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Joe Jackson / Big World (Live At The Roundabout Theatre, New York City/1986)

 ジョー・ジャクソン1986年のライヴ録音だが、全曲新曲、拍手や歓声は禁止された状態で録音された、言わば公開レコーディング。その場にいたのは観客というよりダビングのない一発録りであることを証明する立会人、見届け人。これは演奏する方も見てる方も相当な緊張感。何故こんなことを思いついたのか。

 録音も特殊ならリリース形態も特殊だった。何と「レコード1.5枚組」である。2枚目の裏側(D面)が溝のないツルツルの面になっている(レーベルは貼ってあった)。内容よりこの珍しい形態に惹かれて買ったと言われても否定は出来ない。

 インタビューによると、拍手は禁止されたわけではなく、一曲ごと完全に演奏が終わった後にしていたということだそう。そして変則的なレコードの形態はCDを念頭に作成したため結果的にそうなったが、当初はレコード用に何曲か削ることも検討されていたらしい。

 肝心の内容だが、『Big World』というタイトルの通り世界各地の音楽というコンセプトで、東洋的なメロディがあったりタンゴ風な曲があったりするのだが、そのスタイルにどっぷり浸かりすぎないことで聴きやすくなっている。演奏は素晴らしく、一発録りということはもっと強調されていい。

 色んなスタイルやメロディ、音色などに慣れてくると、そもそもの曲の良さが際立ってくる。この人は本当に良い曲を書く人なんだが、アイデアの方が目立つとそっちに隠れがちになるかも知れない。

 ジョー・ジャクソンという人はもともと異常なほど幅広い音楽をやってきた人で、アルバムごとにスタイルが違うのでキャリア全体の評価がされにくいし、リスナーとしてもイメージが抱きづらい人である。しかしこのアルバムは1枚の中でスタイルが様々な曲が入っているという意味で逆説的にジョー・ジャクソンらしいとも言える。最新アルバムは「ミュージック・ホールもの」らしいし、何十年経ってもこうなんだな。


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