#2-5 医学部不正入試から考える理不尽との付き合い方 3/3
この2週に渡って、1:医学部受験の概要、2:なぜ不正が起こるかについて書いてきましたが、3週目の今回が最後になります。いわゆるエリートといわれ、日本の偏差値社会のトップを目指す医学部受験の実態を知る事で、自分の生き方を考え、少しでも良い方向に持っていくきっかけにしてもらえれば幸いです。最後のテーマは「理不尽にどう立ち向かうか」です。
合格者の玉突き大移動
このシーリーズ第1回めの記事で述べたように、私立医学部受験では1人の受験生が複数の大学を受験するという性質上、複数の大学に合格する生徒が何人も存在します。一方で受験生が進学する大学は1つであり、国公立志望の受験生は滑り止めにしていることも多々あります。
よって、合格者の進学辞退を見越し合格定員の1.5倍以上の正規合格者(大学による)さらにそれでも定員割れした場合に備え一定数の補欠合格(数十人〜100名近く)を出します。
定員が割れた場合に繰り上げ合格が出ます(辞退した人の代わりに合格者を補欠合格者より補充 ※大学や試験制度によりその方法は異なります)。繰り上げ合格に伴う合格者の大移動が起こるタイミングは大きく以下の3つになります;
a. 私立の前期試験合格発表が一通り終わった時(2月中旬)
b. 国公立前期の結果が出た時(3月初旬)
c. 後期試験の結果が出た時(3月中旬以降)
一概には言えませんが受験生の進学優先順位はこんな感じ;
国公立大学 > 難関私立医大 > その他私立医大
この順に定員が定まっていきます。そして大体この順に偏差値が高く授業料が安いと思ってください。
補欠合格の受験生は気が気ではありません。補欠番号が明確になっている学校もありますが、自分に合格が回ってくるかどうかはその年の受験状況次第。もう1年勉強することになるのか、その場合どこの予備校に行くべきか、合格できなかった場合に備え今から勉強しておきたいけど気分が乗らない、合格したらすぐに下宿先も決めなければ…てな葛藤があります。そのためネット情報から今何番まで合格が回っているのかを確認したり、例年の繰り上げ状況もチェックし自分の身の振り方を考えます。
本当にダメな不正が起こり得る可能性
不正な利益を得るための合格者操作=大学関係者を不当に合格にする、不正な金銭の授受を行った受験生を合格にするなど、は残念ながらあります(少なくとも僕が認識できる2年前には)。
1次合格さえすればうん千万払って正規合格にするという大学側からの打診や大学関係者が不当に合格するのを見聞きしてきました…
こういった不正には断固反対ですが、客観的にみて繰り上げ合格者が多い大学では必然的にそういう状況ができてしまいかねないと考えます。
例えば先ほどの繰り上げ合格者の玉突き大移動、受験生だけでなく大学側も相当大変だと思います。入学式以降に繰り上げ合格を知らされる事例もありました。大学側としたらもちろん早めに諸々決めてしまいたい(事務手続きや授業料の確保の為)のですが、授業料高めの私立医学部はギリギリまで生徒を決定できない。
合格者の進学が不確かで流動的なため、受験生ロンダリング(この言葉は度が過ぎるか?)をしやすい。大学側もお金が必要。なんとしてでも子供を医学部に入れたい親。大学側と保護者の利害関係が一致。
2018年の不正入試への訴えをきっかけに、ここ大丈夫かなと思った大学はやはりというかお咎めを喰らっています(まだ喰らっていない所も…)。
努力をすれば報われると思うな
例えば子供の頃から野球に全てをかけてきた人がプロ野球選手になれない、どうしても働きたい希望の就職先の面接で不採用になった、長年好きだった人に告白したがうまくいかなかったという事例を聞いてどう思いますか?おそらくほとんどの人が、仕方ない、当たり前と感じるはずです。
でもこういった事例には不正がないと言えるでしょうか?なぜ当たり前と思えるのか?能力があったとしても希望を叶えられないことは生きていれば普通に起こる事をわかっているのに、こと受験になれば「公正」が強調され、その為に「合格」は必ず努力すれば報われるものと考えられます。
予備校勤務時代、小中高とほとんど勉強してこなかった生徒がけっこういました。本人にやる気があるならまだしも、この子は医者にならないとダメなんです、病院をつがす為に医者にして下さいと来る保護者がいて、違和感を感じていました。
努力をすれば必ず報われるわけではない、と自分は考えます。もちろん努力をすれば勉強ができるようになりますが、生まれ持った能力ももちろん関係します。
小中高とコツコツ勉強・努力してきた人でも受からない受験、それが医学部受験です。そんな努力をしてきた人の中には家の経済状況や諸々が原因で能力があっても夢を諦めたりする人がいます。
一方で、金をかけて勉強さえすれば医者になれると考える人もいます。正直憤りを感じるんです。舐めんなよと。
親にお金があることも武器だと思います、それはとことん利用したらいいでしょう。だからといってその先の結果までコントロールしてもいいとは思いません。能力や努力が足りなかったら諦めれば良いんです。他の道を探せば良いんです。そういった厳しい世の中での立ち振る舞い方や心構えを教えるのが親なんじゃないでしょうか?
保護者との喧嘩
生徒の保護者と細かい意見の食い違いは何度もあったのですが、一度自分が我慢できず言い争いをしたことがあります。
自分の思いや主張を出せずに、一言目には「お母さんが…」というような生徒でした。お世辞にも学力は高いと言えず、勉強のモチベーションが低い状況だったので徐々に関係を築き、信頼してもらいモチベーションを高めていきました。受験間近になると「自分はこうしたいから、こういう勉強にした方が良いと思う」という意見も言えるようになりました。
受験校の設定や受験対策の方針などもちろん保護者との約束の範囲内での決定をしています。しかし、受験がうまくいっていない中でその子の母親もフラストレーションが溜まっていたんだと思います。受験の過密日程の中で即日決断しないといけないことがあったので、その生徒と予備校で決定した判断に母親が怒鳴り込んできました。
「なぜ息子と勝手に決断するのですか!?あの子は1人で何もできない馬鹿でどうしようもない子なんです。どうしてあの子の言うことなんか信じるんですか!?全ては私が決めます、勝手なことをしないでください!」
唖然としたのはもちろんですが、謙遜をしていたとしても我が子に対して流石に言い過ぎだと感じ、またその生徒が母親のこういった態度に振り回されているのも知っていたこともあり我慢できずに反論し口論になってしまいました。
家庭の事情など色々大変なこともあったり、プレッシャーを感じていたのだと思います。今思えば完全に生徒側の味方をし、そういった事情も考慮せずその母親を悪とみなした態度をとってしまったことに反省もしています。
理不尽との向き合い方
長々と書いてきましたが、読んで頂きありがとうございます。医学部受験を例に取りましたが、世の中理不尽なことだらけです。生まれた時から家庭の経済力は異なり、競争があり、勝者と敗者が生まれ格差が生まれる。渋沢栄一も言ってますが、人や国家が成長する上で競争は良いことで、その結果生まれる格差は避けられない。これには同意します。
続けて彼は「ただしその格差を仕方ないと見過ごすのではなく、向き合い、苦しんでいる人たちの苦しみを和らげる術も同時に考えなければならない」とも述べています。
彼が言う競争には良い競争と悪い競争があります。良い競争は道徳を守り、人のため、社会のために自己を研鑽することで、悪い競争は肩書きや個人の利益のために周りに迷惑をかけてでも勝とうとすることです。
今の社会はどうでしょうか?悪い競争が蔓延しそれによって利益や地位を得ている人たちが正義だと思われていませんか?例で述べた母親はまさに悪い競争の被害者なのかなと思います。
もちろんキレイごとだけでは生きていけません。でもどうしようもないこともあります。生きていく中で誰とどのタイミングで出会うかは人生に大きく影響しますが、努力でなんとかコントロールできるもんではありません。
正しい競争をする中で努力だけに頼るのではなく、理不尽も含めて流れに身を任してもいいやってぐらい気楽に生きても良いんじゃないかなと思います。今日はこの辺で、hasta luego 〜
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?