彼岸

私は「お彼岸」に生まれた。

9月20日はお彼岸の入りの日となる。死というものに憧れ、不明瞭で危うげなこの世界に不信感を抱いていた私にとって、この日に生まれたことに運命的な意味がないとは到底思えないのである。彼岸とはつまり死者が進むべき道、この世の先のあの世である。私はこの日に生まれ、そして同時に悟っていたのかもしれない。人生の非業を。

私は「あの世」に生まれた。

簡単な言葉遊びで、お彼岸をあの世と言い直してみるとよく分かる。この世界に生まれ、そして死ぬまでこの世界に縛り付けられているものとばかり思っていたが、それはどうやら違うらしい。

私はそもそもこの世に生まれていなかったのだ!死を願い、苦しむ必要なんてなかったのだ。私は生まれ、同時に死んだ。私は既に死者と肩を並べ、死者の呼気を吸い、死者が踏んだ轍を歩いていた。

今はとても晴れやかな気持ちで自分の存在を見詰め直すことができる。競走もない、不安もない、焦燥もない、悲哀もない。彼岸に満ちた光と、茫洋とした響きが私を包む。苦しみは消え去った!

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