行動経済学をカスタマーサクセスに活かすアイデア(書籍「予想どおりに不合理」を読んで)
こんにちは。
カスタマーサクセスを頑張っていきたいということで、今回は行動経済学をカスタマーサクセスにどう活かせるかを考えていきたいと思います。
そもそも行動経済学とは何か?ですが、人が直感や感情によって物事を判断する仕組みを研究する学問と、下記の記事で紹介されています。
そして、人間の判断は経済学の観点から見ると、不合理であることも多いと言われています。例えば、貯金をせずに浪費してしまう(合理的に考えれば、長期的なメリットを優先すべきだが、実際は短期的なメリットを求めてしまう)などです。
少し勉強してみたので、こちらでアウトプットしたいと思います。
カスタマーサクセスを実現するには、お客様にも頑張って貰う必要がある
カスタマーサクセスを行う上で「頑張って支援しているものの、お客様に中々プロダクトを利用していただけない…」という悩みは付きものです。
CSが一生懸命、説明会を開催したり、ヘルプページを充実させたとしても、結局、プロダクトの導入目的を達成する為には、お客様にコミットしていただかなくてはなりません。
個人的には、カスタマーがサクセスしている状態の定義を「お客様がカスタマーサクセスのサポートなしに、目的の達成に向けて、独自にPDCAを正しく回している状態」だと捉えています。(そうすれば、おのずと成果は生まれるはず)
一方で「前までのやり方のほうが慣れているから…」「他の業務で忙しいから…」「みんなちゃんと使っていないから…」など、お客様が積極的な活用を諦めたくなる理由は様々あり、我々カスタマーサクセスを苦しめます。
お客様社内の登場人物を階層ごとに分けると、これらの問題は、主に下記の通り分類できると思います。
経営者にコミットしてもらえない(運用を現場任せにされてしまう)
運用責任者にコミットしてもらえない(社内の巻き込みが不十分)
現場で利用するユーザ一人ひとりが活用に前向きでない(面倒臭い)
これらの問題を解決する為に、行動経済学から何かヒントを得られるのではないか?と思い、「行動経済学 書籍」でググった所、何となくタイトルは聞き覚えのあったこちらの書籍を見つけました。
人と対峙する仕事をする上で、(自分も含めて)人間が意思決定を行うメカニズムを理解することで、何かしら業務に活かせるのではないか?という観点で読んでみました。
インプットした情報をなんとなくの理解でなく自分自身に落とし込む為に、15章に渡って紹介されている法則の中から考えた、3つの施策について整理しました。
一方で、これらの施策が適切かどうか?については、カスタマーサクセス組織ごとの思想にもよると思います。
ですので、これが正解という訳ではなく、あくまで「こういう考え方がある」という方向性として、何かしらご参考になれば幸いです。
アイデア①高価な所有意識をチャーン抑止に用いる
本書では、人はなぜか自分の持っているものを過大評価し、手放したくないと感じてしまうことを「高価な所有意識」という表現で紹介されています。
そして、それを手に入れる苦労が大きければ大きいほど、その傾向が強まると言います。
この特性をカスタマーサクセスの実行に置き換えた場合、どのような工夫ができるでしょうか?
私のアイデアとしては、オンボーディングの時点で、お客様に苦労して自分で何かを作ることを経験いただくことで、「せっかく作ったのだから、ちゃんと使おう」という意識を醸成することができるのではないかと考えました。
書籍内では、高価な所有意識を説明する例として、「デューク大学のバスケットボール・ファンたち」という、バスケの試合をスタジアムで観戦する為のチケット争奪戦エピソードが紹介されています。
この大学では大会前になると、スタジアム外にある草地に、ひとつにつき10名が収容できるテントが張られるそうです。そして不定期に鳴らされるエアホーンを合図に、各テントから最低ひとりが5分以内にバスケットボール当局に顔を出さなければ、テントの列の最後尾に追いやられるという仕組みが採用されています。
これが試合の48時間前になると、届け出の仕組みが「各テントからひとり」ではなく「個人ごと」となり、争奪戦の激しさが増していきます。
この仕組みが大学のバスケ熱をさらに熱いものにしているそうですが、苦労して手に入れたチケットの価値をどう見積もるかを検証すべく、チケットを獲得できた学生がその争奪戦に敗れた学生に、いくらならチケットを譲っても良いと考えるか?という実験が行われました。
実験ではまず、争奪戦に敗れた学生に、いくらならチケットを購入したいと思うか?というヒアリングが行われました。すると175ドルという回答が返ってきました。
「どうやってその数字に行きついたんだい?」と聞いてみると「175ドルあれば、スポーツバーに行ってただで試合を観戦しながらビールや食べ物にお金を使っても、まだCDや、ひょっとしたら靴の一足も買えるだけのお金が残る。試合は面白いに違いないが、それでも175ドルは大金だ」と答えたと言います。
次にチケットを持っている学生に、いくらならチケットを譲るか最低額を聞いたところ、最初は「最低額なんて知りませんよ」という答えが返ってきました。そして次に3000ドル、最終的には2400ドルであれば交換しても良いことになりました。
「そんなにするのかい?」と聞いた所、「デューク大のバスケットボールは、大学生活の大きな部分を占めているんです。だのにどうやって値段をつけろって言うんです?思い出に値段なんてつけられると思いますか?」という反応が返ってきたそうです。
どちらもバスケットボール観戦に熱心な学生であることに違いはありませんが、苦労してチケットを手に入れた学生と、それを有料で購入する提案を受けた学生の間では、チケットの価値に10倍以上の価格差がついたという話です。
この所有意識を説明する話として、他にも「イケア効果」と呼ばれる以下の例が紹介されています。
自分が苦労して手に入れた、作り上げたものであればあるほど、人はそれに価値を感じるということです。また新たに手に入れられるものよりも、その代わりに何かを手放すことを回避したがるという特性もあります。
この特性を踏まえると、私は下記の2点を実現すれば、高価な所有意識を活用して、チャーンや活用フェーズで推進力が落ちることを防ぐことができると考えました。
お客様自身の手で、プロダクト内で何かを作り込んでもらう体験を提供する
初期設定時に、下記のようなアウトプットをお客様自身で作っていただくイメージです。
実際に使用する自社の業務に最適化させた画面レイアウトをデザインして実装する
ChatbotやMAのシナリオ設定を行う
プロダクト内で動く、自動化プロセスを実装する
実装の難易度が高い場合は、代行せざるを得ないこともあるとは思いますが、出来ればカスタマーサクセスが伴走しながら、お客様自身に手を動かして貰うことで「せっかく作ったのだから、ちゃんと使おう!」という所有意識を作ることを目指します。
この際、プロダクトの運用チームに複数の人物が存在する場合は、できる限り全員に関わって貰うのが理想です。
声が強いベテラン社員が「◯◯さん、やっておいて!」という形で、普段から仕事を振られやすい方(かつ、あまり権限がなく、当人に所有意識を作っても意思決定に影響力が少ない方)に実装が振られてしまうと、この取り組みの目的を達成できなくなってしまう為です。
運用責任者だけでなく、決裁者にも所有意識を作る
これは難しい点だと思いますが、チャーン抑止を考えた際、投資判断を行う決裁者自身に所有意識を持っていただく必要があります。
あまり成果があがっていない状態で更新時期を迎えた際、運用責任者としては継続して利用したいと考えていたとしても、決裁者自身に所有意識がなければ、ドラスティックに解約判断をされてしまうことが考えられる為です。
とはいえ、決裁者が社長など、実務に関わらない人物である場合、実際にプロダクト内で手を動かしていただくことは非現実的です。
この問題に対する明確な解は自分の中でもないのですが、ひとつの考え方として「プロダクト内での作り込み」だけでなく「プロダクト外での作り込み」を行う方法があると思いました。
これは「プロダクトを導入する目的(どのような成果を得たいのか?)」「目的を達成する為の成果指標」「成果指標をクリアする為のキーアクションと運用体制」などを、決裁者も巻き込んだワークショップを通して決めるプロセスを組み込む方法です。
通常は営業段階、もしくはオンボーディング時に、運用責任者と営業・カスタマーサクセスとの間で上記について話し合われると思いますが、「プロジェクトの成功に向けて、経営視点での期待値を正しく理解したい」という形で、その場に決裁者にも参加いただくことを打診します。
また、目的に対して振り返りを行う日時も予め決めておくことで、「キックオフ+振り返りミーティング × n回」で交わされるコミュニケーションと、そのアウトプットが資産として生まれます。
且つ、振り返りを通して、プロジェクトPDCAを回す為にプロダクト自体が必要になるような製品設計が出来ていれば、よりプロダクトを手放せない理由作りになると思います。
このようにして、決裁者含めて「これまでせっかく進めてきたプロジェクトだし、引き続き頑張ろう」という意識を醸成することを狙います。
一定の工数がかかる取り組みである為、契約単価の高い顧客にしか実行するのが難しいかもしれませんが、上記の例に限らず、何かしらお客様に強い所有意識を持っていただくことで、中長期的なお客様のコミットを引き出そうとするアプローチです。
アイデア②強力な義務意識を作ることで、先延ばしを回避してオンボーディングを成功させる
次にほぼ全ての人間が抱える問題、「私たちはなぜ、自分がやるべきことを先延ばしにしてしまうのか?」について考えていきたいと思います。
このテーマからカスタマーサクセスを考えた際、「お客様に依頼していたアクションが先延ばしにされてしまい、オンボーディングが上手く進まない」ということが、よくあるのではないでしょうか?
例えば、
学習用の動画コンテンツを事前に確認しておいていただく
インポートするデータを用意しておいていただく
画面構築を画面AとBまでは進めておいていただく
お客様社内の◯◯さん(他の人物)にも、事前に趣旨を説明いただいた上で、次回の打ち合わせに参加してもらう
などの合意をしていたにも関わらず、打ち合わせ当日の冒頭に「すいません。手がつけられていなくて…」と言われてしまい、オンボーディングのスケジュールがズレていってしまうケースです。(自分はこういう時、ついつい「お忙しいですもんね、大丈夫ですよ〜」と言ってしまい、プロジェクトをコントロール出来ず、だめだなぁ…と反省しています)
では、この問題をどう解決するか?ですが、シンプルに「先延ばしされてしまった場合のペナルティを作って、半強制的にお客様を動かす」のが良いのではないかと考えました。
このテーマについて書籍では、大学のレポート提出に関する例が紹介されています。
とある12週間の講義の中で、学生は3つのレポートを提出する必要がありました。その際、クラスによって下記の通り、3種類の異なる提出条件が設けられ、最終的な成績に差異が生じるか?という実験が行われました。
①の条件が課されたクラスは、提出期限を学生が自由に決めることができる訳ですが、先延ばし癖を自覚している多くの学生たちは、③のクラスのように自主的に提出期限を刻む形で設定したそうです。(一方で期限の間隔を空けずに、後ろ倒しにする学生もいた)
結果、成績はどうなったでしょうか?
つまり、提出期限を3段階で強制された③のクラスの成績が最も良く、次いで自己申告できた②のクラス、そして学期中に提出すれば良かった(すると大抵は全てのレポートを学期末に集中して対応することになった)クラスの成績は最も悪い結果となりました。
このことから、人間は他者から強制的に理想的な期限を設けられることで、パフォーマンスを最大化できるということが言えます。
書籍では他にも、
病気が発症する前に対応する為に、定期的な健康診断を義務付ける
車検を定期的な期間ごとに義務付ける
給与の一部を強制的に貯蓄に回す
といった事例が紹介されています。
では、この考えをカスタマーサクセスの実行においてどう活用するか?ですが、自分は「オンボーディング期間において、いつまでに何を完了させるのかを顧客と事前に合意する。予定通りに進められた場合はディスカウントの適用が受けられる。(が、遅延した場合はディスカウント率が減る)」のように、ライセンス料のディスカウントと引き換えに、強いコミットをお客様から引き出すアプローチが考えられると思いました。
少し強引なアプローチではありますし、そもそも契約上、可能なのか?という話もあるので(契約法に詳しくなくすみません)、ディスカウント率ではなく、他の経済的メリットと絡める代替案が必要かもしれません。
ですので、あくまでイメージとしてですが、営業段階において「今月中にご契約いただければ、深いディスカウントが出せます」という交渉を、カスタマーサクセスにも適用するアイデアです。
ロジックとしては、営業の場合、「商談期間が短く済む=営業リソース(人件費)が抑えられるので、ディスカウントが出せる」という説明が出来ますが、カスタマーサクセスにおいても、「オンボーディングが短期間で完了する=支援リソース(人件費)が抑えられるので、ディスカウントが出せる」という風に、同様の説明ができるかと思います。
そうすることで、決裁者からも運用責任者に対して、スムーズにプロジェクトを立ち上げるコミットを課していただくことができ、「すいません。手がつけられていなくて…」という形で、担当者のコミットの弱さからオンボーディングが遅れ、サクセスもし辛くなることを回避するアプローチです。
一方で、このように運用責任者に強めのストレスをかける手法を取らなくても、内発的な動機に訴えかけた方が良いという見方もあると思いますので、これはやや性悪説的な考え方ではあります。(「出来なかったらペナルティ」よりも「出来たら何かメリットが生じる」という方が、施策の思想として気持ち良いかもしれません。)
あるいは、
最初は毎日、1時間の面談を組んで、その場でタスクを一緒に終わらせてしまう
お客様に任せずに、面倒な作業はカスタマーサクセス側で代行する
という手段も検討できます。
しかし、顧客数が増え、1社1社に対してハイタッチの支援を行うリソースがない場合、上記のような手法は難しく、ある程度、お客様自身に自走していただく必要があるかと思います。
このようなケースに該当する場合は、強力な義務意識を作り、半強制的にお客様を動かすことを考えるのも、一つの手段ではないかと考えました。
アイデア③規範意識と報酬を用いて、ユーザ一人ひとりの「まぁ、いいか」という判断を撲滅する
決裁者、運用責任者とは温度感高くプロジェクトの推進が出来ている一方で、現場で利用する一般社員(CSが直接対峙し辛いユーザの方々)に、なかなかプロダクトを利用してもらえない…という状況に陥ることはよくあると思います。
例えば、
SFAに商談情報を十分に残さない(決まりそうになった案件だけ入力する)
組織サーベイに適当に回答する(全ての設問に同じスコアで回答)
期中の個人目標や、来週の活動目標を適当に設定する
プロダクトを利用せず、野良エクセルを利用される
などです。
これらの「会社からは使えと言われているけれど、面倒臭いし、正しく使わなくても業務は回るので、まぁいいや」という判断を撲滅する為には、「規範意識に訴える」「ストレスのかかる行動とセットで報酬を与える」というアプローチが考えられます。
先にお伝えすると、こちらはプロダクト内の顧客体験に工夫を加える施策で、カスタマーサクセスの取組というよりかは、開発チームが実装するものになります。
ただ、ユーザ一人ひとりにどのようなメッセージだと響きそうか?などを考える際には、ユーザと最も近い距離にいるカスタマーサクセスの意見が必要になります。
その為、カスタマーサクセスが開発チームと連携して取り組むアイデアとして考えてみました。
規範意識に訴える
最初に、規範意識に訴える方法について、書籍では下記の実験が紹介されています。
まず、複数の数字が書かれた紙が学生に渡されます。そして、5分間で「足すと10になるふたつの数字の組み合わせを、できるだけ多く見つける」というお題に対して、正答1問につき10ドルの報酬が発生します。回答用紙と共に、見つけた組み合わせの数を申告して貰った所、平均の正答数は3.1問でした。
次に他の学生グループを対象に、今度は回答用紙は提出せずに、正答数を自己申告して貰う実験を行いました。このように、嘘の正答数を申告できるようにした所、平均の正答数は4.1問に増えました。つまり、プラス1問分、虚偽の報告をしている疑いが見られました。
ここで「規範意識を用いることで、人は正直になるのか?」を検証すべく、回答用紙を提出しない条件はそのまま、お題に取り組む前にモーセの十戒を思い出せる限り、紙に書いて貰うようにしました。
すると、どうなったでしょうか?
平均正当数は3問となり、誤魔化すことが出来なかったグループと同じ水準になったそうです。
十戒をひとつかふたつしか思い出せなかった学生も、全て思いだせた学生も正当数に差異はなかったことから、内容を覚えているかどうかではなく、人は何らかの道徳基準を思いめぐらすことで規範的になるということが検証されました。
※分かりやすく説明する為に、実際の書籍で紹介されている実験内容から、一部、編集して記載しています。
さて、この法則を「面倒臭いし、まぁいいや」の意識撲滅にどう活用できるでしょうか?
例えば、ユーザが適当に入力するであろう画面を開く直前に、下記のようなポップアップを表示するのはどうでしょうか。
「このプロダクトを利用する目的」「なぜ正しい情報を入力することが重要か」について、社長からのメッセージを表示する
期初に本人が立てた目標(自分がどうなりたいか?)を表示する
「私は今から行う入力作業について、誠実な情報を記入することを約束します」に承諾チェックを入れてもらう
毎回表示されると煩わしいですし、形骸化するので、入力が不十分な人のみを対象に、定期的に表示させた方が適切かもしれません。
あるいは月次、週次など、定期的に全員が何かを提出しなければならないという場合においては、「現在の提出率は80%です。提出がまだの方は、◯日までにお願いします!」のような通知を出すことで、「みんなやってるから、やらなきゃ」という規範的な意識を持って貰うアプローチも考えられます。
私はプロダクトデザイナーではない為、アイデアのクオリティは不十分かもしれませんが、十戒の例を踏まえると、このような工夫ができると思いました。
ストレスのかかる行動とセットで報酬を与える
次に「ストレスのかかる行動とセットで報酬を与える」についてです。
書籍内では著者であるダン・アリエリーが、肝炎の治療の為に、副作用を伴う週3回の注射にどう向き合ったか?について紹介されています。
彼は高校生の頃、事故で体の70%に火傷を負い、その際に行った輸血が原因で肝炎にかかってしまいました。
この治療の為に、学校から帰宅後、自らインターフェロンという注射を打つのですが、1時間が経過すると、発熱、吐き気、頭痛に耐えなければならないという、16時間にわたる過酷な副作用が待ち構えていました。
6ヶ月の治療期間を要するこの苦難を、本人はどう乗り越えたか?
彼は注射の日には、学校帰りにビデオショップに立ち寄って、見たい映画を2、3本借りたそうです。そして注射を打つと、ハンモックに飛び込み、鑑賞会を始めました。
つまり、注射を打つという行為と、映画を観る行為を結びつけることで、「注射を打つと、副作用で辛くなる」よりも、「注射を打つと、映画を観れる」というポジティブな意識を作ろうとしたのです。
これをプロダクトの利用に置き換えた際、「今日も活動記録を登録しなきゃな…(あぁ面倒臭い)」というような、ユーザがネガティブに感じるアクションに対して、何かポジティブな体験をセットで提供することは考えられないでしょうか?
例えば、
必要な情報を入力して完了ボタンを押すと、本人がこれまで入力した情報の推移データや、社内ランキングが表示される(全体のダッシュボード画面よりもより個別化された情報を通して、自分の現在地がわかる)
必要な情報を入力して完了ボタンを押すと、ちょっとタメになる簡単なコラムや格言が表示される
入力した累計の情報量に応じて、プロダクト内で使用できる絵文字が増える
などが考えられると思いました。
Twitterのアンケート機能で、自分が答えると回答分布がわかるのと似たイメージです。どのアクションに対して、何の報酬を提供するかはプロダクトの思想にもよると思いますが、特定の機能の利用率が低い場合に、もしかすると有効な打ち手になるのではないでしょうか。
また、「規範意識に訴える」「ストレスのかかる行動とセットで報酬を与える」のどちらの施策も、ユーザが「そのアクションを実行しようとしている時」「そのアクションを実行した直後」という形で、リアルタイムに体験を提供することが大事だと思いました。
例えば、SFAの活用促進において、
商談情報を登録しないと、週次の営業会議にて、自分が未登録であることを晒されてしまう
逆に商談情報を登録すると、週次の営業会議にて、全体の場で賞賛を受けられる(入力を徹底していること自体を賞賛 or パフォーマンスが高い場合に賞賛)
のように、週次会議にてダッシュボードを見る場面で、ネガティブ or ポジティブフィードバックを発生させることも有効ではありますが、ユーザのアクションとフィードバック発生の間にどうしてもタイムラグが発生します。
ですので、ユーザがプロダクトの利用を迷っているその瞬間に対して、リアルタイムに働きかけられる仕掛けを作ると、施策としてより有効だと感じました。
行動経済学を用いて、お客様と直接対峙せずともカスタマーサクセスをコントロールできる領域を増やす
いかがでしたでしょうか?
自分が「やりたい」あるいは「そうはなりたくない」と思っていても、実際はそれらに反する不合理な行動を取ってしまうのが人間です。
ただ、だからといって悲観的になる必要はなく、この法則を理解した上で対策を打ち、自分あるいは他人を、理想的な行動へ導くことができるというのが本書のメッセージです。
カスタマーサクセスにおいて、スムーズにお客様の活用が進んでいない場合、面談を設定し、対面でのコミュニケーションを通して、お客様をモチベートすることが多々あるかと思います。
ただ、営業が順調に進み、オンボーディングを開始する案件が複数ある一方で、解約危機に瀕していたり、音信不通になった顧客の立て直しも並行して対応するのは非常に負荷がかかります。
このようにハイタッチの支援にはリソース上の限界がある為、お客様が自走する仕掛けを作ることができているカスタマーサクセス組織こそ、強い組織と言えるのではないでしょうか?そのひとつの引き出しとして、行動経済学を用いるのが有効かもしれません。
また注意したい点として、行動経済学は、相手に錯覚を起こして陥れるような使い方もできるものだと思います。
カスタマーサクセスに従事する身としては、あくまでお客様にとってのメリットを生む為に行動経済学を用いることを考え、自社都合だけでお客様をコントロールするような思想には決してならないよう、意識したいと思います。
今回は「予想どおりに不合理」を読んでみましたが、より行動経済学について理解を深める為に、今後は本書でも次に読むべき書籍として紹介されている、こちらの書籍を読んでみようと思います。
また、プロダクト開発寄りの内容ですが、こちらも購入して中途半端に読んでしまっていたので、改めて読み直してみたいと思います。
長文となりましたが、少しでも参考にしていただける内容になっておりましたら幸いです。
お客様の成功に向けて伴走する力を少しでも磨くべく、引き続き、インプットとアウトプットを続けていきたいと思います。
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