまり参加してこなかったHCD(Human Centered Design)やUX(User Experience)の専門家が、いかにアクセシビリティを確保しながら開発を進めるかという話をしていた。どこかのセッションで、「結局、アクセシビリティとは、多様な人のユーザビリティである」と宣言しており、どんどん距離が近まってきたのを実感した。また、「アクセシビリティを左にシフトする」というフレーズの意味が最初はわからなかったが、開発プロセスの最初から必ず検討する、というユニバーサルデザイン的な意味であるとわかった。

建築設計や公共交通と同じで、後付けでバリアをはずすより、最初から多様なユーザーの利用を考えてUDに作る方が、効率的で効果が高いことは明白である。そのような発想でのシステム開発の在り方が議論されていた。

アクセシビリティの左シフトの絵
システム開発の中で最初から(左から!)アクセシビリティを考える企業が86%

IBMでも、アクセシビリティは、もはや研究所の中にはいない。デザインの大部隊の中に、UXチームの一員として、ユーザビリティのチームと双璧を為している。研究から実践のフェーズに入ってきたということなのだ。今後、XRや、メタバースや、AIや、IoT、テレワーク環境、遠隔医療、オンライン授業、電子政府など、あらゆるシステム開発の中に、ユーザビリティとアクセシビリティが必須になるということなのだろう。別のアシスティブテクノロジーの企業でも、デザインのフェーズの中に必ずユーザー評価を入れることが、当たり前に語られていた。デザインプロセスそのものを、いかにインクルーシブにしていくかも重要な視点である。

<今後に向けて>

3年ぶりのCSUNであったが、ドッグイヤーと言われるICT業界の進化の中で、確実に、この分野の技術も法律も、企業や社会の理解そのものも、世界各国では進んでいることを実感した。IT社会は、UDであるべきだ。最初から、多様な人が使えることを当たり前として作られる必要がある。さまざまな場面やサービス、例えば職場や学校や、図書館、美術館、映画館、公共交通などへは、ADAや各国の差別禁止法により、アクセスが保障されている。全ての人は、アクセスの権利があるのだ。同様に、もはやインフラとなったIT社会そのものに、私たちは年齢や状態にかかわらず、アクセスする権利がある。そこで情報を探し、判断する材料としての情報を受け取り、自己決定していく権利を有する。情報アクセスは人権なのである。

日本は、デジタル・アクセシビリティに関する法律はなく、就学も就労も未だに分離政策が中心である。海外の動きにますます水をあけられているのはいうまでもないが、既に社会インフラとなっているオンライン環境を、よりアクセシブルに、ユーザブルに作ることを、基本原則とする企業や行政が増えることを、(淡く)期待するものである。デジタル庁が発足したときに、アクセシビリティを前提とし、誰も取り残さないデジタル化が謳われて、一歩前進したと感じたものだった。ぜひこの考えを、これからも当たり前として強く推進してほしい。

CSUNは、社会のインクルージョンを進め、情報アクセスの権利を確保するための、行政や、企業や、障害当事者たちの、地道な努力が結集する場である。世界の動きをきちんと知るために、多くの当事者の声を聞くために、また来年も訪れたい。次回はもう少し英語に慣れて、プログラムもちゃんと事前に読んでおこう。大事なセッションを聞き逃さないためにも。

このレポートを読んでくださったみなさんも、来年はぜひご一緒してほしい。日本を少しでも明るくするために。明日の自分たちの生きる場を、少しでもUDにするために。歳をとっても、障害を持っても、幸せに生きられる日本のために。

会場の発表者受付 単独歩行の視覚障害者も多い



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さえら
ユニバーサルデザインと、ジェロントロジー(高齢社会学)を研究しています。 https://www.facebook.com/csekine