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『彼方の人魚姫』感想

 どうもです。

 今回は、2023年10月27日にWonder Foolより発売された『彼方の人魚姫』の感想になります。

主題歌『真夏の輝き』
歌唱:夢乃ゆき、作詞・作曲:mo2、編曲:Yugo Ichikawa

 爽やかな夏を連想させるサウンド、どこかノスタルジックでエモーショナルなメロディ、一気に解放感を魅せる曲展開と、OP曲としてもう完璧です。夢乃ゆきさんの歌声も美しい。フル尺も気になりますね。
 プレイしたキッカケですが、今作のライターである冬野どんぶくさんと、原画U35(うみこ)先生が以前に参加した『アオナツライン』や『ユキイロサイン』をプレイ済みで引き続き興味があったため。今作に対して不安も期待もありましたが、やってみないと判らないのでね。

 では、攻略した順番に感想書いていきます。ヒロインは3人です。加えて、いつも通り受け取ったメッセージについても軽く書きます。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。


1.鬼切畑おぎりはた あおい

 葵は泣き虫で内気で不器用なんですが、その分人一倍感受性豊かで思い遣りの強い娘だったと思います。誰かの為にも涙を流せる人はステキです。そんな風に常に周りの人の事を大切に考えて行動する一方で、自己肯定感が低い事と併せて感情のコントロールが苦手みたいでした。
 綾音が好きすぎる気持ちと藍魚を裏切りたくない気持ちと色々重く抱えすぎて、唯一素直に吐き出せる先が絵本なのに痛みを伴う状況で。かなり辛かったと思います。伊月と付き合ってからもスランプでまた自分を責める…。でも"なりたい自分像"はずっと心の奥底にありましたね。誰かを繋ぐための絵本を描いて、私も誰かと繋がっていきたいと。いつの間にか封じ込めてしまっていたその本当に想いを引っ張り上げる事ができたので良かったです。いつも周りが温かく見守ってくれていて、涙を流して感情の答え合わせをする度に少しずつ確実に変わっていく姿が印象的でした。同い年の鈴魚ちゃんと友達になって、その繋がりがずっと続いてるエンディングの余韻も良きでした。泣き顔よりも笑顔が今後増えていく事を祈ってます。


2.内海うつみ 日輪ひのわ

 日輪は凛々しくて強気で情に厚い面倒見もいい娘なんですが、ふと自分の事になると不安を恐れて萎縮してしまう娘でした。確証が持てない事象に対してだと途端に弱々しくなる。でもそれは真面目で誠実な性格の裏返しとも捉えられるので、自分と向き合いさえすれば解決する問題ばかりでした。
 伊月と藍魚をくっ付けたい気持ちも解らなくはないですが、この件に関しては藍魚がド正論かましてくれて。藍魚と腹を割って話す事で自身の想いとも向き合う事ができました。伊月と無事付き合ってから思ったのは、伊月だけでなく大切な友人達と交わした言葉や過ごした日々を正確に憶えてる姿がとても印象的でステキだなと。愛情の強さを感じます。綾音とも別れを告げ、もう大丈夫かと思いきや、今度は伊月との関係の前提である幼馴染みである事に不安を覚え始める始末。そこで、こうでもしないと日輪はダメかもしれんとお見合い作戦。結婚と云う未来をゴールではなくスタートにしようと、積み重ねてきた時間に比例する想いに誇りと自信を取り戻す事ができて本当に良かったです。"うん…"は沁みましたね。エピローグでも自信に満ちた言葉を聞けて、約束も必ず叶うだろうと安心できました。


3.たちばな 藍魚あいな

 繊細な優しい心の持ち主で、我が儘になっても自分より周りを優先してしまう娘。人魚から人へと生まれ変わったので、自然かもですが、自分の存在に対してフワッとしてる印象で。それでも、皆と同じような毎日を過ごして少しずつ此処にいても良いんだと実感が湧いてきたのかなと思います。
 共通√からの流れを最も踏襲した√でもあったので、作品全体の根幹として綾音の魂が皆に影響している件も触れられました。そして、藍魚自身も自分の感情が本当に自分から生まれたモノなのか不安になる問題が発生…。周りの皆は藍魚は藍魚だと言ってくれるけど、藍魚自身は自己犠牲精神から綾音を生き返らせようとする。ただ、ここは伊月がバシッと言ってくれたので良かったです。全員がいる状態で綾音の声が直接皆に届いて、本当にお別れできたのも感動的でした。ここから藍魚は自分を大切にして、噓偽りなく私は私だと只々純粋に幸せを享受できるように。こんな毎日が続けばいいなと思った矢先、今度は人魚に戻ってしまう問題が発生…。藍魚との別れは感動的なシーンだっただけにEDへの入りが唐突だったし、かなり時間の飛んだエピローグが少し残念だったなと…。でも、藍魚が早くに目覚めるように伊月が行動を起こしたのだろうし、約束通り人魚姫の物語としてハッピーエンドだったのは救いでもありました。


4.受け取ったメッセージ

 3人の√に共通して受け取れたモノがあったので、軽く書いてみたいと思います。まず、本作に於けるキーワードとして、"秘密""生まれ変わり"があったのかなと。"秘密"="本当の想い"と認識しています。んで、”秘密"に蓋をして過去に囚われたままではいけないと警鐘を鳴らしてくれていたと思います。3人とも綾音が関わる想いに蓋をして過去に囚われていましたね。でも、その状態では過去の自分のままだから、そこから本来の自分への"生まれ変わり"をヒロイン達は望んでいたし、つまりは、それが本作からのメッセージだと受け取りました。作中の言葉を借りるなら以下が一番良いかなと。

私は私の思いに、我がままになろう。

藍魚-『彼方の人魚姫』

 浜辺で藍魚が秘密を告白する前、黄昏ているシーンでの言葉ですね。藍魚だけでなく、3人とも"秘密"="本当の想い"に我がままになって、生まれ変わる事ができたと思います。

 藍魚は、綾音を助けたい+毎日に幸せを感じている自分でここにいたい。
 葵は、誰かを繋ぐための絵本を描いて、誰かと繋がっていきたい。
 日輪は、体に染みついた時間と比例する想いに、誇りと自信を持ちたい。

 このままじゃダメだと、心のどこかで本当は気付いている。本当は知って欲しいと思っている自分がいる。"秘密"はある意味エゴかもしれないし、変わる事は痛くて苦しいかもしれません。世界が変わって後悔するかもしれない。けれど、肯定してくれる、受け入れてくれる人がいると、そんなメッセージもありました。もっと皆と一緒にいたかったであろう綾音も、全員の"本当の想い"を見届けてから、お別れができましたね。

「ううん、後悔はしてないよ?」
「だけど……何て言うんだろう……もっと他の世界にも目を向けておけば良かったかなって思う時はあるかな」
「もちろん、他の世界に目を向けたからといって、今とは違う私になれるって確信はないけどね」

沙織-『彼方の人魚姫』

 上記の通り、さー姉も言っていましたが、過去に囚われたままの世界ではなく、解放された新しい世界に目を向けてみるところからがスタートだと思います。さすれば自ずと勇気が湧いてきて、3人の様に自分を変える一歩が踏み出せるはずだと。改めて簡単にまとめると、"変わりたい人"の背中をそっと押してくれる作品だったと思います。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、嬉しいです。                                  


5.さいごに

 正直に云うと、惜しかった作品でした。
 ライターは『ユキイロサイン』に引き続き、冬野どんぶくさん。分岐が発生するまでの共通√の物語はむっちゃ良かったです。藍魚が全てを告白する波辺のシーンが作品全体でも泣きのピークであった位には。それだけに個別√のクオリティ・ボリュームが悔やまれる感じでした。どの√にも感動シーンはあったものの、共通√には及ばなかったなと。あと、地の文の視点が急に変わるトコはユキイロから相変わらずで少し読み辛い…。でも、全体通して先述したメッセージとヒロイン達の想いを受け取れたのは良かったです。
 僭越ながら、冬野さんは恋愛抜きのヒューマンドラマを描いてみて欲しいなと思ったりもしました。濡れ場も無理して差し込んでる印象があったので。十分に尺を使った丁寧なヒューマンドラマを見てみたいかもです。

 原画はU35(うみこ)先生。今回も素晴らしかったです…。夏の暑さとノスタルジックな雰囲気、瑞々しく明るく元気なヒロイン達の姿は勿論、3人とも涙を流す表情があって感情移入を誘う美しいイラストでした。立ち絵のポージングや表情も相変わらず本当に可愛らしくて眼福でした。

 声優は、メイン3人だと月野きいろさん(内海 日輪)、夏和小さん(橘 藍魚)、小波すずさん(鬼切畑 葵)。3人ともピッタリの配役でした。特に小波すずさんのお声が好きだったので、またステキな演技を聴く事ができて耳が幸せでした。可愛らしい声質は勿論、表現の幅が広くて本当に凄い。

 音楽は、Felion Sounds。夏らしい澄んだ空気感を演出しつつ、親しみやすいメロディもあって良かったです。人魚姫の存在があるので、幻想的な雰囲気の楽曲も印象的でしたね。そして、ボーカル曲が何より良かったです。挿入歌「藍唄-アイウタ-」は間違い無く泣きを後押ししてくれました。ED曲「不確かで確かなもの」も余韻に浸れる曲で気に入っています。 

 とゆーことで、感想は以上になります。改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 ではまた!

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