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『ユキイロサイン』感想

 どうもです。

 今回は、2021年3月26日にWonder Foolより発売された『ユキイロサイン』の感想になります。

主題歌『冬の音、雪の街~Song for...~』
歌唱:いとうかなこ、作詞・作曲:mo2、編曲:Yugo Ichikawa

 如何にも冬ゲーの主題歌って感じが素直に良い。何かが動き出しそうな予感がして高揚感すら覚えるサビメロが好き。というかボーカル"いとうかなこ"さんは問答無用に強いんですわ。 
 プレイしたキッカケですが、今作のライターである冬野どんぶくさんと、原画U35先生が以前に参加した『アオナツライン』が良かったので。全く同じ制作布陣ではないんですが、雰囲気も似てるし興味は自然と出ましたね。加えて、ブランドWonder Foolから今年10月27日に新作『彼方の人魚姫』が発売予定なので、その前にやっておきたいなと思った次第です。

 では、攻略した順番に感想書いていきます。ヒロインは3人です。加えて、いつも通り受け取ったメッセージについても軽く書きます。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。


1.高萩たかはぎ 香子かこ

 香子は度胸はあるのに自信が無い、技量はあるのにメンタルが弱い、など二面性が光る娘でした。良く言えば気遣い上手で、悪く言えば周りの目を気にしすぎる感じもあって。それ故の魅力も沢山ある中で、自らで歯止めを掛けて溜め込んでいたのが多く見受けられましたね。
 失敗が恐かったり、迷惑を掛けたくなかったり、後ろ向きに考えて足が止まる。でも、幼馴染み兼ライバルである結との誤解が解け仲直りした事をキッカケに歯止めが無くなり、豪快に一歩踏み出せる様になりました。もっと早くこうすれば良かったと。奥底にあった想いも露わになって、それに呼応する様に自由に大胆になっていく香子の姿は清々しくて感動しましたね。一流アスリートの資質を感じさせるインタビューシーンと、そのまま続く告白シーンはとても印象に残っています。ほんの少し考え方を変えるだけでよかったので、傍から見ても安心できたし、その後も順調に進んでいき只々眩しかったです。付き合い当初の様に過去の傷を舐め合って劣等感を相殺する安心感を得るではなく、お互い尊敬しあえる存在として切磋琢磨していく関係になれて良かったなと。幸福に満ち溢れたエンディングでした。


2.スヴェトラーナ・グルチェンコ

 スヴェは小動物系の可愛さで良くも悪くも極端な性格をしてる娘でした。本当に0か100かしかないみたいな、思考も行動力もそんな感じで。でもだからこそ、とても素直で気持ちがいい娘だったと思います。周りから可愛がられる、面倒を見てあげたくなる素質がありましたね。
 母親が生まれ育った南逢瀬で、母親を追いかけて、"やらなきゃリスト"をやってきたのに、母親の死や記憶違いなど真実はまるで彼女を裏切る様なモノばかりでした。これまでやってきた事は全部嘘で無駄だったと、自暴自棄になるスヴェの気持ちも伝わってくるからこそ辛かったですね。でもそれに同情するだけではなく、真っ向から否定した美玖が本当にカッコよかった。あの説教シーンは今作屈指の泣き。今の関係や想いがあるのはスヴェがいてくれたからだと、絶対に蔑ろにしてはいけないモノにちゃんと目を向けさせる優しい言葉選びがステキでした。最終的には自分自身と云う存在も含めて大切な存在達を見つめ直す事ができて良かったです。さらに、母親の死を改めて受け容れて、哀しみと同時に生のありがたみを実感する姿も印象的でした。臆病だった少女がこの冬で一つ強くなったなと思います。


3.勿来なこそ 美玖みく

 美玖は普段クールでサバサバしているしっかり者、さらに自分より周りの大切な人を優先する。だからこそ、その反動も含めてちゃんと末っ子らしく甘えん坊で構ってちゃんな一面も秘めてる面倒臭い娘でした(褒めてる)。付き合い始めると段々と柔らかくなって可愛いかったですね。
 主人公である宗冬と付き合っていた当時の想いと後悔を引きずっており、オマケに自己評価が低い(そう思われないよう振る舞う)。そんな自分を変えたいのに変えれなくて苦悩する。宗冬も宗冬で罪悪感を抱いて気持ちにブレーキを掛けてるので、お互いにすれ違い気味の停滞状態。幼馴染み兼親戚関係である事も一筋縄ではいかない一因だったのかもしれません。でも、結構この場合はキッカケさえあれば前進するもので、柊佳を筆頭に周りが動いてくれました。決定打になった姉妹喧嘩から、美玖と宗冬が想い出深い場所で涙混じりに心の内を話せて良かったなと思います。
 2人が付き合う事で、広中を含めた幼馴染3人としての物語が動き出すのも自然ではありました。正直喧嘩にまで発展する事だったかは謎なんですが、男同士きっと2人にしか解らないモノがあったんだと思ってます。無事に全員が全員、罪悪感や劣等感を克服して素直になる事ができて春を迎えられそうなラストの雰囲気は良かったです。美玖と柊佳、広中と宗冬、どちらも真正面から感情をぶちまけて遠慮なく言い合える関係は、付き合いが長く想いが強い証でもあるよなと思います。


4.受け取ったメッセージ

 まず本作の特徴としては、『アオナツライン』の系譜を感じさせつつも、過去と向きあう事にかなり焦点を当てた作品だったと感じています。先述した3人の感想からも納得していただけたると思いますが、改めて整理すると以下の通り。

 香子は、過去に甘え妥協する事をやめました。
 スヴェは、過去の出来事を無駄と思うことをやめました。
 美玖は、過去の後悔を引きずる事をやめました。

 南逢瀬という閉鎖的な田舎の小さなコミュニティに香子とスヴェがやってきた。幼馴染み3人で過ごしていたいつもの冬とは少し違った"変化の兆し"を感じたからこそ、気づいたら自然とその可能性を掴もうとしていたのだと思います。その時に元々あった関係や想いは無視できず、つまりは過去と未来も切り離せない。それらが変わってしまう事に対して恐れを抱いたり、逆に期待したりして、色々難しく考えてしまう気持ちも解ります。ただ、柊佳が以下の言葉を残してくれてましたね(本作で特に気に入っている台詞)。

「まあ、とにかくね……私が言いたいのは、
 深く考えても良い、じっくり考えるのも悪くない。
 だけどね……難しく考えるな、時間の無駄だから」

柊佳ー『ユキイロサイン』

 時間の無駄。そう時間は止まってくれず春は訪れてしまう訳です。いつもと少し違う春を迎えたいのなら、足踏みしている場合ではない。未来を迎えるために今、過去と向き合い意識を変えてみる。とりあえず動き出してみる事が”兆し”を逃さないポイントなのでしょう。美玖√の最後でも語られていましたが、変わるはずないと思っていたものが変わりもするし、変わると思っていたものが変わらない時もある。きっと良い方向へとなるようになるから心配せずとも大丈夫だと。実際、どの物語でも大切な関係は変わらないまま、心の持ちようが変わっていきましたね。さらに、思い出の"痕跡"はいつまでも残っているから、安心して前を向いていけばいいと。本作からはそんなメッセージを受け取りました。次の文章も、作品を締めくくるメッセージとして良かったので残しておきます。

過去を振り返るのは時々で良いだろう。
それよりも前を見て歩いた方が良いに決まっている。
後ろを振り返るから転ぶのであって、
前をしっかり見ていれば転ぶことも少ないはずだ。

『ユキイロサイン』


5.さいごに

 良作でした。思っていたよりもずっと良かったのが素直な感想です。
ライターは冬野どんぶくさん。作品コンセプトである"1人1人が主役で脇役の群像劇"、"ありふれたストーリー"に噓偽りない物語でした。大きな起伏がある物語ではなくともバチっと決めてくれる感動シーンはあったし、どの√に於いても5人揃って物語が動いていくのも良かったなと思います。一点だけ気になったのは、地の文で心の台詞も書かれているので誰の心情かわからんくなる時があった事。基本的には主人公だけでいいと思うんですが、先述したコンセプトもあってこの結果になったのかなと。

 原画はU35先生。『アオナツライン』と最近だと『夏ノ終熄』でも見れていて。制服姿だけでなく私服姿もあったし、2人以上のCGが多かったのも今作らしい繋がりや温もりを感じる事ができました。そして何より、立ち絵の表情が皆んな本当に可愛いかった(愛でたくなる感じ)。キャラ魅力をより引き出してくれていたと思います。

 声優さんは、実羽ゆうきさん(高萩 香子)、北大路ゆきさん(スヴェトラーナ・グルチェンコ)、猫村ゆきさん(勿来 美玖)。3人ともピッタリで感情のこもった演技、最高でした。特に実羽ゆうきさんは『アオナツライン』から引き続きヒロインを担当された上に、全く性格の違うキャラクターを演じられていたので、幅広い演じ分けに感動しました。

 音楽は、Felion Sounds。冬の雰囲気や日常の温度感を演出するピアノソングをメインに揃えられていて良かったと思います。特に感動シーンで流れた「Ride a white swan」は泣きを後押ししてくれたし、かなり気に入っています。 ボーカル挿入歌も三者三様というかキッチリ物語とヒロインに合わせてきていて満足しています。ただ1点申し訳ないが濡場のBGMは流石にキラキラ壮大すぎて萎えさせ王だと思いますwww

 とゆーことで、感想は以上になります。
改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。次回作『彼方の人魚姫』楽しみにしております。

 ではまた!

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