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AVARONEシリーズプロット集

題字『AVARONE』

AVARONEイメージボード
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【1】登場人物

[1]鬼月 桜杏(きづき もも)

日本出身のアルビノ。リリムという種族。隠れオタクで周囲にオタクとバレる事を過剰に恐れている。恋愛に疎く、ぼんやりしがちで頼りない。

[2]Michael Ward(ミカエル ウォード)

イギリス出身の没落貴族。英国海軍に属しており階級は中佐。
桜杏に好意を寄せており、弟ロイとは喧嘩相手であり恋敵。

[3]Roy Martin(ロイ マーティン)

イギリス白人の父とアメリカ黒人の母を持つハーフ。米国陸軍に属しており階級は軍曹。
桜杏の事を異性として気に入っているが、兄のミカエルが目の上のたん瘤。

[4]その他

イタリア人のイメージ
韓国人のイメージ
フランス人のイメージ
ロシア人のイメージ

【2】プロット集

[1]風刺集①

現実の政治問題や時事問題、社会風刺を扱った内容を多く含んでいます。そういった内容が苦手な方は閲覧を避けるようにして下さい。

●誇大妄想(20210624)

脳内外国人に否定され続ける桜杏
「すみませんすみません…」
「モモのやつさっきから誰に謝ってるんだい?日本人のやつは妄想の中にでも生きてるの?それとも壁にも謝るクレイジーな奴ばかりなのかい」
「無神経な奴め。そっとしておけよ。アイツもあれでレディーだ。1人になりたい時ぐらいあるんだろう」
「俺には病んでるようにしか見えないんだけど、もしかして鬱病や統合失調症の類じゃないのかな」
「お前は何処までバカなんだ。一人前の男なら淑女に対する気遣いやデリカシーぐらいもてよ。だからお前はいつまで経ってもヤンキーのままモテないんだ。察してやれ」
「だからモモはさっきから何を1人でやってるのかって。俺はこれでもモモを心配してるんだよ」

「だからその…例のあの日だろう」←(一番最低)


●ステレオタイプ①(20210625-20220318)

『各国のイメージ』
「ええと、イギリスといえばやっぱり紅茶にスコーン、それに英国紳士です。後は国花の薔薇や立憲君主制に女王陛下、そして何と言っても魔術でしょうか…」
「うーん、俺は雨ばかり降ってオカルト趣味の陰気で陰鬱なアヤしい島国というか、そこにいる連中は何処か嫌味っぽいというか、冷ややかというか…。まぁ歴史的にも何かと俺のところと所縁があるし、ある種近しい国だけど、大航海時代に海賊や海軍がブイブイ言わせてた事とか、やたら厳しい植民地政策を展開して、アメリカ独立に際しては戦争をやりやって、見事相手を打ち負かし勝利を治めた記憶しかないな。あと羊毛産業とパブとサッカーと、インドからしょっぴいた紅茶文化!」
「……まぁ、私も自国ながら紳士というイメージとは裏腹に、世界各国で暴れ過ぎてているとは思うがね。英国発の文化や言語が他国に根付いているのを見ると嘗ての栄光を感じはするな。しかし、それが我が国が齎した呪いであるにも違いない」

「アメリカは50の州を示した星条旗にコーヒーにハンバーガー。自由尊重、開拓精神、そして国土も広くて映画も有名な超大国という感じです」
「軍事力・経済規模共に世界一。映画大国でなにかと車が厳つく大きい、ついでに言えば燃費が悪い。服のサイズから某ハンバーガーのチェーン店に至るまで、全てにおいてビッグサイズ。極めつけには、ヤンキーで自己主張ばかりする我が強い輩ばかりだな」
「まぁね、遠回しに皮肉を言って冷笑するような嫌味なヤツらとは一緒にされたくないからね!俺たちはただ言うべき時に、言うべき事を包み隠さずに言っているだけさ。それに同じ値段ならデカくてゴツくて、量が多い方がお得だろ?車や電化製品だけに飽き足らず、スナックの量からチョコのサイズまで小型化・軽量化するような、何処かの東の島国とはわけが違うのさ」

「あの、ちなみにミカエルさんとロイさんのお二人は日本にどんなイメージを持っていらっしゃるんですか?」
(桜やロボット、寿司やマンガとかかな…?)ワクワク

「…」(顔を見合わせる)

「「HENTAI」」(Yaoi Syokusyu Ero-Dojin)

(OHMYJAAAAAAAAAAAAAAAP!!うわあああああ日本のジャップオスとジャップメス何やってるのおおおお!?日本人の特殊性癖海外にバレてるんですけどおおおおお変態エロアニメエロ同人は一番海の向こうに輸出しちゃダメなやつううううネットの影でHENTAI呼ばわりなんて嘗ての儚くお淑やかで真面目で礼儀正しい日本男児大和撫子の綺麗なイメージは何処に行ったんだよぉおおおおこれだから日本の女はNOが言えない押せばヤレる貞操感のない淫乱ビッチとか言うイメージがついてイエローキャブ呼ばわりされるんだよぉおおおおおここ半世紀でどうしてこうなったんだうわああああああああああ)

「…モモはさっきから何を悶絶してるんだい?」
「フン、日本人は基本的に外面が良いだけの内弁慶だからな。表向き礼儀正しく従順なイエスマンでも、心の内ではどんな悪態ついて、何を考えてるかもわからない表裏のある連中だ。言いたい事を敢えて言わないならまだしも、『先方に無礼だ』『身内の恥だ』と宣い、躊躇して言うべき事も言わず日和見する事すらあるからな。輩の言う『YES』はあまり信用すべきではない。国際事情も碌に知らず、内に引き籠って外に放り出された途端に何も言えなくなるのが今の日本人だ。世間知らずの癖、空気を読むと称して人目を伺うような生き方をした挙句に、集団に溶け込めるかだけを憂慮して、自己主張すらできない国民性の小心者だからな。だから俺たち『ガイジン』の反応に敏感で、ネットでは海外に対して強気の癖、直接的な自国の批判に弱いのだ」
「ふーん…よくわかんないけど、兄貴はやたら日本の事情に詳しいね。そんなに奴らが気に障るのか…、それとも本当はその逆で、目的は『コレ』だったりするのかい?ツンケンしてばかりで、はっきり本音を言わないのは君のところも同じだろ。島国根性で回りくどいところは本当にお前にそっくりだなぁ」
「…まぁ、それは否定はしないが」
「ヤキモキしてばかりでコレと言った進展もなく…。ホント、付き合わされる身となっちゃめんどくさいったらないよ…。……俺の目的の方も知ってる癖にさ」
「…」


●性癖(20210627_20220318)

「なぁ、俺とモモと兄貴で一緒に(ピーー)でもしないかい?」

『↓↘→ A』
-エクスカリバー-

「それよりも桜杏、そこの犬と(ピー)する気はないかね」

『A』
-ベリィ・トゥ・ベリィ-

「そんな事よりみんなで一緒に同人誌でも描きませんか?」(懐からYaoiの同人誌を持ち出す)(おじさん×ショタのいかがわしいの)

《秘奥義》
-セイグレットクロイツ(反基督滅殺閃)-
『その時兄弟の心は一つになった』

(私、魔女狩り、異端審問の時代に生まれなくて良かったです…)

「クリスチャンに同性愛ネタを振るな!」
「ゲイとバイとレズビアンに関する話題は、俺たちのとこではかなり繊細な問題だから気を付けた方がいいと思うぞ。まぁ俺の国は他所より自由というか基本的に超個人主義だから、日本よりもオープンな奴が多いけどね」

-桜杏からのお願い-
『オタクと言っても純粋なファン活動から二次創作活動。創作活動、他にも夢百合BLCPエロといった色々な趣向があって、それが好きな人も苦手な人もいれば宗教的理由でそもそも相容れない事もあるので、みんなもマナーを守って楽しく同人活動しようね!桜杏との約束だよ!』


●ステレオタイプ② -オタクの場合-
(20210627-20210628-20211028-20220319)

「一般的な日本人の感覚でしたら、英国は紅茶、島国、霧の都、産業革命、王国だとかで。英国の方は少し気障で紳士的で礼儀正しいなど、そういう古典的なイメージなんですけど…。一部の日本のオタ…コホン。一部の日本の女性の方は、英国の方は人に素直になれなくて皮肉屋だけど人の事をよく見ていていつもさりげなくフォローして下さって、所謂『ツンデレ』で可愛らしい方というイメージを持っている人も多いんですよ」
「ツ、ツンデレ…かわいい……?我々が……、クールではなく……」
「嘘だろ!?ブリキ野郎がキュートとか、日本の女の子たちはタコとイカを食いすぎてとうとうゲテモノ好きにでもなっちゃったのかい?兄貴なんて英国紳士の皮を被った性欲の塊の童貞のヘンタi…ぐふ!」
「それは貴様も一緒じゃないのかね、ママのMilkとBoobsが大好きなファッキンメリケン…」
「兄貴、いつものジェントル口調が崩れて口から本性漏れてるぞ」
「あ…でも、米国の方はフレンドリーで社交的で、エネルギッシュで元気いっぱいの素直で正直な方が多い気がして。マクドナルドやコカ・コーラだとか、ディズニーアニメや洋画ドラマなど、日本人にとってある意味一番身近な西洋文化の国ですよ。直球に気持ちを伝えてくれて少年少女がそのまま大人になったような所が、母性をくすぐってかわいいと思っているオタ…ゲフ、……女性の方も多いと思います」
「ヤンキーがかわいいだって?!君の国の女は全員ドラッグをやっていて、ヤクで頭がイカれてるとでも言うのか!」
「兄弟、どの口がそれを言うんだい…」
「あ…いえ…すみません。なんて言うか、特に女性の方はそうなんですけど、私たちにとってかわいいと言うのは、容姿とか見た目だけではなくて。その人の仕草とか、内面だとか…、そう言った性格や言動などを含めて考える事が多いんです。なんとなく気持ちが動かされて、その人を愛しいと思う気持ちや慈しむような感情が沸いた時は、大抵『かわいい』なんです。一時期は『萌え』という言葉もありましたけど…今はもう死語ですかね…」
「いわゆる"Adorable"と言うヤツかね。…全く、日本人の性癖の広さには感服するばかりだな。流石、深海魚や毒フグすら食べるゲテモノ好きなだけあって、敬愛の念にも見境がないようだね、それは特に我々英国だけに関することではなかったと。今頃隣人愛を説いた我が主も絶句しているだろうな」
「あの…、なんだかすみません…。クリスチャンや博愛主義の方とは違うので、誰でもと、言うわけではないんですが…。でも、お付き合いしている相手の方の人となりが分かると、やっぱり親しみが持てるようになって、段々可愛らしい一面も見えてしまって…。なんだか心が和みます」
「…ほう」
「はぁ…。また日本人お得意の『kawaii』かい?君たちはどんな屈強で体格の良い男相手にもそれを言うからわからないね。確かにオジサンでも愛嬌のあるキュートでチャーミングな人はいるけどさ。俺はどっちかというと『クール』とか『ワイルド』とか言われたいけどね。まぁでも、日本の女の子にそう思われるのは別に悪い気はしないかな。それだけ俺たちは好かれてるってことだろ?」
「喜ぶのはやめておいた方がいいぞ、ロイ。日本人のヤツはこうやって海外在住の俺たち『ガイジン』の反応をこっそり楽しんで、日本の愛国者や右翼連中の虚栄心を満たし、陰でEro-DojinやYaoiの肴にするような卑屈な民族だからな。我々諸外国の人間は日本のDojin-shiでどんなネタにされているかもわからないぞ。しかも『それ』をコミケットなどと言う不届き極まりないオタクの祭典で売り買いするなど、もはや正気の沙汰ではない。俺たちいつの間にかレイパーやゲイにされて未成年の女をF**kしたり、逆にゲイにF**kされてるかもしれないんだぞ」
(うぅ……バレてる……)
「えー…。モモ、それは流石の俺もドン引きだな。やっぱり、俺はあくまでもアダルトでセクシーな女性をF**kする側でありたいね!君のFujoshiのお友達にもそう言っておいてくれよ!」
「そういう問題じゃないだろ」
「あの…その……。我が国のオタクの民がいつも海外の皆様にご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません……」
「いや…その……。まぁ、我が国でもいない訳じゃないからな。NerdやOtaku…。それに、ふ…Fujoshiのヤツも……」
「まぁ、同性愛や同性愛者に寛容なのは、俺はいいことだとは思うけどね。俺のいたスクールや友人にもそう言うヤツは一人はいたし。きっと日本オタクが築いたYaoiとYuri文化が、海外オタクに認知されたお陰で、自分の趣向や性癖が当たり前に肯定される物語の存在に気が付いて、人知れず救われた同性愛者たちが何処かにいたんじゃないかと俺は思う。喩えそれがフィクション上であってもね。…ただ、俺たちの国はこれでも一応キリスト教国家の一つだからさ。君たちアジアンもいるけど、他にもユダヤ人とかアラブ人とかヒスパニック、アフリカ系、色んな人種と宗教家がこの国にいるから、そういうセンシティブな内容がダメな家庭も多いし、中には異教のものとして厳しい目で見る人も少なくない。下手したら反キリスト的だと弾圧する事もあるかもしれないね。だから、海外事情を何でもかんでもHENTAIやYaoiにして陰で楽しんでいると、いざネットで『俺たち』に見つかった時に大変なことになるかもしれないぜ」
「米国はプロテスタントが多く、仮にも人権と自由を尊重する国なので我々とは少し違うかもしれないが。教義の厳格なカトリック教会や私の通うイギリス国教会は、基本的に同性同士の婚約は認めていない。無論、近年は同性カップルを容認する方向で話は進んではいるがね。それでも、ゲイのカップルのおおよそはクリスチャンの親に性趣向・性自認を認めてもらえないのが殆どだろう。教会で式を挙げられないのを嘆く連中も多いのが実態だ」
「そうそう。俺の国でもゲイやレズは教会で式をあげられないことが多いね。2019年には同性愛者の結婚そのものは全州で認める流れになったけどさ。でも俺の国では、上の世代ほどそういう事情に厳しい人が多くてね。何かと自由!権利!と謳われる俺の国でも、反キリスト的な趣向を嫌う敬虔で純粋な信徒も少なくないって事!まぁ、そもそも俺のとこのカトリック人口はプロテスタントに比べて少ないし、今時日曜日に教会に通う従順なクリスチャンも珍しいケド」
「ほう、それは何ともお気の毒な事だ。しかし近年、お前の国では教会に通う礼拝者が増えたと聞いていたがね。それも、神に贖罪するでもなく祈るでもないが、教会に足繁く通うようなマッドな連中がね。――ところで、"ピカチュウ"はGETできたのかなアメリカン。君はいつポケモンマスターとやらになるのかね」
「うーん、なんというか。聖歌でもなく説教でもなく、秘蹟(サクラメント)を求める訳でも懺悔室に告解に来る訳でもなく、PokemonGOをやってるトレーナーたちのお陰で教会が賑わうなんて、当時の敬虔な神父やシスターは泣いただろうね…。まぁお国柄、教会に人が来るのを喜んだ話が目立ったけどさ」
「無論、私の国でもゲイなどの同性愛者がいなかった訳ではない。例えば映画『ボヘミアン・ラプソティ』で取り上げられた英国ロックバンド『クイーン』のフレディ・マーキュリーは世界的に有名なボーカリストだったが、彼はゲイで、性的事情には苦労したようだね。彼の両親はクリスチャンで、同性愛者は当時の我々の国では受け入れ難い反キリスト的な存在だった。故に彼はスキャンダルで苦しんだ時期があった。無論、彼ら親子の間にも強い隔絶があったに違いない。それを思えば、喩え信仰の深さや聖典にある教義(ドグマ)故での事であっても、彼ら同性愛者の存在を奇異の目で捉え社会から排除せんとする世間の姿勢が、彼らを追い詰めてしまったのは確かだろう。だからこそ、宗教や国家に関係なく、彼らの恋愛の自由は認められるべきだ。……と思わない訳ではない。しかし、私自身は伝統的なクリスチャンであり、性趣向はヘテロであってゲイではない…」
「まぁ少し難しいんだよね。俺たちはアジアンみたいな仏教とか儒教や神道を信じてるわけでもないし、シャーマニズムやアニミズム的な宗教圏とも違うし。互いに侵攻されたり侵攻したりで、外交関係も歴史背景も複雑で、民族と信仰も多様で、同じ国でも使う言語すら違うことも当たり前だからさ。そう言う諍いの元になりそうな話題は若干タブーみたいな空気があって、すごく繊細なんだよね。日本のTVショーみたいにオカマの人がコメディアン扱いで登場するのとは、ちょっと事情が違うって言うのかな…。まぁ地方自治にうるさい国だから、州によってそれぞれ事情が違うんだろうけどね」
「アメリカは『個人』の強い国だから尚更だろうな。基本的に我々はビジネスシーンやパーティなどの社交場で信仰や民族問題に関する話題は避けるものなんだが、性自認や性趣向に関してはまた一層複雑でね。日本のように単純な恋愛対象や性対象の違いで済む話でもない。無論どの国であっても、家庭や職場において、人間関係に不満や問題抱えて生活面に支障をきたすであろうが。我々クリスチャンにとって同性愛とは忌むべきものであり、男女にお造りになった主の意向に反するものと解釈されてしまう。生まれ持って存在そのものを大いなる父と宇宙のロゴスによって否が応でも否定される。故に我々の世界での同性愛者は、己の信仰と自己アイデンティティの間に挟まれ、一生を苦しむのだ」
「そ、そうだったのですか…。私たちの国でも多分、周囲に打ち明けられない苦しみや周囲に理解されない苦しみ、受け入れられない苦しみが当事者の方にはあると思うんですが、自分たちの神様に否定されるようなことは…。もしかするとクリスチャンのご家庭では、同性愛者の方は自分の存在に"罪の意識"のようなものを抱いてしまうのでしょうか…」
「まぁ、原罪とかの聖書的な戒律は日本人にはない感覚かもね。俺のとこでも若い奴はそうでもないみたいだけど。逆に、日本人はそう言う『自分は生まれ持っての罪人』みたいな考えはなのかい?」
「そうですね…、日本の宗教観では『先祖を敬わないのは罰当たりだ』とは上の世代の方がよく言われますけど…。確かに"罪"や"穢れ"などの神道的な考えがあって、卑しいとされる身分や行動は存在しましたし、他にも生来からの精神障碍者や身体欠損者などは『前世の行いが悪いから』だとか、その人の"業"を示すものだ…としたインド由来の考え、…ヴェーダの思想やウパミシャッド哲学が仏教の伝来と共に根付いて、悪とされていた時期が過去にあったみたいですね。ただ、クリスチャンの方の言う"原罪"とは少し違うような…。業はあくまで前世の行いの事であって、前世に善行を積めば今世では善生を受けると…」
「なるほど、中々興味深い話だ。しかし人類の血と肉は不浄であり、"原罪は遺伝する"とした思想と、"前世の行いや業が転生後の自分の受ける生の形を変える"とする思想は、何処となく共通したものがあるかもしれないな。いずれにせよ、それらによって社会から排除された人間が過去に多く存在した、と言う事なのだろう。加えて、今尚宗教戦争は続いていて、その収束は難しいと言われている。…まぁ、歴史的に見れば我が国もその原因の一端を担っているのだが…」
「そうなんですね…」
「それを聞くと、日本人が宗教嫌いなのもなんとなくわかる気がするよね。まぁ俺はあくまで合理主義者で、兄貴からすれば形だけのクリスチャンかもしれないけどさ。かと言って今の日本人みたいに『無宗教です』と言えるかといえばそうじゃないし、ユニテリアン・ユニヴァーサリズム(UU)とも違えば、科学主義者や共産主義者になろうとも思わないし。考えてみれば俺たちは当たり前に神様の存在を信じてるんだよな。初めからそこにあったと言うかさ。ダーウィンの進化論も宗派によっては否定してるし、ある地域ではスクールで教えない事もあるんだぜ?正直なところ、俺も猿が人間に進化したのか、『創世記』にあるみたいに男女は今ある形で突然現れたのか、どちらとも言えない感覚があってさ。"Oh my God"のイディオムもそうだけど、俺のいる国の文化や言語一つにしても、否応にもキリスト教の影響を見つけられるし。俺の国の『忠誠の誓い』においても、"神の下に不可分一体である"とはっきり言われてるから、喩えどんなに信仰態度が悪いヤツがいても、俺たちの生活の中にはやっぱり神様がいて、日本人の感覚とは違うんだよ」
「なるほど…」
「私自身もクリスチャンであり、曲がりなりにも主に仕える信徒の内の一人だが、そう言った事に対し頑なな態度をとってしまう自分が時折嫌になる事はある」
「ミカエルさんが…ですか?」
「自分で言うのもどうかと思うが、私は常識もある、教養もある、経験もある、そして幼い頃から両親と共に教会に通い、聖歌を歌い聖句を読んで育ったクリスチャンだ。しかし我が国も日本人と同様、信仰に対して冷めた見方をする者も多くいてね、英国においても私のような古典的なクリスチャンも珍しい。若輩者だが判断力がある事も自負している。ビジネスにおいてはそこそこ重要な決断もして来たつもりだ。その時は確かに『正しい』とされる結果を得られたかもしれない。しかし、自分が常識と信じ今まで積み上げて来たものが、突然、障害や障壁に変わってしまったらどうだろう。もし私の友人や愛する人が同性愛者やTG、無性愛であった時、クリスチャンの私は相手を許す事ができるのだろうか。異教を許し、そのまま愛し続ける事ができるのか。…それとも、相手に嫌悪を抱き、情愛だけでなく敬意の念すらも喪ってしまうのか。よもや今の私にはわかるまい」
「…」
「もし仮に、君がそのような立場であったらどうする?」
「私は…」
「…」
「もしも自分の愛した人が、別の人を好きになったとしても、多分一緒にいる事や好きでいる事をやめられないと思います…。相手の方が幸せならばそれでいいと、生きていればそれでいいと。もし隔絶ができて相手の心が自分から離れたとしても、私は忘れる事ができないんだと。嫌おうにも上手く嫌えないのかな…。でも最後はお互いが傷つかないように、距離を置いてしまうかもしれないですね」
「そうか」
「…私も一度同じような事を考えた事があるんですが、やっぱり悲しくて、でも相手を傷つけたくなくて、かと言って自分の心に嘘もつけなくて、今でもどうすればいいか、よくわかっていません…」
「…」
「…あーあ、天にまします我らが神よ。人間って本当にめんどくさいよ。俺はとにかく好きな子と両想いになって、毎日デートできればそれだけで幸せなんだけどなぁ。主よ、俺たちはこれからも真摯に務めて参りますので、どうか俺たち迷える子羊たちを正しい方へ導いてくださいますように。どうかそこんとこよろしく!AMEN」
「…糞みたいな祈りをありがとよ、兄弟。普段どんなくだらない事を神に報告しているかわかって安心したよ」
「はは、言うね兄弟、まぁどうせ俺も神の教えには勝てやしないさ」
「…」
「誰かを愛するって大変なんですね…」


●続き(20210627_20220319)

「多分私の国でYaoiやBLが生まれたのは、元々衆道という男色が流行った時代があって、小姓と呼ばれる近侍の男の子が、お仕えするお侍様や武将の方の夜伽の相手をする事もあったので、そういった背景が理由にあるのかもしれませんね。戦場に奥様は連れては行けないので…。なので、潜在的に同性愛に対して寛容的になれる環境が日本にはあったのかな、と思います。もちろん、同性愛者の方に対する偏見は今もまだ多いですけどね…」
「キリスト教においても過去聖職売買で腐敗してた時期は、神父が妻帯できないのを理由に若い男や少年相手に性欲を発散してた例はあったな。もともと少年や少女などに対する性愛などは古代ギリシャ・ローマ時代から存在していたのだが、中世ヨーロッパにおいても、カトリックの共同体では男色を禁じられながらも司祭や修道士と少年の愛出には性交渉などの『Pederasty(少年愛)』が当たり前に存在して、その他人身売買が暗黙に行われていたと聞いている。私はこれでも敬虔な信徒のつもりだったが、まさか宣教師が過去そういった性搾取や人身売買に手を出していたとは思うまい。思春期の頃それを知ったが、それはクリスチャンの私にとって大きなショックだった。当たり前に信じてきたものが、頭から否定され理想が突き崩れたような失望と喪失感だ。しかし、それでも私は主に対する畏敬の念を失わなかったし、信仰もやめなかった。間違っているのはあくまで人間の行為であって、主の説いた隣人愛の教えそのものは信じるに足ると、当時の私は強く思ったからだ。だから私は自ら同意して幼い頃洗礼を受けた。しかし、いつの時代も権力の威光のあるところ、深い闇は生まれるものだ。きっと今も何処かで売春や性的搾取は存在しているのだろう。日本の出会い系や風俗店とも違う、非合法な人買いと花売りの存在がね」
「やっぱり似たような事って、どの国にもあるんですね…」
「面白いよね、不謹慎だけどさ。同性愛は禁止とあるのに、カソリックの神父は妻帯を禁じてる事もあって、男相手に情欲を発散するヤツもいたとかさ。まぁ、多分男権的な制度も背景にあるんだろうけど。それでも性欲や恋愛に関する事が教義上で規定されてると、色々面倒だよね。俺は兄貴と違ってプロテスタントだから聖職者の牧師も結婚できるんだけどさ。友人がゲイだとしてもそれはそれ、俺は俺であんまり関係ないっていうか、まぁ個人主義だよね。特に、兄貴の国では人のプライベートには敢えてツッコまないのが普通なんじゃないかな。日本で言う所の『>そっとしておこう…▼』ってヤツだね。」
「なるほど…、思えば欧米では何となくオープンな方が多いですよね。日本ではそもそも公開する事に抵抗がある方が多くて…、やっぱり人の反応が怖いのですね。だから親しい方であっても教えない方が多いと思います。欧米の方はそういうセンシティブな事に関する認識が日本人よりも進んでいて、より関係がシビアで対応に敏感なのかもしれません。それで海外は同性愛者に寛容と言うイメージが私の中で勝手に出来上がってたのかな…?ブロマンスの雰囲気を持った映画は海外でもありますものね」
「あくまで日本人にとって、米国が一番身近なキリスト教国家であるから、海外の恋愛事情に寛容性や自由を感じるんだろうが、同じキリスト教国であってもその国の法律や宗派によって事情は大きく違ってくるな。そもそも米国はマイノリティだった集団や個人が社会に対して不平不満を主張し、個人の権利の為に戦って来た経緯がある。裁判において弁護側の立場が強いのも関係しているはずだ。権力に不満があれば立ち上がり、抗議と運動を惜しまず、持てる権利は行使する。そんな国民性だからこそ、米国人は自由でいられるんだろう」


●続き②(20210627_20220319)

「正直、私は君たちのようなアジアンの文化や習慣の存在のお陰で、色々と考えさせられる事が多い」
「え、そうなのですか…?」
「我が国は島国である故に、特にそうなのだが…。私にとって正しい、当たり前と思っていた事も、外に出てみれば全く通じないどころか、自分の方が場違いであるということを痛感する事が派遣先で何度もあった。それもヨーロッパといった比較的近しい文化圏ではなく、東南アジアや南米といった言語も宗教事情も異なる国では、自分の持っている予備知識や常識など凡そ役にも立たない。『郷に入っては郷に従え』…という事だろうか。交流や経験でしか得られないこともあれば、文献と資料に当たる事でようやく見えてくることもある。保守的な立場の私ではあるが、それでも慢心せずに、自身への批判と疑問を忘れずにいられるのは、異教と異文化を持つ君たちの存在があるからなのだ。自国の隣人だけでなく、異国の友人も又大切にしたいものだな」
「そうだね。特に、俺の国って国土も広いし人種も民族も多様だから、国内でも州によって事情が全く違うし、争いというか…ちょっとした喧嘩や事件が絶えないんだよね。例えばカルフォルニアでは中国系やアジアの移民が多いし、フロリダ州は黒人が多くて、メキシコ近辺ではヒスパニック系の比率が高かったりして。日本人が思うような"金髪で青い目の白人系アメリカ人"が全てではないんだよね。俺も肌は黒いし、瞳の色はヘーゼルだけど、鼻筋は通っていて確かにアングロサクソン系の血も混じってる。だから自分は黒人とも言い切れないし、白人でもあり得なくて、俺はアメリカ生まれのアメリカ人、としか説明できない事があるんだよね。だから、アメリカ人といえば金髪の白人と言われると違和感を覚えるけど、でも黒人の意見だけを政策に反映するのは、それはそれで何か違うよね。だってアメリカは人種のサラダボールって言うぐらい色んな人がいるんだからね。だから、自分の常識をそのまま人に当てはめてしまうと、噛み合わない事が殆どなんだ。それが国外ともなると…、きっともう大変なんだろうね」
「そうですよね…」
「私の場合、反キリストとして禁じられ、時に侮蔑されていたもの…、まさに君の国のYaoiやDojin文化には大変驚かされた。数年前まで子供じみたもの・悪魔的であると当たり前に卑しいと考えていたコミックやアニメーションと同性愛を、君たちFujoshiやOtakuの連中は大人の体で楽しみ、Yuri・Yaoiと尊んで持て囃しているのだからな。まして、猥らな本を発行して公にやり取りするなど…。淫猥かつ非常識で、実に度し難い民族だ」
「まったくもって"HENTAI"でクレイジーだよね。色々丸出しなアダルトアニメとか平気で深夜に放送してるし、ネットにはエロ画像が当たり前に落ちてるし、ある意味俺の国より自由だよね、性表現に関して」
「いえ、それは私たち日本人も薄ら、おかしいな、大丈夫かな、なんだか恥ずかしい…と、我の事ながら常々疑問に思っています……」
「まぁ、俺の国の場合、ショッキングシーンとかスプラッタとかグロに対する規制が緩いんだけど…」
「その…、確かに洋画やドラマを見ても死亡シーンや流血シーンのリアリティや再現度がすごいですよね…。銃撃戦や爆発シーンのある戦闘場面なんてCGとも思えないぐらいの迫力がありますし…。内臓や脳が飛び出る事もありますものね。映画大国である前に軍事が盛んな影響もあるのでしょうか。日本の同人やアダルト事情に関しては仰る通りで…、本当にもう何も言えませんけど…」
「…だが、君たちのそんな奇行を見て、自分自身に疑問を持つようになった。自分が『悪』として弾圧し、当たり前に忌諱していたものは、もしかするとそれほど悪いものではなかったのではないかと。途端、自分の信条としていたものが覚束ないように思えてね。己の信ずるものは何か、よくわからなくなった」
「俺もアメリカの外に出た時、英語もスペイン語も通じないどころか、食事に昆虫や葉っぱや根っこが出てきて、それを手で食べているのを見た時には、もう頭を抱えたよね。俺の国と食文化もマナーも全然違うんだからさ。でも、現地の人はそれを当たり前に思って、おいしそうに食べているだろ。しかも中には爬虫類の干物が薬として使われてて、東洋医学でまとめられるぐらいに由緒があって、その人たちの生活に欠かせないものだったりする。それでなんだか俺の感覚の方が間違っているような気がしてさ、少し怖い気持ちになった。でもそれが俺にとっては国際化のきっかけだったんだ。それまで俺はアメリカの常識が全てだったし、アメリカの正義は絶対で一番良い国だと思っていたから。それが俺にとって良かったのか悪かったのかは、今もわからないけど。俗にいう、コペルニクス的転回ってヤツだったのかもしれないね」
「…実は私も、ミカエルさんやロイ君と一緒にいる中で、色々気づかされる事がありました。私の国では、熱心に何かを信仰する事は、あまりよく思われないのです。私たち若い世代の人にとって、今どき神棚を拝んでは仏門に入ったり、日曜日に教会に通ったりは少し奇妙に映るみたいで…。特に壁崩壊以降に生まれて、地下鉄サリン事件を経験した世代には、宣教活動に熱心だったり、社会運動に熱を上げて政治家を叩く人のお気持ちが上手く理解できなくて、少し敬遠してしまうのです…。しかし、諸外国では当たり前に聖書を学び、聖句を読んで神様にお祈りをしています。他にも選挙の投票や政治活動に対する意識が高いですよね。むしろ日本の方が異端なんだと知って、少しびっくりした事がありました…。それを盲目的で"宗教臭い"と感じる人もいると思いますが、慈善活動のボランティアやチャリティーに積極的な姿勢を見ると、少し羨ましく思う事もあります。今の日本人は、良くも悪くも信心を失い、個人と経済の自由と引き換えに、古き伝統や人の情を忘れてしまいましたから…」
「私は、君たちの様に異教徒で異文化を持つ民族を忘れないようにしている。それは喩えアメリカ人であっても、フランス人であっても違わない。自分と異なる存在がいて、彼らが違う常識、違う価値観の中を生きている事で、英国人である私では気付き得ない事、見落としていたものを教わる事がある。それは決して我々を否定し、我々の価値を脅かすような共存し得ないものではない。ロイと口論し、君の性癖に絶句する。取るに足らない些細な事、その日常の全てが人生にとっての一番の学びなのだ。少なくとも私はそう思っているが」
「はー…、兄貴はそこんところ頭固いんだよなぁ。俺の場合なるべく穏便に楽しくというかさ、お国柄戦闘民族みたいなヤツが多いから、母国の友人や異国の兄弟とも上手くやっていければ良いと思ってやってるけど…。人それぞれって言えばそれまでだけどさ、やっぱり人間って面倒くさいよね。どんなに理解しようと歩み寄っても、話しててコイツとは絶対合わないなって、悟った事も多いね。ホント、世の中思い通りにはいかないよ…。そこが面白いのかもしれないけどさ」
「どんなに立派なお題目を並べようと、私たちはただの人間ですから、努力してもできない事、受け入れない事はあると思うのです。お互いを無駄に傷つけず、相手の心、自分の心を守る為にも、時には距離を取って何も触れずに平行線でいるのも大切なのでしょうね…」


●ワンダーランド(20210627_20220319)

「君の瞳は深い紅色でルビーでも散りばめたようだね」
(ポロポロ…)
「な、何故泣くんだ」
「日本で生きててお世辞でもそんな風に褒めてもらえた事なかったです…」
(もっと互いを褒め合え日本人)

「モモ、久しぶり、元気だったか?」
「きゃ!」
「大丈夫かい?突然で痛かったかな」(日本人やアジアンは俺たちより小柄だしな)
「い、いえ…どうも欧米文化のハグだとか…キ、キス…だとか…そう言ったスキンシップになれなくて…少し恥ずかしいです…」
(もっと互いに触れ合え日本人)

「桜杏…、もう少しいいかな」
「あの…もう身体が痛くて…これ以上は恥ずかしいです…」
「そうか、じゃあ今日はこのまま2人で寝ようか」
「うん…、………」
「どうした」
「その…恋人同士になると裸の付き合いと言いますか…ええと…ごにょごにょ…」
「君たちの悪い癖だ、口籠らずにはっきり言いなさい」
「あの…恋人同士になると…せ……せっくすするのって本当だったんだと…しかもこんなに長い間裸で抱き合ってるなんて…少しびっくりして…」
「はぁ?恋人になったらこうして肌の触れ合いの時間を持って愛し合うのは普通だろう。でないなら日本人はいつセックスするんだ」
「その…男の人はAVを見たり、風俗で済ませてるらしいですけど…、女の人は恋愛話は好きですけどそもそもえっちとかの話全然しなくて…、夫婦になったらせっくすしない人が多いらしくて…。だから異国の方はこんなにするの知らなかったです…」
「なるほど通りでセックスが下手な筈だ。男相手にキスすらまともにできないとは初々しいにも程がある。まるで世間知らずで修道院育ちの童貞様でも見ている気分だった」
「すみません…」
「いや…その、私は別に構わないが。これから二人で学んでいけばいい。ただ、まともな恋人同士の時間も持てないとは…、日本人はよくそれで耐えられるな」
「その…だからなのか私の国は浮気とか不倫とかのすきゃんだるばかりで…、男の人は奥様のATM扱いで家で邪魔者扱いされたり、女の人は若くないとヤダとか美女じゃないとヤダとかで旦那様から捨てられたりで基本的に痴情の絡れでマスコミや芸能界はドロドロなんです…」
(もっと互いを愛し合え日本人)

「MADE IN JAPANのアニメ・ゲームは主人公が未成年の子供ばかりだが、日本の大人はピーターパン・シンドロームでも拗らせているのかね?英国ならば著名な物理学者や生物学の権威、ロボット工学の博士、若しくはSIS局員でも遣わせて子供を手厚くサポートするところだがね」
「マザコンはともかく、ロリコンはどうかと俺は思うね、もっとセクシーでアダルトな女性にも目を向けるべきだよ」
「まぁ、日本のご婦人はベイビーフェイスで幼い雰囲気の人間が多い。どんな悪魔と契約したかは知らないが、老いを知らない魔女みたいなヤツも中にはいるからな。日本の紳士は自然と童顔を好きになるのかもわからないがね。世が世なら、顔の老けない日本の女は魔女として焼かれていただろうね」
(中世のヨーロッパ怖すぎるよ…)
「そもそも何の権威も武器も持たない無力な子供に世界の宿命を背負わせるなんて、フィクションとしてナンセンスだね。俺のところなら速攻でホワイトハウスで議決して現地に軍隊と戦闘機を送ってすぐさま解決だよ。ゆゆうじょうパパワーで発動する謎の奇跡や熱血と根性なんかの非合理的な精神論は米国では通用しないのさ!」
「みなさん酷く現実的なんですね…」
「賢明で堅実でない戦いに意味はないからね、そもそも子供のような未熟な存在を戦前に強制する事自体、国際法に違反する。それこそ国際常識ではないのかね」
「暴力沙汰では力こそジャスティス!俺の国は君のとこと違って自力救済の銃の国だからね、最善で最良の解決策を講じたまでさ」
「でも何故異国の方々であっても、そう言った非現実的なマンガやアニメの世界がお好きな方がいるのでしょう…?」
「私は興味がないので見ていない」(非オタ)
「そりゃもうアニメも漫画もクレイジーでエキサイティングだからさ!」(ライトオタク)
「基本的に私たちで言う所のアニメーションというのは、米国のディズニーアニメをして、欧州のイソップ物語、グリム童話、イスラムの千夜一夜物語などの有名な神話や小説の原作を児童向け作品としてアニメーション化したものが大半だからね。ジャンルは日本程豊富じゃないな。わが国でも国産アニメはないわけではないが、日本の様な手書きアニメではなく人形を使ったストップモーションが中心でね。いずれにしろ、いい歳をした我々が見るようなものでもない」
(でも確か羊がたくさん登場する犬とおじさんの人形アニメ、『ウォレスとグルミット』は確か英国のアニメだったような…。ニャッキーと同じ感覚で小さい頃教育テレビで見てたっけ。表情に粘土の味わいがあってかわいくて今も好きなんだけどな…。日本ではプッチンプリンのCMで有名だけどミカエルさんは知らないのかも…)
「俺のところはキリスト教や政治思想の関係で背徳的で反キリスト教的な内容は扱いにくいし、映画もコミックもヒーローモノばかりだから、その点日本の漫画・アニメは比較的表現が自由だね。まぁ実写や3DアニメのCG技術やエンターテイメント性は俺のとこよりも劣るけど、俺の国のは良くも悪くも勧善懲悪な単純でわかりやすいストーリーが多いから、話の内容自体は日本の方が独自性とバラエティーがあって、その一部が米国で受けているのは確かだね」
(あ、アニメが褒められるのは少し嬉しいかも…。でも、オタクとしては『俺設定』での実写化はちょっとやめてほしいな…)
「なるほど、それで日本人はあのHENTAIアニメを量産しているのか」
(えっ…)
「あー…、あれは流石の俺もドン引きしたな。まぁ英国の性に対する貪欲さもヤバいけどね」
「そうは言うが、日本のHENTAIアニメはタコみたいな触手が女のBoobと(ピーー)を弄ってそのままF**kするんだぞ」
「アレのお陰で俺の性癖が歪んだね。夢にまで触手がでてきた時は柄にもなく神様!て泣き叫んじゃったよ。それで、次見たHENTAIアニメで何故か戦闘が始まっておっぱい悪魔のセクシーF**kアタックが始まった時は可笑しくて思わず声出して笑っちゃったよ。日本人はいつもあれで射精してるのかい?」
「俺が前に見たヤツはシスターのおっぱいを授乳して戦うアニメだった…、アレには狂気を感じたぐらいだ。奴らの頭はHENTAIに貪欲で、聖句を読んでセックスも碌に知らないような敬虔でつまらない童貞様すらも性的に見て、アニメの中でF**kするらしいな。ましてあのゴブリンさえもアニメでAV男優に昇華するとは…。全くもって、"日本人の頭はイっちゃってるよ、アイツら未来に生きてんな"」
「違いない!ヤツらマジで発想がクレイジーだからね、その内戦国武将だけじゃなくプレデターやエイリアン…、そんでもって俺のとこのクトゥルフ神話までNyotaikaするかもしれないぞ!」
(うう…もう既にあるんだよなぁ……。しかも萌えアニメやエロゲーのヒロインで……)
「ほう…、それは面白い。日本文化は稀にみる珍味だ。極東に閉ざされた性癖のガラパゴス諸島で、唯我独尊にHENTAIコンチェルンを栄えつつ、そのまま井の中という名の異世界を永遠に彷徨うがいい。そして今後とも大いに我々を笑わせてくれたまえよ、悪食ジャパニーズ」
「post: その投稿にいいね!👍しました」
「「HAHAHAHAHAHA」」

(これ、絶対褒めてないよ全然褒められた気がしないよ蔑んでるよただの皮肉のブラックジョークだよ……)

「奥ゆかくて恥じらいがあって貞操感のしっかりした真面目で誠実で控えめな日本男児と大和撫子って…実は御伽話だったのかな…」

「というか、その…。ミカエルさん、日本のアニメや漫画は見ないけど、日本のアダルトアニメは見ているの?」
「日本性愛に関する参考資料だ」←愛読書『カーマスートラ』で性知識豊富

(アイツ、HENTAIアニメで覚えたプレイをモモで試すかもしれないから気をつけた方がいいぞ)
(えっ…?)
(例えばタコとか…)
(えーっ…!!)
(NOと言えない日本人はダメだぞ)
(Nooo…!)

「そもそも日本人はアニメーションの芸術性の側面に対する理解や評価が低いのではないのかね。単純な利益や顧客のニーズや娯楽性ばかりを追求し、アニメーションの価値をスポンサーの為の広告宣伝や"美少女"にしか見出せないようでは、せっかく半世紀以上かけて培ったアニメーション技術が損なわれ、失ってしまうのではないかのかな」
「そうだよ。俺が言うのも難だけど、ビジネスの売り上げばかり重視してるとそのうちマニュアル通りで似たような展開の作品ばかりになってしまうぞ。とりあえずスリリングにすればいいとか、感動させてばいいとか、大衆娯楽ばかりに目を向けてると…
「それに関しては文化と芸術保護や自国の伝統の保全に勤しむフランスの姿勢を見習ったほうがいいぐらいだ。マルロー法制定以来、歴史的価値もさるものながら、パリの景観が壊れると言ってエトワール凱旋門とシャンゼリゼ通りのその街並は今もあのままの状態で保存されている。お陰様であそこを車で移動するのはドイツのアウトバーンを壊れたフェラーリで通過するよりも難しいがね」
「確かにあそこ、ラウンドアバウトで信号機なんてないもんな。そこで車を使うなんてパリの人間かよっぽど酔狂なドライバーぐらいさ」
「我々は自国の文化と歴史に誇りを持っている。故に芸術・文化に関する寄付や保護を惜しまない。」


●国際語(20210627?_20220318)

「ヨーロッパを旅行してまず驚くことがある」
「驚く事…?」
「英語が通じない国があるという事だ」
「アハハ!兄貴、それ君が今まで言った中で一番面白いジョークだよ」


●地政学者H・J・マッキンダーとアルフレッド・T・マハン
(20210627?_20220318_20240716)

「そういえば、最近地政学というのを勉強いたしました。私の国ではすでに過去になってしまったのですが、今尚国際情勢を考える上で、地政学的知見が役に立つと密かに再評価されているのです」
「ああ、地政学ね!俺の国でも地政学は勿論有名さ!」
「ふむ、地政学と言えば、無論私の国の十八番だな」
「へぇ、そうなんですね!お二人はどの著書を嗜むのですか?」

「そりゃもう、俺たちアメリカの生み出したアルフレッド・T・マハンの海上権力史論さ!時代は俺たちシー・パワーってね!」
「我が英国が誇るH・J・マッキンダーの『地政学ーデモクラシーの理想と現実』以外にあるまい。ランド・パワーこそ現代にも通ずるトレンドなのだ」

「至極当然のように、お二人の意見が割れましたね…」
「兄貴、シー・パワーを裏切るつもりかい。嘗て七つの海を制した海洋国家代表の島国、大英国帝国様がまさかランド・パワーに鞍替えかい」
「無論シー・パワーは我が英国の家芸とも言うべき概念だが、今の時代は世界の回転軸であるハートランド…ひいてはリムランドを如何に制するかにかかっている。無論海からリムランドを監視するのも望ましいがね。なぁに、我々には大陸に”友好国“というツテがあるのでね」
「この大英帝国の亡霊が!君が植民地にしてた国が、わざわざ君の思惑通りになるもんか。それよか俺はきちんとチョークポイントを監視して、シーレーン防衛する方がよっぽど大事だと思うね。簡単には、大陸国家を俺たちの海には出させないってね。その為のオキナワなんだから」
「フン、我々は過去の栄光に縋ったりはしない。海を制したものが世界を制するのは、悲しいが最早過去のことなのだ。鉄道や自動車の交通網が劇的に発達した今、時代はランド・パワーにある。つまりマッキンダーの地政学こそ現代に通ずる聖典というわけだ。わかるかね、ヤンキー君」
「へー海洋国家のちっぽけな島国がよく言うよ。しかもランド・パワーなんて言って他国を盾にするからたまったもんじゃないよね。海軍中佐が笑っちゃうよ。陸路なんてあの辺大陸国のゴタゴタで君も俺もまともに使えないだろ。海路の重要性がわからないようじゃ、覇権国家は名乗れないぜ、ライミー君」
「我々が話していても埒が開かない。ここは公平に第三者に決めてもらおうではないか。一体どちらの言い分が正しいのか。分かるな、桜杏」
「…え?」
「お!いいね。丁度兄貴のネチネチ攻撃にウンザリしてたトコだったんだ!と言うわけで公正で厳粛な判断を頼むよ、モモ!」
「え、え…。」
「桜杏、君も正直になりたまえ。君が海から大陸と攻め込むなどと無謀をしてどれだけの犠牲を出したか…」
「モモ、俺たち同じ海洋国家だろ?同盟国だろ?」
「我々は準同盟国だ」
「なぁ、どうなんだい?」
「はっきりさせてもらおうか、桜杏」

「ええと…、私はドイツ国のニコラス・J・スパイクマンの著書『平和の地政学ーアメリカ世界戦略の原点』を推します。時代はエア・パワーですとも」

「はぁ〜〜!!?」
「…ジーザス」


●世間知らずの高枕(20210627?_20220319)

「じょ、ジョニー・デップもオニワン・ケノービもスティーブン・スピルバーグもティム・バートンもビートルズもジョン・レノンもクイーンもマイケル・ジャクソンもトム・クルーズもジョアン・K・ローリングも知らないだって!?」
「す、すみません…世間や国際事情に疎いもので…」
「ジーザス…。世界は広いな、ロイ…俺達の常識の通じない人間がまだこの世に残っているとは…」
「なんてこったい…、アンビリーバボーだよ。信じられるかい、21世紀にもなってスター・ウォーズもハリー・ポッターも知らないって言うんだぜ…?これまで何を楽しみに生きてたの?そして生きてて何が楽しいんだい?」
「…まさか、桜杏はまだ世紀末を生きていて、1999年を永遠にループするif世界やパラレルワールドの住民じゃないだろうな…」
「いや…、きっとまだ俺達は世界のなんたるかを知らなかったんだ…。地球の反対側には俺たちの知らない文化と常識が眠っている。ハリウッドもディズニーもピクサーも届かない秘境の地がまだこの世にあると言う事なんだ。俺の国は世界一の映画大国である事に胡座をかいて、そう言う潜在的ニーズや見えない現地の声を無視して、ビックなビジネスチャンスを見逃していたんだ…。改めてハリウッドの映画と撮影技術が全く通用しない界隈があると知ったよ…。俺は自国ばかり見て驕り高ぶっていたと言う事なのか…?」
「そんなことはなかろう。日本人は右倣えな国民性で、流されやすく、流行に目ざとい民族だ。桜杏が極端に世間知らずなだけと私は思うがね。いずれにせよ、ベトナム戦争であれだけ騒がれたからこそ世界的に広まったのがロックであり、大衆音楽である故に"ポップス"なのだ。それを、その歳でジョン・レノンもビートルズも知らないとは…。私の国の文化はまだ現役だと思っていたのだが、日本人はロックもポップもフォークも興味がないのかな。まさかブルースやジャズの類も知らない訳ではないだろうね。…いや、流行好きの日本人の事だ、きっと君以外の日本人の多くはミーハーなんだろうが。まさか君は天然記念物や生きた化石か何かで、田舎の寂れた美術館にでも長く飾られていたのかね」
「もしかしたら、モモは君んとこの"件の魔法学校"に行って、クラス分けでスリザリンになったばっかりに、例の"アレ"を手にして"あのアレ"に出くわしたばっかりに、そのソレと一緒にずっと"秘密の部屋"に幽閉されてたんじゃないのかい…」
「いや、むしろお前のとこで"未知との遭遇"をしたばかりに、宇宙人に"キャトルミューティレーション"を処され、頭部に"アンテナ"を埋め込まれ、脳みそを"プディング"にされた挙句にぐちゃぐちゃに改造されたんじゃないのか…」
「もしかして、今日本で流行ってる『イセカイテンセイ』ってやつじゃないかな。大した能力も知識もないのに異世界で無双するようなチープな内容を見すぎて、頭がついに壊れちゃったんだ」
「それとも、桜杏の実家は公共電波が届いていないのではないかね。聞けば、日本にはそういった"電話線と吊り橋の縄を切っただけで"退路の絶たれる、"殺人にはうってつけのクローズド・サークル"な僻地の田舎があるのを聞いたことがある。かく言う私もこの目で見た……、アニメで」
「なんだよ。結局アニメ見てるんじゃないか」
「シャーロキアンが主人公のアニメと聞いて見てみれば、話の途中からFBIやらCIAの構成員が登場して、その内殺人ドタバタラブコメディに内容が変わったので試聴を取りやめた」
「ああ!あれも中々ギリギリChopで面白いよね。まぁ、FBIはアメリカ嫌いの兄貴にはちょっときつかったかな。でも、あれって最近はもうミステリーじゃなくて超次元サッカーとカラテが融合する、なんちゃって推理劇場のラブコメアクションアニメじゃないの?今に至ってはアニメで初代ガンダムをやってる始末だぜ」
「おや、題字は"Case closed"もしくは"Detective Conan"ではないのかね」
「ええと、そのう……。中の人ネタなんて、海外の方にも通じるのでしょうか…」
「中の人」
「えっ…。あ、いえ…別に、あの…。中に誰もいませんよ…、はい…」
「あのさ…。そのネタ、それこそ今の子なんて誰も知らないんじゃないのかい…」
「nice boat…」
「Fucking Mak〇to.」
「…何のことかは知らんが、そもそも昨今の"あれ"は最早推理物ではなく、恋愛がメインのラブコメディだ。殺人事件のスリルを肴にカップルがイチャイチャする傍ら、調査と称して現場に仕組まれたショッキングなアトラクションを楽しみつつ、おまけとばかりにサスペンスを装った犯人当てゲームをするだけのラブロマンスアニメだ。もう著者も幼馴染とのラブコメを描きたくて仕方がないのだろう。むしろ主人公を取り巻く設定が足枷になっているぐらいだ。――であるからして、日本メディアはシンイチ・クドウをベイカ町の死神から解放し、Mr.アオヤマに好きな漫画を描かせてやれ。そしてSoccerではなく"Football"だ、田舎育ちのヤンキー君。たしかに日本は遠いアジアの島国だ。だが、それにしても世間知らずにも程があるだろう。情報規制の激しいアカ組の中国人ですら、優にアメリカ監督の名前を言えるんじゃないのか」
「言えてるね。例えば生活圏が砂漠やツンドラや密林で、ロマニーや遊牧民・エスキモーとかイヌイットみたいに、そこに土着した習慣や文化と宗教観に基づいて、自然と共生した生き方をしているとか、インフラ設備もなく文化圏や常識も全く違うなら俺も理解できる。ただ日本には公共電波もあれば電話やネットも通じていて、今や米国の属こ…げふん、同盟国だぞ。それなのに、ハリウッド映画も有名監督すら知らないなんて……モグリにも程があるだろ?!」
「まさか、誘拐幽閉拉致監禁…?例の北の……いや、これは少々桜杏にはブラックジョークが過ぎるな…」
「もしかして、日本人は一億総プチブルなんて自称してたけど、それはただのデマカセで、俺の国みたいに貧富の差が酷くて、スラム化するストリートアベニューよろしく、ジェネラルモーターズの弱体化で自動車産業もろともゴム工場が廃れてように、町中が失業者で溢れかえるようなディストピア、アンドロイド警察が跋扈する『開けろ!デトロイト市警だ!』という有様で、モモの家はよっぽど貧しいんじゃないのかな。今月の家賃や保険料すら碌に払えてないんじゃないのかい」
「いや、ここまで物を知らないとなると健忘症や事件性が疑わしい。もしかしたら何か重大な国際テロ事件やYAKUZAな暴力事件に巻き込まれ、そのショックで一時的に記憶を失ったのかもしれないな」
「オーマイゴッド!モモ、今何年何月何日何曜日かわかるかい?俺の名前は?アメリカの独立記念日は?初代大統領は?アポロ11号が月面着陸したのはいつ?アメリカの首都はいえる?ニューヨーク…なんてくだらないジョーク言ったら流石に俺はキレるよ。後ニューヨークとニュージャージーは全然違うから一緒にしちゃダメだぞ。ニュージャージーはアジアの留学生やビジネスマンの日本人も多いし、NJとNYは日本で言うところの埼玉と東京の関係だからそこの所よろしく!後これ俺のプロフィールだから仕事とパーティ以外の時間なら年中無休TELオッケーだから何かあったらいつでも俺に連絡しt…」
「――ちなみに、私の国ではロンドン以外にもマンチェスター、エディンバラ、ケンブリッジも有名であるからして、首都ついでに覚えておくといい。シェフィールドは岐阜とゾーリンゲンに並ぶ世界三大刃物都市で、ユナイテッド・キングダムに属するのは、あくまでアイルランドの北部だけだからな。加えてオックスフォード大学には日本人留学生も偶に来るぞ。そしてグレートブリテンと言えば羊毛、バーバリー、トレンチコートなどミラノ・パリ・ニューヨークにも劣らないファッションの歴史があるからな、手始めに君の全身を英国風にコーディネートしてやる。クソ…、こんな時に限って名刺がない。これが私の番号だ、24時間営業する酔狂な輩とは違うが夜なら大方在宅しているもし会話が難しいようならPENPALになっても構わない気負わず連絡するように」
「はあ…その…ありがとう…ございます…?」
「モモ、俺たちはいつでも君の力になるよ」
「無理をして日本に拘る必要もない。居づらければいつでも私を訪ねるといい」

「……私、そんなにまずい事言ったのかな…」

(了)


自国の歴史を知ったミカエル「俺の国…全然紳士じゃない…」(俺は誰に対しても紳士でいよう…)

[2]風刺集②

●本初子午線と日付変更線(20210728-20210803)
※まだ国際事情や国際関係や史実について調べ途中のプロットであり、間違いや誤字脱字も多く、フィクションやジョーク色の強い内容である為、内容を鵜呑みせずに間違いがある場合は適宜修正して読んでいただけれると助かります。また間違いを見つけ次第適宜修正致します。当方の知識不足の為ご迷惑をおかけします。

「俺と兄貴と桜杏の関係?一言で例えるなら西の服部東の工藤、そして世界のアメリカ西と東のセコイ島国ってところかな。何せ俺の国は世界の中心のようなものだからね」
「でも確か本初子午線はロンドンにあったような…」
「じゃあ君は日付変更線ギリギリにある極東のちっこい島国だね」
「所謂『この世界の片隅に』っていう事なのでしょうか。日本は世界的に見ると目立たない国で、アメリカから見てずっと遠い地味な所にあるんですね…」
「そうさ。なんせ俺のとこの世界地図によれば、太平洋と大西洋のド真ん中にアメリカ大陸がどどんと大きく描かれているからね!それってつまりアメリカが世界の中心ってことだろ?」
「何を寝ぼけた事を言ってるんだね、アメリカン。我が国の世界地図ではきちんとイギリスが中央に描かれて、本初子午線はロンドンのグリニッジ天文台の経度の位置をしっかりと通過している。(そもそも貴様の世界地図では日本は極東というよりもアメリカ大陸の西岸の向こうにポツンと浮かんでいるのではないのかね。ちなみに、英国の世界地図では日本の位置はしっかりと東の隅に描かれているがね。)世界の中心など何処かにあるかは私の知ったことではないが、つまりは世界の基準は女王陛下が臨む我が英国、United Kingdomにあるという事だ。わかるかね、常識知らずのヤンキー君」
「えー、そんな事、君んとこの天文学者のエアリー君が勝手に決めて後から俺たちが従ってるだけだろ?(※エアリー子午線と現在の本初子午線は厳密には異なる)シー・パワーが全盛期だった頃は君んとこが最強だったかどうかは知らないけど、今世界のナンバーワンと言えばThe United States…つまり俺の国Americaということさ!世界常識だぜ」
「何を言っている。1884年に貴様の国が提案した国際子午線会議によってロンドンのグリニッジ天文台を基点にすると決めたんだろう」
「そんなの投票の多数決で決まったからノーカンだよノーカン。俺の国ではちゃんとワシントン子午線って言う基準がその時点で既にあったからね、世界線が違えばきっと今頃世界の標準もアメリカ準拠だっただろうさ」
「それはなんとも面白い冗談だ、君の非常識さ加減にはいつも大いに笑わせてもらっている。君のところは自国の常識の為に他国が築いた由緒ある伝統すらも無視するのかね?天文学といえばリベラル・アーツと呼ばれる学問の一つで、その起源はシュメール・アッカド地方(メソポタミア)に位置するバビロニアの古代オリエント文明の頃に遡り、天球におはす黄道十二宮の神々の神話と共に、月と太陽の暦を数える事から始まった人類史上初の科学的検証の一つであり、天文学とは人類の歴史と共に発展してきた由緒のある学問なのだよ。星の位置と角度から緯度と経度を計測し、航海に際して大いに貢献してきた我がイングランドのグリニッジ天文台だが、長きに渡り天体を観測し緻密な計算によってこの世の理を解き明かし築き上げてきた大陸諸国と我々英国の功績を、たかが数百年の歴史しかない君たちの国の研究が取って代われるというでも言うのかね」
(でも、当時のイギリスの方も大陸や新天地の現地人の方達に対して相当酷な政治政策をしていたんじゃないかしら…。ボストンの茶会事件がそもそも米英戦争の発端でアメリカとの対立を決定づけたような気がしますし…、紅茶もそもそもインドから輸入したものですし…。)
※イギリスとアメリカについて
「冗談?ああそうさ、自由の為に常識を壊して新たな秩序を作り出すのが俺の国の歴史だからね。其の内笑い話にもなるだろうさ。事実俺たちの国は多くのCommunistsと半世紀もの間戦い、軍拡競争を展開して漸く冷戦終結まで漕ぎつけたんだぜ。そして恐れられた鉄のカーテンは消えて、世界の秩序は米国の正義によって築かれつつある(後で書く)、俺たちは自由を尊ぶ米国の誇りに誓って、これからも世界警察として国際社会を先導し『新世界秩序』を構築していくんだからね。最近EUから離脱してヨーロッパを牽引するリーダーの座をドイツに譲り渡した君たちに言われる筋合いもないね」
(でも、プラザ合意の円高ドル安の影響でバブリーな日本人がディスコに明け暮れバカをして、その後のバブル崩壊で日本経済はずっと停滞…、そして008年のサブプライムローン破綻によるリーマンショックの影響で世界経済は大混乱したのではないかしら…。それに英国がEU離脱した当時は米国の政治政策も『America First』だったような…)
「ハッ…!我々は過去の地位と栄光に縋る程愚かではないのでね、成功者と金持ちを持て囃すような君たちヤンキーと違って、我が英国は伝統を重んじ己の歴史を顧みる事の出来る由緒のある国柄であるからして、国際関係においては自益の為に無為に騒ぎ立てをせず、国内の独立運動に際しては紳士的対応をするということだ。実際君たちアメリカ人がベトナムで多くの血を流している間、英国のロックバンド『The Beatles(ビートルズ)』は平和を歌い、ジョン・レノンは『Imagine(イマジン)』を掲げて東西に分たれた人々を一心に支えていた。無論、当時英国はベトナム戦争を支持する立場にあり、反戦を歌うレノンはサタニズムと批判され後に貴様の国の哀れな男の手によって理不尽に射殺された訳だが。『新世界秩序』…その志だけは立派なものだな。では君の言うその新秩序の構想とやらを今ここで一万字レポートにでもまとめて、私に提示して頂けるのかな。年下のモモに未だ『君』付け呼ばわりされている哀れな愚弟クン」
「はん、お歌を歌って平和が実現できるなら軍隊なんてハナから要らないよ。『EARTH BOUND』のエンディングは人類にはまだ早すぎるんじゃないかい?そもそもモモに『そういう認識』すらされていない没落騎士のミカエル卿に何を言われてもどうってことないね。仕える姫君もいない独り身の騎士の落日程滑稽で惨めなものもないと俺は思うけど。『さん』なんて他人行儀されるよりはよっぽどフレンドリーでまともだろ?それに俺の国ではこういう言葉もあるぜ、兄弟。"Old soldiers never die"、…老兵は死なず、ただ消え去るのみってね」
「ほう…、貴様も中々愉快でユニークなジョークを言えたものだな。あまりのおかしさで私の腰に吊り下げた剣も腹を抱えて失笑で打ち震えているようだ。この聖剣は貴様に突き立てる墓標の十字架に手頃だと思うが如何かな、兄弟。貴殿が望むのならば、今からでもお前の為に主に祈りを捧げてやらんでもないがね。貴様の犯した罪の数だけ、祝杯をあげてやろう。磔にされたイエスの肉と流したもうた血が教会(パン)と聖杯になり我々に福音をお与えになった様に、今ここで贖罪すれば寛大なる我が主は貴殿の罪をお許しになるだろう。救われたくば、穢れなき威光の御前(みまえ)に跪き、汝、我を畏れたまえ。哀れな我が友、愚かなる我が隣人よ」
「へぇ…、そりゃいいね。俺も新しいガバメントをそろそろ試し撃ちしようかなと思ってた所だったんだよ。丁度いい実験台が見つかって実に喜ばしいね。銃の性能を確かめつつ、ライミーなクソ兄貴の面目も潰せるだなんて最高だろ?それともいつもの君のオカルトで俺を呪殺してみるかい?人類の叡智が生み出した科学の結晶、機能美溢れるこの銃と、前時代的な呪術思想の悪しき風習が生み落とした悪魔契約の賜物である魔術、神が人類に与え賜うた知恵の恩寵として、果たしてどちらが上で、どちらがホンモノか、今ここで決着をつけてみせようじゃないか。そうだろ?血を分けた我が片割れ、貧しき我が同胞よ」
「…」
「…」
(ズモモモモモモモ…)
「あ、あの…!盛り上がっているところ大変恐縮なのですが、お二人ともこんなところで睨み合ってプチ冷戦を始めないでください…。お二人が争ったら洒落になりませんもの…。お二方の話は心ゆくまで私がうんとお聞き致しますので、どうか双方とも刀を鞘にお納め下さいませ…」
「フン…死に損ないめ、命拾いしたなロイ」
「ちぇー、モモがいると良い所でいつもこうだからなぁ」
「いえ…このままだと一発触発しかねないキューバ危機さながらの大変危険な空気でしたので…。とにかくお二人とも、どうかその物騒なマシンガンと、怪しげな魔導書や剣は懐にしまってください…。そして二者間の緊張を解いてデタントなさって下さいませ…。今ここでお二人が本気で闘ったら、本当に、本当に、洒落になりませんから…、地上一個の消失で済みませんから……」
「はぁ…これだから日本人は困るよ。本当にモモは大袈裟で心配性だなぁ、たかがM3やSMAWの一つや二つで。そんなんじゃ今流行りの『Apex Legends』でFPS訓練しても、この先生きのこれないぜ!」
(趣味でサブマシンガンやロケットランチャーの類を所持してるニューヨークの火薬庫のロイ君に言われたくないです…!)
「…まぁ、我々も本気で喧嘩をしているわけではないのだがね。これは平和の為の議論、大人の話し合いという奴だ、まだ幼い君が口を挟むことではないな、モモ」
「そうそう、これはお互い(の手の内)を良く知るための穏便で公平な話し合いさ。モモ、子供が首を突っ込むもんじゃないね」
「そもそも私は何処ぞの誰と違って別に暴力沙汰や殴り合いの類をしようと言う訳ではない。これはただの兄弟同士のささやかな談笑、世間話という奴だよ。だから君は安心してそこに座って、大人しくウォレス君とグルミットの活躍でも見ていなさい」
(うう…完全に子ども扱いだよ…。それに議論で邪険になると、すぐライトセーバー取り出してチャンバラごっごを始める銀河戦争のロイ君・スカイウォーカーと、徐に本と杖を取り出して危ない呪文を唱え始める魔法学校のセブルス・ミカエル先生が言っても何の説得力もないよう…)
「その…ちなみに、日本の世界地図でも日本が真ん中に描かれていますけど、日本では世界の中心はオーストラリアのウルルということになっています」
「なるほど、それならば私も一度聞いたことがあるな、モモ。オーストラリアの赤き心臓…、地球のヘソとも呼ばれ、英国の探検家ウィリアムによって発見されたとする『エアーズ・ロック』と言えばアボリジナル・オーストラリアンにとって聖地とも呼ばれる場所だが、ジャパニーズ、君の国はその神聖な場所で遺灰を撒く非常識な恋愛映画を撮ったらしいな」
(うう…、またバレてる……)
「あ、それは俺も知ってるぞ。あれだろ?ケモノでもないのにアイを叫ぶやつ。例の福音巨大ロボットアニメにしろ日本人は俺たちの国の文化をアニメや小説でパクr…Ahem!パロディ・オマージュ・リスペクトするのが大好きだからね!お陰様で俺の国でもパワーレンジャーで君の戦隊ヒーローを真似させてもらったし、そういう事もよくあるだろうけどさ。ま、一応土に遺骨を撒くのはアボリジナルの伝統的な埋葬法らしいけどね」
(お二方、どうしてそんなに日本の事情に詳しいの…?)
「その…国際的事情に疎く世間知らずはさることながら、常識知らずで誠に申し訳ありません…。当時、聖地ウルルが日本人観光客で賑わい複雑な思いをしていた先住民の方も多くいらしゃったそうで…、私の国は良くも悪くもミーハーな方々が多いので、観光には目がないのです…。比較的マナーは良い方だと思うのですが、もう少し現地の文化や信仰をお勉強する必要がありますね…。(※現在、2019年をもってウルルは恒久的に登山禁止になっている)ただ実際の撮影地はウルルではなくキングスキャニオンだったそうです。。それに作品自体は感動的なんですよ…、当時は主題歌と一緒に日本中で話題になりましたから…」
「ちなみに俺の国では、『君』を描く時は『瞳』を閉じるんじゃなくて、『君』を見つめて『瞳』に『乾杯』するものなんだぞ。まぁ乾杯云々は君んとこの意訳だけどね」
「まぁ、『Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)』と宣う何処かの国の歌はともかく…。ついでに言うならば、『助けて下さい』と泣き叫び感傷に浸る暇があったら直ぐに救急車を呼べばいいのではないかな、ジャパニーズ。ケンヒライの主題歌で呑気に場を温めている場合ではないと私は思うがね」
「あの…その…そこが映画の一番の泣き所で一番有名な場面ですし、原作は恋愛小説ですから、あくまで闘病する恋人との恋愛と悲恋のロマンスがメインであって、細かな理屈よりもムードが大事なんです…、お二方とも古くから映画製作に携わってきたお国の人ですから、辛口になるお気持ちはよくわかりますが、どうか映画批評はお手柔らかにお願いします…」
「…兄貴、話題に困ったらそうやってモモをチクチク詰るの悪趣味だぞ、いくらジェントルの皮が剥げてモモに掛ける言葉が見つからないからって」
「いや、私は淡々と意見を述べているだけで別に彼女を詰っているつもりはないんだが…。そもそも常にジャイアン姿勢でモモを弄る貴様に言われる筋合いもない」
「お二人とも根が真面目で母国を誇りに思うディスカッションが盛んな国の方ですから、議論になると我を忘れて白熱してしまうのですね…」
「俺のところでは議論は教育の一環だからね、意見が対立した時は、多少ヒートアップするのは已むを得ないかな。まぁ兄貴の場合、遠回しにネチネチbanterを言って楽しんでいる節もあると思うけどね。そうやって気になる女の子の反応を確かめつつ相手の情報を集めて嫌味で気を引く童貞ボウヤのスクールボー…いでで!」
「…おや、どうしたのかなアメリカン。顔が右に曲がっているぞ。そもそも貴様がつまらないマウントを仕掛けなければモモもここまで萎縮しなかったのではないのかね」
「兄貴、困ると口より先に手が出る癖もなんとかした方がいいと思うぞ。ていうか暴力沙汰の類はしないんじゃなかったのかい…」
「ろ、ロイ君、大丈夫ですか。ほっぺたが少し右に伸びてますけど…」
「なに、口元がニヤリと歪んで些か不快だったので、少々頬をつねってやっただけだ。殴り合うなどナンセンスだからな、…当然だ、英国紳士としては」
「兄貴は俺のほっぺに何の恨みがあるんだよ…」
「モモ、君も君だ。君は傍観せずにもう少し自分の考えを相手に共有したほうがいい。前々から感じていた事だが君はずっと黙って人の話を聞くばかりで、話を振られるまで自分の意見を話そうともしない。時折、私は君が何を思い何を考えているのかもわからず、対応に困ることも多い。それではいつまでたっても他者に相手にされず、自分を理解される事もない」
「そうそう。俺たち別に仲が悪いからとか、いつも相手をコテンパンに言い負かす為に口論するわけじゃないんだぜ。そうやって意見をぶつけ合っていくうちに、相手と自分の本質的な違いや、相手の人柄や本音、独自の視点が見えてくると言えばいいのかな。自分では思いもしない事を相手が批判してくれたお陰で新しい価値観に出会えて可能性が広がったり、足らない知識を互いに補完し合っていく過程で話し合いは発展して、自ずと自分たちだけの結論が導かれていくんだぞ。自分の意見が正しいと思うからこそ、時に相手と衝突するのも必至というかさ。所謂ハーバードの『これから「正義」の話をしようか』って奴だね。…まぁ、今回はちょっと議論の趣旨とずれて喧嘩腰になっちゃったけどさ」
(そういえば、誰かが「正義とは、イデオロギーの事だ」と言って皮肉に笑っていたような…、でもそれはいつ聞いたんでしょうか…そんな事、私の記憶にはなかったような…)
「その『正義の話』で有名なマイケル・サンデル教授の「JUSTICE」の命題、『トロッコ問題』にしても、議論は本質的に、予め決まった『正しい解答』ありきのものではない、と言う事だ。放置して5人の犠牲を出すか、それとも、1人を犠牲にして5人を助けるか。学生たちはそれぞれ考えたことを相手に共有し、一体どうすべきなのか、どちらが『正義』なのか互いの意見を争わせて議論を重ねていく。しかし学生たちはそのうち「どちらが正しいとも言えない」という何とも言えない疑問…『正義の矛盾』に気が付くはずだ。数字上では1人を殺せば5人も活かすことができる。しかしもしその1人が医者で、その5人が犯罪者だったら?しかし仮にそうであったとしても命に優先順位をつける事を我々は認めてもいいのか。果たして自分の考える正義は本当に正しかったのか?教授の真の狙いはそこにある。功利主義的解釈か、義務論的解釈か。どんなに尤もらしい理屈をごねても、議論の後に残るのは白とも黒ともつけがたいような居心地の悪さ、そして『命を取捨選択した』という後味の悪さだ。しかし、考えてみれば世の中というのは殆どそういった『トロッコ問題』の連続なのだ。テストの答案のような「正しい解答」のある社会問題などこの世に凡そ存在しない。たとえその当時は最善で最良に思える結論にたどり着いたとしても、情報がアップデートされれば、全くの検討違いの間違いだったというのは、人類の歴史にはよくある事だ。実際に今の国際情勢を考えれば『正義』の本質がわかるだろう。敢えて例に上げれば『パレスチナ問題』などまさにトロッコ問題と同じ構造をしている。私はイギリス人の責務としてパレスチナ問題と向き合い関連するニュースを追っているが、喩え私自身がユダヤ人であっても、アラブ人であったとしても、相手を知れば知るほどに自身の考える正義を主張できなくなる筈だ。正義とは一体なんであるか?正義の底に横たわる深淵とは、教授の語る『正義』とは、正にそこにあるのではないか、…あくまで私個人は、そう思っているがね」
「そう、それはあくまで兄貴視点の解釈でしかないんだよ。俺の場合は『全員を助ける方法』を何としても見つけ出すと思うね。正義はあくまでも万人に公平であるべきだ。なのに、正義の為にマイノリティやマジョリティの誰かが犠牲になるなんて変な話だろ?そういう風にあの『トロッコ問題』は二者択一の問題に見えて、実は無自覚に選択肢や可能性を狭めているかもしれないんだぜ?あの命題の条件を鵜呑みすれば、どうしても1人の命か、5人の命かのどちらかを選択しなきゃいけない様に思える。でも仮に、トロッコ問題が現実で起き得る事だとしたら、その条件はただの先入観で無意識に不自由な選択をしているかもしれないと俺は感じたんだ。それはアメリカの心理学では『エリクソニアン・ダブルバインド』と呼ばれてビジネスにも応用されているんだぞ。そんな風に世の中は狡い事で一杯なのさ。もしかしたら今俺が言った事、兄貴が言った事も、何かの偏見によるもの、バイアスがかかっているのかもしれない。だからこそ、俺たちは考えることをやめてはいけない。常に批判的に物事を捉えて、自分の頭で考えなきゃいけないんだ。俺が「JUSTICE」で学んだことはそういう部分かな。きっとモモも俺たちとはまた違った『正義』を考える筈だぜ。そもそもそんなトロッコ問題こそ、何者かによって仕組まれた茶番か何かで、俺たちはただ殺しの責任を押し付けられただけかもしれないしね。それにもし俺がその場の全員を助けたとして、その全員が悪質な連続殺人犯やテロリストだったとしたら?そんな風に、俺の独善的な正義のせいで、そこで死ぬはずだったシリアルキラーを再び世に放ってしまうかもしれないんだぜ。トロッコ現場の6人を全員救って恰もハッピーエンドになったように見えて、その後のepilogueで彼ら6人の手によって善良な市民が次々と惨殺されてしまったら『正義』は一体どう言い訳するだろうね。もしそんなことになったら俺は正義のヒーローどころか、この世に悪を解放したヴィランになっちゃうかもしれないぞ!」
「本当に人の命は…、人一人が持つ人生の責任って本当に重いんですね…。お二人の話を聞いていて思ったのですが、もし私がその場に居合わせていたら、きっとトロッコ問題の選択をする人物ではなくて、線路の上に立っている内の1人になるのではないかと思ったんです。もし誰かがトロッコのレールを変更して、5人の命の為に私が命を失う立場になったら、私はその人たちを責めないでいられるのでしょうか。それとも犠牲は止むを得ないと言い聞かせて死ぬことになるのでしょうか。逆に私が5人を犠牲に生き残ったとしたら?私はその5人の命の重さに耐える事ができるのだろうかと…。仮に線路を選ぶ側の人間だったとしても、命を選択した責任の重さに耐えかねて、死を選ぶかもしれないと一瞬思ったのです。きっとトロッコ問題で誰かの命を犠牲に生き残ったとしても、事故か何かで死んでしまったり、そのまま自殺するかもしれませんね…。もしかしたら、私の代わりに犠牲になった人はもっと生きたかったかもしれないのに。だから、その『残酷な天使のテーゼ』において、生殺与奪の権を握られた殺される側の人はきっと、いずれの結果を得ても理不尽に思うに違いないと…。人の人生はその人のもので、掛け替えのないただ一人の命なのに、他人でしかない私たちがその価値を決める事はできないと強く思ったのです。何が正義で、何が正しいのか。きっと本当の事は誰にもわからないんですね。もしかしたら人の言う『正義』なんてものは、本当は何処にも存在しないのかもしれませんね…」
「…“They kill us for their sport.”」
「…え?」
「トロッコを動かした人間にとっては、きっと線路の上にいる我々などただの蠅に過ぎないのだろうな」
「蠅…」
「…そのように、議論というのは必ずしも正しい答えを導き出せるとは限らないのだ。わかるかね、モモ。だから君は世の中を疑い、独り考え続けなければならない。今でこそ我々はこうして顔を突き合わせて穏やかに話ができているが、もし戦争か何かの理由で敵同士になった時、私は“信仰”と“愛国心”の為に君の良心や好意を利用する事もあるかもしれないが、君はその時はどうするのかね。それでも我々を友として扱い、隣人を失いたくないと愚かにも手を伸べてしまうのかな。我々はいつ何をきっかけに亀裂が生じて壊れてしまうかもわからない、そういう危うい関係でしかない。だから我々は一生悩み続けなければならないだろう。特に君のような、人が好いだけが取り柄の哀れで気の毒な人間は、喩え自分が死ぬ事になっても我々の身を案じて己の身を差し出すLunaticにでもならないかと、私はいつも気が気ではないのだがね」
「…うーん、そうだなぁ。モモ、俺に言えるのは、幾ら俺たちと仲が良いからって俺たちの意見をそのまま鵜呑みしない方が良いってコトかな。もしかしたら俺たちは知らず知らず互いを利用し合っていて、利害一致するから一緒にいるだけの薄情な関係かもしれないし、兄貴の言うように、親しい相手であっても何かの理由で騙されて裏切られる事だって今後あるかもしれないぞ。だから、モモもあまり人を信用しない方が良いというか、もっと世の中を疑った方が良いというかさ、…要は一人で生きれる様に精神的に自立しなきゃ駄目だって事だぜ。やっぱり俺たち人間はどんなに仲良しの友人がいたとしても本質的に孤独からは逃げられないと言うのかなぁ…、要するにあんまり俺たちの事を買い被ると、後で痛い目に遭うかもしれないぞ!…ま、俺個人としては、また3人揃ってこうして仲良く話ができればそれ以上に嬉しい事もないけどね」
「…」
「…、まぁ何にしても、モモ、君は我々の機嫌を伺うあまり、必要以上に遠慮しているのではないのかね。私から見れば、君はいつも人目を伺い、こうして話をしている時さえ感情を押し殺しているような、むしろ我々に従う事で何かの重圧から逃れようと無意識に依存しているのではないかとさえ感じる事も多い。それ故、私に対して緊張し常に萎縮しているように思えるのだがね。モモ、実際の所はどうなんだね」
「え…?あ…、いえ、その…。私自身はお二方のお話を聞くのは好きですし、別に萎縮している訳ではないのと思うのですが、私はどうも人前で話すのが苦手で、お二人の議論や意見に圧倒されるばかりで、いつ、どのタイミングで話に入って何を話せばいいのか悩んでいるうちに話が終わってしまって、結局うまく考えをまとめる事ができないままの事が多いんです…。果たして自分が話の輪に入っていいのかだとか、私の意見は大した事でもなくて、つまらないのではないかとか…、結果空気を壊してお二人の気分を害してしまうのではないかと…。先程はミカエルさんやロイ君が話している間に考えをまとめられた事や、お二人が話を聞く姿勢でいて辛抱強く待って下さったので、感じた事をそのままお話ししできたと思うのですが、人や環境が変わると、緊張で急に何も言えなくなってしまって…」
「ワーオ…、モモ、それもう控えめとか謙虚通り過ぎて最早病気のレベルだぞ。俺の知り合いで良ければ、心理カウンセラーのセンセイを紹介するけど、どうだい。いっそUFOに攫われてポジティブになるように脳みそをぐちゃぐちゃになるまで改造されたらいいんじゃないかな」
「でも仮にカウンセリングを受けても自分が自分である限りその体質が変わら無い気がして…。私がそう言う性格だからかも知れませんが、自分のネガティブな思考の為にお金を使うのも億劫で、なんだか勿体無い気がして、結局何もしないままなんですよね。それよりゲームや漫画に費やしたほうが元気になれる気がして…」
「…日本人の引っ込み思案と卑屈さもここまで極まると最早哲学や芸術の領域だな…。モモ、君はノイローゼや鬱病か何かかね。たしかに議論では声のでかい人間や理屈を言える強弁な人間が場を支配する事が多い。しかし、過度な後ろ向きを悪いとは言わない、慎重であるあまり何もできないのは私にも幾つか思い当たる節はある、そのネガティブな性格は君の個性である以上は無理に考えを修正する必要もないと私は思うがね。しかし一方で問題の先送りは君たち日本人の悪い癖だ。表向きの体裁を守る為に形だけの話し合いを重ねて、するのは責任の擦り合い。問題を日和見して平行線の態度を取るばかりで、問題の本質を無視して一向に解決しようとする気概もなく、恥辱を恐れ面子に拘るあまり、責任と原因の所在をあやふやにして問題を放置し、挙句に他者を巻き込んで取り返しのつかない所にまで悪化させる。ドイツ人が日本の現場の惨状を視察したならばきっと卒倒する事だろう。君の和を重んじる姿勢は悪いとは言わない、むしろプライドの為に我々が衝突する事もある以上は好ましいと思う時もある。しかし、空気を重んじるにしろ、せめて人の意見に同意賛同するだけでなく、自分の感じ方や考えを大切にして、それを人にわかる形で勇気を持って伝える事、何も考えず静観して思考停止する癖を君は治すべきだな。君にも自己や自我があるだろう。上手くまとめられないにしても、心の内で何かを感じる事はできている筈だ、それを恥じて卑屈に思う必要もない。だから君は人より前にもっと自分の事を大切にしなさい、わかったかな」
「……そ、そうですね…ありがとうございますミカエルさん」
「と言うかモモも少しは自分に自信を持つべきだよ。普段は黙って隅の方にいるけど、話を聞けば俺たちには無い面白い視点を持ってるし、自覚が無いだけで君も立派な考えや意見を持ってるんだからさ。そうやって俺に遠慮して受け身になって人の意見に飲まれるだけじゃなくて、ムッと来た時ぐらい言い返してもいいと俺は思うけどね。じゃないと対等に思われないどころかコイツは何言っても大丈夫だって相手に舐められちゃうぜ。優しいお人好しだけじゃダメだね、悲しい事だけどさ。このグローバル社会、言いたい事も言えないようじゃ世の中でやっていけないぞ。呑気にPOISONなんて言ってる暇(イトマ)もないと思うケド」
「不甲斐ない限りです…でもありがとうございます、ロイ君」
「…まぁ、相手に忖度して空気を読みたがる癖、保守的な姿勢を崩さないあまりに外交関係すらろくに整理できない日本人にこんな事を言ってやるのも酷な気もするがね。ロイ、日本の義務教育、高等教育においてあまり議論は重視されていない。教科書通りの『正しい』解答を知識として”覚える”事を良しとして、教師が生徒に挙手させて問うのは、一つの決まった答えを丸暗記しているかどうかの確認のみだ。日本の学生はテストの答案は埋められても、レポートや論文の類もあまり得意ではない。自分の意見を話すようなディスカッションの授業も凡そ少ない。我々のように自分の意見を述べて議論をする文化がないのだ」
「あー、所謂サラリーマンのなる為のお勉強ってヤツかい?日本人はイエスマンの量産型工業用ロボットになる為にわざわざ高い金を払ってスクールに通っているのかな。そりゃあ、自分意見を言える子も少なくなる訳だね…。俺のところはディスカッションを重ねて、相手の意見を尊重するとか、自分の意見は自分の意見、相手は相手って互いに平行線でいる文化があるから、議論慣れしてるところはあるかな。俺たちのとこではSNSの炎上も日本より少ないしね。」
「聞けば、日本人はそもそもビジネスパーティなどの公的社交場でのドレスアップとその時の立ち振る舞いや社交ダンス、食事のマナーのすら授業で学ぶ事がないそうだな」
「なんだって!?じゃあ日本の子供は一体何処でどうやって上司に『オシャク(お酌)』して、宴会の席で『一発芸』をかましつつ、手をモミモミして『おべっか』使って上司に『お近づき』するのを覚えるんだい?」
「ええと、その…。それは学生の自主性に委ねる、と言いますか。アルバイトの類やお家で会社勤めのサラリーマンのお父さんやお知り合いを通じてなんとなく社会のあれこれを覚えていって、社会に出てから会社の風土を自ずと学びとって、先輩たちに揉まれる事でふわふわと覚えていくような…。所謂ぶっつけ本番の現地取得と言えばいいのでしょうか…。そう言うビジネスシーンやパーティ・祝宴会での社交とマナーに関する教育は、就活生がセミナー等に参加して自主的に学んでいって会社の研修で叩き込まれるものであって、端的に言って日本の教育にはそう言った類のものはありませんね…」
「なんてこったい!嘘だろ…。そんなんじゃ日本の子供は世の中の右も左もわからない上に、社会に出てからもどうやって生きていいか何もわからないじゃないか!コンパスや地図もないのにアマゾンの奥地に一人放り込まれたようなもんだぞ」
「日本の今の教育制度はまだまだ問題が多いということですね…。グローバル化が進んで、国際関係を否応でも考える必要がある今、自分の意見を持つこと、相手の意見と交換して自分の立ち位置を知る事は、今私たちに一番必要なことかもしれませんね…」

(備考欄)

※オーストラリア先住民の持つ言語集団の多様性やアボリジニは差別的な意味が強い為、現在はアボリジナルやアボリジナル・オーストラリアンの呼称が一般的だそうです。

[3]風刺集③

●解釈違い 2021 (20211030-20211110 重大な誤字修正20230329)

◆米国産アニメ『サウスパーク[1]』で日本の皇室(菊タブー)がネタにされていた件について各人の反応。
 ロイがあからさまに目を泳がせて明後日の方を見ている。
「…そういえば、そんなエピソードもありましたね」
「英国で言えば王室と女王陛下を貶されるようなものだ。桜杏、君ももっと口に出して怒りを表明しては如何かな」
「え…、いえ、しかしその、日本人もあまり気にしていないと言いますか。ただ、王室をジョークにする英国人[a]ほど、私の国は皇室に対する表現は甘くはないんです。所謂『菊タブー』と呼ばれるものがありまして、皇室を茶化したりその地位を貶めるような表現は、過去に右翼層から強く批判が寄せられた事をきっかけに、出版社や放送業界では扱いがすごく厳しくなったと聞いています。でも私は特に右に偏ってるわけでも左に寄ってる訳でもないので、いつものサウスパークと思って普通にスルーしてしまいました…」
「ええ…、だって俺の国で言えば、反米運動のセレモニーで見せしめに星条旗が燃やされて、大統領の顔にバッテンのついたプラカードを掲げられる様なもんだろ?普段ブラックジョークでゲラゲラ笑う俺が言うのも難だけどさ。アレ、日本人的には大丈夫なのかい…」
「その…、日本人ではとてもできない菊タブーを諸共せずにネタにするので、流石にびっくりしてしまって…。むしろ製作者側の身を案ずるぐらいだったのですが…。製作者の方は日本文化がお好きだと伺っていましたし、海外では斜に構えたブラックジョークが多いとは聞いていましたので…、そういうものなのか、と。でも、単純に私たち若年層の世代は尊王教育を受けて居る訳ではありませんし、皇室成立の根拠ともなっている日本神話、主に古事記や日本書紀の内容について詳しく義務教育で学ぶ事もありませんから、それも理由にあるかもしれませんね。それに、私たちも私たちで海の向こうの皆様に内緒で、色々と危ない内容をサブカルでネタにしちゃってますから…」
「色々…?例のDoujin表現にあるNyotaikaや同性愛の類のものかね」
「いえ、もっと禁忌的なものです」
「禁忌…?日本で禁忌って言われてもツミとかケガレとか例の兄弟の人体錬成しか出てこないケド」
「ええと、私の国のある特定のオカルトゲームでは、世界的に有名で、何千万という敬虔で忠実な信徒を召抱えて、天にまします大いなる父であらせられて、濫りに名を唱えてはならないと、神聖なる文字でその御名を示し唯一神で候う四文字様…。俗に言う神霊YHVHがボスとして登場して、生身の人間が戦って普通に倒しちゃいますから…」
「ワーオ、俺の国のコズミックホラーとイイトコ勝負なぐらい冒涜的だね。俺の母さんにそんなの見せたら、悲鳴をあげて気絶しちゃうよ!」
「す、すみません…。そうなりますよね普通は…」
「ーーと言いつつ、実は俺も知ってるんだけどね。何せ俺たちに所縁のある神話の神サマや天使と共闘できるってんで興味持ってわざわざ日本で買ってプレイしたんだけどさ。なんで日本人ってやたら神様を世界の支配者や闇の魔王か何かみたいに捉えてラスボスとして倒したがるんだろうね。大天使サタンに導かれてようやく俺たちの神様とご対面したかと思えば、それはただの分霊ボスラッシュで、仕舞いには自分の信ずる我が神を自らの手で倒せっていうんだぜ?主は与え主は奪えども[b-旧約 ヨブ記 1章21節]、このゲームの仕様上、俺が味方の装備を全部剥ぐ事はあってもプログラムのサタン君は俺の身包み一つ剝ぐ事もできないのにさ。[b-旧約 ヨブ記 1章]ATLUS製の我が主は一体何をお試しになっているんだい?そんなこんなで、俺のユダヤ教徒の友達はもう泣いてゲームを投げたよね、……勿論、物理的に壁に」
「ううう、なんて事…。本当に申し訳ない限りです…」
「…まぁ、例の四文字様、巨大な顔のビジュアルがあったおかげで『姿が見える=物理的肉体がある=レベルを上げて物理で殴れば倒せる=アレは偽物=殺してOK』って、後で解釈して自分で納得してたみたいなんだけどね。何せ俺たちの信じる偉大なる父君は『定まった姿がない』[c-出エジプト記 20章4節 偶像崇拝禁止]って言うのが通説だからね。偽物だと分かった途端ノリノリでジェノサイドしてたから良かったんだけどさ。例の堕天使閣下をCOMPで召喚して」
「…あの、それって、ユダヤ教的に大丈夫なのですか…!?」
「うーん…確かに一般的なユダヤ・キリスト教的にアウトなんだけど、まぁ大魔王ルシファーって元はルシフェルって天使だし、蛇同様人間に霊的照明([英]Illumination)[d]を齎し知恵を与えたとかで一部では崇拝されてるからね。例えばイルミナティとかで!」
「あっ…」
「…」
「…」
「…」
「………ゴホン」(ミカエル態とらしい咳払い)
「あ、え、う、…そ、そそそうなのですか!姿なき熱情の神、偶像崇拝禁止[c]にはそう言った背景があるのですね。何処までスタッフの方が狙っていたのか私には分からないのですが、ATLUS様の微妙な采配と禁輸出で海外の皆さんの目に触れないようにしたお陰で、国際問題には至らなかったようです。もし大きいお顔もなく、真っ暗な夜空に瞬く黄道十二宮の星々の中を響く“声だけの存在”でしたら、どれほどの信徒の尊厳を傷つけ、今頃私たちはどうなっていたか…」
「…もしや君の国は、悪魔崇拝でもしているのではあるまいな」
「い、いえ滅相もございません!!…そもそもユダヤ・キリスト教における悪魔は元々異教徒の崇拝するシュメール・アッカドの地母の女神や御神木の神々でウィッカ信仰のソレですしお寿司…」
「……、さっきから兄貴と桜杏は何を示し合わせてるんだい?新しいジョークか何かかな。ま、俺にはさーっぱり、意味わからないケド」
「ほう、そうかね」
「ああ、そうだけど?」
「…」
「…」
「…あの、…」
「……まぁ、主を敬うクリスチャンとしては人々を惑わす堕天使や悪魔は当然忌むべきものであるが、かく言う英国人もオカルトや魔術の類に目がなくてね。日本で起こる心霊現象や、それこそコズミックホラーにある悪霊の家など是非ともお目にかかりたいぐらいだ。まぁ、私は仮にもイングランド国教会の信徒であるから、そのような悪魔的な呪術や出来事とは凡そ無縁である訳だが。しかしそもそも教会における秘蹟や悪魔祓いの根は、古代エジプトのピラミッドや古代ギリシャ・ローマ神殿における秘められた儀式的行為や治療のための呪術的行為、王家を呪いから守護する為の防護術や星の軌道から国の命運を予知する数学技術と占卜行為などに由来するのだ。ましてかつてケルト民族の土着信仰において祭司の立場にあるドルイドは魔術師でもあった。元来、魔術と信仰は因縁が深いのであろうな」
「そうなのですね。流石魔法学校の舞台ともなっているお国だけに、あまりこういった話に抵抗がないのでしょうか。因みに例のゲームは確かにアクマはゲームで使役しますけど、アレは仲魔であって、教義上における人を堕落に導いたり悪さをする反キリスト的な悪魔とはまた違った意味を持っているんですよ。特に日本人は悪魔を崇拝してる訳でも異郷の神と神々を嫌っている訳でもなく、単純に色々な文化や宗教を迎合するうちになんでもありになってしまって、およそ本来の宗教的な意味や教義は形骸化して、文化的な存在に吸収されてしまうのです」
「うーん、でもさ。さっきも言ったけど日本人ってゲームにしろアニメにしろ、サブカルで神様殺すの大好きだよね。君たちのMANGAに出てくるバチカンの神官なんて、当たり前に危険物のオチャカ持ってたり、神の御名においてなんて言って、二刀の剣で十字架を作りつつ、笑顔で破壊工作するようなクールでクレイジーな悪役やおっかない猟犬ばかりだし。ロンギヌスの槍とか磔のイエスを刺してその血潮を受けた聖槍だけど、なんか日本だとアンチATフィールドを展開してリリンをLCLに戻しちゃう謎の武器になってるんだよね。…日本人にとってキリスト教のイメージってあんなにヤバくてサイコで、教会は武器庫か何かで神父は闇の結社に仕える処刑人にでも見えるのかい?」
「えええ!!いえ、そんな、全部が全部そういう訳では無いんですけど…。やっぱりキリスト教は外来宗教としてのニュアンスが強いものですから。まして唯一神を信ずる厳格な教義の宗教ですので、先祖霊を敬い神も仏もましまし怨霊信仰すらある多神教国家の日本では上手く馴染まないのです。なにせ大陸から渡来した仏教も日本に定着して以来どんどん戒律が緩くなって、仕舞いには『南無妙法蓮華経』のお題目を唱えるだけで良い日蓮宗ですとか、挙句『ええじゃないか』と踊念仏が流行る様ですから、単純に私たちは"おめでたい何か"を神輿に乗せて、祀り上げ歌謡と共に踊り狂うような“お祭り騒ぎ“が好きと言いますか、何かと決まり事の多く修練の厳しい信仰は、四海に囲まれ外敵の少ない島国の閉鎖的で自然豊かな土地に暮らす私たち日本人の気質には合わないんでしょうね」
「なるほど。すると日本人にとって、我々の仰ぐ一神教の神とは人々の自由を脅かし世を支配する暗黒の独裁者でしか無いと」
「ええと、…どうなんでしょう。確かに日本の漫画やゲームのサブカルではそういう役回りになりがちですね。どうも私たちには、やまびこ様は人々を呪縛して信心によって人を選別するような理不尽な存在に見えているらしいのです。旧約聖書を見ても熱情の神様は、地上に悪が溢れた事をお嘆きになって洪水を起こしたり天から火を降らせたり、結構な回数に渡って人々をジェノサイドなさっているので…。私たちの宗教観には、四苦八苦などの厭世の要素や人の悪行や煩悩を忌む概念あっても、人類が共通して背負っている原罪の考えがないので、日本人の世界観では聖書にある神様の成す事にあまり共感できなくて、その御心にうまく辿り着けないのかもしれませんね…」

「あー、それね。確かに日本人にはわかんないかもしれないね。俺たちにとっての『自由([英]Liberal)』っていうのはさ、"神の理性([英]Logos)とか自然の摂理([英]Providence)に従う"みたいなニュアンスがあるんだよね。これは宗派によって少し解釈が違ってくるんだけど、基本的に『人の自由意志が誤謬を引き起こし、人は罪を犯す』という考えが俺たちにはあるから。だから神の霊光がもたらした律法で人々を統治して、人々を混沌から正しい方向へ導かん…っていう感じで、俺たちにとっての神サマは罪深き人類を導く"絶対的な善"なんだよ。君もよく聞くだろ?"主よ、どうか迷える子羊を善い方へ導いて下さいますように"…、みたいな童貞様のお祈り」
「あれ…神様に従う事が"自由"なのですか…?」


(1)桜杏のオタクもも知識
サウスパーク(South Park)(1997年-2007年、2007年~現在)

 アメリカのコメディ・セントラルで放映されているブラックコメディアニメ。R-15指定。
 トレイ・パーカー(Trey・Parker)氏、マット・ストーン(Matt・Stone)氏が原作。コロラド州の田舎町サウスパーク(South Park)を舞台にスタン、カイル、エリック、ケニーの4人の子供たちが物語の中心人物。ストップ・モーションで制作されるアニメ。
現在、サウスパーク公式サイトの「South Park Studios Global.」1で動画配信されており、全エピソードを試聴できる。
 言語は英語、スペイン語で英語字幕版のみである為、日本語の字幕/吹替版をお求めの場合は、他の配信サイトやDVDをレンタルするなどして試聴するとよい。現在、日本語の字幕/吹替版の動画配信は殆ど見られない事や、日本語吹替版には幾つか種類がある(らしいので)注意が必要。

 社会を風刺した過激でブラックな内容が多く、サウスパークでは簡単に人が死ぬ。
(そして次回のエピソードでは何の説明もなく復活している。)
 等身の低い可愛らしいキャラクター達とは裏腹に、銃撃にあってグロテスクに登場人物が死亡したり、ゲイなどの同性愛や民族ジョーク、アメリカ政治といった社会問題をも話で扱っており、下品でシニカルで社会の闇を感じさせる内容が多い。所謂セックス&バイオレンスのアメリカン・コメディである。

「ケニーが死んじゃった!」
「この人でなし!」

のやり取りはあまりにも有名。

 過激な下ネタが当たり前に少年の口から飛び出してくる事に加えて、アメリカでセンシティブな話題である戦争問題やテロ事件もジョークにしてしまい、ゲイセックスの様子を赤裸々に画面内に映し、突拍子もなく人が死にそれを平然とジョークにする仕様である為、初見でご試聴の際は日本アニメと笑いの方向性が異なる事や、国家背景と国民性の違いを留意してから試聴する事をお勧めする。

決して家族の前では試聴せず、部屋を明るくしてイヤホンはめて一人でコッソリ見てね。

 又、2人の原案者の内、トレイ・パーカー氏は日本通であり、アニメ内で日本ネタが取り上げられる事も稀によくあるらしい。日米の文化の違いを比較して試聴すると面白いかもしれない。

サウスパークに行こうぜ。

(※wikipediaより一部詳細を参照[2][3])


(補足)

 2021/11/02時点ではAmazonのprime Videoにて『サウスパーク 無修正映画版(2001)』の字幕/吹替版が配信されている。R-15指定である。サウスパースの日本語字幕/吹替版でエピソードを試聴する場合、一番確実なのはTUTAYAのDVDレンタルである。

 例の菊タブーが登場するエピソードは、シーズン3の第10話『Chinpokomon』(ポ×ットモンスターに対する風刺)、シーズン13の第11話『Whale Whores』(捕鯨問題に関する内容)である。
 題名から察するように、例によって過激な風刺や下ネタが多く、当エピソードは日本を題材にした内容である為、菊タブーに触れている段階で嫌な予感がした方は試聴しない方がいいかもしれない。尚、これらのエピソードは日本ではDVD化されておらず、放送もされていないらしい。
 またパチモンでない方のモンスターは「ポケット(pocket)」という単語を枕詞に当てると、アメリカなどの英語圏では何かの卑猥なモノを示すスラングになる為、海外に商業展開する際に名前の変更を余儀なくされたという説がまことしやかに囁かれており、サウスパークの例の回の題名が、何故か日本語でナニを示す『Chinpokomon』である理由も相まって、その真相は定かではない。

 又、菊タブーを扱った作品はアメリカの「ザ・シンプソンズ」の第10シーズン第23エピソードの『Thirty Minutes Over Tokyo(1999/05/16 放送)』(日本バラエティ番組の風刺)でも存在するらしい。[3]
 いずれにしても作中での皇室はジョーク仕様の扱いなので、右寄りの人は試聴はお勧めしない。


※執筆者[当方]より謝罪

 最後に、サウスパークと出会った当時、当方はまだ学生の立場にあったのですが、当方は英語の成績がとりわけ悪く、特にリスニングが大の苦手で英語の意味が頭に入ってきてくれない上に、文法も単語も覚えきれない残念な有様であった為に、友人を経由して触りだけを試聴しただけに過ぎず、サウスパークはまだ全エピソードを試聴して内容を把握しているわけではない為、このSSを書いている当方自身は元ネタを詳細に説明することも、拾う事もできない『にわか勢』である事を告白しておきます。
 上記の備忘録は、wikipediaの「サウスパーク(参照日 2021-11-02.)[2]」をベースに曖昧な記憶を頼りに記述している為、サウスパークに関する内容をAVARONE風刺集SSで扱うには、まだ検証と調査が不十分である事を強く感じており、本当に申し訳ない限りです。
 サウスパークに興味のある方や英語に自信がある方は、是非公式サイトやDVDレンタル等でご視聴してみて下さい。


●遺憾の意 2021(20211030-20211110)

「先の米国アニメの表現にしても、何故日本国民はそういった外交上の問題や自国の名誉と権威を貶めるような辱めを受けても、他国に対し声を上げて抗議しないのかね?」
「え、一応怒ってますけど…」
「え、いつ怒ってるんだい?日本のニュース見てても全然わかんないけど」
「ですから、内閣府などが全国放送で『遺憾の意』を表明したりですね…」
「“イカンノイ”…?イカの新しい寿司ネタか何かかい」
「いえ、誠に残念な気持ちでいっぱいで相手に失意を感じていると言った気持ちを丁寧な言葉遣いで言ったらそうなります」
「外交上で怒りを示す際も、わざわざ丁寧に言い換えるのかね君たちの民族は。国が怒りの頂点に達しているにも関わらず」
「はい…すごく怒っているのに、丁寧語の敬語を使います。『遺憾の意』は外交上において相手国に対する日本国側の反発や怒りを表明する最大限の表現なのです」
「ふーん…、それで?」
「え…?」
「え!いや、その…それで、日本にイカンノイを使われると俺たちは一体どうなるんだい?」
「えっ…」
「…」
「ええと…すごく怒ってることが相手国によく伝わると思います…」
「…」
「…」
「…」
(ミカエルさん、いつになく濃い溜息を吐いておられるような…)
「…えっと、これ、俺が言っていいかどうかわからないけどさ」
「はい…」
「それで、俺の国は一体どうなるって言うんだい」
「え」
「君たちが怒ってるのはよく分かったけどさ。それで君の国は具体的に何をするの?例えば俺の国に経済制裁を加えるとか言って、米国からの物品の輸入を規制するとか、伝家の宝刀『日銀砲』で為替レートに干渉して米ドルの価値を是正するとか、投資家と結託して『NYダウ平均』を引き下げるとか、米国に都合の悪い国と関係を強化するとか、自衛隊の鉄飛行機や艦隊をアメリカの領空や領海に飛ばして威圧して両国間の緊張を高めるとかさ。対外政策で色々できる事がある訳だろ?」
「ええ」
「君たちがイカンノイを発動して、俺の国に何の脅威があるって言うんだい」
「確かに言われてみれば、そうですね…」
「…本当に怒ってるだけなのかい、君たちがしてる事って」
「はい…、ただ怒ってるだけです」
「…」
「…あの」
「…それって、もう別に何の意味もないよね」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…………うう…」
「…ごめん、泣かないでモモ。でも俺、一応これでもアメリカの軍人だから…」
「…、おそらく記者会見などの報道上においては日本国の表向きの政治的主張を話しつつ、その裏で外交官や内閣府の役人と霞が関の官僚が各国の高官やインテリジェンスと政治交渉や密談をして今後の世界的な政治の動向を秘密裏に決めて共謀し、世間には『表面的な政治方針と外交上における友好・対立関係』を演出しているのだろう。二枚舌の政治家連中のよくやる事だ。昨今の政治は国際化に伴いより高度で複雑な外交戦略と経済政策が要求され、国益を守る以上に諸外国との連携と謀略が求められるからな。ニュースの報道など所詮ただの政治的パフォーマンスだ。我々市民は為政者の掌の上で踊らされているに過ぎないのだよ」
「その…、『踊る阿呆に見る阿呆』なお祭り好きの日本人としては、踊れと言われれば『同じ阿呆なら踊りゃなそんそん』で神輿担いで夜通しディスコしますけど。何も知らない一般市民を情報戦と心理戦が交錯する政治家同士のリアル人狼に巻き込まないでくださいよう…。例によって、私は踊らされた阿呆でしたけど…」
「そもそも二枚舌と権謀術数って、君んとこの常套手段じゃないか、嘘と情報操作と騙し合いなんてお国柄っていうか、むしろ兄貴の十八番だろ?」
「口を慎むんだな、ロイ。圧倒的物量と世界有数の軍事力経済力で周囲を黙らせ自国の主張を押し通し反対意見をも握り潰す国力お化けの俺様国家のメリケンが誰に物を申しているのかね」
「ん?何のことかぜんぜーんよくわかんないケド、やっぱり他国と交渉するならこれぐらいやらないと!」
統計(軍事力データ、経済力データ、GDP推移、軍隊の派遣先、同盟関係、賃金の推移、世界で影響力のある企業一覧etc)
「物騒な統計データを背中に抱えて無言で圧力をかけないでくださいよ…」
「ここまで来ると最早悪質な脅しと恫喝だな」
「ミカエルさんのお国もEU脱退以来国際関係で目立った動きは控えてますからね。最近気になる事といえば、英国準拠の新しい安全保障の秩序を構築する為にインド・太平洋周辺の同盟関係が強化されているぐらいでしょうか」
「フン…、我々は何処かの国と違って、わざわざ表舞台で目立とうなどと、周囲を騒がせ各国のヘイトを稼ぐような事はしない。我が国の世界に対する影響力は何も、統計上に記録されるような目に見えるものだけに限らないからな。ブレグジット([英]Brexit)以降、着実に且つ隠密に六大陸・三大洋において我が国の経済的、軍事的勢力圏を拡大し、グローバル・ブリテンを極秘に展開している。桜杏。君たちも英国の同盟国ならば我々の機嫌を損ねないよう精々気をつける事だな」
「…あの、ZEELEの進める人類補完計画の一部なのか、グランド・ロッジの大いなるシナリオの一つなのかは知りませんが、英国連邦とその同盟国の勢力範囲を示す恐ろしげな地政学地図と怪しげなプロビデンスの目を背中に背負ったまま、こちらを睨まないでください…」
「さて、どうしたのかな桜杏。私と目を合わせるのはそんなにも恐ろしいのかね」
「…『戦争は人の顔をしていない』」
「フン、たわいないものだな。半世紀足らずでここまで思想も哲学も、学識すら弱体化するとは…。まして日本国の信ずる“神々“が何かも知らず、“仏”が何処から来たのかもわからない癖、呑気にクリスマスを祝い平然と教会と寺院で冠婚葬祭をしている。碌な国際常識も教養もない癖、我々に自己紹介しようものなら自身が『何者か』も語れぬ始末だ。実に御し易く、こちらとしては大いに助かるよ日本人。まさに占領国とGHQによる“平和的”戦後教育の賜物だな、ロイ」
「うーん、そもそも俺の国の軍隊がオキナワや本土に駐留してる時点で、日本が米国に強気に出れる筈なんてなかったね」
「まして君の国は冷戦期から米国のトルーマン・ドクトリンの反共政策で連携し、日本の与党政権は米国のCIA(中央情報局)やCSIS(戦略国際問題研究所)と因縁があるからして、同盟関係にある米国に自衛隊で威嚇しろなどと無茶振りもいいところだ」
「いやまぁ、俺としてはちょうどいい位置に飼い犬ができてよかったよ。な!“主人の命令に忠実な同盟国”のモモ・イエスマン君!」
「俗に言う、”コンゴトモ ヨロシク…“、という所だろうな兄弟。違うかね、“薔薇と友愛に理解ある盟友国”のNOの言えない鬼月桜杏」
「うぐう…」
「ま、これからも“仲良く”しようって事だぜモモ。お互い長生きできると良いね」
「そう。命が惜しければ英米を出し抜こうなどと考えない事だな、桜杏。利口で物分かりが良い君ならば、言わずとも分かるね、我々の言う事が何を意味するのか」
「……ええ、然るべく、私はあなた方の仰る事はよくわかりません。……人が好いだけの平和ボケした私には、あなた方のお考えは、とても理解できそうにないです…」
「それでいい、それが賢明だ」
「君みたいな愚者って見ててしんどいよね、立ち回りがピエロだから」
「……私は殿方の言う、経済制裁や武力行使などのハードパワーによる防衛外交は、一生をかけたとしても、きっと理解できないのでしょうね…」


●相続権(20211026-20211028)
「人の言動には必ず理にそぐわない詭弁と誤謬がある。人の為す法律に抜け穴がある以上、世の中には赤の他人の資産を合法的に強奪する方法が存在する訳だが。して、見ず知らずの人間の資産を奪う為に、人がどう言った手段を取るのか、桜杏、君にはわかるかね」
「え。そ、そんな事今のご時世にできるのでしょうか…」
「簡単な事だ。婚約して子を作ればいい」
「えっ…」
「家系に入り配偶者との間に子ができれば、血の繋がらない他人同士であったとしても、相手の死亡時にその資産を受ける事ができる。たとえそれが側室や妾の庶子で戸籍上に記録されない存在であっても、父親の認知さえあれば子供は遺産の配当を受ける事ができるのだ。そう、目当ての資産は配偶者の自分ではなく、子が相続するのだよ。相手の形成した富と財産、例えば夫の経営する会社の資産と権益は妻ではなく夫の長男である息子が相続する。すると赤の他人でしかない筈の人間の資産を自分の子供を介して合法的に奪う事ができる。配偶者である夫の嫡子、その一親等の後見人である実母という立場をとってね」
「そ、そんな…だって相手の方がお亡くなりになっているのに…そんな…酷い事…あんまりです」
「子供は生まれる家系によって違う意味を持つ。農家の家に生まれれば百姓と農奴となり、サラリーマン家庭に生まれれば雇われ労働者となり、資産家の家に生まれれば彼らは皆父親の嫡子、嫡男となり、家系の持つ権益と家督を正統に相続する後継者候補の一人となる。由緒ある貴族や華族にとっての婚姻と子種とは、自分の持つ土地・不動産などの資産、財産、法人の権益の全てを2世3世と続く自らの血族で治め代々世襲する為の継承システムに過ぎないのだ」
「でも…、そんな事の為に婚約するだなんて、親御様や子供が可哀想です。何より旦那様や奥方様は、愛があると信じて一緒になったのに…、それなのに…それが相手の遺産が目当てだなんて…」
「金融保険不動産のFIRE産業が儲かるのと一緒だ。生命保険、損害保険。生損保は人命や物産・不動産の保証を賭けて儲ける事のできる唯一の商売だ。人は自ずと死に、災害はいずれ起きるものだ。それこそ天なる父が人間に与え賜うた呪いと誓約である故に、まして罪人アダムの系譜が我々人類と言うのであれば、纏まった金が手に入ると聞いて、それをビジネスにしない愚者はいるまい」
「能動的に人を殺してお金を得ようとする人がいるという事なのですか…。でも…そんなの…それこそ人の法が許すわけがないのです。その為の司法と公安なのに…、相手を殺してまで資産を得ようだなんて、それが合法なんて…そんなの…」
「そもそも氏族とはそういうものだ」
「氏族…?」
「その為に神は我々に律法を授けた。人は不完全故に罪を犯し悪を為す。自由意志に誤つ余地があるならば、それを正すのが律法であり、故に法律は定められた。まして善行による救済を否定するプロテスタントの長老派なれば、尚の事、聖書にある一句一字も見落とさずその理解と解釈に勤しみ信仰に励むであろう」


●初デート ミカ桜杏編(20210918-20211103)
 ミカエルとの初デート。
 桜杏を喜ばせようと思って宝石店やアクセサリー店、小物店などの所謂『光り物』の店に桜杏を連れて欲しいものを選ばせようとするミカエルだが、桜杏の反応は張り付けたような「いつもの」上辺だけのジャパニーズスマイルを浮かべるだけで掴みどころのない引け腰の態度。
 そこでミカエルは少し別件で用ができたので君は好きなところを自由に回って1時間後に合流しよう、という提案して桜杏と別れてから暫くした後、桜杏の行動を追跡して偵察して見たところ、桜杏が人目を気にした様にそそくさとした態度で入っていくのは書店のマンガコーナーやアニメイトのキャラグッズや如何わしい同人誌コーナー、そしてゲーム店などのオタク向けコンテンツばかり。さっきのアクセサリー店の様子と打って変わって生き生きとした様子で商品棚を眺めて漫画の表紙やゲームソフトのパッケージに目の色を変えて瞳を輝かせているので、ミカエルは複雑そうな顔で湿った息をついて、桜杏の背後から肩をポンと叩く。
 何の気無しに振り返り自分と目が合った瞬間蒼白な顔を浮かべた桜杏。
 その後のミカエルとのデートは桜杏の趣向に合わせて書店やゲーム店になったが、「それで、君の目当ての“推し”とやらはどれなんだね。声に出して言ってみなさい」と皮肉っぽく言う。桜杏は罪悪感の滲んだ惨めで恥ずかしそうな顔で控えめに指を指すので、内心してやったりと思うミカエル。そうやって本音をいつまでも隠して素面を私に晒さないからだと嫌味を思いつつ桜杏の一喜一憂の反応を楽しんでいるミカエル。


●初陣 コミケット(20210918-20211103)
 ANINEやMANGAという日本の“上辺”のコンテンツだけではなく、『本場のDeepなオタカルチャー』を知りたいと息巻いて豪語するロイと、本心を伺わせないポーカーフェイスで「私も興味がある」と物を言わせぬプレッシャーを放つミカエル。それなら、と両手を合わせた桜杏の提案でコミケへ一般参加することになったロイとミカエル。

 桜杏が待ち合わせ場所で彼ら兄弟を待っていたところ、右手の方から何やら全身黒ずくめの騎兵連隊(ザ・ブルーズ・アンド・ロイヤルズ)の恰好をして外套を靡かせて優雅に歩く上品な男がこちらに歩いてくる。どう見てもミカエルと顔が瓜二つだが、アニメやゲームに現を抜かす陰気なオタクの祭典であるコミケット会場にそんな場違いな聖属性の騎士みたいな風格の男が来るはずがないので、桜杏は見なかった振りをして目を合わせない様に下を向いて棒立ちしていると、淡い期待を裏切ってその男は桜杏に紳士的な低い声で話をかけてくる。
 やはり、というべきかそのミカエルの顔をした気品のある英国軍人の男はミカエル本人だった。
 何故そんなロイヤルな高級軍人の恰好をしているのか、と尋ねれば、これはコミケ用のコスプレだという。なんでもコミケットでは男女揃って派手で奇抜なコスプレをするらしいという事だったので、自分の故郷にちなんで由緒ある英国軍人のコスプレをした、というミカエルだが、どう見ても本職の人間にしか見えない。違うそうじゃない、コスプレと言ってもメイドや執事とかの「一般人用のコスプレ」の類ではなく、強いて言えば英国をアピールするならば魔法学校のスネイプ先生のコスプレが正しいと思う桜杏。曰く、途中写真を一緒に撮りたがる婦人が何人か近寄ってくるので丁重に断りを入れつつ振り切るのが大変だった、と苦い顔で愚痴を零すミカエルだが、こんなところにそんな気位の高そうなエリート軍人がいたらそりゃそうなるよ…と呆れ顔の桜杏。

 すると今度は左手の方からこれまたミリタリー服を身にまとったキャプテン・アメリカ姿の黒人の男が威風堂々とした威厳ある歩みでこちらに向かって歩いてくる。その男の顔はまるでロイの顔と瓜二つなのだが、BL好きの腐女子と美少女趣味の百合オタクが集う怪しいオタクの祭典であるコミケット会場に、そんな場違いな正義の味方のアメコミ軍人みたいな風格の男が来るはずがないので、それは見間違いということにして、顔を合わせないようにミカエルの影に隠れた桜杏だが、淡い期待を裏切って「待ち合わせには5分前に来るとスクールで習わなかったのか、ロイ」とミカエルがその男に向けて軽口を叩く。
 よもや、というべきかロイの顔をした恰幅の良い米国軍人の男はロイ本人だった。
 なぜそんなマーベル主人公みたいな軍人の恰好をしているのか、と尋ねれば、これはコミケ用のコスプレだという。なんでもコミケットでは男女揃ってウケ狙いで豪華なコスプレをするらしいという事だったので、自分の出身国にちなんで米国ヒーローのコスプレをした、というロイだが、どう見ても本職の人間にしか見えない。一応オタク用のコスプレという意味ではミカエルよりも趣旨に沿ってはいるが、ハリウッド並みのリアリティで衣装を作るところが日本人オタクと感覚がズレている。曰く、途中日本の警官や警備員とすれ違うたびに敬礼をされるので「日本の警察は観光客へのサービスやノリがいいね!」とHAHAHAと景気良く笑ったロイだが、こんなところでそんな勲章一杯つけた英雄的な軍人がいたらそりゃそうなるよ…と渋い顔の桜杏。

 すると今度は軍人にしか見えない兄弟二人が口を揃えて桜杏に向かって尋ねる。
「君は一体何のコスプレをしているんだね(だい?)」
半ば引き気味の兄弟に対して桜杏は、よくぞ聞いてくれました、とばかりにキラキラとした瞳で答える。

「これは日本を象徴する文化的戦闘服、『自宅警備隊宅外派遣 N.E.E.T』[12]のコスプレなのです!」

 まるで色気の欠片もない微塵の肌の露出も許さない軍隊風の鉄壁重装に、君はコスプレというものを全然わかってない!と言いたげな不満顔の兄弟だった。

「でもお二方とも良く私だとわかりましたね、結構な武装をしてて遠目ではわからないと思ったのですが…」
「いや、生憎と女性でそんな奇妙な格好をする奇人は君以外に思いつかないのでね。どこぞの名探偵じゃなくてもすぐわかる」
「右に同じ。そこでそういう格好をする変人は君一人で十分だよ。ホントに君って空気読めないよね。日本人の癖に」

(了)


(2)桜杏のオタクもも知識
自宅警備隊宅外派遣 N.E.E.T(2011年~)

 2011年のC80の夏のコミケットにおける『自宅警備隊 N.E.E.T.』のコスプレ写真がネットで広まった事を契機に、本格的な活動が開始されたという。[12]

 NEET(ニート)と言えば、世間一般では「就職活動や働く意志のない不定無職」の事を指す。就職氷河期と呼ばれる就職難や不景気などの時代背景から働ける年齢にも関わらず会社に就職できず、親の収入や年金を頼って生活し自宅に引き籠っている中年の無職の存在が社会問題としてメディアに取り上げた事をきっかけに、広く認知されるようになった。近年はスラング化しており、広い世代の引きこもりの無職を指す。
 ネット上において、特に匿名掲示板やSNSを拠り所にする孤独を抱えたユーザーにとっては「NEET」は無関係な問題でもなく、相手が引き篭もり無職と分かるや否や「働けニート」「働けおっさん」と茶化すようなやり取りが掲示板でよく見られるが、実際は対応する自身もニートであったり、健康上の問題や会社側の都合などで退職を余儀なくされたり、辞職し転職の真っ最中である者も少なくなく、定職に就いている者であっても『明日は我が身』といった切羽詰まった心情を伺わせ、相手の隙を見て自語りと愚痴を漏らすような事はこの界隈では珍しい事ではない。匿名者同士で互いの生活状況を探り合い、弱みを見つけては小馬鹿にし合う会話の応酬には、相手を辱めようとする気構えを見せつつも、何処か人間不信や社会への不安を隠しきれないような、人生の詫び錆びと哀愁に似たものを感じられ、相手への中傷をそのまま自分に言い聞かせているかのような自虐めいた空気を持つのが特徴である。(と思う…。)

 その様に、NEETはネットにおいても軽んじられる事の多い存在であったが、働く事ができず社会に貢献できないというマイナスイメージの強いNEETを、警察機動隊を思わせるような本格的な作りの黒い武装服を身に包む事によって『NEET』は「自宅警備員」の異名に相応しいシリアスな戦闘員のイメージを獲得することに成功した。白い無機質なゴシック体で印字された『自宅警備隊宅外派遣』の背中のゼッケンは、控えめに言っても写真映えのよく、後ろ姿でポーズを決めた姿は正に、現在タイムリーでもある在宅勤務の警備員とも言うべきスタイリッシュさであった。

 NEET(ニート)を「自宅警備員」と格好良く言い換えるネットスラングは既に存在していたが(wikiによれば2007年前後にネットで確認)、そのスラングを元に2010年~2011年のコミケットで一人(?)の有志が『自宅警備隊 N.E.E.T』の装備衣装(コスプレ)を披露した事でネットで拡散し(恐らくtwitterやまとめ記事サイトだったと思う)、自宅警備員のネットミームに一つのコスプレ像が出来上がり、そのクオリティにインスパイアされた人々が集結して活動組織を結成し、『自宅警備隊作戦本部』より部隊をイベント会場に宅外派遣し、平和的活動をするに至っている。

 詳しくは『自宅警備隊N.E.E.T 公式サイト』[12]で閲覧できる。
(リンク先や自宅警備隊で活動する方への迷惑にならぬようによろしくお願いします)


(補足)

 尚、自宅警備隊の隊員としてネット上で活動する為には、公式サイトから入隊申請[13]をして自宅警備隊作戦本部からメンバーとして承認される必要があり、入隊には隊員規則を守り一次審査や二次審査を通過する必要がある為、自宅警備隊N.E.E.Tの装備衣装(コスプレ)での宅外活動を希望する場合は、入隊申請をして部隊の構成員としての責任力と高いモラルを維持しつつ、コミケット主催者側と参加者の迷惑にならないように注意する事が求められる。又、原則として装備衣装は本部やイベント主催者の許可のない場所で装備する事は禁止であり、自宅警備隊を利用した利益活動は禁止である。詳細は公式サイトの入隊申請の頁を閲覧して欲しい。

 又、これはコミケットに限った話ではないが、ネットで出会った人とオフ会を通じて実際に会う場合は、詐欺、盗難などの犯罪や事件に巻き込まれない様に注意するようにして頂きたく思う。サークル参加やコスプレなどコミケット会場で活動する際は、先人の知恵を借りつつ、脱水症状や手荷物や貴重品の盗難に注意し、怪しい人についていかないようにされたし。特に性犯罪や傷害・詐欺事件に巻き込まれた際は警察に通報し、信用できる身近な人に相談することを心がけたい。


※執筆者[当方]より謝罪

 当方は残念ながらコミケットには参加したことがありません。地元の小さな同人誌即売会のイベントにはサークル参加をした事がありますが、噂のコミケットの洗礼は受けた事がないので、ネット記事やtwitter参加者の声を読んだ上で一般論をまとめただけの、コミケエアプになっています。
 当方は、同人用の原稿自体は描いたことがあります。コピー本と寄稿用の原稿です。なので同人製作に関しては少しだけ"オタクの生の声"を入れる事ができています。

 その為AVARONEで取り上げられるコミケットの話は全て空想でしかなく、知ったかぶりの内容になっています。エアプである癖まるで自分で体験したかのようにオタクに関する創作や解説を書くことは『オタク』の美学に反する望ましくない行為であり、また実際に参加している当事者の方の体感やコミケットの実体とかけ離れている可能性があり失礼にもなってしまう事が懸念でした。それでも『オタク』の話を書く上でコミケット回は外すことができませんでした。せめてここにコミケットエアプである事を告白したいと思います。
 先からがっかりする裏事情ばかりが露出していき、本当に申し訳ない上に、先行きが不安です。

[4]風刺集④

【1】AVARONE旅行記①(20210927_20220225)

イタリア編 ローマの休日

「神サマを敬う気持ちと女の子を愛する気持ちって共存できるモノだと思うんだよね。だってオレたちみんな創造主([伊]Creatore/[英]The Creator)がお造りになった素晴らしい芸術品…、つまり被造物([伊]Creatura/[英]Creature)だからさ。だからオレは、仕事にデートに神サマにお祈り、ぜーんぶ両立する為に日夜忙しいってワケさ。ついでに趣味でSiesta(シエスタ)と料理と芸術も嗜むから尚更毎日が充実してるってコト!」


●イタリア国家憲兵 カラビニエリの男(20210927_20220225)

 いつもの三人組でローマを旅行中、カラビニエリをまとう国家憲兵のイタリア人と出くわした桜杏御一行。
 その男は女性がいると見るや兄弟の間を割って入って、桜杏の前に颯爽と跪いて一輪の薔薇を手向けるが、桜杏の顔と服装を交互に見やってじっと全身を視線でなぞって暫く、先からおどおどして戸惑う桜杏と、微妙な顔で冷ややかに様子を見つめる兄弟を他所に、深刻な眼差しで首を傾げつつ桜杏の腕の位置や顔の向きや角度をいじってああでもない、こうでもないと桜杏のポージングを決めかねている。最後桜杏の両手に薔薇を持たせた後、適度な距離を取って膝をつき、両指で作った四角い窓の向こうを片目でじっと睨んで、被写体でも見る様に呆然と立ち尽くす桜杏の比率を確認しているようだったが、徐に立ち上がり眉間を寄せて悩んだような仕草で顎を触って、考えあぐねた挙句に沈黙する三人の所に歩み寄り、先程出会ったばかりの桜杏に対して明らかに興を削いだ様な醒めた表情をしてイタリアの男は重い口を開くのだった。

「…ごめんね、いくら地味でイケてない感じのキミでも可愛い花が手元にあれば、多少マシになるかなって思ったんだけど、薔薇の美しさが際立つだけでかえってダメだったね…」
「あう…」
「きっとキミみたいな、いかにも部屋の隅で一日中本と楽しくお喋りしてるような根暗ちゃんでも、可愛いって思う男はこの世の何処かにいるかもしれないよ。だって世界は広いから!だから元気を出して、簡単に人生を諦めちゃダメだよ」
「ううう…何故、私は励まされているのでしょう…」
「桜杏、捨てる神がいれば拾う神もいると言う事だろう。意外な所に君を想う人間はいるかもしれない。あまり気を落とさない様に」
「そうだぞモモ!世の中にはきっと君の事を見てるヤツが必ず側にいる筈さ!きっと!君の!ごく身近な所に!」
「本当に、何故、私は慰められているのですか…?何ゆえ、お二人は哀れむような目で、私を見ているのですか……?そして何故、心なしか嬉しそうな声色なのですか…」

「それにオレ、そんな手当たり次第女の子に声をかけるような軽い男じゃないしね」
「へー、意外に硬派なんだな。イタリア人の癖に!てっきり女の子相手なら見境ないって思ってたケド」
「やだな。オレが優しくするのは子供にご老人に小動物、それに花や女の子だけだよ」
「フーンそれはなんていうか愉快だね」
「……あの、それはどういう…」
「えーと、別に君が女の子として相手にされてないって意味じゃないと思うぞ!多分」
「もうそれ…ほぼほぼ答え言っていますよう…」
「キミの場合、ゲテモノ好きで有名な何処か遠くの島国の黒魔術で人を呪ってるような怪しい紳士にでも拾われれば良いんじゃないかな、案外幸せになれるかもよ」
「えぎゃあ!」
「桜杏、何をしているんだね君は」
「…」
「桜杏が壁にめり込んでしまった」
「なんてこったい、この人でなし!フジョシはガラスのように繊細な心を持った生き物で、地雷を踏んだだけで簡単に死んじゃうんだぞ!」
「…ん?地雷って普通踏んだら死ぬものじゃないの。え、何。そんなマズイ事オレしちゃったの。えーと…、またオレなんかやっちゃった?」
「ううう…こんなの…こんなの私の思うイタリアーノじゃないのです…」
(壁に顔をめり込ませたままリボンで喋ってる)
「余程精神的に来た様だな」


●口説き文句

「ーーそんな時!イタリア男の前に颯爽と現れたのは、道行く謎の絶世の美女!」
「…ああ!待って、道行くそこのお嬢さん!キミ、これを落として行かなかった?この薔薇なんだけど、キミみたいな艶やかな人にぴったりだから、きっとキミの落とし物じゃないかと思ったんだけど…、え、違うって?なら、それはオレからの贈り物って事でいいかな。キミに相応しい色をしたオレのRose([伊]ピンク)・Rose一輪、どうか受け取ってくれるよね?」
「うわ…コイツ。マジでやりやがったぞ!」
「なんてSweety…!流石ラテンの愛の戦士、イタリア人!ローマを行く美しい女性たちと恋の駆け引きをしてきた歴戦の勇者。甘い、甘過ぎます。甘すぎて、口から砂が出てきそうな勢いです…」
「そんな毛虫でも噛んだ様な歯の浮く悍ましい戯言、私には口にするのも憚られる。いっそ口から反吐がでそうだ」
「ふー、やれやれ。だからキミらはいつまで経ってもダメなんだよ。可愛いオンナノコがいたらまずご挨拶しないと、そもそもお知り合いにすらなれないからね。そこはフラれる前提で気楽にお声がけするものなのさ。そしたら相手も警戒しないしね。とかくデートのお誘いに大切なのはお喋りと沈黙の駆け引きだよ。相手のオンナノコを楽しませる事を第一に、オレ自身はもっと楽しまなくちゃ!じゃないと、相手のオンナノコも不安で顔が曇っちゃうから。Amoreをお迎えする時は花を愛でる時の様に優しく繊細に扱わなきゃね」
「…だってよ兄貴、もうここで初カノでも作れば?」
「ならば、お前がやってみるといい。結果は目に見えて悲惨だ。むしろ、あの気障ったらしい口説きで靡く淑女など、気の利いたジョークも言えない私の様な堅物ではとてもお相手できかねる事だろう、潔く辞退させてもらおう」
「逃げたな兄貴…。と言うかどの口がそれを言うんだろうね、口を開けば女の子にbanterばかり叩く陰険なヤツがさ」
「フン…、あの様な初対面のやり取りで逢引きが成立する時点で、私とは相容れない、というだけの話だが。それとも、君は違うとでも言うのかね」
「うーん、なんていうか、もう世界観がMade in Italyと言うか、ルネサンス発祥のフィレンツェというか、いっそ恋と冒険のロマンスみたいな…。俺はどっちかっていとミラノ・トリノ・ジェノバの三角工場地帯のつなぎを着た煤男っていうかね。兎に角俺のトコとは住む世界が違うね…。俺、もうニューヨークのあのジャンキーな空気が恋しくなってきたよ…」
「イタリアーノとは…ナポネーゼとは……うう……解釈が…」

「男はどうしてもプライドが邪魔して、オンナノコに声をかける時、緊張してその子一人相手にマジになっちゃうからね。『振られたくない、断らないで欲しい』みたいなのはすぐに女の子に伝わっちゃって、その重い態度が余計に女の子を怖がらせてそのまま逃げられちゃうってワケなんだよ。か弱い乙女が見ず知らずの男なんかに最初から心開くワケないんだからさ。だから天気の話でも振るみたいに気さくに話しかけるのがポイントだね。振られてもご縁がなかっただけで、オレの運命は次の女の子に向いているんだ!ぐらいに思っておかないと。いちいち傷ついてたら、運命の女神はオレに微笑んではくれないよ!ーーと言うわけで、Ciao!そこのBellaなお嬢さん。オレとお茶でもしながら、この薔薇の美しさについて語り合って、そのままオレと真剣にルネサンス美術の話をしようよ!」
『グラーチェ、憲兵さん!手元で咲いた淡いピンク色が素敵ね。でも私、美術といえばロココの時代の頃の方が好きなの。憲兵さんがロココの絵画や建築について話せる様になったら、また声をかけてね。…Addio, Belloな憲兵さん!』
「わお!それはとんだ失礼を。ロココのお嬢さん、今の男に飽きて気が変わったその時は、ルネサンスなオレの元を尋ねてくれよ、A presto!素敵なバンビちゃん!」
「あれ…?でも確かアディオって、永遠の別れの意味だったような…」
(シッ、聞こえる声で言っちゃダメだぞ!)
「…まぁ今回もダメだったけど、人生色々あるってコトで、オレ的にはNon conta!ってヤツかな。運命(Destino)じゃなかったんだろうさ」
「あの…、運命の話は傍に置いておいても、多分憲兵さんが女性に相手にされなかったのは、その左頬にくっきり残る真っ赤な平手の跡のせいかと思うのですが…」
「ああ、これ?これはこの前のトレヴィの戦いの時に負った傷でね。およそ勝ち目のない負け戦みたいな厳しい戦いだったけど、まぁこれは膝小僧についた絆創膏みたいな感じで、謂わば男の子の勲章みたいなものだから」※トレビアの戦い(B.C 218年)を捩っている
「トレヴィと言うと、ローマにあるトレヴィの泉の事かしら…?デート先で恋人の方と喧嘩でもなさったのでしょうか…」
「やだな、オレみたいな幼気でやんちゃなBambinoにとってはこんなの名誉の負傷に過ぎないよ。オレ的には戦士の誇りであってホンモノの男の証さ。だって次は本当の運命の子がオレを待っているんだからね!」
「あの…、結局、その人には振られちゃったんですね…」
「なんだかローマ戦士の血を引くと名高いカラビニエリ騎兵のメッキが剥げてボロが出始めてきたぞ!」
「実に興味深い。私はこのまま我関せずと静観し、哀れな男の行く宛を見届けるとしよう」
「相変わらず悪趣味なヤツ…」
「この花、もう要らなくなっちゃったな。仕方ないからこの薔薇は君にあげるよ。葬式に手向ける花にでも使って勝手に処分して」
「余り物みたいな感覚で可哀想な薔薇を渡さないでください…」
「結構な事だ。桜杏、それは私が後で処分しておいてやろう、火薬の燃料にはなりそうだからな」
(何を燃やす気なんだろう…)


●Bambino

「もう、男の子という年齢でもない様な気が致しますが…」
「男はいつだってやんちゃ坊主で悪戯な少年が心に住んでいるものなのさ、そして可愛いアモーレの前では月のでない夜もコワイ人狼に変身しちゃうんだよ!」
「それだと、スイス製の銀の懐中時計を腰に吊るのは少し不味いのではないのでしょうか…」
「そもそも神に仕える僕(しもべ)である我々クリスチャンに人狼の友達などいない」
「オレたちのDio(神)だって可愛い女の子を前にしたらきっと同じことを思うだろうさ。手作りのパンと美味しいピッツァを食べながら可愛い女の子と過ごせるなら、オレは悪魔に魂を売ったとSig.ユダにチクられて十字架に磔にされたって良いね。だってオレ、処刑されても後で身体が復活するように主に忠誠を誓って敬虔に生きてるからね」
「なんだかサラッととんでもない事を口走ったぞコイツ!」
「だってオレは神サマを信じてるから、とりあえず地獄に落ちる事はないかなって。最悪煉獄を生きるくらいかな。好きな女の子と一緒なら何処に行っても天国だと思うけどね」
「イタリア国家憲兵あるまじき発言ですね…。女性に目がないイタリア人らしい、と言えばらしいのでしょうか。キリスト教の総本山、バチカン市国が臨むローマの都、厳格な信徒の方が多いと思っていたのですが。カトリック色の強いイタリアであっても、こういった考えの方もいるのですね」
「要は、パスカルの『パンセ』にあるキリスト教弁証論、……“神を信じるか?”の賭けの話だな、神がいようといまいと信る者は傷付く事はない。なんとも実利的なヤツだ」
「信じる者は救われる、ですか。意外に信心と言うのは合理的な所もあるのですね」


●ローマ教会

「うう…イタリアの方はイケメンなんです…喩え女性に対して積極的であってもそれはあくまでも女の子が居たら優しくしないといけないと言うラテン人の民族性と男の義務感からくるのであって、古代ローマの戦将の血を引きつつも気は弱く戦いが苦手で、手が早くとも心は綺麗で、下心…まして性欲なんてこれっぽっちもなく透明で無垢な存在のなのです…だからこんな事言う筈がないのです……、解釈違いです…地雷…いっそ着火型ボムです…だからきっとこれは夢、出来の悪い夢小説なのです……早く、早く悪い夢から醒めないと…、早く本物のラテンイケメンに…チェ、チェンジ…チェンジです……」
「…何を言っているのかわからないけど、大丈夫?オレ一応、ボローニャ生まれでフィレンツェ育ちの生粋のイタリア人なんだけどね。この子、具合が悪いなら病院に行ったほうがいいと思うけど。…えっと、『病院』っていうか『教会』?」
「確かに何かに取り憑かれているには違いないがね、生憎とこれは教会で治せる類のものではない」
「……え、私…教会に行くのですか……?教会って……一体何を蘇生させる気なのですか……」
「え、教会って葬儀をするところだろ?」
「……え、そうなんですか……?てっきり私、教会は毒や麻痺のバッドステータスを治療して、死者を蘇生する所かと…」
「桜杏、君は一体何の話をしているのかね」
「ええと、ドラクエの話ですけど…」
「やっぱり、この子、少し病気なんじゃないのかな……、主に、頭の方の」
「いや、彼女は心の方を患っているのだ。この世にありもしない違う次元の存在の為に、日々を諸活動に捧げ、人に自分の解釈を布教をしては空想に浸り、自分の尊ぶ存在の為ならば献身的かつ従順である事も辞さず、有り金を躊躇いなく布施する事も厭わぬ清貧さ。現世の事を顧みずそればかりにうつつを抜かすので、凡そ異性交友の経験もない喪…純潔の乙女であり、その貞操は保たれたままだ。それ故、時に碌でもないパラノイアに陥る。いっそ恋の病であれば、どんなに楽であったか」
「へぇ、意外に信心深い子なんだね。グラッチェ!ジャポネーゼのお嬢さん。君はジェズ([伊]Gesù)が恋人ってワケだね。神サマはきっと君の善行を見てくれてるよ。君の行く先々に神の御加護がありますように!」
「ああ、そうであればどれ程良かっただろうな」
「…あの…、何か語弊と行き違いがある様な気が…」
「その方が色々めんどくさくないからそれで良いんじゃないのかい?もう801教左右固定派のオタク信徒の腐女シスターという事で!数理体系と掛け算、その解釈に異様に拘るところとか、アブラハム教やエジプト神話からカバラ思想まで、色々共通するトコあるし。とりあえずキリスト教の所で言う333の王冠を示すエンジェルナンバーとかと関連づけて、801は腐女神ナンバーとか、801を逆から読むと108になって仏教の百八煩悩と関連するとか、108は神秘的な数字で、違う読み方をすると人の名前になる隠語とか、漢字に当てると百夜(びゃくや)と書いて100の夜や104(ももよ)とも読めて天使の記号が浮かび上がるとか、アニミズム信仰を背景にしていて日本神道の八百万(800)神が起源にあるとか、テキトーにデッチあげればソレっぽくなると思うぞ!」
「うう…それだと本当に宗教性を帯びてしまって、オタクと腐女子文化がどんどん世間から誤解されて一般人から敬遠されてしまいますよぅ……」


(メモ)

美術に授業で神秘的で写実的な女性にエロティックと官能性とそれ以上に神聖な気持ちを感じるイタリア国家憲兵の男(グラビアやAVよりも云々…)
女神信仰の古代ローマの古典美術とカトリック
絵画と建築の神秘性→神聖→ステンドグラスの光の向こうに神を見る
女の子の美しさ→神秘性→信仰化
イエズス→子イエスと母マリア→マンマ
尊敬したり感動する気持ちは同じ
だから美を追求する
美術的な比率正しさ(黄金比)美しさを追求するあまりに時にルッキズムに陥ってしまうのが自己嫌悪
古典美術もキリスト美術にも美術館で感動した
ルネサンス芸術での女性や人間の美しさも宗教画の美しさに感動する気持ち(神を感じた気持ち)は同じ
美味しいものを食べたときの感動も
難しい教義はオレはよくわからないけどそういう感性(美的感覚)を磨くのもきっと被造物をお作りになった神サマを理解するのに繋がる気がする
オレのみてる世界はジャポネーゼとは違うけどそれは別に神サマがいないという訳でもasiaticoが神サマを感じてない訳ではなくて、きっとキミたちが感動してる時とオレのこれは同じ感覚なんだと思うんだ
オレが美しい美術品や景色に神サマを見てる時、キミたちは同じ景色を見てもきっとオレと違う事を感じていて、キミの中にはもしかしたら神サマはいないかもしれない。オレの気持ちを全部共有できないのは寂しいけど、でもきっと感動する気持ちの源は同じと思うんだ
それをオレは神サマと思うし、キミたちは景色の美しさそのものや生命力だと思うだろうし、もしかするとその中にある霊的なものや神秘的なものを無意識に感じているのかもしれない
でももしかしたらこのオレたちの間にあるズレも美術や芸術作品としてこの世に創り出せれば相手と自分の感覚を上手く共有できるかもしれないんだ
あの時美術館で見たローマ・ギリシャの古典復興の女神アプロディーテを描いたヴィーナス誕生の絵画と聖母マリアとイエス様の象徴的な宗教画、それらは別々の神話を元にした絵画だけど、その絵を見た時の感動は本質的には同じものなんじゃないかって。それは可愛い女の子を見た時に感じた鳥肌が立つような神秘的な感じとか、幸運な巡り合わせがあった時太陽がオレに微笑んだみたいな、そんな運命的な気持ちと似てる気がするんだ
だからオレ、オレ自身や神サマを知る為にも、聖書の中の世界だけじゃなくて美しい美術品や建築なんかの芸術作品を見て感動したり、美味しいパスタやピッツァを食べたり、昼寝したり、そして可愛い女の子と楽しく過ごしたりして、美とか理想とかそういうのを追究したいんだよね。
もちろんあんまり見かけばかりとらわれても美の本質は見えてこないし、どうしてもオレ美術的に正しい比率とかそういうのを意識しすぎて平均とのズレが自然と見えちゃうから時々人を傷つけるけど、
だからちゃんとオレ自身のそういう悪いとことも向き合って芸術と料理とかをお勉強しつつ、教会でお祈りしたり歌を歌ったりしながら、神サマを感じる時のあの気持ち…美しいものを見た時、美味しいものを食べた時の感動(は何か)を求めて、マリア様やマンマみたいな運命の女の子と一緒にオレだけの人生を楽しみたいな
キミたちみたいな理屈っぽい人達にはロマンス(Romanza/ロマン派?)がすぎるかもしれないけどね

古典ラテン←→ロマン(俗ラテン/口語ラテン)

「そういう風に何かと古い伝統とか文化とか信仰とか、由緒のある歴史と芸術がオレたちの誇りだから、たまにオレのお友達がキミたちの国のパスタやピッツァの進化系(あり方/生態系)にケチつけるかもしれないけど、そういうお国柄と思って多めに見てくれると嬉しいよ!」


【2】宗教信者とオタクの精神構造に関して
●不文法(20211021-20220225)

「俺んとこのボストンにあるユニテリアン・ユニヴァーサリズム(UU)は、決められたドグマ(教義)も特にないから、カルヴァニズムとかの説をとれば商売や蓄財をしても良いって事なんだぞ。まぁ、マサチューセッツもコネチカットも、兄貴んとこの開拓民の子孫が多いせいか元々ピューリタン色が強い土地なんだケド」
「ユニテリアンか…、主なるイエスの神性とその根拠である三位一体の教理を否定する様な宗派だったな。私に言わせてみれば、とんだ解釈違いだ」
「へーナルホドね、そう言う使い方があるワケ。日本の連中って俺たちをこんな感覚で見てるのかい。じゃあ俺も使ってみようかな。その学説は解釈違いとか、兄貴と桜杏が一緒にいたり、兄貴の存在そのものが俺にとっての地雷源に等しい、とかね!」
「ほう、貴様はそんなにも早く神の御許に還りたいと言うのかね。実に敬虔な事だ。死に急ぐと言うのであれば葬儀屋の知り合いなら直ぐにでも紹介できるが、いかがかな、哀れな子羊クン」
「勿論そんなの絶対お断りだぞ!」
「ええと…。私たちの言う解釈違いというのは、あくまでこう…そこまで重たい感じではないと言いますか。あくまで、『801』も『オタク』も文化の範囲であって、宗教とはまた違うと思うのです。確かに腐女子の嗜む"やおい文化"にはCP表記のルールがありますし、ジャンル毎に『検索避け』や『隠語』を推奨するなどのローカルルールの様なものはあります。でもそれは法的な特質は持たず、活動者の感受性やモラルなどの範疇にあって、厳密に教義や信条が定められているわけでもなければ、聖典が成立してる訳でも、同人誌の中に説教や訓戒が書かれている訳でも、カップリングの相手の決め方に決まりがある訳でもなく、801を起こした始祖の様な方がいて宣教した訳でもないので、やはりあくまで文化の一形態やジャンルの一つなのでしょうね。801とゲイは実際には違うものですが、歴史上においても同性愛やホモ・セクシャルの存在はずっと過去に遡ってあった様ですし、同性愛の作品の起源も古代ギリシャの神話以前にあったかも、素人の私にはよくわかりません…。きっと、人の間でいつのまにか芽生えた自然発生的なもの…、まさに“萌え”の様なものでしょうね」
「でも、もしそれを誰かがまとめて宗教法人化したら、実際に宗教になっちゃうのかい?」
「えっ…」
「まぁ、法的手続きを踏んで日本の法務省が受理すれば机上においては可能であろうな。我々からすればとんでもない話だが、日本ではあり得ない話ではない。もし801なるものが法人化して現実に宗教になった暁には、世のクリスチャンというクリスチャンからサタニズムの一種として総攻撃され、最悪イルミナティの手先と看做され、挙句の果てにバチカン宮殿とローマ教皇庁を敵に回し、世界的な宗教戦争をするハメになるだろうがな」
「多分俺んとこのホワイトハウスやペンタゴン的にもアウトかもしれないぞ」
「英国の王室議会としても、国教会と軍事同盟の関係からおそらく敵対するだろうな」
「えっ…えっ…いえ…その…私たちはそんな恐ろしい事、これっぽっちも考えた事もありませんが…」
「というのも、俺の国の上の世代のクリスチャン。今連邦や州の自治体、大企業で管理職をやってる上役はね、割と真面目に神サマを信じてサタニズムには厳しい人が多いから、そもそも日本の同人的なアレには免疫がない人も多いって言うか…。まぁ単純に俺の国のシンクタンクとかアカデミックの研究者とか、財政界・軍事界隈のエリートの大抵が“敬虔“なクリスチャンだったり“勤勉”なヘブライ思想の会員なんだよね、不思議なことに」
「同性愛を嗜みふしだらな表現を扱う801信徒は、キリスト教では男女に創造された神の意思や自然の摂理に反する悪魔崇拝者として、いかがわしく猥らな姦淫や人を呪う呪術行為を誘発するような堕落した存在になってしまうだろうな」
「いえ…、そんな滅相もない!私たちは悪魔崇拝者でもなければ、別に現実で人様の性事情に口出ししたり押し付ける様なそんな酷い事は…。私達はアブラハム宗教の方々を決して悪く思っている訳でもなく、むしろ創作ネタとして…、いえ、こんな事言うともっと怒られてしまいますね…。
その…腐女子は国なき民…と言いますか…。普段は一般人として暮らしつつ、水面下で密かに同志と集まってお祭りをする様な感じで…。あくまでオタクは亜流系…、謂わば文化人の亜種であって、その中でも特に二次創作活動をするの腐女子はアングラ文化の賜物であって、地下に潜伏するのがデフォルトですので……。最近では一次創作の商業BLなどジャンルが露出して存在こそ明らかにされてはいますが、そんな風に人様に迷惑をかけたり、世間に自己主張する様な大それた政治活動をすることは絶対にありえませんので…」
「まるでいつかの時代のカタコンベ、中世における何処ぞの魔女の集会だな、するとコミケットはサバトの一種か何かかね」
「いえ…、決してそんな怪しくいけない感じの悪魔崇拝の類ではないのです。あ……いえ、確かにオタクは怪しいと言いますか、いけない感じの同人誌の内容も多いのは確かですが、コミケットは同人誌即売会のイベントであって、むしろ祭りというか祭典みたいな感じなんです…、中には真面目な海外の食レポやマニアックな軍事知識を売りにするサークルもありますし……。でもやっぱり、世間様や人様に大声で言えるものではないのは確かですね……、大抵はその、いかがわしい3Lの同人誌ですしおすし…」
「美少女にレズとホモ祭り?ワーオ!それはとっても愉快だね、クレイジーすぎて頭がグチャグチャになって、信心がイマドキの俺でも流石に卒倒しちゃうよ…」
「”撫子“と”百合“と”薔薇“……、花に言い換えれば多少我々の目を誤魔化せそうではあるがね、肝心の中身がアレでは話にならんな」
「そのう…色々誤解がありそうなのですが…もしかすると文化と宗教の境界って…私たち日本人が思うよりも、曖昧なのかもしれませんね…」


●衣替え(20211021_20220225)

「桜杏、君はいつもそんな格好で暑くはないのかね。見ると君はいつも桜色の着物に紅色の袴を着て、よくよく考えれてみれば毎日同じ服装な気がしなくもないな。日本の家庭では、着物というのは何着も同じ種類のものがあって、それを着回しするのが普通なのかね。偶には”趣“とやらを変えてみるのもいいと思うが、違うのかな」
「そうだよ。着物ってたくさん重ね着してて着るのも大変そうだし、偶には薄着をしたり、オフの時ぐらい俺たちみたいにジーパンにシャツなんてテキトーな格好でも大丈夫だと思うケド。ヤマトの民族はそれもダメなのかい?そう言うの確か十二単衣なんていうんだろ」
「ええと、十二単衣は平安時代の日本の…、西洋史で言うところの古代から中世の間に成立した公家の正装で、昔の頃の宮廷におはす雅な方々の衣装であって、現代の私たち庶民は袷(あわせ)や単衣(ひとえ)のお着物が主流で、そこまで重ね着することは無いんですよ。あと、私がこうして同じ服を着ているのは、正装とはまた違った理由があるからなのです」
「ほう、それは何だと言うのかね」
「ええと、ファッションと言って毎日律儀にハイカラな召し物に着替えていると、その度にキャラクターデザインの方がキャラクターの設定資料を描き起こして、会議室で許可をもらってから、現場のアニメーターや漫画の作画担当の方に迅速に共有しないといけないんです。急な上の変更にも臨機応変に対応できる柔軟な組織で、且つ伝達の仕組みも効率化されていなければ、キャラクターの衣装替えや安易なキャラデザの変更などは作画する方の負担になるだけで、下手をすれば現場の不満に繋がり士気を下げてしまうのです。ですから、私たちのような主人公格のレギュラーキャラクターは、会社の経済コスト(人件費)的な意味でも作画コスト的な意味でも負担が少なくなる様になるべく同じ格好をしているのです。ましてお着物なんて作画工程が多く、着るのも描くのも塗るのも処理が大変ですから…」
「ええ…、じゃあ俺たちがいつも同じ服を着て大抵軍服でいるのも、君が明治大正時代でもないこの現代で、なぜかそんな古風な日本伝統みたいな格好をしているのも、趣味とかじゃなくて時代に合わせてキャラデザを起こす余裕がないってコトなのかい?」
「その…、お二人の場合は軍服や正装の方が女性人気が上がるのもありますけど…。ふんわり言ってそんな感じなのでしょうか…、絵を描く現場は会議室が思うよりも大変なのです…。京都アニメーションの『涼宮ハルヒの憂鬱』『エンドレスエイト』の様に1話ごとに服装が違うだなんて、そんな危ない冒険は中々できませんから…。レギュラー人5名のキャラデザを1話ごとに起こしているだなんてそんな…」
「オーマイゴッホ!芸術って中々大変だね」
「日本人は国際常識はない癖、国内では無駄に空気を読んで妙な所で気遣いするとは聞いていたが、それは気遣いを通り過ぎて美意識や自意識過剰の類なのではないかね。我々英国人も空気を重んじる姿勢はあるがそんな製作者側のメタ視線まで考慮するような酔狂な国民性ではない」
「本当、めんどくさい生き物なんだね日本の人って」
「恐縮です…」
「もしかして俺のとこの『夢の国のネズミ君(Mr.ウォルト)』とか、ハリウッドとかの映画会社、マーベル社もそんなんだったりするのかい?今度、個人的に調べてみようかな」
「うう……、私の余計な一言で、何だか話が変な方向に…」
「全く、そんな裏事情で我々の服装まで軍服やスーツに固定されるとは、正気の沙汰ではないな」
「誠に申し訳ない限りです…」
「まさかそれはいつもの建前で、君は貧乏家庭で服を買い換える余裕もない訳ではないだろうな」
「う」
「…」
「………あ、ここで顔に出してはいけないのに…また私は……」
「えー…、モモ。そんな古典的な罠に引っかかるなんて、お約束が過ぎるぞ。何処かの国の伝統芸能じゃないんだから」
「……フン、やはりな。表向き尤もらしい事を言って本音は別の所にある、日本人流のミスディレクション、というわけだ」
「ええと…前振りのない急な鎌掛けは、その…良くないと思います」
「ハァ…気遣いもここまでくるとかえって疲れて窮屈だよ、少しぐらいラフにならなきゃ。もしかしたら、もっと自分に素直になって欲しいと思う誰かが直ぐ近くにいるかもしれないぜ」
「珍しく反対する理由もない。過剰な思いやりはただの思い上がりに過ぎず、独りよがりで人を苛立たせるだけだと、よく自分の胸に言い聞かせておきなさい」
「本当にすみません…」
「ーーと、憎まれ口を言いつつ、内心めちゃくちゃモモの事が気掛かりで勝手に脳内で盛り上がった挙句杞憂に終わるが兄貴だから、あんまり気にしちゃダメだぞ、コイツただのツンデレだから」
「ーーと、人に悪態をついて、内心では桜杏がいつまで経っても心を開かないのではとやきもきして拗ねてるのが、何処ぞのバラガキなので、君は気にかけないように」
「ふふ」
「?」「?」
「いえ…、恐縮の限りです」


●没

「お二人の場合、軍服や正装の方が女性人気が上がる!と言う裏事情もあるのです…。女性…とりわけ腐った淑女の方々やオタクのご婦人は、職業男子…とでも言いますか、カッチリ制服やスーツを着込んだ殿方に弱いのです」
「My gosh!女の子ってヤツはどうしてそんなに地位と権力のある男に弱いんだい!?」
「その…バブル期を過ぎた後の90年代後半から2000年代初め程になりますか、その頃のBLの設定と言えば大体、億ションの一室を借りている謎の会社の社長だったり、裏社会を牛耳る御曹司であったり、兎角都会を一望できる高いビルの一室の窓辺で、ワイングラスを片手にゆらゆら揺らしながらバスローブをエロティックに着ている殿方が、初々しく可愛らしい男の子や青年を部下はメイド雇い入れたり、養子や愛人として部屋に招いて、言葉責めをしつつ受けの子を寝台の上に誘い姫抱っこで布団に投げ入れた後は…、ええと…、その…あれとあれをああしてこう…ちょめちょめをする感じの内容が多かったものですから…。俗に言う、スーパーダーリンやスーパー攻め様が商業BLやレディースコミックにおける理想の男像だったのです。今はもうそんな極端な攻め様はいらっしゃいませんし、くりくりお目目の可愛らしい男性が受けとも限らない、という古典的なBLの攻め受けのイメージから脱する多様なカップリングの有り様が市場やSNS上に溢れてまいりましたが、それでも基本的には受より力や地位のある殿方をお相手に……、と言うのは依然として人気な攻像なのでしょうね…」
「メイド…?男が…。タワーマンションの一室で…葡萄酒を飲みつつ…」
「愛人…?男が…。裏社会を牛耳る…姫抱っこ…?男を…うーん…」
「全く意味がわからないが、君の言うそれは日本語なのかね」
「ええ…その…88年から92年はそれはもう日本というお国は不動産バブルに浮かれ申して日々をディスコに明け暮れその頃の女性はアッシーメッシー貢君を傍に携えるようなバブリーな方々ばかりでしたから…」


「実は過去修道院で聖職者と修練中の少年たちの間で同性愛の関係があったり、スクールの寮生活で教師と生徒の間でホモクシャルな関係になる事や、男尊女卑の時代背景やローマ・ギリシャの古典神話、ユダヤ・キリスト教にある父権的な側面や男根崇拝の要素も相まって、紳士や貴族の方の間では男色が持て囃されていたらしい事は、腐女子の間では既に常識で、ギリシャ神話のゼウスやアポロンの少年愛の話からキリスト教の同性愛の事情のあれこれも大方バレているのです…」
「えー…、オタクもそうだけど、変な所に食いつくんだね、君たちみたいな人種って」
「生憎と私にはそんな趣味は持ってはいないが、同性愛が教義に反するとある以上、我が国のそう言った下事情は内密に願いたいものだな、ジャパニーズ。特にその腐った連中には厳しく言っておきたまえ。無闇矢鱈に他所の国のそういう繊細な事情を追求しDojinshiなどで尾鰭をつけて掘り下げるな、と」
「うう…誠に申し訳ありません…。でも大分前から、同胞の皆さんは各国のファンガールのお友達を通じて現地人の生の声を聞いたり、海を跨いで直接現地に赴き聖地巡礼や偵さ…ゴフ、現地視察をして、独自に築いたオタク情報網をツテに、既に色々隠れて描いてしまっているんですよ…」
「ほう…、君たちも中々執念深い人種だな。まぁ、英国の背景を学ぶ事は大変に結構な事だが。これからも我々と友好的な関係を結びたければ、我が国のそう言った事情は有耶無耶にぼかしておき、私はより紳士的で聡明な軍人であると描写して英国の事はさりげなく持ち上げておくように」
「あー!抜け駆けは狡いぞ兄貴。じゃあ俺の事も気付かない程度に超かっこいいナイスガイに盛っておいて、さりげなく階級を大佐に昇級して、ついでに米国の事はクールに脚色しておいてくれよな!」
「では私は軍将校にでも繰り上げておけ」
(ううう、もう時すでにお寿司で、海外のそっち系の事情は大方もう日本人オタクにバレて薄い本の餌食になっちゃってるなんて口が裂けても言えないよぅ…)
(というか、兄弟揃って鉄面皮だよう…)
「まぁ俺の国はLGBTの人達が社会に露出する様になって、最近の人権と自由なんかの運動でもはや隠すつもりもないと思うケド。きっとヨーロッパはまた俺の国とは違った事情があるんだろうね」
「神に仕える信徒の方も色々と大変なのですね…」


●オタク用語『布教』(_20220225)

「桜杏、君のいうその“アニメ”とやらは一体どのような手続きを踏んで出来あがっているのかな、『好き』を仕事にするあまり製作現場のスタッフは法知識もまともにないので低賃金で雇われ上からこき使われた挙句にサービス残業で会社泊まりは当たり前、社会的信用もなければ人権の類もなく容赦無くスタッフを使い捨てる現場…、などと妙な黒い噂を聞くので少々勉強したいのだが。まさかクレジットローンを組めない程の経済状況でもないだろうが、実際の所はどうなのかね」
「ええと…、アニメ製作の裏側ついてお勉強されたいのでしたら、アニメ星のカービィの49話、89話、妄想代理人の10話、アニメ版こちら葛飾区亀有公園前派出所の第100話、第163話、派生で182話、アニメ版銀魂の92話、145話、SHIROBAKOシリーズなどがオススメです」
「なんだか(アニメ製作現場に誤解を与える様な感じの)色々と問題のありそうなラインナップだった気がするけど、反応が面白そうだから兄貴には黙っとこ!」
「しかし生憎と我が国にはそのようなアニメを流す放送枠はない。TSUTAYAもなければGEOもないので残念ながらレンタルしようにもできない。桜杏、私をオタクにしようとしても無駄だ、諦めなさい」(イギリスのアニメ事情調べる)
「あう…その…別に私はミカエルさんをオタクにしたいわけでは…。ええと、ちなみに最近では動画配信がメインでAmazon primeやNetflix、日本の携帯会社などの動画配信サイトと契約すれば海外の皆さんでも幾つかはご視聴できると思いますよ。特にアニメ版星のカービィはアメリカの4KidsTVで放映する事を前提に製作されましたので、なんとアニメのフレーム数が通常24fpsのところ、3DCGとの違和感を無くすためにややフレーム数が多いのです!」
「え、確か俺んとこのセル画アニメ、長編だと普通に25万枚とか100万枚とか書いてるけど、アニメーションって普通そう言うものじゃないのかい?セルを撮影して絵が動いているように映像を作るのがアニメーションの基礎なんだからさ」
「うっ…!!」
「…」
「へ…?もしかして俺またなんかやっちゃったのかい…?!」
「いえ…、流石夢のお国の方々、何という圧倒的物量…。そ、それはその…し、『白雪姫(1937)』だとか『キノピオ(1940)』だとかのフルアニメーションはそれはもう圧巻で…。体重移動に始まり人のリアリティある仕草から嵐の海の波の描写に至るまで、本当に恐るべき観察眼と作画力に翻弄されるばかりで…。アニメーションの古典とも言える素晴らしい作品ばかりです。ソビエト製アニメ『蛙になったお姫さま(1954)』『雪の女王(1957)』も合わせて流石あの日本アニメ界の巨匠、宮崎駿監督を触発させて『打倒米帝』と言わしめた程です…ハイ…」
「い、いやそこまで畏まらなくて良いケドさ!そもそも俺のとこ予算の規模もスタッフの人数も違うし、委員会を組んでスポンサーの意向で作る日本のアニメ製作事情とは違うからさ、俺の国。映画にはちょっとうるさいからね!…主に、(調べる)。後、あの頃はWWⅡや冷戦の真っ最中だったから、敵国や共産圏に資本主義国家の技術力や国力を世界に宣伝する為なんかの政治的な背景もあると思うけどね。俺の国はソフト・パワーの影響力や、絵や映像表現なんかのプロバガンダの重要性をよく理解してるから、お陰様で昨今の内容に至っても偉い人たちの政治思想を反映させたものばかりだよ…」
「そうだったのですか…、確かに当時の米ソのアニメ作品を見ると、反共や反米のような空気がヒシヒシと伝わってきますものね。それを思えば自由の国と言えどロイ君の所でも色々と複雑な事情があるんですね…。私の国ではアニメ製作にあまり予算と人員を割けないので、限られた予算の中をフレーム数と作画枚数を増やしつつ、放送枠を維持するのはちょっとしたスペクタル↑なのです」
「…フン。随分と君は熱心に我々にセールストークをしているが、一体何処の業者の回し者なのかね、鬼月桜杏。君の仕事がオタカルチャーの営業担当のビジネスマン(宣教者)とは知らなかったが」
「え、あ、その…私は特にどこかの企業から頼まれたとか、お金をいただいてマーケティングしてる訳でもないのです」
「じゃあ何の為に俺たちにそんな事を言うんだい?」
「それはただ、オタクとして、面白い作品をまだ見ぬ人々に知って頂き、マンガ・アニメ・ゲームをお相手に布教し世世に啓蒙したい一心で、それとなくお勧めしているのです!無論押し付ける訳ではありません。それはオタクとしても、相手としても気持ちが良くないので、変に催促したり確認する事は致しませんが、しかしそれも誰かにもっと良いアニメを知って欲しいだとか、好きなゲームをプレイした時の感動を味わって欲しいだとか、好きな作品への共感が欲しいと言いますか。兎に角、『好き』を相手と共有したい!…あわよくばお相手をこちらのジャンルとCP沼…ゲホッ、お相手の方とご感想を交換したいなどの、そういう前向きな気持ちの表れであってですね…。できれば是非とも「その面白さ」をご自分で体感して楽しんで頂ければ、オタクとしてとても嬉しいのです。お好きな時、お暇な時に、ふと思い出した時に見て頂ければ幸いなのです!」
「あー…、なんていうかその。オタクって便利だね。誰が言うわけでも頼むわけでもなく、勝手に人にアニメやゲームを宣伝して、熱心に布教して、自発的にお仲間を増やして、お金まで落としてくれるんだもんな。そりゃあ知らないうちにオタクが増える訳だ」
「まさか、日本人は我々をこんな感覚で見ているのではないだろうな…。信者とオタクは違う種類の人間の筈なんだがね。教会の持つ儀式的な機能と秘蹟、修道者になるための修練の厳格さ、全国に展開する組織形態とその信条・教義に対する信徒の信仰の姿勢に至るまでも。しかし、なんだろうな。この、言いようも無い同族嫌悪の様な感覚は…」
「うーん、多分間違いないのは、キリスト教が世界的に広まった理由も、ペテロとかの使徒や弟子のパウロ、教父のアウグスティヌスやドミニコ会士のトマス・アクィナスとかの神学者とか、信徒の謎の熱意と不思議な宣教のエナジーがあったからなんだなって思うね」
「なるほど。基本的にオタクも信者も、コンテンツや神を崇拝するときの精神的構造や姿勢には変わりはないという事か…」
「あの…!オタクはそんな大層で立派な聖職者のような存在ではありません、どちらかというと仏教的には煩悩に塗れた汚れた凡夫なので…。あくまでも趣味や娯楽として、気楽なお気持ちで見てくださると嬉しいです。それとも海外の方から見ると私たちオタクの活動はそんな風に怪しい勧誘に見えてしまうのかしら…?」
「我々も日本人からすればただのキリスト教オタクという扱いかね」
「いえ、冗談で言う事はあってもそんな風に捉える事はありませんが。やはり文化と宗教の間には、その信徒に対する強制力や組織と信徒の目的の一体性、教会や本部の持つ権威・権能などの方向から考えると、やはり二人の間には何かの一線があるのです。キリスト教を国教にしている諸外国では国からの保護を受けられますが、サブカル文化は民間企業によってコンテンツ基盤が作られる商業的な分野であって、売れなければコンテンツは廃れてしまいますし、売れ行きやユーザーの需要と意見にも左右されますから。あくまでも経済や文化の領域に過ぎないのだと思います。でも、本質的に何かを信ずる気持ちや何かを好きになる気持ちの精神活動の構造は似ているのかもしれませんね」


「天なる父でありながら、雌雄同体で完全なるものであり、聖三角と黄金とも喩えられる全知全能足りうる我が主が男女に人をお作りになったのは、敢えて人を不完全にお造りになった事で、我々を試そうとしておられるかもしれない。人は単独では…単一では生きてはいけないと、我々に教えたかったのではないかと、私は思う事があるがね」
「そうする事で、人は優しさや良心、理性…神の霊光を知ることができると…?」
「神智学的な見地からすればそう解釈する事も出来るかも知れない、違うかな」
「そうですか…」
「何か他に気になる事でもあるのかね」


⚫︎生神女(しょうじんじょ)マリア
(20211204_20211205)
東方正教会
 マリアは処女懐胎したと固く信じているミカエル。クリスチャンはみんなああ言った感じなのですか?と尋ねる桜杏に、いや俺たちも一部では処女懐胎とか無原罪の御宿りとか物理的に不可能だよねみたいな感じの考えの人がいてねと桜杏に耳打ちするロイ。黙れプロテスタント風情がと地獄耳ミカエル。だって俺たちプロテスタント派は父イエスは信じても、イエズ「ス」は信仰してないから…。と返すロイ。兄貴のヤツ若干信心にやましい心も混じってるというか、マリア様に自分の母親や理想の女性を重ねてる節があるんだよね、と更に追い打ちをかけるようにして桜杏に耳打ちするロイ。おや、二人で内緒話かね。興味深い。私に聞かれては困る事でもあるのかな、一体何の話かね。皮肉をいうミカエル。いえなんでもないのです!とわたわたする桜杏。
 しかし、尚ロイは手で口元を隠しながら桜杏に小声でボソリと、ただ兄貴の場合単純にクソ真面目なクリスチャン且つ女神崇拝者のマリア様萌えで、ドの過ぎた処女厨なだけだと思うぞ、例に漏れずイエズスを信じる敬虔な信徒…つまるところ兄貴は童貞のさくらんボーイ…と言いかけたあたりで脊髄反射で拳銃を真顔で真横に構えたロイと十字架を模した聖剣をロイの首元で寸止めするミカエル。おや、スクールに通うまで乳離れのできなかったドのつくマザコンで未だホームシックの治らないMFのお国の愚弟君、どうかしたのかな、血管が浮き出ているがね。と不気味でにこやかな顔をしつつ瞳孔が開き気味のミカエルに対して、コイツ、どこに目と耳がついてるんだよ。と引き気味で唇を咬みつつ額に青筋立てているロイ。
 睨み合ったまま動かない二人の代わりに桜杏は、そ、そういえば聖書ってそう言う貞操に関する決まり事が多いですね…とやんわりとフォローをいれる桜杏。ほら、神父の方も妻帯禁止ですし、童貞様も清貧・従順・貞潔を約束する三つの誓願が決まりですし…。そういえば一角獣の聖獣ユニコーンも純潔の乙女にしか会えないとか…。と呟けば、ユニコーンや聖書ですらそんなんだし、結局男って昔から処女厨でマザコンなんだろうね、とロイ。当然だ、聖書、ユダヤ外典タルムードやその他公会議の公文書にも書かれていると大真面目な顔のミカエル。何処にソースがあるんだい、それ…。と言いつつ出鱈目だとあながち言い切れない…、と心中でごちるロイ。
「そういえば最近の日本の言い伝えでは30歳を迎えて尚童貞を守り続けた者は、賢者と呼ばれいずれは魔法使いになれると、まことしやかに噂されています…」
「ほう…魔術師か…。姦淫をしてはならないとする主の戒律を守るのだから当然だな」
「ミカエルさん、心なしか口元が緩んで喜んでるような…」
「ええ…、何それ。その理屈だと兄貴なんて物心つく前からクロウリー君の黄金の夜明け団の怪しいオカルト書とか悪魔的魔導書みたいなのを喜んで読んでた上に国教会と聖書の言いつけを守って頑なに異性交友を避けてきた悲しきバイブルマンだから、今の時点で充分ヤバくて聖なる黒魔術師なんだよね…」
「Avada Kedavra」
「Bibidi Babidi Boo」
「Eloim Essaim」
「ば、バリアー!このポーズを取っている間俺に対する呪術攻撃は全部無効だぞ!」
「くっ…!どこぞの島国の異教の呪いに着手するとは卑怯者め…」
「……ええと、主に仕える方々というのは、その…、信仰するにも恋愛するにも色々と苦労するのですね…」
「Ohh…。モモ、俺兄貴から許されざる死の呪文を受けて今にも死にそうなんだケド、助けてモモ。愛の魔法がないと俺はこのまま死んじゃうんだよ」
「あれ、でも確かアブラカタブラの死の呪文は即死魔法だったような…」
「魔法学校での正しい発音はアバダ・ケダブラだ。…ところで桜杏、実は私も膝に矢を受けてしまってな…、女神マーラの祝福とアミュレットがあれば古傷を癒せるのだが」
「それ、俺の国のネタだろ」
「ええと…『ちちんぷいぷいのぷい』」
「は?」
「えっ」
「……」
「…ちちんぷ?なんだい、それ」
「…」
「…ええと…」
「…」
「…あの、日本から古くに伝わる治療の呪文ですけど…。正確には『ちちんぷいぷい御代(ごよ)の御宝(おんたから)』と言います、一応母親が子を想い傷を癒す時に使う呪いでして…。笑顔になる魔法みたいな感じで…、母だけに『はははは』なんちゃって…」
「…」
「…」
「HAHAHA…」
「フ…」
「…は、はは。はははは…」
「HAHAHAHA…、ハン!」
「…フン」
(鼻で笑われた上に冷たくあしらわれてしまいました…)

●黒光するリムジンに対する桜杏のコメント
ロイ「あ、あんなところに黒いリムジンが停まってるぞ」
ミカエル「ほう、こんな片田舎の国道にリムジンとは珍しい」
桜杏「だ、ダメです!ロイ君ミカエルさん。その車に関わると、きっと大変なことになります。(ええ、それはもう悲運極まりない、夜、目の前で横切る黒猫、結い終わる前に切れる靴紐、そして一人でに二つに破れる湯呑みぐらいには不吉の兆しなのです…)」
ロイ「へ?なんでだい。俺にはよくあるリムジンにしか見えないけど」
ミカエル「ああ、変哲のないただのリムジンだな。よくある」
桜杏(一体どんな暮らししてたらそんな返しができるのかしら…)
桜杏「…こほん、とにもかくにも嫌に目につくあの車、きっと何か悪い組織の偉い人が乗っているに違いないのです」
ミカエル「ほう、悪の組織と。それは実に愉快な事だ。あんな目立つ車で撃ってくれと言わんばかりに公道を移動するとは。敵の狙撃を予知できる手練れか、余程に間の抜けた人間に違いない」
ロイ「それで、あれに一体どんなオチがあるって言うんだい」
桜杏「この国であんな黒光りする高級車を乗り回せるのは、国会議員かヤクザの頭か、ジャンプ編集部の人ぐらいですもの…」
ロイ(その二つに並べるジャンプ編集部は一体何者なんだよ…)
ミカエル(桜杏にとって、その三つは同じ括りなのか…)

⚫︎呪術思考と科学思考
ロイの弱点
 英国なんてもう古臭いよ、現代史ではもうなりを潜めてるし、大英帝国なんて既に過去の話だね。ほとんど独立してるのに未だイギリス連邦とかdominionなんて聞いて呆れるよ。ブリキンはいつまで過去の栄光に縋ってるんだい。といつものようにミカエルに悪態をつくロイ。
 すると、徐に煤けた怪しい古文書を取り出し、分厚い書物を片手に開いて俄に呪文を唱え始めるミカエル。瞬間、手も触れていないのに古文書のページが次々と捲れていき、風もないのにミカエルの髪の毛が宙をたなびいて、見開いた本の発光する光に煽られるようにして前髪を揺らす。ばちばちと火花や電光が走る。途端ロイの顔色が蒼白に変わる。
「た、助けてモモ!俺、幽霊とかオカルトとか科学的じゃないものが実は大の苦手なんだよ!」
「え、そうなのですか…?で、でも、そんな事急に仰られても…」
「日本人にはおんみょーん道とか、即身成仏のオキョーとか悪霊とか神々を浄化して鎮める為のシントー的な祝詞とかハライキヨメの霊力や卍解の能力があるんだろ!?なんとかしておくれよ!」
「えええ!?私はただの一般庶民のモブの凡夫ですので、そんな主役みたいな力持ってないのです…!」
「でも君、空気読んで和をもって尊しとなす事に定評のある日本人だろ!?この大英帝国の亡霊が冥府の底から地表に湧いて出てるみたいなヤバい空気、いつものドーマンセーマンとかで何とかしてくれよ!」
「む、無理です。空気は読めど流れには逆らわないのが日本人の気質なのです…!長い物には巻かれろの日和見精神が日本人の実態なのです!だから私にはできないです!無理なのです!ましてケルトやドルイドの血を引いてそうな本家本元の英国人の危ない魔術に対抗するなんて、この世界の片隅にある田舎村の通行人Aには土台無理ですよぅ…」
「ほう…面白い。数世紀にも及ぶ長き皇室の歴史を持ちアニミズムとシャーマニズムの習俗のある日の本の国より生まれし貴殿にお相手していただけるとは…。実に光栄な事だ。君とはいずれ手合わせしたいと思っていた。生よりダイモーンを受け、女王陛下の威光と大いなる父の祝福によりて守られしブリテン諸島に臨む我が英国の魔術と、万物に宿し神々の怨霊の荒ぶる御霊を祝い鎮めんとする極東の島に臨む日本国の方術…。一体どちらが呪術として優れているか、その疑問を今ここで明らかにするのもまた一興ではないかね、桜杏」
「つ、謹んでお断り申し上げます…あーめん…」
「よろしい」
「Ahhh!モモ、俺を見捨てないでくれよ!」
「い、いえロイ君の事は見捨てないのですけど、だってなんだか禍々しい何かがミカエルさんの周りに漂ってるんですもの。こんな事、私のような矮小な人間は一体何をどうすれば…」
「天罰」
「ぎゃー!!」
「きゃあ!ロイ君、大丈夫ですか…!?しっかり」
「…フン、呪いを込めなくとも、口より出し言(ロゴス)は禍と福とをもたらす。ユダヤのメシュナにもゴシップを触れ回る女だけはどうにもならないとある程だからな。優れたる鉱物の金も銀も持ち手によらば腐るということだ。沈黙と雄弁は使いようであると、よく覚えておくんだな、ロイ」
「どんな優れた呪文を持ちつつも、結局最後は“力づく”で、“物理で殴る”がミカエルさんの作法なのですか…」
「殴りはしない。なに、ただ灸を据えただけだ、暴力沙汰は決して起こさない。力づくで無理強いするなどと無礼極まりない。英国紳士としては当然の話だがね」
「でもロイ君のお耳とお鼻が…」
「覚えてろよクソ兄貴…」
 その後、不貞腐れるロイにいたいのいたいのとんでいけと呪いをかける。すると、嘘のように元気になったので、今度はみるみる不機嫌になってしまったミカエルにはいい子いい子して、その場は丸く収まった。

⚫︎天誅と天罰
 大学から帰宅し引きこもり態勢になった桜杏。ノートパソコンを開いてアニメを見ようと思った矢先、ピンポーンとドアチャイムが鳴って、玄関から「モモ、俺だよ。暇だから遊びにきたよ!」と戸口をドンドンと叩く音がする。突然の来客に戸惑いつつ動画配信のアニメの続き見たさに、電気を消して布団を頭から被り気配を隠して忍びつつイヤホンをつけて居留守決め込んだ所、遠くでガラガラと戸口が空いて「あれ、なんか鍵が開いてるケド、一人暮らしなのに不用心だな。とりあえずお邪魔するよ」と鍵を閉めたはずなのに何故かロイは呆気なく家に侵入し容赦なくドタドタと廊下を歩き回り挙句鍵をかけた私室の前に立ってドアノブをガチャガチャした後「モモ、いないのかい」とドンドン戸を叩きつつ壁一枚隔てた先で無慈悲にもお声がけしてくる。あまりの事態に思わず全身を縮めて固まっていると、何かの安全装置を外して引き金を引くような音がした瞬間けたたましいマシンガンの銃声と夥しい程の弾痕で背中にあったドアが破壊されロイの一蹴りでドアだった物体は煙と木屑と共に床に倒れ伏せる。軽い金属の跳ね回る音に床に散らばる大量の空薬莢。「やっぱりいるじゃないかモモ、友人が来たのに無視なんて良くないぞ、だからいつまでもヒキコモリが治らないんだよ」とロイに訪問アタックされた桜杏。ロイの両手に抱えられまだ熱帯びているメカめかしい銃火器とその銃口の先から薄く立ち昇る煙を見比べては声にならない悲鳴をあげる桜杏。
 桜杏の悲鳴と同時に「戦の最前線にいるかと錯覚するような銃撃音がしたが、何があった、桜杏。そこの愚弟が君に何かしたかね。話してみなさい」と天井の板を靴底で一枚ぶち抜いて、そこからスタイリッシュに着地し何食わぬ顔で剣を構え悪びれもなく桜杏を庇うように登場し、屋根裏にコンピュータと諜報機材を勝手に設置して極秘に潜入捜査とスパイ活動していたヘッドホンマイク装備した諜報員ミカエル。更に悲壮感のある悲鳴をあげる桜杏。結局玄関の鍵を突破したのは気付かぬうち予め家に潜伏していたらしいミカエルさんだったのか、それとも今まさに侵攻中のロイ君のだったのか、兄と弟一体どちらだったのかな。あとミカエルさんはいつからそこにいたのかな。そしていつまで兄弟はここにいるのかな。
 ミカエルとロイはそんな桜杏を他所に両者対峙して睨み合ったまま微動だにしない。相手の出方を伺っているのか付け入る隙もないのか隙を見せればやられるのか、見ためではわからない兄弟同士の暗黙のやり取りや軍人同士の高度な心理戦と読み合いが行われているのかはわからないが、とにかく喧嘩するならお二人の故郷と実家でやって欲しいなと思いつつ、神様どうか今はこの二人の兄弟の怒りを鎮めて私に明日を生きる為のアニメを見せて下さい、そしてこのお二人についても出来ればもう私に許可なく家に不法侵入したり私に内緒で屋根裏を極秘調査や諜報活動の根城にするのはもうやめてくださいと一人請い願う桜杏であった。

⚫︎結婚と離婚
「え?結婚なんて、親権と相続権を確保した後相手と離婚して慰謝料を貰う為にするんだろ?」と言うロイの自虐気味なアメリカンジョーク。
「モモ、楽しく自由に生きたいなら、イギリス人とだけは結婚するのはやめたほうがいいぞ。だって離婚の手続きが面倒だからね。ヘンリー8世君が男児欲しさにわざわざ教皇にまで反対して離婚手続きのできる国教会を立ち上げたようなお国だぜ?教皇庁と隣国の機嫌を伺いつつ、王室と王室、紳士と商人がお家の為に政略結婚ばかりしてきた連中だからね。結婚だの離婚だのに未だ家世が絡んで煩いのさ。お陰様で欧州では同棲と事実婚ばっかで結婚しない若者が大半だよ。まぁキャサリン王妃は可哀想だったけどね。あんな悲劇を生むぐらいなら王室や教会の伝統を捨てて個人と人権を尊んで要望に柔軟に対処すべきと思うね、俺は」
「フン、結婚せずとも育児支援と社会保障を受けられる制度が整っている、と言う事だ。結婚や離婚の手続きが厳格ということはそれだけ家柄と血筋を重んじ、且つ信心深い事の表れなのだよ。無論教会の意向はあるが、我がウォード家の家系が私の代で終わるわけにはいかないのでな。王室と教会に仕える我々英国人の気苦労と階級制度の重みが、一世一代で家督を潰すヤンキー風情にわかるのかね。なに、結婚と離婚を繰り返し、親権と慰謝料を巡って夫婦で争い、自由と権利と称して神聖で厳粛な裁判所にまで痴話喧嘩を持ち込む輩より、我々は余程まともと言う事だ。桜杏、堅実で幸せに生きたいのならば、アメリカ人とだけは結婚しない事だな」
「へぇ…、兄貴よくそんな事言えるねぇ」
「フン、どの口がそれを言うのかね」
「その…、もとより私は喪女のBLオタクで二次元にしか興味がないので、結婚詐欺や不純異性交遊や性犯罪など、その手の事は大丈夫なのです。だからお二人が心配なさらずともいいんですよ…!私は同人(戦場)に生き、同人(戦場)で一生を終えるつもりなので、どうか安心してご自分の事を成して欲しいのです」
「…」
「…」
「あの…お二人とも…」
「…………へぇ…、そう…ふーん……。はぁ…」
「………フ、……」
「…」

⚫︎パスタとピザ
 日本人の魔改造パスタにイタリア人が激怒する。
 間違ったイタリア料理がないかどうかを偵察していた国家憲兵のカラビニエリの男ジョヴァンニ(仮)。桜杏が納豆パスタなるものをミカエルに紹介している見つけてイタリア人のジョバンニ(仮)は激怒した。あんなのパスタ…もとよりイタリア料理なんかじゃない!そもそもパスタはミートソースがよく絡むタリアッテレ(平打ち麺)が普通なんだ…!と物陰で見つめつつ怒りで震えて拳思わずを握るジョバンニ。
それを見た英国人のミカエルが嗜める。
桜杏、もっと相手の料理の伝統を重んじ尊重するべきだ。
 おお、料理で珍しく意見があったね英国人。いいぞもっと言ってやってくれよ!とイタリア人が思ったのも束の間。ミカエルが徐にベイクドビーンズを取り出してピザの生地にかけ始める。ピザに対する冷酷で惨い仕打ちに顔面蒼白になるジョバンニ。
 イタリアの伝統的な料理と我が英国の伝統料理と掛け合わせれば両国の歴史的な深みを生地の上に醸しつつ、互いの食文化を活かし合いより一層素材の味わいが出るはずだ、と得意顔でドヤ顔をするミカエル。
 すごいですミカエルさん!今まで見た事のない取り合わせです!ミカエルさんの国ではパンにお豆をかけて食べますものね。と何故か乗り気の桜杏。
 何やってるんだよジャポネーゼ!君だってマズイ料理は嫌いのはずだろ!?食えればいいがモットーの食に無頓着のメシマズ国家の英国人に感化されるのだけはダメだろ!旨味が分かるからって調子に乗らないでくれよジャポーネ!君の国の料理なんてオレに言わせればゲテモノ市場で買ったバケモノの活け作りをそのまま料理として出す上にオレたちが恐れる聖典の悪魔の魚まで酢と醤油をかけて食べた挙句毒フグすらも味噌鍋にして具材にしちゃう宇宙人そのものだよ!イカはオレも食べるけどね!
 しかしその思いは二人に届かず。
 パンに納豆とチーズを乗せて食べても美味かった。だから小麦粉と豆の組み合わせには間違いはない。
 そうなのですか。実は納豆にマヨネーズをかけると酢の酸っぱさと卵の甘さが納豆の醤油や塩気とよくあってとても美味しいのです。
 なるほど、ではこのベイクドビーンズにもマヨネーズが合うかもしれんな。
 ちなみに梅干しと牛乳を一緒に飲むと不思議といちごミルクの味がするのです。もしかすると牛乳のタンパク質や脂肪が梅干しのしょっぱい味をマイルドにするのでしょうか。マヨネーズも本来混ざり合わない筈の水と油が卵が触媒となって混ざり合ってしまうのです。
 ほう、それは興味深い。実の所、かつて中世のアレクサンドリアの女性錬金術師のマリアは台所の調理器具を使って実験したという逸話があってだね。フラスコに火をかけた際の液体の沸騰と気化した蒸気などはエーテルを象徴し天地創造における神秘のエッセンスを抽出する為の宗教的な研究でありながらも科学的思考の芽生えともなった近世の錬金術思想に基づく実験行為であり、蒸気はその名の通り、近世の科学そのものを象徴する。また鍋と乳棒は魔女の持ち物の特徴ともされ彼らはそれらで薬や毒などを作っていた。故に料理と錬金術は元来関係が深いのだ。
 あ、それって例の台所は錬金術の母である、という事ですね。
 よろしい。林檎の発するエチレンがバナナをを熟し腐らせるように、食べ物に含まれる化学物質の反応と調合比率によって料理の味は引き出されるのだ。納豆、ブルーチーズやヨーグルトなどの発酵食品が一見腐って食せないように見えて、意外な味覚と効能を人類にもたらしたように、オレンジに生えたアオカビも時に人類を救う薬にもなるという事だ。
 あ、アレクサンダー・フレミング博士のペニシリンですね。
 よろしい。ワインはそもそも猿が腐らせた葡萄を潰して摘んでいるところを人類が発見した事から云々かんぬん…
 と、どんどん恐ろしい事を口にするのでイタリア人の怒りのボルテージはMAXになる。
 違う料理はもっとこう、科学とか理屈とかそんなんじゃなく…、いやもちろんそう言う知識も大事だけど一番大事なのは、全神経を研ぎ澄まして素材を調理して食べ比べて繰り返し料理する事で感覚的に構築される料理の理論を身体が自然と覚えていくことによって己の哲学が一枚の皿の上に体現され、代々継いできた伝統の味をレシピの上だけではなく自分自身が体感して身体で覚えて頭が記憶して魂を受け継いで皿に再現して次の世代に調理法と味の秘伝を伝授する事によって長い歴史の中で変わる事なくたった一つの味が守られていくんだよ!大切なのは料理に対する美学なんだよ!料理は理屈だけじゃないんだよ!感覚なんだよ!ロマンなんだよ!美への執念!つまるところ芸術なんだよ!事実だけ淡々と記録して再現する科学的思想云々とは少し違うと言うか、頭の中の観念的なものを全身を投げ打ってこの世に生み出す創造的で情念的なものなんだよ芸術はさぁ!
 遂に怒りは頂点に達しスタイリッシュに窓を割って侵入し床の上を転がりスックと立ち上がるイタリア人!キラキラと粒子を具に反射しながら床を飛び散るガラス片!えぎゃああと悲鳴をあげる桜杏!
 イタリア人ここで屈指の決めポーズ!
「オレが本物のパスタとピッツァを食べさせてあげますよ!」
「あの…、これは料理漫画ではないのですけど、自然な流れで番組を乗っ取って勝手に美味しんぼを始めないでくださいよぅ…!」

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(20211003)

●英ユ同祖論日ユ同祖論の考察

「君の一族と私の一族は、もともと一つの王家だったのだ。地上に降りた時、二つの氏族に別れたがね」(パロディ)
「あの…地上に降りたってその……神の怒りに触れてエデンの園から落とされたって言うアレですか……天空の城と言いますか…雲の上の王国と言った方がいいのか……、王家の王冠を戴くのはいわゆる、セフィロトの樹で言うケテルのエヘイエーみたいな…、所謂聖三角形のYHVH的なアレで…。善悪を知る実を勝手に食べて地上に追い出された感じの…」
「フン、神話の頃に遡ればそうなるな」
「でもそれは創世記の話でアダムは人類の始祖にあたるので、この際王族云々の問題でもないような…。それに私、一応はアダムの血を引いてると思いますけど、母親は悪霊リリスの系譜で妾の一族で実質分家筋ですしおすし…」
「アダムの血を引いてさえいればさして問題ない。喩え霊的にサマエルやルシフェルと交わろうと、肉的な罪の根源、アダムの遺伝子さえあればよいのだ。いずれにせよイブはアダムの肋骨より生まれたアダムのクローンのようなものだからな。アダマより造られ神の息吹を受けたヒトの女はリリスのみ、君の母親の出生など今更問うた所で何の意味もなかろう。それとも君は王家復活に際して何か不都合でもあると言うのかね」
「その…、それって最早私に拘る必要も特にないのでは…」
「…君の一族に残されたY染色体ハプログループD1a2aに意味があるのだ。12部族の父、族長ヤコブの持つYAP遺伝子を先祖代々受け継
いできた古代ユダヤの血族である君の一族と、滅びたはずのイスラエル10支族の一つ、ユダ王族の血統を、数世紀にも及ぶ長きに渡り今世(次世代)まで守り続けてきた私の一族が、一つの家系として共にあることが重要なのだ、この意味がわかるかねジャパニーズ。内戦にうつつを抜かし、この穢れた地におめおめと血を流し給うた一族の末裔、ミレニアム(千年王国)建国の使命も果たさず極東の島に閉じ籠り、仕舞いには神の律法すら忘れてしまった愚かなるヤコブの子よ、哀れな日本の愛し子よ」
「あの…、ミカエル様の仰る事はあまりに尊大すぎて…おたんこなすであんぽんたんの私にはもう何が何だか分からないと言いますか…、無学で無知な一般庶民にとって博学で高貴な御身分の方のお考えは、ぽんぽこぴーでぽんぽこなのぽんこつあたまの私とは次元が違いすぎて、最早何もわからないのです…」
「……」
(露骨に溜息をつかれてしまいました…)


「そもそも、たしかYAP遺伝子なるものは、私たち日本人の血族以外にも、確かハプログループDEの系統樹に属する民族…、東アジアのアンダマン諸島やフィリピンの特定の民族の方…、それにアフリカの方もそれに属する遺伝子を持っていらっしゃると聞いたのですが…」
「…」
「それにそのう…、BBCのニュースで読んだ話だと、イエス様…キリストとされる人もユダ族出身のユダヤ人で、そもそもコーカソイドではなさそうなのですが、それに人類は500万年程前にアフリカで溢れたと聞きますし、ケルトの方もお肌は黒かったようですし、まさか、人類の始祖アダムというのは元々黒人の方だったのではないかと…えげゃっ!」
「…あまり私を怒らせない方がいい、当分二人きりでここに住むのだからな」
「あうう…そんな律儀に叩かなくとも…」
「君は黙って私についてくればいい。役目が来るまでは、そこで大人しく私の仕事ぶりでも見ていなさい、いいかね」
(ううう…歴史上の人物や出来事を啓典にまとめる内に内容が段々神話性を帯びてきちゃって、数世紀の間に後付け設定や尾鰭がつき過ぎてすごいことになっちゃってるんじゃないかな…。きっと父アブラハムと長ヤコブ、その兄エサウ、そして英雄ソロモンとダビデ王…この数千年の間でイエス様もマリア様も絶対聖書の中で美化されてるよう……こんな感じでネグロイドの方は色んなとばっちりを受けてきたのかも……)

「そういえば、私の役目ってなんだろう…。えーと…王室専属の家政婦でもするのかな…?」


「太陽の紫外線の強い熱帯に生まれたから皮膚上のメラニンが増えて肌が黒くなったのかも…、確か汗の出る量が多くて、髪の毛も紫外線に耐えるために変化したのかな?それで人類が北上する内に遺伝子が変化したのかしら…でも昔の地表ってそんなに暑かったのかしら…、氷河期っていつだったかな…」
「先から君は何をブツブツと言っているのだね」
「あ、いえ…あの……ただの独り言です…ええ、それはもう……たわいない細やかな呟きですとも…はい……」
「ほう、勤勉な事だ。まぁいい。ここでは異教の呪い(まじない)は慎んでもらおう。それとも君は魔女として磔にされたいのかな、まぁ私は一向に構わないがね。贖罪として君の肉を屠りその血を地面に吸わせてやろう。それとも君が悲鳴をあげるまで縄に括りつけて眺めてやってもいいぞ。私に跪き、命乞いをするまで、神聖なる秤の見前にて尋問の手解きをしてやろう」
「それって完全に中世の拷問……、うう…そちらの方がよっぽど呪術的ですよ……」


座り惚ける桜杏の背後に忍び立って襟足に生え揃う髪をたくし上げて桃のような柔肌の彼女の細き首元に首輪とばかりに煌びやかで鈍く光る十字架のネックレスをつけて肩を撫でるようにその大きな掌を女の二の腕まで滑らせて「よく似合っているな、桜杏」と耳元で低く囁き一人ほくそ笑む悪役の板がついている聖属性のミカエル中佐殿


(20211007)

「君は、王家復興とその繁栄の為に我が一族の子孫を残す使命がある。君の一族の持つヤコブの血を…、D1a2a1の遺伝子を我がスペンサー公爵家の血統に取り入れる必要があるのでね」
「えっ…あの…、子孫…ってその…」
「君は有名な聖句すらも知らないのかね、生めよ増やせよ地に満ちよ、と言うだろう」
「生む、増やす…?」
「そうだ、君の胎はその為にある。早く私の嗣子を抱く君の姿を見てみたいものだな」
「子ども…貴方の…、私、が…ですか……」
「君も王家の血を引く花嫁ならば、私の子種を孕むよう日夜精進する事だ、いいかね」

「あの…お茶が入りました」
「ああ、すまないな」
「すみません、紅茶はまだ勝手がよくわからなくて…。お口にあいますか?」
「悪くはない。が、少しミルクの量が多いな。肝心の葉の渋みが消えてしまっている」
「すっ、すみません……。…あの、旦那様のお気に召さぬようでしたら、すぐにお茶を煎れ直しますので…」
「…いや、私はこのままで構わない。君はそこに座っていなさい」
「…は、……はい…。失礼します」
「…」
「…」
「…」
「…」
「……桜杏」
「はい、なんでしょうかミカエル様」
「英国人が紅茶にミルクを入れるようになった経緯を知っているかね」
「いえ…、植民地だったインドからお茶を輸入して飲むようになったという話はいつか
聞いたのですが、そういった紅茶の作法については…」

「…君はいつになったら私を認めてくれるのかな」
「…はい?あの…、何の事でしょう」


(そういえば、ミカエル様が前に言っていた『産めよ増やせよ』って聖書のどの言葉なのかな…、なんとなく創造神話にありそうだから…、ええと、とりあえず初めから読んでればいいのかな…?)

旧約聖書 創世記1章28節
産めよ増やせよ地に満ちよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ。

(ミカエル様…、一体何をお考えなのかしら…、何かよくない事を考えてたらどうしよう…。地を這うって…蛇の事…?それとも、私たちの母親のリリスと悪魔サマエルとその子預言者ルシファーの喩えの事なのかしら。ヤコブの子…、古代ユダヤの遺伝子を持った一族が日本に渡って土着するまでの何処かでリリスの一族と混血しちゃったのかな…。このまま何も起こらなければいいのにな)

(海の魚、空の鳥…まさか真言宗の空海とも関係するのかしら…、流石に有り得ないと思うけど…)

【3】小説

[1]聖なる夜に


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 それは年に一度の聖夜前日のこと、年甲斐もなく、部屋をクリスマス仕様にした。と言っても、アニメ消化中に作った折り紙製の輪つなぎで申し訳程度に部屋を飾りつけ、倉庫で眠っていた造花の小さなモミの木を引っ張り出し、そこにイルミネーションのライトを括り付け、ベルやプレゼントや色とりどりの球体のおもちゃを引っ掛け、仕上げに木の天辺に星つけただけの面白みのないクリスマスツリーを部屋の隅に置いて、終わりに玄関の戸口にクリスマスリースを付けただけで、なんの面白味もないな、と思う形だけのクリスマスだった。
 他のクリスマス要素といえば、本棚や机上に立ち並んだサンタ衣装のキャラクターフィギュアとぬいぐるみと、壁に貼られたアニメポスターがクリスマス仕様のものに貼り変わって、壁掛けのカレンダーが年末仕様になっているぐらいだろうか。クリスマスだからといって桜杏の生活は何一つ変わらず、いつも通りアニメやゲームを消費して、大学の課題の残りをやりつつ、隙を見てはクリスマスを題材にしたネタをペンタブやキーボードで書き起こすだけの、味気ないオタク仕様の灰色のクリスマスだ。

 冷気の漂う窓枠の向こうでは、鼠色の黒ずんだ空が覗く。無数のボタ雪が音も無くしんしんと降り積もり、時折遠くで泣いている北風が窓ガラスを叩いて、うす氷の張った水面の如くにひんやりと凍えている。
 桜杏はこたつに足を放り布団を肩から覆い被ってみかんの皮をべりと剥いては、実の繊維を丁寧に取りつつ、実を一粒だけもふと頬張り、パソコンモニターに瞬くアニメを暗い瞳に反射しながら、のんびりと冬を過ごしていた。熱った足先は、こたつの熱と布団でぬくぬくして一層気持ちがいい。いわゆる世間でいう所のボッチマスだがオタクにはそんなの関係ない。ダラダラとアニメを見ながらこたつで過ごすクリスマス・イヴは最高である。
 さて、とこたつ机のケーキ箱を開いた。丸いスポンジの上には濃厚なミルクを凝縮したホイップクリームが生地一面にたっぷりと塗られて、リースのように飾り付けられたクリームの小山に並べられた真っ赤で大粒の苺、そして粉パウダーが雪でも模した様にサラサラと苺を白銀に染めていく、白いデコペンでMerry Christmasの書かれたチョコプレートのすぐ側に砂糖菓子でできたサンタのおじさんがにっこり笑って、小粒な赤い実を蓄えたトゲトゲとした柊の葉っぱが刺さっている。これはなんと見事なクリスマスケーキだろうか。
 そのケーキの傍に推しのデフォルメフィギュアを立たせて写真を撮り、HPの日記に載せれば、それだけで充実したオタク的クリスマスを演出できる。そして、皿に切り分けたケーキをフォークでつついて食べて、なんとなくチャンネルを回しその日の特番さえ見ていれば、日本人にとっては充分すぎる程ハッピーでメリーなクリスマスの一夜を過ごせるのだ。むしろ、片手間で真面目に大学生をやりつつ、隠れオタクをしている桜杏にとって、クリスマスは貴重な祝日である。そんなありがたい日を大学の同期や善良な一般市民の友人たちと、パーティと称して飲み会を催し、近所やデパートで行われるクリスマス的イベントに参加するなどと言う精神的余裕と経済的ゆとりとは、インドアで陰気なオタクには既に残されていないのだ。何せクリスマスにお正月と言えばオタクにとって同人誌企画や推しジャンルのイベントを興すには絶好の期間。世間がクリスマス色に染まり、大型デパートからアパレル店、飲食店、ゲームやおもちゃを扱う玩具屋に至ってもクリスマス商戦に沸き上がり、親子連れから甘い時を過ごそうと目論むデーティング中のカップルにかけてまで、広くターゲット層を狙っているように、我々陰のオタクたちも、推しの聖夜を応援するアンソロ企画に参加したり、推しを愛でるイベントを鑑賞できる絶好の期間である。冬コミなどに参加してアグレッシブに推し活を堪能するも良し、家でのんびりと積んでいるゲームを消化するも良し。兎角冬休みという時期は我々にとっては、オタク行事に始まりオタク行事に終わる、多忙かつ幸福なひとときなのだ。
 
 しかし、クリスマスと言えばやはり、太いリボンで封された豪華な箱、サンタさんからのプレゼントだ。桜杏はすでに成人済み。プレゼントをもらえるような年齢でも、家族構成でもないけども、毎年の恒例行事としてクリスマス用の靴下をベッドの脇にかけて就寝するのがお約束だった。喩え一生に一度も貰えなくとも、喩えサンタの正体が自分自身なんて味気ない結末だったとしても、桜杏にとって、靴下を飾ることは意味があった。そう我が家は所詮、上部をなぞっただけのハリボテのクリスマス。宗教家からはお叱りを受けるに違いない。それでも、願掛けと言わんばかりに壁に靴下をぶら下げてしまうのは、桜杏の中でサンタのプレゼントというのが最もクリスマスらしいと感じられる。端的に言って密かな憧れがあったからだ。
 明日の朝目覚めた時、すぐ傍らにあるゴムいっぱいに膨らんだ靴下を見たら、どんなに幸せな事だろう、聖夜の始まりがプレゼントの包み紙を開くことならどんなに素敵だろうと、この年になってもときめきを忘れる事ができない。だから、鬼月家のクリスマスは形だけでいいのだ。私はクリスマスらしいことしかできないけど、それでも幸せに浸れるのだから。眠りに落ちる瞬間だけは、聖夜の奇跡を信じる事ができるから。
 そうして、壁に掛けられた靴下をにんまりと眺めつつ、桜杏は眠りについた。

 その聖なる夜に、桜杏は不思議な夢を見た。ぐにゃりと空間がたなびく夢の中、窓が一人でに開いて、何者かが侵入してきた一方で、天井の板が勝手に外れてさらにもう一人侵入してくる。そんな気配を肌で感じて、妙にリアルな夢だった。妙と言えばその二人は部屋に入ったと思えば、さきから部屋をガサゴソ物色しているようなのである。まさか泥棒?ハッと意識を起こして、しかし身体は金縛りにあったように動かない。いや、動けないのだ。何かヒヤリ、と氷でも当てられたような悪寒がある。脳裏に警鐘が鳴り響いて、見てはいけないものを見てしまうような、その瞬間全てが終わってしまうような、そんな予感がして胸騒ぎが止まらなかった。夢うつつにも関わらず臨場感だけは身に迫るようはっきりしていて、手足にじんわりと汗が滲む。喩え夢で終わろうとも、部屋に無断で誰かが潜んでいるこの状況、まして相手は二人だ。このままではいけない。
 悴む手をそっと伸ばし、恐る恐るリモコンで電灯を点けた。すると、パッと明るく照らされた屋内に、巨体な影法師が二つ聳える。
 そこに男二人が立っていた。

 突然の出来事に驚いたが、しかし桜杏はぎゃあ!と悲鳴をあげる事はできなかった。
 何故ならその男のうちの一人は首から下は軍服を着込んでいるのに、何故か片方の手には誕生日会でよく見るクラッカーを持ちつ、頭の上には白いボンボンのぶら下がった白で裾上げされた真っ赤な帽子、いわゆるサンタ帽を被っているのだが、その全身はまるで戦地から帰ってきたと言わんばかりのフル装備、腰にリボルバーを吊って、釣り上がった左肩を見るにその軍服の下に一丁何かを隠している様子で、その背中から覗く銃身は明らかに散弾銃を背負っている風体なのだが、ここは日本なのできっと気のせいだろう、そんな風にサンタというにはあまりに歪で殺伐とした空気を醸し出す色黒な顔に眼鏡をかけた謎の男。そしてもう一方は、ネクタイの巻かれた紳士服の上に膝丈まである黒いトレンチコートをカッチリ着込んでベルトで締めているまでは普通だが、腰には何故か長い刀身の剣が吊り下がっており、両手には黒手袋、頭には控えめな高さのシルクハット、そして右手には血でも吸ったかのように赤黒い薔薇が束のようになって紙袋で包まれており、片目に時代錯誤なモノクルをしてそのままステッキでも取り出してオリーブの首飾りの旋律と共にマジックショーでも始めてしまいそうな大道芸人のような体をして張り詰めたプレッシャーと緊張感を放つ謎の金髪の男。そしてその両者の最も奇妙な点は、その男たちの片足には、スーツや制服のズボンの生地の上から毛糸の靴下を履いていると言う点だった。
 
 その毛糸の靴下には見覚えがあった。私が就寝前にベッドの傍に吊り下げていた筈の二足の靴下である。キリスト教徒でもないし、ミサに参加もしなければ、聖句も碌に知らないし、お祈りもしてないから、私の家にはサンタさんも来ないしクリスマスプレゼントなんて貰えるわけないけど、でも形だけでもクリスマスを楽しもうと毎年吊り下げていただけの大きめの空っぽの靴下。左右一組あるのは、冬用に買った厚手の毛糸の靴下が大人用で、子供の時分の私にはぶかぶかだったので、そのままクリスマス用靴下として毎年使いまわしているからである。
 クリスマスを迎えても毎年空っぽのまま終わる筈の形だけの靴下の中に、今年は何故か二人の男の片足が突き刺さっており、それを履いた男たちは、もう片方の足を無防備に曝け出したまま自分の眼前に忍び立っていた。
 これは一体。
 
 時計を見ればまだ深夜の13時ちょっと過ぎだった。先程意識が浮上した気がしたけど、もしかすると私はまだ夢の続きを見ているのかもしれない。そう。きっと、これは夢だ。クリスマス・イヴだと言うのに、世間がクリスマス一色に沸き立ち、やれ忘年会だ、やれクリスマスパーティだと盛り上がり、今頃ビールやジュースを注いだジョッキやコップを乾杯してケーキを取り分けて友人や家族や恋人と楽しい夜を過ごしているであろう同年代の若者に比べて、自分はこの体たらく。まして諸外国の一般的なキリスト教徒は1ヶ月も前からクリスマスムードで忙しなく当日に向けて準備をしつつ、真摯にクリスマスを祝いお祈りして、七面鳥を前に穏やかに家族団欒を過ごしているであろうこの時に、私と来たら呑気にベッドに身を放り出し漫画を読んで、気まぐれに線画を描いて、暇つぶしにゲームをしていたものだから、きっとバチが当たったに違いない。少しは真面目に聖夜を過ごせと、ついに神様がお怒りになったのだ。
 頭から電灯を受けて影かかった男二人のギョロりとした四つのめだまに見下ろされ、恐怖のあまり悲鳴一つ上げる事もできず、まるで氷漬けにになったように全身が強張って動かない。肌の表面は逆立って、毛穴から汗が噴き出し心臓が脈打ち、私の神経を蝕んでいた。私のベッドを取り囲み見さげてくる男たちの影法師は、呪縛霊が枕にたったかのような冷気を帯びていて、よく見れば肩口に雪が付いているように見えなくもない。そんな妖しい光景。
 
 そうだ、やっぱりこれは夢だ。さっき目覚めたのは気のせいで、まだ夢の世界にいるんだ。神さま、どうか私をお助けください。この悪夢のような光景を夢で終わらせる為に目を閉じて再び眠りについてうつつに戻ろうとした。

「不恰好で申し訳ない。手違いで礼服が少し汚れてしまってね。替えの服も無かったのでコートを着込むしかなかった。君の為に白い薔薇を用意したのだが、どうも一緒に汚れてしまったらしいな。しかし、クリスマスプレゼントにわざわざ手編みの靴下を用意するとは、君は実に古風な人間だな。だがこの靴下、履くには少々サイズが小さいのではないのかね。それにもう片方が見当たらないようだが。前々から予定を空けていたというのに、肝心の君はメールの返信も遅ければ携帯の電源さえ切って全く連絡が取れないという様だ。聖なる夜を性夜と読み替えるような人種の国だからな、何かあったのではないかと思って来てみれば、何のことはない、やはり男がいたと言う訳だ、それもハイエナのような男がな」
「今日はクリスマスだし、靴下が吊り下がってるのに中身が空っぽだったから何かプレゼントしてあげたかったんだケド。生憎仕事帰りだったんで何も用意してなくてさ。君にフルカスタムした拳銃なんて渡しても困るだけだし、女の子が喜ぶプレゼントなんて思いつくわけもないし、君みたいな人種は可愛い小物や光もので喜ぶタイプでもないから、プレゼントに俺自身が今日一日中遊び相手になってやろうって素敵なサプライズを用意したわけさ。ついでに人ん家の天井を器物破損して不法侵入する不届な変態も退治して万々歳!今日は楽しいクリスマスと言うわけだよ、な、モモ。ただこの靴下、少し小さいんじゃないのかい。こんなんじゃプレゼントなんて一つも入らないよ」
 
 服が汚れる手違いって何だろう。全身武装する仕事の帰りってなんだろう。違う、こんなのミカエルさんやロイ君の解釈と合わない。皮肉屋で少し不器用だけど機知に富んで真面目で誠実な英国紳士を絵に描いたようなミカエルさんと、正義感が強くて少しぶっきらぼうだけど仕事に関しては一切妥協のない明るくて優しいどんな人とも打ち解けられるムードメーカーのロイ君。そんな素晴らしいお二人がこんな風に人間としての一線超えた犯罪スレスレの危ない病んだ攻め男みたいなムーブを絶対にするわけがない。天地ひっくり返っても、そんな事あり得ないのだ。だからこれは夢。クリスマスという聖なる夜がみせた悪夢。悪質な夢小説の類である。だから桜杏、一刻も早く目を醒ますのだ。何も見なかった、聞かなかったふりをしてこのまま何事もなく眠るのだ。全ては自分が寝惚けて夢現だったせいにして、2人はここにいなかった事にするのだ。むしろ何もなかった事にするのだ。
 神さま、これが夢というのならば、どうか私の眠りを終わらせてください。万が一これが現実だ仰るのであれば、どうか二度と私を眠りから起こさないでください。
 神様、仏様、マリア様、お釈迦様。大明神様サンタ様。
 聖なる夜に、奇跡を下さい。
 どうか、このまま夢で終わらせて。

[2]英國恋物語

(桜杏の手記)

 イギリスに渡って数月の事。バブル崩壊に伴い長きに渡る経済停滞の最中にある日本現代ですが、90年代より以前の頃はいざ知らず、今日の日本男性の、こと恋愛事情に関して、過去のアッシーメッシーミツグくんといった呼称は何処へやらなりを潜めて、今や男も女も恋愛に消極的で、一種の悟りや諦念すら感じる程にすっかり奥手になってしまった我らが日本男児は、所謂『草食男子』と呼ばれ世の女性から冷ややかにみられる昨今の有様ではあるのです。
 しかし、恋愛に対して積極的な印象さえある異国人でありながら、存外、イギリスにおける殿方も又、我々同様の島国育ちで、大西洋に閉じ込められた環境におかれた方々である為でしょうか。恋愛に関して殊更空気を読んでは女性の機嫌を伺って、色事について決して無理強いはせぬシャイになりがちな彼らでさえ、夜の情事や性に関して表沙汰は関心のない振りをして、秘密裏に色事を究めて試そうとするけれど、表立っては紳士的に努めて、世の中のレディーには優しくあれよと、一歩引いた立場にいる彼らは、寝台の上に際しては凡そ肉食であるものの、意外にも私たちの国における今どきの日本人男性と気質が似ているのかも知れないのです。普段、仕事場における最低限の社交に始まり、酒場における不純な異性交遊から、本気で熱を上げている女性に対する交際願望とその後の対応に至るまで、よもや騎士よ紳士よと持て囃され女性から羨望の眼差しを向けられるイギリス人男性であっても、恋路や姫事(ひめごと)に関して女性に遠慮して強気に出れないのではないかと、繊細で何処か躊躇いがちで殊更女々しく、自分の要求も無理強いできないような気弱さこそ彼らの実態なのではないかと、ある時を境にそんな事を思うようになったのです。
 日本人の私から見ると、イギリス人は大人びた方が多い事。いえ、ませたように見せる事に長けているとでもいえばいいのか、彼らはインテリゲンチャな気風を好んで、とかく冷笑的(アイロニー)で皮肉(シニカル)であるように振る舞って、その実、紳士的である事を己に課すあまり、感情を内に抑圧することの多く、自己形成と自己表現に際して何かの歪(ひずみ)を抱えて、悲鳴すら上げられないのではないかしらと思う程に、なんだか窮屈で気の毒な生き方をしているように見える事があるのです。といってもそれが彼らの人柄の個性であって、良いところでもあるのだけれど。其れとも、ロンドンから外れた郊外にて、ヨークシャーやコーンウォールなどの、畜産や農業を営む田舎の方へ向かえば、そこにはウィスキーで春を祝杯し鳥と共に歌いだすような、牧歌的で素直に喜び合う人々の仕草を見ることができるのでしょうか。
 とかくイギリス人のミカエル・ウォードという方は、仏頂面で感情を表に出すことをしないで、その口はとてもお喋りだけど、いつも遠まわしな皮肉と直接的な嫌味ばかり口ずさんで、本心を潜めて実のない事ばかり口にするような、何処か捉え所のないお人、まるでいつかのニヒリストのよう!…そんな冷たい印象すらあった方なのだけれど、今は少しだけ彼の人柄を掴めているのかもしれません。

 イギリスでは、階級社会といって、紳士的であろうとするご自身とその家柄、体裁を守る為に、恰も知的で大人びたように振る舞い、人と一線を引いた目線に立って、いつも冷ややかに物事を見ては憎々しく皮肉を言ってほくそ笑む方の多いこと。地方へ向かえば都市部の知識人のエリートに対して肉体労働に勤しむ労働層の方をお見受けして、仲間内でお酒を飲んで、江戸で言うべらぼうめ!と、意地や根性を露わにする様な、賑やかで感情豊かで気さくで陽気な方を知る事ができるのかしら。それとも、喩え紳士服のスーツを着ていないとしても、私を女と知るやレディファーストと言って、麦の手入れをしている農夫の方も気障に振る舞われるのかしら。まさか、およそ日本人がフランスに抱くイメージ…パリ中央に荘厳と聳える凱旋門と円状に広がるシャンゼリゼ通り、そこを何食わぬ顔で歩いてすれ違うパリジャンとパリジェンヌに多くの夢を見るように、イギリスに対してベイカーストリートの名探偵やビックベンの紳士、淑女ばかり思い浮かべて懸想するのも、貴方がたイギリス人からすれば実体の得ない虚妄に過ぎないのでしょうか。

 こと日本に於いては、婦人の尻に敷かれる殿方の多い事!仕事場で部下を怒鳴りつける上司の方も、家に帰ればひとたび妻に頭の上がらない気弱な恐妻家に変わってしまうというけれど、イギリスでもジェントリだなんて大層な呼び名とは裏腹に、家庭では妻の機嫌を伺って娘息子から疎まれ、夜一人孤独でひもじい思いをしているのかしら。もしミカエル様も又、例にもれず、そういった女性に弱いお人だとしたらなんだか急に少しおかしくなってしまって。貴方がいつもつまらなそうに顰め面をしているのも、私と一緒にいる間だけで、貴方の好いた誰かが待っている食卓につけば、また違う表情をするのかしらって、想像するだけで笑ってしまいそうで。

 レディファーストを重んじフェアな紳士である為に、女性の意見ばかり気にして自分の事はおざなりにしつつ人に遠慮がちになってしまって、ミカエル様のような方は特に場の空気を重んじるあまりに、いつか本当に潰れてしまうんじゃないかと、少し心配することもあるのです。日本ではつい最近まで家長は大黒柱と言って、男性の置かれる立場と責任が大きかったものだから、私のような物の分別もつかない女があまり出過ぎた真似をすると、とかく可愛くない!そう殿方に陰口を言われていじめられるものだから、貴方の言葉で言えばブリーングやハラスメントとでも言うのかしら、まだあの頃の日本の気風が今も尚残っていると感じることも多いこの頃だけど、でもきっと性別を巡る事に関して、諸外国においても事情は似通っているのではないかと思って。社会においては女性の立場が弱いのに、家庭においては殊更男が嫁姑の機嫌に振り回されて、居所でもないように旦那様が家の中をうろうろ右往左往するのは、どの国でも同じではないかとこの頃感じることも多いのです。

 そういえば以前ミカエル様から英語について教わった事がありました。きっかけは私の英語の発音だったのですが、私がカタコトの英語を喋るとミカエル様は必ず青虫でも噛んだような苦々しいお顔をした後、眉根に皺を寄せて湿った溜息を吐きながら骨ばんだ指先を額につけて眉間を揉むのです。なんでも私の発音や語彙の使い方がおかしいらしいのです。
 確かに日本人は英語の発音をとても苦手としています。同じアジア人でも中国や韓国の方はとても英語の発音が綺麗ですのに、やはり日本語のように母音が強い言語と、英語のような子音が強い言語とでは、きっと舌や唇の使い方が違って育つのでしょうね。驚く事に英語の発音において、例えば「a」という文字を含む単語のスペルがありますが、私たちにとっては同じ「あ」でも、英語圏の方に取って「a」一つとってもそれぞれ発音に微妙な違いがあるそうなのです。例えば、口内の奥から声を出して短く[ɒ]という短母音だとか、aとiの音を合わせた[aɪ]という複合母音だとか、aの母音を伸ばして言う[ɑ:]の長母音だとか様々で、他にも舌を少し持ち上げて喉口を狭くする発音だとか、aとe二つの母音の間を取った様に発音するなど色々と種類があるそうなのですが、でも日本語においてはその微妙な発音の違いも全て「あ」か「あー」になってしまうのです。なにせ日本語をローマ字表記すると子音の後ろ全てに/a/,/i/,/u/,/e/,/o/の母音がそのままつくものですから、英語などを見ても日本語では表現できない発音が異国の言語には多いと感じるのです。むしろ異国の方にとっては日本語の発音の方が奇妙に聞こえるのでしょうか。
 なのでミカエル様にそのように尋ねたのです。すると、ミカエル様はそういった事はあまり気にしていないとのことでした。では一体何が悪かったのでしょう。するとミカエル様は私の発音や語彙はアメリカのものだと語気を強めて言うのです。私は思わず口をつぐみました。英語といえばEnglishですが、"Eng"だとか"英"とある割に私の国の英語教育はアメリカ準拠なのです。そもそも日本人が英語を義務教育で学ぶようになったのも日米の軍事同盟と政治関係が背景にあると思いますし、やはり日本にとって一番身近な英語圏はアメリカなのです。日本人の中にはふざけてアメリカ語だとかAmerishという方もいるぐらいですから。
 そう言うと、ミカエル様は怖い顔をしながら小一時間程私を拘束し、私の英語のダメなところを懇切丁寧に、いっそ重箱の隅でもつついてそのまま破壊してしまうかのような勢いで口頭でまくし立てて、イギリスでの発音はこうだとか、アメリカ英語をイギリスで使うとこう誤解される、同じ単語でも英米では全く発音が違う、と私に仕込んでくるのです。あの鬼の形相はまるで大学入試を前にした進学校のカリスマ英語教師です。私は息の詰まる思いでした。確かに私の英語はまだ未熟で直すところの多い自覚はあったのです。でもロンドンに留学して数月、少しは自然に会話できるようになれたかな、と思い上がっていた矢先の事だったので、私はまだ学ばねばならぬ事が多く、ネイティブ並みに流暢に喋ってTOEIC900点をとるなどずっと先の事のだと、酷く落ち込んだのを覚えています。
 私は長い英単語を覚えるのが凄く苦手なのです。例えばconductだとかcontoributeだとかconserveだとか、頭にconのつく単語がとにかく多いので、その上ひっかけ問題みたいに頭にcomがつく単語まで登場するので、咄嗟にどれがなんの意味だったのか区別がつかない事が多いのです。そう言うと、ミカエル様は英単語は接頭語、語幹、接尾語という組み合わせでできていて[]、それぞれ語源や意味があるのでそれも一緒に覚えると良いというのです。例えば英語にはcookという単語があるのですが、料理をするという意味があるその単語は、「火を通す」というニュアンスも含むらしいのです。だから英語圏ではここ数世紀まで生で魚を食べる文化がなかったのです。だって英語圏の人にとってcookとは鍋で煮込んだり焼いたりすることを前提に認識するのであって、私たちの国のように、新鮮な魚ならば生で食べても美味しいかもしれないから刺身に調理しようと思う事は言語的にありえないのです。そもそもキリスト教の立場から考えれば、旧約聖書の出エジプト記12章9節に「肉は生で食うな」とはっきり書いてあるので、それも理由にあるのでしょうか。クリスチャンがタコを悪魔として口にしないのも、ひれと鱗のない魚は穢れているので食すなとレビ記11章に規定されていたので、その名残みたいです。調理法だけでなく食べるものまで決められているだなんて、熱情の神に仕える方はとても大変なの事なのですね…。
 そんな風に英単語一つをとっても、様々なルーツがあるそうなのです。例えばadorableという単語は元はフランス語なので、その英単語一つを調べ上げるだけで、英仏間が歴史的に密接して相互に影響を受け合っていた事がわかって、語彙を広めるついでにフランス語や二国の歴史関係も覚えられると、ミカエル様は話しておられました。他にも「cred」は信頼、「tri-」は3を意味するので、喩え初見で意味のわからない単語にであっても、それらの語源から意味を大まかに推測することもできるらしいのです。元々英語はフェニキア文字を原初にギリシャ文字と迎合してアルファベットと呼ばれるラテン文字へと変化していったので、ギリシャ語とも関連付けて考えるとより一層深みが出るとのことで、なんだか中国から漢字を教わってそこから平仮名と片仮名を作り出した日本の歴史となんとなく似ている気がしました。漢字にも部首や冠など字を構成する部位に名前があって、火という漢字を例にとれば、その字は実際の炎をイメージして出来上がった漢字なので、日本語の熟語も一つの漢字の意味やイメージを知っているとなんとなく熟語の意味も読みも直感で分かる事もあるので、やはり言語というのは国や民族の持つ歴史や文化と表裏一体なのでしょうね。
 そうしてミカエル様は、資料が足らないと私を屋敷に連れ帰ってまで英語に関する蘊蓄をご教授して下さったのですが、私がうんうんと聞いているうちに、解説は次第に熱を帯びていき、仕舞には魔導書を思わせるような豪華な厚紙の背表紙に金の装飾の施された綺麗な古文書まで本棚から取り出して本格的に英語をご指導して下さったので、はっと気が付く頃には明け方になっていました。
 窓枠から差し込む日差しは淡く、外は薄暗くて室内はまだ冷たさを帯びていましたが、窓枠の向こうで風に揺れている影がかった木々の葉の輪郭や遠くの山の端は鮮やかに萌えていて、耳を澄ませば遠くから微かに鳥の声が聞こえるのです。
 私は長椅子に寝かされていました。四角い角の形に食い込んだ私の頬を見るに、どうも机に突っ伏したまま眠っていたらしく、見れば私の胴体にはブランケットが控えめにかけてありました。鈍い意識を何とか奮い起こしクッションから頭を持ち上げてみると口の端からつうと涎が垂れてしまったので、急いで袖で拭いました。まさかこんなだらしない顔をミカエル様にみられていたらと思うと羞恥のあまり今すぐ死にたい気持ちになりましたが、肝心のミカエル様は部屋にはいらっしゃらないご様子でした。結局その日は寄宿舎に戻らずミカエル様の書斎で不貞寝してしまっていたのです。おずおずと部屋を出て、戸の隙間から隣室を覗き見ればミカエル様は椅子にゆったりと腰掛けて静かに朝刊を読んでいました。私に気を遣わずともあの時起こして追い出してくださればよかったのに。お声掛けしようとも思いましたが申し訳なさが勝って碌な言い訳も思いつかなかったので、そのまま部屋に戻って、ミカエル様に起こしてもらうまで熟睡していた事にしようと思って、ブランケットに包まってもう一度眠りなおしました。
 目を閉じればやはり脳裏に浮かんでくるのは、あの鬼教師のミカエル先生なのですが、あれはもはや教師というよりはprofessorの域で英語について熱心に話しているミカエル様はなんだかいつもよりお顔が生き生きとしていた気がします。ですが、せっかく「dictは『話す』という意味があるのでdictateやpredictなどdictという語幹のある単語は話す事を重点に置いた単語だと直ぐにわかるので辞書を引かずとも前後の文脈で推測する事ができる」と教えてくださっても、日本人の私には「ディクテイ」「プレディク」としか聞こえないので、語幹や語源を利用した会話の推測は私の技量ではとてもできそうにないのです。ただでさえミカエル様のお話は専門的な話が多くてヒアリングが難しいのに、今回はもう本当に何が何だかわからないの一言で、思考回路は既にショートしているのです。ミカエル様のお話はこれ以上ないぐらい情報が詰め込まれていて、私の頭のOSでは処理しきれず、何も頭に入らなくて最早何もわからないのです。果たして、私はいつになればカタカナ英語を卒業してローマ字が聞こえる英語耳になれるのでしょう。
 そうして私を一瞥しては得意げに、いいかね、覚えておくといい、と一回一回隣で確認するミカエル様は心なしかはしゃいでいるような、少し楽しげなような。結局私は寝落ちして今更大学入試を受ける悪夢を見て悲鳴を上げるように目が覚めた訳ですが、昨日あんなに一生懸命覚えようとしたはずの肝心の英単語はすっぽりと抜け落ちていて、私の記憶には眠りに落ちる時にまどろみの中で見たミカエル様の優しく笑ったお顔しか残っていなかったのです。
 それは夢か幻か何かだったのでしょうか、それとも私の願望で記憶すらも歪めてしまったのでしょうか、今となってはもう何もわからないのです。

 ミカエル様はとても立派な方です。それなのに、私と言えば、そそっかしい上に、兎に角気が弱くて、不安でおどおどしている事の多い事、人の気を揉んだり煩わせてばかりで、いつも不甲斐ない想いをさせているのではないかと、それで一層気が滅入って、堂々巡りをしているのが私の常なのですが、異国の方…とりわけミカエル様に至っては、そんな物鬱で日頃困ったように口を閉じている要領の悪い私に、古典的な日本の女性像を見てしまったようで。彼は私をあの淑やかで控えめな気立てある物わかりの良い古風な日本の女子であると、何処か勘違いしている節があるのです。英語も碌に話せない私が口をもごもごとして伝えたい事を上手く喋れずおろおろしている様を、もじもじと恥じらいすっかり照れてしまっていると受け取られて、表情もあまりないものだから、ただ上手く人とお喋りできないだけの内気で暗い私を、貴方は大和撫子か何かと持て囃して、私を隣に連れ歩いては得意げでいるものだから、申し訳なさも一入で、一層何も言えなくなってしまったのです。
 ミカエル様からすれば私は殿方の後ろをちょこちょこついてくる奥ゆかしい娘に見えるかもしれませんが、私はただミカエル様の歩幅についていくのが精いっぱいなので、貴方に置いて行かれぬ様懸命に小走りして、隣につこうと必死に追い縋っているだけなのです。流石ミカエル様は軍人だけあって歩く姿もきびきびとしていて、不謹慎ながらまるでマニュファクチュアの工業機械の律動を思わせるような、それほどに精錬した格式高い歩みなのですが、カツカツと軍靴を踏み鳴らして大股で歩く様は、控えめに言っても見栄えが良くて、私の様な世情に疎い田舎娘であっても思わず見惚れる様、なにせ西洋人は足が長くて、ましてミカエル様の背の高く恰幅の良い事、彼が一歩二歩前に踏み出して軽く街道を行けば、よちよちと歩いている私はすっかり間をあけられてしまって、彼のようにロンドンの街並みを堪能する傍らで首を向けて私に話を振るような余裕もないのです。日本の着物の裾は足首まで伸びていて、大股に足を開けば衣の隙間から脹脛や太ももが見えてしまってみっともない事、加えて草履なんてものは激しい使い方をすれば靴底が擦れてすぐに駄目になるのに、さらに言えば私たちは小幅で小さく歩く事を良しとして躾けられてきたので、日本の娘が大股でどしどしと歩いて、まして街道を全速力で駆け抜ける事など、下品で育ちの悪い娘と思われてしまうので、そもそも日本の女の装いは急ぎ歩き走る事などあまり考慮されてはいないのです。だから私はミカエル様が毅然と歩く傍らで、醜い仔アヒルの水面下のばた脚の如く忙しなく小走りしているに過ぎないので、彼の思っているような殿方を敬い慕って旦那様の一歩後ろをついて歩く、そういう淑やかで慎ましい日本の淑女とはちょっと事情が異なるのです。
 しかし本当にイギリスの紳士淑女の方はとても背が高く手足も長いのでバーバリーのお洒落なコートを着こなして歩く姿もまるで映画の撮影か何かのようで、パリ・コレクションのファッションモデルや機内を歩くキャリーアテンダントの様にスタイリッシュでグラマスな方ばかり。私のような日本人とは骨格から造りが違うのでしょうか。ある時、街でアパレルショップのショウウィンドウを見かけてなんとなく眺めていたのですが、煌びやかでうっとりするような素敵な衣装を着たマネキンの立ち並ぶ棚のガラス窓に、ふと光が反射して薄く人影が浮かび上がったのです。見れば背格好の悪い短足のちんちくりんでよぼよぼの着物を着た田舎臭い娘の姿だったので、それが酷くショックで私はすっかり落ち込んでしまって、だから背格好の良いミカエル様の隣にいるとその醜い女の顔が思い出されて、居た堪れないぐらいに恥ずかしくなってしまって、石の敷き詰められた街道、人が犇くロンドンの雑踏の中を一人切り取られて、その場にポツンと取り残されてしまったような、そんな物淋しい卑屈な気持ちになるのです。あの文豪の夏目漱石もイギリスに渡って、最後はロンドンの下宿先に閉じ籠ってしまって、鬱病やノイローゼを患ったと言うけれど、今になってそのお気持ちがわかる気がして、当時の彼のこころを思うばかりでした。

 又、私の名前に"桜"や"杏"なんて入っているものだから、ますますミカエル様は気をよくされたようで、その上「桜」と「杏」を並べて"桃”と読むなんて、きっと異国の方にとっては、名前にOliveやLily、Ilis、Roseなどといった、国を象徴する優美な花の名前がミドルネームとして並んでいるような、そんな妙な感覚だったのでしょう。やり取りをする文書上においては、ミカエル様はいつも胸に大切に仕舞っているイニシャル付きの万年筆を取り出してフロントデスクにお屈みになって、黒インクの滲んだペン先を洋紙において、下書きするでもなく美しい英語の綴り字をすらすらと書き上げてしまうので、少し心奪われてしまうのですが、私の名前を書く欄になると少し筆を留めて、わざわざ名前を漢字で書き置いて、店主に読みを尋ねられれば「これで『もも』と読むんだ、わかるかね」と気取った風に答えるのです。字の終わりが不器用に滲んだ幼く可愛らしい私の名前。まるで自分の事のように内心で喜んでおられるので、私は色々な思いが胸の内に込み上げて、やっぱり何も言えないのです。
 でもLilyやRoseと違って、peachだなんて言ってもイギリスの方は花ではなく果実の方を思い浮かべるのではないかしら。すると私の名前は異国の方にはどう映るのでしょう。ましてピーチやチェリーといった名を持つ淑女を未だに見たことがないのに、その上アプリコットだなんて!アプリコットの実を茶菓子やジャムにするイギリス人の事ですから、幾らミカエル様が私の名の由来とその花の蘊蓄を語っても、他の方からすれば、きっと実のなる木とくすんだ枝や幹が出てくるだけで、私の名前は奇妙な木の実が並んでいるだけに過ぎないのかもしれません。それとも私はパイ生地に乗せるフルーツなのでしょうか。
 しかし、そうやって私を健気でしおらしい娘と思い込んでいるミカエル様は、まさか私が、実はあの悪名名高い"おたく"だなんて、きっと思いもしないのでしょうね。私はそれを故郷の知人や周囲にさえ隠しているのに、そんな風に日本女性の私に夢を重ね見ているミカエル様にだけは絶対に素性を知られてはならぬと思うのです。

 もしミカエル様に私がおたくとばれてしまったら、きっと彼は酷くがっかりして、日本女性を儚き撫子であると信じ、私に期待していた理想の女性像も崩れ去って、深く傷つき失望するに違いないと思うと罪悪感があって少し億劫だったのです。特にあの方は知的なユーモアに富んだ貴紳である事を自身の誇りと理想としているので、いい歳をした大人が低俗でくだらないマンガ、アニメを見るなど恥ずへきだ、そんなもの子供騙しでしかないと簡単に切り捨てて嘲笑していた彼だもの、私の正体を知られたら絶対に嫌われてしまう!
 ましてこのお方は夢女子だとかボーイズラブだなんて理解できるのかしら、いえ、そんな事はきっとあり得ないのです。異国の映画ジャンルにもブロマンスがあると言ってもあくまでRomanceであって決してLoveでは無いのですから。どんな劇場においても、主人公と友とが抱き合って堅い友情を結び、主人公と敵とが憎しみ合い刃を交えたとて、私達にとっては障害を乗り越え惹かれ合う二人のアベックと運命に弄ばれ引き裂かれる悲恋のカップルにしか見えないのだと、そんな事を言えばきっとクリスチャンである彼は興醒めして、恋愛とは無関係なサスペンス映画やアクション映画すらも楽しめなくなってしまう。映画もまともに見れないだなんて私たちはなんて腐った生き物なのかしら。全ての物事や関係性を恋愛換算してしまう癖は、私たち恋愛脳の女とっては物心のついた頃から自ずと育まれていたのでしょうが、純粋無垢な子供や何も知らない作家、一般人のいる手前、自分の趣味を大ぴらにするのはなんだか気が引けるのです。だって彼らが愛し合った物語はマンガの如何なる頁にも書かれていませんし、公式ファンブックや設定資料集にさえもそんな事実は記録されていないのです。喩え頁の外側に目を向けてもマンガの神様がそうと決めれば全部あり得ない事なのですから、物語の文脈と行間を読む中で、私達は身勝手で在らぬ妄想と性癖をキャラクターに押し付けてしまっているに過ぎないのです。だからこそ秘するは花…いえ黙し秘するは私達腐れ街道の義務なのです。私は”彼ら“の夢を壊してはならないのです。
 
 それにもっと危うい事には、不覚にもたった一度だけ隙を見せてしまって、ミカエル様に私の絵を見られてしまったのです。しかもよりにもよってその絵がミカエル様を参考にしたスケッチだったなんて!もし変な気があるとか気持ち悪く思われたら、私はもうおしまいです。私達にとって西洋の方の生活や日常風景、放課後ティータイムの優雅なひと時は貴重な同人誌の資料なのです。その時は偶々ミカエル様のお誘いで紅茶とケーキを頂いたのですが、白いテーブルクロスの上、一滴の茶の雫がいつ落ちるともわからない中、陶器のティーポットを片手で優雅に持ち上げて、湯気だった熱々の紅茶をカップに注ぐ様を見るのは圧巻で、いつか日本の推理ドラマで見た”相棒“や某執事のセバスチャンのそれそのもの。どんなロンドンの風景にも負けず劣らずで、まるで映画のワンシーンを切り取ってそれがそのまま目の前に立ち現れたような、そんな眩しい光景だったのです。ソーサーからそっとカップを摘んで紅茶に口付けた後、揺れる水面を静かに見つめるミカエル様の真摯な眼差し。
 これが本場による、本場の為の、本場の紅茶の作法なのだと!
 私は思わずスケッチブックを片手に筆を走らせて、気がつけば紙一面にミカエル様の絵がたくさん出来上がっておりました。しかもよく見ると何だか、絵にあるミカエル様はどうも実際のそれよりもやたらキラキラしているような。はて。そんなほんの一瞬の気の緩みでした。ふとスケッチブックに影が落ちたので見上げてみればミカエル様の彫りの深いお顔が間近にあって、上質なシルクの様に柔らかな金色の前髪の束から覗く例の青い瞳としっかりと視線が結ばれてしまって、よく見れば彼は私の椅子の背もたれの後ろから興味深そうに手元のスケッチを覗き込んでいたのです。まるで永遠とも思えるような、そんな悍ましい一瞬の出来事。"The Day the Earth Stood Still(地球が静止する日)"。全ての生命が諸活動を止めて世界が凍り付いたようでした。
 なんと情けない悲鳴だったのでしょう。えげェッ!?と柄にもなく素っ頓狂な声を上げて、スケッチブックを掻っ攫ってそのまま逃げ出してしまいました。仮にも齢20の生粋の日本娘がキャアではなく、えげェ。せっかくミカエル様がご用意して下さった紅茶もケーキも遂に口にする事なく、冷たく光る銀のスプーンとフォークと一緒にテーブルに置き去りに、呆然とするミカエル様を一人館に残して。あの後彼が二人分のケーキと紅茶をどうなさったのか、私には知る由もありません。あの時見たミカエル様の驚いたお顔といったら、まるで度肝でも抜かれたような、良くないものでも見たかのような、そんな怪訝に歪んだ様相で。吊り上がった眉の下で目を見開いて哀愁すら感じる程に仰天したお顔でした。もしかするとあの過剰な反応で私がおたくだとバレてしまったのかもしれません。その上、後から気づいた事なのですが、その場に手荷物を置いてきたままでした。お財布などの貴重品はミカエル様の言いつけで肌身離さず持っていたのですが、肝心な事にそちらの手荷物の中に何が入っていたのかも記憶が定かではありません。なんて愚かな私!
 そう思うと何だか情けなくなって、私は寄宿舎に引きこもり、その日の夜は布団に潜ってうじうじと思い悩んでは一人悶々として、遂には静かに泣いてしまいました。あの時は本当に思い詰めてしまって、どんな顔をして彼に会えばいいのか、私にはわからなかったのです。激昂されて罵られ縁を切られる事すら考えました。色々と思い巡らせても後ろ向きな考えがぐるぐると渦巻くばかりだったので、彼とは暫く会わないのが一番良いと思い至りました。顔を合わせてもあの時の事をどう説明してどこまでカミングアウトすれば良いか分からず、彼の気を害して苛立たせるだけのような気がして、留学先の帰り道、彼と街角で偶然鉢合わせしてもその時は目を逸らし顔を背けそそくさに立ち去るしかなかったのです。きっと時間が解決してくれると勝手に思い込んで、一人開き直ってしまいました。

 でももしミカエル様が私をおたくと知ったら一体どうするおつもりなのかしら。
 ただでさえ少し異質な日本人と言う印象の拭えない私です。初めてロンドンの地を訪れた当時は毎日が浮き足立っていました。人前では兎に角目立たない様に隅の方で大人しくして留学先の学生の方から根暗で地味と軽んじられても何も物申さぬ癖、一人行動の際には水を得た魚の如くにアグレッシブで現地視察には目がない。ビッグベンの時計塔!ロマネスク様式の荘厳な教会建築!天国にまで届きそうな程に高い天井のゴシック様式の尖頭アーチ上の屋根!歪んだ真珠の名に相応しく撓みを帯びたバロック様式の装飾建築!かつて大陸にあった大木信仰を思わせる木漏れ日と神の威光を模した見事なガラス細工のステンドグラス!そして極め付けはイギリス最盛期、ヴィクトリア王朝のタペストリー!まるで神話や童話にある不思議の国にそのまま迷い込んでしまったかのよう!嗚呼、なんて美しきかな霧の都ロンドン!おおシャンゼリゼを謳うフランス贔屓のパリっ子の日本人も多いことですが、兎角地中海・ヨーロッパ地域の街並みとそこで暮らす人々はまさに生ける芸術です。日常の景色何処を切り取っても参考書にある西洋美術そのものなのですね。そんな事を言うと、ミカエル様は私を赤毛のアンか何かのように喩えて小馬鹿にするのですが、確かそれはカナダの文学ではなかったかしら。そういえばその頃はまだカナダはイギリスの統治だったのような。「あん」のつく子や赤毛の子はいつの時代どの世界でも苦労してきたのですね。あの子は天使みたいないい子でした。いえ、これは本当にただの独り言ですけれど…。
 話をロンドン観光に戻します。そうやって私が夢中になってロンドン中の街並みをパシャパシャとカメラで撮っているのを「日本人は本当にカメラが好きだな」と呆れ果てたとばかりに毒づきつつ溜息混じりに遠く見守っていたミカエル様でしたが、私はと言えば何故か自分は映る事をせずにずっと道行く人々やロンドンの景色ばかり写しているので、見かねたミカエル様がカメラを上から取り上げて、私などと一緒に写真に写ってくださって、細かなシチュエーションを伝えれば腰に下げていた歩兵用剣を胸に掲げて下さったり、頼む前から騎士の忠誠のポーズまで取ってくださるのです。なんてお優しい方なんでしょう。きっと私が恋人はおろか一緒に写るお友達すらもいない可哀想な人と思って、ひとりぼっちの私に憐憫の情を向けてくださったのです。ミカエル様の勧めでロンドンだけでなくイングランド郊外の自然の残る美しい麦畑や歴史ある古い街並みなども教えて頂いて一緒にお写真を撮ったのですが、その二人で写った記念写真もイギリスの趣のある風景写真も、全ては同人誌を描くための背景素材とカップリングの参考資料の為に使われていると知ったら、普段感情を出さない冷笑主義のミカエル様は一体どんなお顔をするのでしょう。まして攻めの資料用に彼のお写真が使われているだなんて、きっと夢にも思わないでしょうね。
 ミカエル様はとても身長の高い方なので丁度今描いているカップリングの攻めの理想像と重なる部分があるのです。博識で知的だけども少しだけ捻くれた皮肉屋の大人の男の人。白人にしても黒人にしてもやはり西洋人の顔立ちというのは、二重で目が大きくて鼻も尖って頬も削げていて兎角お顔が立体的で、幼く可愛らしい顔立ちの東洋人とはまた違って、男女共に容姿淡麗で兎に角美しいのです。cuteという感じではなくbeautifulと言えばいいのでしょうか。兎角にミカエル様は自分の美しさを知らない幼気なbeutifulboyなのです。ですから、眉を顰めて厳しい眼差しでこちらを睨む様も絵になります。でも、そのお顔で無言のままじっと見つめられたら本当に怖くて、その時は緊張で身が縮こまる思いでした。
 又、その時期に気づいた事なのですがミカエル様は褒め言葉をそのまま受け取る事はせず、何か含みがあるのではないかと私の言葉を嫌味か皮肉だと疑う事が多いのです。何かのプライドやご自身が皮肉屋である為かもしれません。日本語もハイコンテクストな言語とは言われているのですが、イギリス人も遠回しな表現を好む国民性で、言葉通りに受け取ると後から痛い目を見るのです。まるで京都を見ているようでした。
 だからあくる日、ミカエル様の博識さに感動して、彼を教授か何かのように例えて、思いつく限りの賞賛の言葉で褒めちぎった事があったのですが、ミカエル様は段々居心地の悪そうなお顔をするのです。不安になって尋ねてみれば額に当てていた手を外して湿った息を吐きながら「それは私に対する嫌味かね」と苦々しいお顔を向けて言うのです。ミカエルさんはすっかり不機嫌になっていました。私は頭が真っ白になって慌てて心からの賛辞であると説明ました。それでなんとかミカエル様の機嫌はなおったようなのですが、なんだか酷く落ち込んだ様子でした。まるで母親の機嫌を伺う子供のようで、不気味な程に大人しく力のない目で私を見つめていました。もしかしてミカエル様はイギリスのブラックユーモアや皮肉に慣れすぎて、素直な褒め言葉に慣れていないのかも知れません。それとも本当に心からご自分が未熟で駄目だと感じていたのでしょうか、その時、いつも落ち着き払って不遜な態度でいるミカエル様に、ふと影を見た気がしたのです。もしかするとミカエル様はその実力とは裏腹に虚勢のようなものを張っていて、本当はご自分に自信を持てていないのかも知れません。傷心しているようなご様子のミカエル様を一人放ってはおけなくて、その日はパブまでご一緒して二人でテレビのスポーツ中継を見て過ごしました。彼は何も言いませんでしたが、本音を人に言えず、プライドは高いのに自尊心が低くて何処か打たれ弱いところは日本人の男の人と似ているなと少し思ったのです。

 ちょうどミカエル様と距離を置いていた時の事です。ロンドンの留学先のおたくのお友達から初めてボーイズラブのエロ同人なるものを見せてもらいました。
 興味が無かったわけではないのですが、当時の私はボーイズラブはあくまでも二人の精神性を重んじるのであって、世間には到底受け入れられぬ二人の同性愛について、どう障壁を乗り越え性別の壁を克服していくのか、そう言った報われぬ鬱々しい世界観と恋愛道に魅せられてこの界隈に足を踏み入れたのです。BL…と言うよりは“やおい”と言えばいいでしょうか、作者やスタッフの織りなすマンガとアニメ、ゲームの世界に殉じ、感想と共感を求めてインターネットの奥地奥地に進む内に、いつの間にやおいを嗜むようになっていました。
 男女のカップルというのはどうしても肉体関係に依存しがちなもの、かわいいから、かっこいいからという表面的な男女の魅力を持て囃し付き合う事も多い欲望の世界です。又少年誌では何かと女性を優遇しがちでヒロインの我儘に主人公が振り回されて損をするのが当時はなんだか気の毒に思えたのです。主人公はこんなに頑張っているのに、男友達やライバルの方が彼の努力を理解して対等に向き合っているようにさえ見えたのです。同じ女性だからこそ評価が厳しくなって、好きな男キャラに対してモンスターペアレントになる女おたくの方もいらっしゃる故に、男同士の空間に女が入ってくるなと邪険に扱い一蹴する事も少なくなく、ヒロインは何かと叩かれがちで少し可哀想なのですが、今思えばあれは作者の願望で、好きな女の子に頼られたり嫉妬されたいと言う心の現れであって、女の子は多少我儘でアホの子の方が可愛いという事みたいで、それはちょっとしたミソジニーなのでしょうが、あの茶々はただのイチャつきであって、彼ら本人にとっては特に問題ではなかったみたいなのです。殿方は多少手の掛かる女性に振り回され、好きな女性の為に影で奮闘して何も知らぬ彼女に感謝される事で男として優越感に浸りたいのですね。
 しかしボーイズラブはあくまでも物語における二人の関係性から発展して、そのキャラの持つ背景やパーソナリティを重んじた上で愛し合うのです。こういうとまるでクリスチャンか何かのように思われるかもしれませんが、私はついこの前まで肉的欲求は低俗で野蛮な気がしていたのです。例えば少年雑誌にある胸を強調した美女の水着のグラビアは女性の私からすればなんだかいやらしくて卑しくて背徳的で、汚いものを見たような気さえするのです。洋画や日本の昼メロドラマにある男女のアダルトな絡みは、思春期の私には少し刺激的で俗物過ぎるといいますか、恥ずかしくてそれ以上に見てはいけない、知りたくない大人の世界の悪いやり取りを見てるような気がして、性に関する描写と欲望はこんなに醜いんだと思い込んで、それ故に肉体は不浄で穢れているような感覚さえあったのです。
 しかし肉体の持つ本能などはボーイズラブとやおいには関係ないと感じていました。あくまでも互いの魂を求め合う内に、相手に色気を感じて愛を確かめ合う行為の延長としてエロスがあるのであって、俗に言うセックスはあくまでも二人が精神的に一体となる為の高尚な秘め事なのです。全ては二人の愛の為に。攻めが受けに恋するのは相手の性別に依らず、運命と物語に弄ばれ痛めつけられて心身共に窶れていく中で、受けの持つ相手の仲間に対する優しさと思いやり、人の持つ悪しきや悲劇に立ち向かうひたむきで愚直な心の美しさ、ともすれば一瞬で折れてしまいそうな危うさと弱さの中で、攻めは永遠を知るのです。茨によって堅く閉ざされていた心が受けの献身的な優しさにより解れていき、終いには自分の内にあった棘や邪悪さ、そして己の寂しさを埋める為の肉的渇望と汚い自分のち…ごにょごにょさえも包み込んで、少年の中のアニマによって穢れた肉と霊は浄化され攻めの抱える過去の過ちと悪行も、世の中への恨みつらみや心に負った堪え難きトラウマすらも受けの母性の前では幼き子供であってどんな悪意も無意味なのです。受けの万人に対する深い情けによって存在を許され、喩えその慈悲が自分個人に向けられたものでなかったとしても、まるで祝福でも受けたかのように魂はより高い次元へと昇華し心を癒してしまうのです。その者の背負う痛みと悲しみを共に分かち合い、その者と共に業火に身を焼かれ時に地獄まで添い遂げ、受けの絶対的な愛の力によりてその者の魂が救われん事で、人間不信で天涯孤独な攻めの中に愛の情念が芽生え恋に堕ちるのであって、容姿の美しさだとか胸やお尻などの肉体的な要素はこの際関係ないと、当時の私は固くそう信じていました。キリスト教的にいえば性愛のエロースではなく絶対的無償の愛のアガペー、哲学的に言えば肉欲に依存した肉体的高揚を重視するのではなく、魂や精神的高揚を良しとするという感じなのでしょうか、あのギリシャ神話の酒の神ディオニュソスの密儀においても、飲酒や音楽による鼓舞により肉体から開放されようとしたのです。おそらくは肉的快楽に対する精神的充足感の対比や、霊的なものを高尚として肉的なものを貶めるような二元的対立は太古からあったことで、生産と豊穣、肉欲を司る地母神と知と霊を重んずる姿なき天の父が信仰において覇権を争い多くの古代人が血を流したように、肉と霊の二元化と比較は今に始まったことではないのですね。とりわけ思春期の男女においては二次性徴による身体的な変化に伴い、自身の肉的なジェンダーと乖離する精神(パーソナリティ)の統合は青少年の発達課題として普遍的な問題でもあるのです。腐れ趣味のある女おたくの中には、無論天性として好きだった方もいるのでしょうが、同性に対する嫌悪感や日本の求める女性のジェンダーロールや少女趣味に染まりきれない事を理由になんとなくおたく界隈ややおいジャンルに来る方も多いようですから。
 自分でも何を言っているのかよくわかりませんが、世の腐女子や腐男子のおたくはジャンプやマガジンを読みながら大方こんな事を考えているに違いないのです。私だけが特別に頭がおかしい訳ではありません。おたくは大体5秒ぐらいでこんな事を朧げに想起して、常日頃どうやってこれらを文学的、漫画的に表現して信仰するカップリングを自分以外のおたくに布教しようかと大真面目に考えています。こういうと大袈裟な気がしますが彼らは本気です。たかが二次元なのに、と思われるでしょうが、世の中にある宗教形式というのは概してそういうものではないでしょうか。物理的に存在しない姿なきものに対して思い巡らせ、なんの因果も科学的根拠もなければそんな事実さえも原作に描写されていなのに、そういったおたくたちの願望や思考が法的構造を帯びて経典として体系化されるのは、もはや信仰の基本様式なのです。むしろマンガ・アニメ・ゲームのキャラクターは平面上に存在する二次元的存在ではなく、あらゆる空間、時空に偏在的に存在する四次元的存在で概念に昇華するのです。同人誌はそんな風にして出来上がるみたいです。そう考えると、日本人は本当に無宗教なのでしょうか。ただでさえカップリング闘争とヒロインレースで日頃ネットで醜く言い争っているおたくの事ですから、無自覚な分なんだか余計に悪質な気がします。そんな私たちおたくがユダヤ教やキリスト教、イスラム教といったアブラハム宗教圏の信者の人達を、迷信を信じている前時代的な思想の持ち主であると批判するなんてなんと烏滸がましい事なのだろうと、ぼんやりすることも多いのです。

 だからこそやおい文学や漫画において、カップリングの二人が性欲に任せて肉体的に互いを求め合い性的に交わる事を、私自身はそれ程求めてはいなかったのでしょう。そのおたく仲間の彼女が、ようやく成人したと言う私に嬉しそうにご贔屓の同人作家さんのYaoiマンガを紹介して下さってそれを見て私は思わずギョッとしてしまったのです。
 お恥ずかしながら私は成人向けには着手した事も、好んで読む事も無かったのです。やおい小説の類を読んでいると、流れで色っぽい雰囲気になる事は何度もありましたし、あくまでも文字の上での話でしたので、塗れ場が出たとしても私の中ではふわっと流してしまっていたのでしょう。しかしいざマンガという具体的なイメージでそれを見せつけられると何だかその様子が酷く生々しくて、その上それは男性同士の恋愛の情緒や二人の間に流れる空気感を楽しむ恋愛漫画というよりは、男性向けの成人誌を思わせるような、えっち極まりないもので、思えばあれは女性向けと言うよりはゲイ向けというものだったのかもしれません。兎に角、男同士が野生的にまぐわい、攻めが恐ろしく端正で鬼畜のようなお顔をして息を荒くしながら、受けが白目を向いて喘ぎ苦しみ涙するまであれをあそこでああする絵が何頁にも渡って永遠と続いているような…、まさに性欲の発散とでも言えば良いのか、リビドーやエスの欲しいままに任せて貪るようにセックスする、きっとあれこそが『本物のBL』だったのでしょうね。本当の腐女子の方や同性愛者の方からすれば、私の描いていたものなど、幼稚なおままごとでただの"BLごっこ"に過ぎなかったのかもしれません。失礼とは存じますが、その時の自分には、いえ、今も尚引きずる部分もあるのですが、自分の好きな男性キャラがまるで乙女のような恥じらう顔をして体格の良い男性キャラに犯され恥部を晒しながら下品で卑しい言葉で喘ぎつつセックスするのを見るのは、私にはとても耐え難い、理解のできない世界だったのです。何だか作品もキャラもお友達も、そして私自身も薄汚れてしまった気がして。その時は半ば放心気味だったかも知れません。きっとミカエル様が聞いたら冷たく嘲けるでしょうが、何か大切なものを喪ったような気持ちでした。ミカエル様のところで言うならば神様が異教の神々に愚弄され汚されたような気持ちだったのです。リリムに伝わる神話に準じればシュメール・バビロニアの女神ベリリが悪霊リリス、悪魔メデューサの恐ろしき蛇の魔女として後世に伝わったかのような感じです。

 そのおたくのお友達もロンドンへ留学にいらした異国の方でした。父方はヒスパニック系のアメリカ人なのですが、母方はイギリス人でそのお母様の実家がカンタベリの方にあるのです。イギリス文学に興味があってアメリカから留学しに来た文学少女の彼女ですが、日本の文化も大好きでアメリカのご友人とよくマンガやアニメの話題で盛り上がっていたそうで、流石社交上手なアメリカ育ちなのもあって私のような根暗であっても日本人と知るや直ぐに私をおたくと見抜いて、気さくに話しかけて下さるのです。その上腐れ文化にも理解のあるfangirlのslasherでしたので、少しコアな話をしても「Good!」「How nice!」と肯定してくださるのが私には救われる思いだったのです。喩え異国出身であってもおたく同士は何か見えない力に導かれ通じ合ってしまう、きっと私達は文字通り”腐れ縁“で繋がっているのですね。でもアメリカと違ってイギリスではアニメ、マンガ、と言うとおたく、ナードと言っていじめられるので、随分と『擬態』に苦労していたようでした。
 それにしても喩え諸外国であっても文学少女と言えば、隠れおたくの意味になってしまうのかしら。異国の方は人文学や文学部というとその国の古典文学と文化・語学に堪能な知的な女性というイメージになるそうなのですが、日本では専ら歴史・偉人おたくやネットでやおい小説を読み漁る自称文学おたくの隠れ蓑になってしまっているのです。日本の学校において、美術部といえば西洋美術史や本格的な日本の絵画技法を学ぶような純粋な芸術家は少なく、マンガとアニメの話ばかりしているおたくの巣窟と知ったら、芸術の本場のイタリア人やフランス人は何を思うのでしょうか。確かに絵を描くことは美術には違いないのですが、おたくの教科書と聖書はマンガやアニメ、ゲームであって、それらを娯楽として楽しみつつ好きなキャラやカップリングを描いて語るのみで、本編の話を吟味してテーマを考察したり、学術的・芸術的な見地から考察して体系化しようと研究する学生は殆どいないのです。それにアニメマンガの他にもせっかく日本には墨絵、浮世絵、版画などの伝統的な描写法もありますのに、アニメに心酔するおたくの私がこう言っていいのか分からないのですが、日本人の芸術教育と文化の啓蒙はこれでいいのでしょうか…。

 ロンドンにはいろいろな人種、民族、国籍の方がいらっしゃいます。地方や諸外国から様々な人が訪れるので、きっと地方出身者の田舎者が集まる東京と同じような実態なのでしょう。むしろ生粋のイギリス人の方が珍しいくらいで、ロンドンにはロンバード・ストリートと呼ばれる銀行や保険屋、証券会社が立ち並ぶ街道でニューヨークのウォール街に匹敵するような大きな金融街があるのですが、そこにはスーツを纏い忙しなく歩く殿方が多くいらしゃって背広姿の黒人の方や、中には日本人にしか見えないアジア人の方もいらっしゃるぐらいで、煉瓦と石造りの西洋モダンな街並み[]を歩く彼らは東京の鉄コン筋クリートのビル街を行く日本のビジネスマンとはまた違った趣があるのです。
 YaoiもOtakuも日本から広まった言葉ですが、そのお友達は私より余程やおいの理解が進んでいて、実はハイスクールの頃から成人向けの小説や漫画をネットで見ていて、辞書で調べて日本語を英語に翻訳するのは勿論のこと、驚く事に日本人の同人作家も把握していて何度かコミケットに足を運んで同人誌も購入したと言うのです。さすがおたくです、好きな事に関しては凄まじい行動力です。コスプレも嗜む彼女は、さすが西洋人だけあってアニメキャラクターの衣装がよく似合う。日本のアニメやマンガは何かと金髪や銀髪の奇抜な髪色と髪型のキャラクターが多いので、黒髪の私たちがコスプレをしてもよほど顔立ちが整っていて洋服の似合う人でもなければ何処か学芸会の空気が拭えなくて、いっそカツラやウィッグを付けず独自にアレンジした方がその人の良さが出て似合っているぐらいなのです。しかしファンガールでコスプレイヤーの彼女の場合は、有無を言わさぬようなリアリティと本家感があるのです。無論最近では日本の方のコスプレのクオリティも上がってきて、そもそもおたく女子の美容意識も高まった事も大きいのですが、化粧だけでなく衣装を自作して可愛くある事に日々弛まぬ努力をしている上、東京に行くと本当に可愛らしいお人形みたいな方が当たり前にアニメやマンガを楽しんでおられるので、もうあまり大差はないようにも思うのですが、彼女は90年代のファンタジー系アニメを好んでいて、一度金髪の女キャラのコスプレをしたお写真を見せて頂いた時は、もはやコスプレの一線を超えてまるで実物そのものだったので、本当に愕然してしまったのです。
 特にハリウッドなどの映画文化の盛んなアメリカです。実写的な再現に関しては日本人よりも意識が高いのかもしれません。彼女は服の素材にかなりの拘りがあって、簡単なアニメの時代考察を元にピッタリの服の素材を購入して衣装を作ってしまうのです。アニメの絵ではファンシーで平面的な衣装の飾りも金属系のアクセサリーを利用して実写として違和感のないように衣装の生地との相性やバランスを考えて、現実で着る衣装としても違和感のないものを作り出してしまうのです。アニメチック過ぎるデフォルメの効いたデザインは流石に独自にアレンジするらしいのですが、その出来栄えはアニメのコスプレというよりは、まるでFINALFANTSYや洋ゲーの世界のキャラクターなのです。アニメの設定と世界観から使う素材の考察をするなど、そう言ったリアリティへの追及があってのあのクオリティなのですね。そして何よりご自身が楽しんでおられるのが伝わって来て、見てる私たちの方が元気になってしまうのが素敵だと思うのです。
 ただ彼らがやたらアニメキャラの人種を白人かアジア人か議論する感覚はいまいち私達にはわからないのです。アニメキャラはあくまでキャラクターの個性として金や赤の髪色をして時に肌も褐色であったりするので、そのキャラの人柄やビジュアルに合わせて色彩を設定し、カッコよくて見栄えがあるからそうなっているのであって、別に人種的な違いがある訳ではなく、端的に言って日本人はそこまで深く考えてキャラを創ってはいないのです。きっと多民族国家の異国の方にとって民族問題は身近な事ですから、遺伝的なルーツや肌の色、髪色、人種は彼らの重要な民族アイデンティティの一つだったからこそ、アニメキャラの人種考察に関して、あそこまで拘っておられるですね。私たちからすればアニメキャラの容姿は設定でしかないのですが、でも私たちはやはり黒髪のアジア人なので、実写版に限って言えば、金髪や茶髪、赤髪キャラは少し日本人離れしている部分があるのかもしれませんね。

 コスプレといえば、そのお友達に「貴女も一緒に好きなキャラのコスプレしましょう、きっと楽しいと思うわ」と誘われて最初は戸惑ってしまいました。私たちおたくは、いえもしかすると今はもう違うのかもしれませんが、確かに同人には夢創作という考え方もあります、しかしあくまでも私たちおたくは物語の観測者でしかなく、マンガ・アニメの世界で完結している自律したキャラクターが好きなのであって、自分が物語の登場人物として介入したり、キャラクター自身になり切るのは私の中では少し違うように思ったのです。夢を嗜むくせに何を言っているのだと思われるかもしれません。しかし、私の場合夢はあくまで読み専で、自身で執筆する事はなかったのです。あくまでも夢小説は好きな文字書きさんの視点と解釈を通じて物語を楽しんだり、好きな男性キャラと夢主人公の疑似恋愛を第三者の目線で楽しんでいただけで、自分自身の意識や存在で物語を上書きしたいとまでは思わなくて、幾ら感情移入する程好きだからと言ってキャラクターを自分の分身のように当時は捉えてはいなかったのです。そんな事をすれば登場人物の関係性や物語が「私」という歪のせいで少しずつ狂ってしまいそうで…。私はあくまでも神の視点に立った読者の傍観者であって、物語の中に生きる当事者であってはならないと思ったのです。何だか作品そのものが薄汚れて壊れてしまいそうで、いくら同人活動はファン活動の一種と言っても、版権キャラを勝手に借りて漫画や小説を執筆し、同人即売会等で同人誌を売り買いする事はグレーゾーンであって、本来著作権的に許される事でもないのです。原作の世界観を守り、著者を尊重する為にも、自分は公式側に認知されたり、作品に介入してはならないと強く思っていたのです。だからいくら憧れの作品とキャラであっても私自身がそのキャラの衣装を着て自己表現しようだなんて発想が私になかったのです。
 勿論照れがなかった訳ではありません。大抵のアニメキャラは無駄に肌を露出した派手な衣装が多いので、比較的シックで現実味の帯びた機能的な装いの多い男性キャラに比べて、女性キャラはタイトなミニスカートやタンクトップなどのボディラインが浮き彫りになるものが大半で、とても私が着れるようなものではないのです。そう言った事情も踏まえて先程の趣旨を伝えると「そんなの勿体無いわよ」と前向きに否定されました。というのも、彼女は小さい頃隠れてセーラームーンを見ていて、セーラー戦士に憧れていたそうなのです。
 変身願望という言葉があります。セーラームーンと言うのは本当によくできた作品で、変身ヒロインという女の子達の夢と理想を体現しながらも、ただヒーローに守られる存在ではなく、ヒロインたちが直接悪者と戦う戦隊モノでもあって、少女漫画界に革命を起こし、今の戦う魔法少女アニメの雛形ともなった伝説的な作品なのです。彼女たちは学校に通うごく普通の女の子です。各ヒロインは悩みや孤独を抱えている等身大の女の子でありながら、手鏡やマニュキュア、口紅などの化粧品を模した変身アイテムと、月の力によってごく当たり前の少女たちが美少女戦士に姿を変えて、文字通り『メイクアップ』するのです。私は当時少女漫画に興味がなかったので、彼女のように小さい頃にリアルタイムでアニメを見ていた訳ではありません。でもきっと普通の女の子なら、手鏡を見ながらお化粧をして口紅を塗っておめかしして煌びやかな衣装に身を包みドレスアップするのは憧れで、まるで隠された自分の力に気がついて、新しい自分自身に生まれ変わったかのような…、それこそ本当に変身なのです。普段は恥ずかしくてとても着られないような可愛いお洋服を着てお化粧もして『女』に変身することで、私たち女は初めて女性としてこの世に生まれるのです。可哀想なシンデレラが優しい魔女の魔法の力で変身してガラスの靴を履いて純白のドレスを着飾り、まるで一国のお姫様みたいな姿で王子様のいる舞踏会に参加したように、まだ幼い夢見がちな女の子にとって、シンデレラもセーラー戦士も憧れの象徴なのです。そしてタキシードを着た憧れの男性と一緒になってその人のお嫁さんになるのは少女の永遠の憧れです。祝福の鐘が鳴り響く教会、結婚式という晴れ舞台でブーケを両手に純白のウェディングドレスを着て愛する殿方と誓いの口づけをするのです。結婚指輪は永遠の愛の証です。
 今ではそれはあくまで古い女性像であって、女性の社会進出が当たり前になった男女平等の現代 、LGBTを代表するトランスジェンダーなどの性自認の異なる方の存在が認知され始めた事も後押しして、今の価値観で言えば、花嫁になる事が人生のゴールだなんて考えが古いと物議を醸すのかもしれません。でもセーラームーンは女性が主役として敵と戦っていますし、花嫁衣装に憧れを持つ小さな女の子がいるのは、腐女子の私でもわからない訳ではないのです。BLややおいは男同士の恋愛ですが少女漫画と似たような構造を見る事はよくあります。体格こそ青年同士かも知れませんが中身は女子高生のような愛らしい描かれ方がされる事も多いですし、中には設定は男というだけで、中身はほとんど少女や女の子でしかないような男っ気のない女々しすぎる受けキャラクターもいます。だからこそBLとゲイ向けは厳密にはジャンルが違うものであり、ベテランの腐女子が言うにはBLややおいはあくまでも男同士の世界に憧れる女性の為のファンタジーであって、勿論共感する腐男子の方もいるのですが、実際のショタコンやゲイをターゲットにした『いい男』が登場する男性向け作品とは少し気質が違うのです。だから女心は単純に見えてやはり複雑で色々面倒なのですね。
 お友達は、コスプレをする事であの頃の憧れを大人になった今、形だけでも叶えたいというのです。当時アメリカではヒーローといえば男の人でしたが、戦う変身美少女の存在が物語のヒロインは男性のトロフィーでしかないと言う固定概念を壊してくれた、自分と同じ女の子が愛と正義の為に主役を背負って懸命に敵と戦っている姿に、自分の理想の女性像を見たというのです。女の子も誰かの為に戦うヒーローになれる。キャラクターに自身を重ねる事は、決して物語や作品を壊すものではないと。又、彼女に指摘されて思わず頷いてしまったのですが、確かに私は作品に触れている間はキャラクターに没入していて、自分の意識や自我が消えてキャラと一体化してしまっているのです。それは例えば映画俳優などの演技を生業にするアクトレスの方々の言葉で憑依型というらしいのですが、確かにゲームなどプレイヤーの存在ありきのコンテンツでは私は主人公を操作してプレイヤーとしてゲームに介入しているのです。私は主人公や好きなキャラクターの目線に立って物語を体感していて、客観的に見ているつもりが、主観的に物語を解釈してしまっていました。さすがディスカッションの得意なアメリカ人、核心をつく鋭い指摘で、彼女の話を聞いた後、感嘆で思わず拍手してしまいました。
 勿論メアリー・スーの例のように、物語を自己愛の為に都合よく歪めてしまう同人作品もあります。それに私の知る日本のおたくの中には、人の恋バナでも聞くようにキャラクターに全く自己投影せず、キャラを完全に自分と切り離した状態でカップリングを楽しむ子も確かにいるのです。だから一概には言えないのですが、確かに作品と物語は作者ありきの閉じた世界ですが、そもそも読み手がいなければ作品は成立しないのです。それはア・プリオリや唯識論のように、人に認識されなければそれは初めから存在しなかった事になり、そもそも自分の意識上に“それ”が立ち現れなければ、“それ“を認識すらできなくなる。だから節度を守ったファン活動やコスプレで自分を表現するのは決して悪い事ではないと思うの、との事でした。
 私にとってその意見は眉唾もので、私からすれば自分の解釈を押し付けたり、版権元や作者の考えを蔑ろにする真似はしたくはないので、今でも同人活動には限界があると考えているのですが、彼女の考え方や作品の愛し方は尊重できて何となく共感するものがありました。だからその時ばかりは少しの間だけ憧れのキャラクターの衣装を着ても良いかも、と思ったのです。
 日本語は「私」や「僕」などの主語がなくても成立する言語です。しかし英語は基本的に「I」「She」「They」「It」など、Subject(主語)がなければ文章が成立しないのです。もちろん口頭でネイティブの方とお話しすると省略される事も多い主語なのですが、受験の際英語の勉強をされた日本人の学生の方ならばSVだとかSVO(S=O)だとか、SVOCだとかの文型の分類法を一度は耳にした筈なのです。実際英語を読んでいるとSubjectやObjectなどを如何に重視しているかがわかるのです。例えば"It is difficult for Japanese to study English."という文章を見てみると、Itという代名詞が形式主語として文頭に置かれていますが、日本人の感覚では到底理解できない構文(文章構造)でしょう。日本人にとっては頭にItをつけたりfor Japaneseなどと言って目的語をおく必要もなく、ただ『英語は難しいね』と言えば済む話なのです。しかし英語は最低でも主語、述語がなければ、文法として成立しません。英語は主語の強い言語とは言いますが、そんな文法の違いが、その国の人たちの人柄や、思考に影響を与えて、ある種の制限を受ける可能性も否めないのです。主語ありきの言語圏では、きっとsubjectは絶対的で結論ありきの考え方をすると思うのです。だから、自分の存在の感じ方も、主観的な捉え方も、私と彼女とでは違っているのかも知れません。
 本当に一度だけでしたが、私は昔好きだったゲームキャラのコスプレ衣装をAmazonで注文して着てみたのです。でもやっぱりちんちんくりんで全く似合いませんでしたし、それが自分自身であるとも思わなかったのです。少年の衣装だったせいもあるかもしれませんが、でも不思議な満足感はありました。彼女のご実家に遊びに行って、そこでそれを披露したら「どうして女の子の衣装を着ないの?」と笑われてしまいましたが、魔法少女の彼女と、ポケモンマスターになりたい少年の私の二人で、彼女の親戚を巻き込んで一緒に記念写真を撮りました。全く縁のない作品同士のコラボでしたが、写真の私たちは笑ってポーズを取っていて、まるで物語のレギュラーキャラクターのようでした。ロンドンでの彼女との密かなおたく交流は今でも大切な思い出です。その写真は一生の宝物なのです。
 あの時の自分の姿をミカエル様に見られなくて本当によかった。

 そもそもそのお友達が日本のアニメやイギリス文学に関心を持ったのは、キリスト文学やキリスト文化に嫌気が差したからだそうなのです。ご両親は勿論クリスチャンなのですが、小さい頃ご両親の教育方針と信仰的な問題で好きなテレビ番組を見れなかった事で寂しい思いをされて、その頃は普段クラシックを聴き日曜日は教会に礼拝に行って聖歌を歌って聖句を読むのが日課だったのそうですが、思春期に入った際に反骨精神か何かでジャズやロックを聴き浸り、その過程で日本の文化やニヒリズム文学に傾倒していったらしいのです。流石にヘビィメタルは歌詞があまりにも過激でそのお友達は着手しなかったそうなのですが、ロックはクラシックの伝統的で古典的な荘厳な旋律に相対するものがありますし、元々クラシック音楽は神を賛美するような宗教性を帯びていて格式のある音楽でもあったので、キリスト文化への反発心の強い、型崩れしたい若者にはロックが人気なのです。他にもクラブ歌手の黒人さんが主人公の1992年のアメリカ映画『天使にラブソングを』においても、聖歌隊を教育し聖歌を今時の音楽にアレンジする事によって若者を中心に人々を礼拝者の少ない教会に呼び込む事に成功したのです。ジャズもニューオリンズのアフリカ系アメリカ人の黒人さんによって作り出された音楽で、同様にクラシック音楽の規則性のあるリズムへの反発や人種差別を批判する意図もあったそうで、これもロックとはまた違った形のヨーロッパ系キリスト文化への抵抗なのです。音楽とは違いますがブラジルで生まれたとされる格闘技のカポエイラも黒人さん達の抵抗の一種なのです。それらに共通するのはアメリカのFreedomとFrontier(開拓)精神に基づいた、メインカルチャーに対するプロテスト精神と個人の自由への追求の現れなのかもしれません。
 諸外国の人々の間でもキリスト教に対する見方は様々で、今尚世界各国に信者を持つ世界最大の宗教ですが、意外にも神に対して懐疑的な姿勢の合理主義的なクリスチャンの方もいらしゃったり、中には神にとって人は蠅でしかないと切り捨てる文学も多いのです。彼女の好きな作家の一人にニュージーランド出身のキャスリン・マンスフィールドという方がいらっしゃるのですが、彼女はロンドンに渡りその後壮絶な人生を歩みながらも、死没する一年前の1922年に『蠅(the fly)』という作品を世に出していて、その内容はシェイクスピアの『リア王』にある”As flies to want on boys, are we to th' Gods; They kill us for their sport.“の一文とも関連しているらしいのです。[3] もしかすると、アメリカ映画の『ハエ男の恐怖(1958年)』『The fly(1986年)』や、その映画の原作となったジョルジュ・ランジュランの1957年の著書『蠅(La Mouche)』など、蠅を題材にした作品を度々欧米で見かけるのは、シェイクスピアの「神々にとって蠅も人も変わりない」と言う神に対する冷めた考え方の影響もあるかもしれないと思うのです。しかし、ここで注目すべきは『リア王』の"Gods"の単語なのですが、複数形であることを考えれば、この一文における"Gods"とはキリスト教における神…つまりイエス・キリストや唯一神ヤーウェの事ではなく、異教の"神々"の事を指しているのは明らかではあるのですが、この文中に登場する"Gods"の正体を理解するには、全体の文章をもっと読み込んでみる必要があるのでしょうね…。
 そしてキリスト教における蠅と言えば、蠅の王とも呼ばれる悪魔Beelzebub(ベルゼブブ)、元は約束の地とされるカナンのペリシテ人が崇拝する慈雨と嵐の神バアル・ゼブルが前身にあったとも言われていますが、ベルゼブブは日本のゲームやアニメ・マンガにおいても題材にされる程に有名なユダヤ・キリストの悪魔です。日本においては、ベルゼブブというと強靭な能力と破壊的スキルを持った強い悪魔として、やたらサブカル界隈で流用されがちなイメージではありますが、もしかすると彼ら西洋人にとって『蠅(Fly)』を含む文脈は、日本文化にないような反キリスト的でありつつも悲壮感を持つような複雑な負のニュアンスを帯びるのかもしれません。
 そんな風にして、彼女は神の無情さや無慈悲さについて考える内に、イギリスの古典文学やキャスリン・マンスフィールドという作家の生涯について関心が出てきて、自身にとってのキリスト教は何かを考え、キリスト教と文学の関係性を本格的に学ぶ為にロンドンへの留学を決めたそうなのです。ミカエル様の影響で何と無く留学を決めた私と違って、なんと素晴らしい志をお持ちの方なのでしょう。
 それにしても面白いのは、クリスチャンのご家庭のお子さんが反抗期に伴いご両親やキリスト教に反発してクラシックではなくロックやヘビィメタルを聴き始めるように、日本人でも思春期になると日本の文化や邦楽を幼稚に思って、急に洋画にはまり込みクラシックを好んで聴くようになるという通過儀礼があるのです。親に生活を依存している子供が保護者から個人として精神的に独立する為の過程で反抗期というのは大切な時期なのですが、異国の方はキリスト教文化に反発してクラシックを聴くのをやめるのに、日本人は思春期になるとアニメや邦楽を馬鹿にして、かっこいいと思って聖書を読んだりクラシックを聴くようになるだなんて、なんだか少しおかしいですね。きっと何処の国の人でも、誰にも支配されない自分個人という存在を社会で確立する為に、自分の属するコミュニティや自国のメインカルチャーに反発したくなる時期が誰しもあるのですね。そして、その時の感性と趣味がそのまま人格形成の一部として自己へ立ち返っていくのです。  
 無論親御さんにとってはそんな風に打ち拉がれ彷徨う子供の姿は心配の一言なのでしょうね。ヘビィメタルの影響で10代の頃からドラックやシンナー、タバコなどを始めたり夜遊びなどの非行に走って、人生に屈折してしまうのを心配する方もいらっしゃるので、反抗心との程よい付き合い方も必要なのだと思いますが。

 洋画を見るとやたらアダルトなラブシーンが多いので、エロに寛容なのか厳しいのかよくわからないキリスト教圏なのですが、彼女にとって同性愛とセックスを題材にしたやおい文化は、イエス様やマリア様、延いてはご両親に対するちょっとした反抗心にぴったりで、謂わば大衆文化に対するカウンターカルチャーだったのです。

[3]徒然草

 朧に萌える月影の、薄く伸びたる傘雲は、天に昇りし線香の、か細き灯火燦然たりしが、やがてたよりなくるるば、御霊帰りし田畑にて、冥にたなびく白妙の、ひとがたおりし念いをも、池のほとりに船浮かべ、逢う瀬の時をこいねがわくは、おたくのごたく並べても、宙船いたらぬ、盆の頃。

 日本の夏の風物詩。高く晴れた空、煌々と照らす白き太陽、熱風に蒸し上がる鈍色の屋根瓦の町並み、水の滴を弾く熟れたトマトと家庭菜園、涼しげに茂る松林の山道、木陰に落ちる陽だまり、海岸線に臨む乾いた松の幹の群勢、遠くで鳴いている蝉の声、灼熱で茹で上がる蜃気楼の浮かぶ車線上、靴底で踏んで漕いだ錆びたる自転車の車輪、水平線の向こうに揺らめく入道雲、潮風の光る海原、波が弾けて水飛沫、足跡残る砂浜、砂を食う爪と土肌、夕暮れに聳える黒いお社、灯火煌めくお祭りの屋台、着物の帯に風ぐるま、夕凪に扇がれ一斉に鳴き出す風鈴、御神輿担いで盆踊り、寂れた神社にお詣り、墓場に提灯肝試し、縁側に燈る蚊取り線香、満点の星空に打ち上がる花火、虹色に切り取られた男女の輪郭、そして男と女は目が合わさり手を重ねて、夏の終わりに二人だけの秘密の思い出…などなど甘酸っぱい思い出作りには最適の風情ある季節の一つですが、オタクにとっての夏は戦。夏と言えばコミケット。手汗に滲むは黒鉛の煤。そう、同人誌製作の季節です。
 何とか抽選に受かりサークル参加こそ決まったものの、まだ肝心の薄い本の原稿は出来上がっておらず、締切まで後1ヶ月半と言ったところ。1ヶ月半と聞くと、まだまだ時間のゆとりがあるように思えて、実際は学業やアルバイトの間を縫って、善良な一般人との無用な交流を避けつつ、交際費や娯楽費などの無駄な出費を抑えて全てを原稿製作費と資料費にあてがい、禁欲的に生活を続け勉学に勤しみ、大学の課題レポートを書く傍らで自カプの原稿を仕上げなくてはいけないので中々ハードなのです。正直趣味で創作を嗜む濃い部類のオタクは、夏休みに浮かれる時間的ゆとりはないのです。
 大学などの実生活にはトラブルやエラーが付き物。突然良心的な一般市民の友人が私に気を遣って遊びに誘って下さるとか、教授の気が変わって課題を追加して更に締め切りを早めるだとか、せっかく夜鍋して打ったレポートが何かの手違いでデータごと全部吹き飛んで消えてしまうなんて、この業界では稀に良くある事なのです。ましてデジタルで作画作業をしたり小説を描いている同志の方々は、パソコンの動作が重くなってソフトが強制終了したり、突然電子音を立てて画面がフリーズしたり、Windowsの更新による突然のシャットダウンといった予想だにしないアクシデントに出くわして、全ての作業が無に帰して、心身虚脱してそのまま真っ白に燃え尽きるような体験を一度はしてきていると思うのです。初めは何が起こったか分からず画面の前に呆然と立ち尽くして、後から理解が追いついてじわじわと喪失感が胸にこみ上げていき自暴自棄に陥り、時に魂の抜け殻になりつつも、変わる事にない現実に嫌という程打ち拉がれ、枕と袖を濡らしつつ、泣く泣く白紙の状態からソフトを再起動して、脳内の破損したメモリからデータを人力復旧する為に頑張る、と言うほろ苦い思い出もある事でしょう。人は間違う生き物なのです。ですので無論命に纏わる事に関してミスする事は許されないのですが、平時は完璧である事よりも一つのエラーが起きた時、置かれた状況を正しく理解し、冒さざるを得ないリスクを考慮しながら、どれだけロスを抑えて最大限にリカバリーするかの臨機応変で柔軟な対処も求められる事になります。前に書いた文章の方が良かったのではないか、何か書き忘れているのではないか、という恐怖におびえつつ、バックアップの大切さが身に染みてわかったあの頃のまだ幼かった自分。挫折と失敗を繰り返しそれでもがむしゃらに前へ進もうと苦しみ藻掻く内に、いつのまにか人は成長しているものなのでしょう。その様に、人生とは中々自分の思う様にはいかないのですね…。
 前置きが長くなりましたが、そう言った予期せぬイベントが発生し計画が狂ってしまうというのは人生にはありがちなのです。ですので、そういった予想外に際立つToDoタスクが不完全燃焼する可能性を憂慮して、壁掛けのカレンダーには敢えて予定の書かれてない空白の日を作り、原稿の製作期間は気持ち長めを見積もって、余裕を持って入稿するのが賢いやり方なのです。期末試験に差し掛かる今がまさに正念場、既に脱稿してる方がちらほらSNSにて見受けられる事が余計に気持ちを焦らせストレスになるのは必至の事。中にはフルタイムでお勤めされている中を巧みなスケジュール管理によってよゆう入稿してしまう賢明な同志の方もいるのです。つまり原稿とは自カプへの信仰心の他にも、己を律して心身の健康を維持しつつ学業とバイトを両立しその合間に本を製作する自己管理能力の試される一般人卒業試験であり、サークルチェックして当日にめぼしいサークル参加者様の愛と真心の詰まった御本を和を乱さずルールを守り隠密に且つ的確にハントするハンター試験とも兼任しているとも言えるのです。私はまだ徳の低いオタクの下級生、注意散漫な上変な拘りがでてきてしまい後の予定を圧迫してしまう事も多く、あまり自己管理ができる類の者ではありませんので、このままずるずる続けては肝心の勉学に差し支えてしまいます。朝方に集中しがちなグループワークの多い今期の必修単位は絶対に落としたくはないのです。ですので、今週末にはせめて下書きを完成させて、できれば人物のペン入れ作業は全て終わらせたい。そう思いつつ、作画資料をどしり、と円卓の上に置いて、座布団の上に足を折っていそいそと机に向かって腰を据えたわけです。
 まだ下書きしかできていない原稿を並べてペン先を構えていざ尋常に作業…!と奮い立つ、そんな矢先の事でした。
 ピンポーン。背中の向こうから呼び鈴が鳴って、直ぐに意識は現実に戻されました。そっと筆を置き、こんな時間に誰だろうと思いつつ、そろそろと廊下を忍び歩いて、玄関の戸を控えめに開いて、隙間から客人を見やると、軒先には、例の兄弟がいやに仲良く肩を並べてそこに立っていたのです。お二方ともお顔に影を落として、何故か全身に軍服一式をかっちり着込んだ姿で。私を見下ろす彼らの目には何の色も乗っておらず、いっそ殺気を疑う程に真顔でした。
 反射的にゾッとして心臓がきゅうと縮むのを感じました。だって180cm前後はあろう巨体で屈強な身体をお持ちの方々が目の前に聳えて遥か上から此方を見下ろし無言で目の前を佇んでいるのです。その恐怖といったら黒いスーツにグラサンをかけたヤのつく人に囲まれた時と何ら状況は変わりません。普段から何を考えてるか表に出さないポーカーフェイスで朴念仁な仏頂面がデフォルトの紳士のお国のミカエルさんは兎も角としても、元気印とキュートなテキサス・スマイルが売りのロイ君も口を結んで押し黙り、禍々しい邪気を放ちつつメガネを青白く光らせて棒立ちしているのは、最早只事ではありません。このお二方のことです、きっとここに至るまでに何かとんでもない応酬があったに違いないのです。一瞬何かが脳裏を過りそうになって、なんだか嫌な予感がしたのでやめました。ただならぬ雰囲気に、そのまま戸口を閉めて何も見なかった事にしようと思い引出に手をかけたのですが、先手を打たれて既に戸の隙間にはミカエルさんの黒い革靴の足先が差し込まれ、追い討ちをかける様にロイ君が引き戸に黒手袋の手をかけてガラガラと押し開いてしまい、最早戸を閉められなくなってしまっていのです。
 foot in the door. 何という連携プレイなのでしょう。流石は血を分けた兄弟と言うべきなのでしょうか、喩え喧嘩をしていたとしても同じ目的の為ならば一時停戦する事も辞さず、そのまま協力する事も吝かではない。言葉など交わさずとも、ここぞと言う時には阿吽の呼吸で意気投合できるという事なのでしょうか。なんとふつく…ゴホ、美くしいBrotherhoodなのでしょう。そんなお二人の間に部外者の私が横槍を入れるだなんて、百合の間に殿方を挟む様なもの。血で通じ合っているお二人の仲を妨げようなどと、なんと厚かましい事、そこに人が割って入るなんて無粋というものですから、どうか今はそのまま二人仲良く手を取り合ってお家に帰ってはくれないかしら…。人生に疲れて母性に飢えた捻くれ者の成人男性と少女と見紛う心の綺麗な優しい少年のカップリングを得意とする私ですが、別に『何が』とは言いませんが、強いて言えば「はなぶさおこめ派」なので喩え少し苦手な青年同士のアレだとしても何とか美味しく頂けますしおすし多分…。ええと、本当に『何が』とは言いませんが、どうか”本家”とその”領民“の方々に差し障る様な事は絶対にしないで下さいね…。”グローバル“で”ローカル“な事情もございますし、何事も平和が一番ですから…。
 その、俗に言う「君ん家で 仲良く遊ぼう 磯野君」と言う事なのだと思うのだけれど、そんな時に限って、自室のど真ん中に置かれた机上には無造作に原稿が放たれ、テレビ兼用のパソコンモニターには動画配信サイトのオタク向けアニメが流れっぱなし、左手の本棚には小さい頃からコツコツ集めた漫画本とゲームのパッケージの背表紙が規則正しく並んでおり、右手の勉強机には某福音ロボットアニメの影響で無邪気に手を取って読んだカバラ思想のやさしい解説本にハマり込んだのを契機に、思春期の一番危ない頃に聖書を巡る陰謀論、神話伝承に関するオカルト本、哲学本にどっぷり浸かって、今や大学生でも読まないような怪しい超心理学や神智学や神秘思想の専門書が壁一面に並んで、その延長で読みかけて挫折して積んだままの地政学の本や英訳聖書が重々しく聳えており、ジャンプタワー以上の威圧感を与えている有様。おまけに寝台の上には好きなゲームマスコットのぬいぐるみがお布団から顔を覗かせて、どうせ人なんて遊びに来ないからと調子に乗って攻めが艶やかに視線を送っているような如何わしいポスターまで壁ー面に貼ってしまい、可動式フィギュアで自分の好きなホモCPの世界観を再現してみたものだから、向こうの戸棚の上で小さなBL劇場が出来上がっていて、ジオラマ並の存在感を放っているのです。これでは自分がやばい方のオタクだと公言しているようなもの。仮にもクリスチャンであるお二人に私がホモを嗜む危険思想のオクサレ様であるとバレてしまったら、私の国際関係はもうおしまいです!これは本当に、本当に由々しき事態なのです。
 しかもこの兄弟、片方はまだ日本文化にそれなりの理解のある国のお人でご本人もアニメ・マンガ・ゲームを嗜むライトオタクのミリオタで本職は言うまでもなくU.S.A.F、最近我が国の海上自衛隊と美少女抱き枕によるエール交換で日米間のオタク的友好の架け橋を結んだ間柄の国のお人なので何とか誤魔化せそうなものなのですが、もう片方はオタク文化を軽んじるRed cultureなる若者文化が流行中の上、笑えない事に定評のあるブラック・ユーモアを嗜むロイヤル紳士の国からやってきたお人で、いくら没落騎士の家柄と言っても家系図が金庫に保管されているような由緒ある家世の出身で、何かと言えば皮肉と嫌味を言いがちなRoyal Navyのエリート軍人。こんな一般人に毛が生えた様な方々が小生のごとき腐れ底辺オタクの自室の中身を御観覧してしまったら、あまりの気持ち悪さに純粋なサブカル好きの方々によからぬ偏見を与えて、不幸にも日本という国に生まれただけでオタクだのホモだのビッチだの陰キャ根暗HENTAIと海外諸国の方からあらぬ誤解と差別を被りかねないと思い、どうか穏便にお帰り願えないかと、せめてこの一般庶民に擬態した玄関を最終防衛ラインに、それ以上我が家に侵入するのはどうぞご遠慮して頂きたいと思いつつも、決して表情を崩さず笑顔を保ったまま、極めて普通に、謙虚に、控えめである事に努めて、
「お二人ともこんな所で立ち話も難ですから、そこに座って少し世間話でもして行きませんか、お飲み物とお茶請けの菓子ぐらいならすぐにご用意できますの」
 で、と言うか言わないかのところで、ロイ君がねじ込む様にして胴体を戸口に差し入れ私の横を押し通り、そのままお靴を乱暴にペッペッと土間に脱ぎ捨て、黒靴下のままドシドシと廊下の奥へ闊歩し、まんまと家に侵入してしまったのです。もう全身が硬直してぶわっと毛穴が逆立ち頭の中は真っ白でした。そうしている間に背後のミカエルさんもしっかり土間に足を踏み入れてピシャリと戸を閉め、そのまま鍵までかけてしまったのです。何ゆえ鍵まで。
 疑問と余念は募るばかりですが、今一番危惧すべきなのは、ロイ君が私の自室まで侵攻するのを防ぐ事です。あそこには私の生活の中枢とも言える機能が集中していて、我が家の心臓部とも言うべき…いいえ、もうあれは私と言う人間の恥部そのものと言っても過言ではありません。兄弟が自宅を訪ねてきたのは今回が初めての事ではありませんが、いつも突然ドッキリか何かで押しかけ来客されても知らぬ顔で客間にお通しして何とかお茶を濁してはいましたが、今回はそれすら許してもらえそうにないのです。
 私が何かを隠しているのはお二人とも薄々感じてはいたのでしょう。何度か「我々に何か話す事はないのかな」と真面目な顔で尋ねられ、その度いつものジャパニーズスマイルで曖昧模糊に話をはぐらかしては横に流していました。何かと白と黒を付けたがるロイ君は無論不満とばかりに膨れ面で口を尖らせ目で抗議してきますし、冷静を自負するミカエルさんは妖しく目を細めて口を噤み非難するようにじっと見据えてくるだけです。私はただお二人にオタクだと知られたくないだけで、これからもずっと仲の良いお友達でいたいだけなのです。お二人について後ろめたい事など何一つ思っていない、それだけは伝わっていると思っていたのですが。だからといって、まさかこんな強硬手段に出るだなんて!それほどまでに私は兄弟にとって我慢ならない嫌な態度をとってしまっていたのでしょうか。
 無理強いなどはしたない、とまで言い切った英国紳士を絵に描いたようなあのミカエルさんさえも、弟君を止める事なく静観し、むしろご自分もそのまま家に上がり込もうと優雅にお靴を脱いで式台に足をかけてしまっているのです。きっと彼らにあった何かの糸が切れてしまったのでしょう。私の秘密を暴かんと意思を固めて、どんなに汚い手段を持ってしても、後々罵られる結果になっても、自分達にはもう関係ないと腹を決めて開き直ってしまったとしか思えません。喉笛が震えるのを抑えてミカエルさんの名を小さくお呼びがけしても、冷えた目で私を一瞥するだけで、何も言わずに端正なお顔をスッと横に向けて、そのままロイ君に倣って廊下の向こうに行ってしまいました。あの二人に何があったと言うんでしょう。
 まだ家の間取りまで完全に把握してはいない筈なのですが、なにせ相手は現役の軍事関係者、正真正銘の戦略・戦術のプロです。こんな民間人の狭くて汚いチンケな兎小屋をツーマンセルで占拠するなどお茶の子さいさいに違いないのです。先程から聞こえる威勢のいい扉の開閉音、引き戸が開け放たれてはクローゼットや箪笥の中身などが物色されているかのような物音は、まるで試験中いやに大きく聞こえる秒針の如くの恐ろしき響き、さながら天国へのカウントダウンの秒読みでも真横で聞いてるかの様相で、心臓の鼓動はみるみる早まっていき、手汗が滲んで胃腸は捻れて胃酸が喉の奥まで遡りそのまま口から吐き出そうな程の口の苦味、脈打つ全身の律動が鼓膜にまで差し迫って来るかの有体で、もう生きた心地がしませんでした。自室が最奥にあることが私にとっての最後の砦、彼処が落ちれば、もう私の人生は終わったといってもいいでしょう。しかし、彼処さえ守り切れれば、私はまだ戦える。彼処さえお二人の魔の手…いえ、使徒の裁きから逃れれば、私は晴れて一般人のままで居られるのです。お二人とごく普通のお友達で居られるのです。
 私は跳ね飛ぶ勢いで廊下を走りました。幸いお二人は他の部屋に気を取られている様で、何故か風呂場やトイレに至るまでバタンと勢いよく戸を押し開き、内部に警戒しつつ家宅捜査をしている様なのです。まるで拳銃や聖剣でも隠し持っていて、部屋に入るたびに素早く銃口や剣先を突き付け威嚇しているかの様な気が致しましたが、ここは日本なのでそれは流石にあり得ないでしょう。私は廊下突き当たりの部屋の前まで全速力で駆けて行き素早く部屋の中に滑り込み、内側から全力で鍵を閉めました。手元でガチャ、と施錠し取っ手を前後して開かない事を確認した後、扉の前にへなへなと全身を沈めてへたり込み、そこでやっと息を落ち着ける事ができました。ノブに手を掛けたまま、がっくり戸に頭を押し付け、ふぅー…と長い息を吐きました。息はやがて安堵の色が滲んで、私はようやく胸を撫で下ろす事ができたのです。取り敢えず死線は潜り抜けました。一番大事な場所はなんとか死守できたのです。気が付けば自然と笑みが溢れていました。よかった…。肩の力を抜いて安らかな息を吐く、丁度その時の事でした。
「何がよかったんだい」
 ふと後ろの方から人の声が聞こえました。振り返れば、見知った顔の男が二人、円卓に腰をつけて寛いでいました。一人の男の手には分厚い大判の本があって、ペラ、と頁を捲っては視線を落とし、レンズの奥から瞳を細かに動かして内容を読み込んでいる様でした。もう一人の男は何かの紙面を眺めていました。まるで学生のレポートでも読んでいるかの様な、そんな静かで怜悧な眼差し。お二人とも何かを調査しているみたいで、書物を手に分析する姿は刑事ドラマに登場するFBI捜査官と推理小説に登場する有名大学教授みたいでした。世界から切り取られた様な現実感のない光景でしたが、よくよく考えてみると男の手にあるそれはマンガの設定資料で、もう一つは私の書いた原稿でした。それを手に取って眺めているのは、先程まで部屋を物色していた筈のお二人で、それはどう見てもロイ君とミカエルさんでした。二人は同時に顔を上げて此方を向いて言いました。
「やぁモモ、元気にしてた?」
「それで、これは一体何なのかな桜杏」
 ミカエルさんがペシペシと指の背で叩いているそれは原稿。丁度、話は終盤に差し掛かり、推しカプのテンションは最高潮。世間の目から逃げる様にして町々を流浪し気が付けば廃屋、二人を待つのは敗残兵として裏日本警察武装組織の魔導機動隊に処理される運命以外にありはしない、教団組織に投入された部隊、何重にも鳴り響く軍靴の音は、二人の潜む廃屋に向かい、直にこの場所にたどり着くだろう。男は疲れた顔をして薄く笑う。もしここで全てが終わるならせめて今だけでも僕を恋人として受け入れてはくれないか。仮初でもいい。せめて最後は僕と共にあって欲しい。死ぬまでに一度、君を女として抱いてみたい。不気味な程に静まり返った男は臆病に見つめる少年を見据えて、無言で手を取った後そのまま骨ばんだ指を絡めて、顔を斜めにそっと口を寄せて、互いを確かめ合うかの様にその柔らかな唇にキーー
 ミカエルさんが手元の原稿のメモ書きを無駄にいい声でそこまで読み上げた瞬間、私の頭が火を噴いて爆発しました。

 えげゃああああああああああッッ!!!
 
 ブルドーザーの金切声の様な悲鳴が家中に響いて、そのまま自宅が地面から発射する勢いでした。やがて女の悲鳴は家の外からご町内、新潟市、日本列島の上空にまで飛んで行って大気圏を突破し人工衛星を遮って意識と共に無限の彼方へLet It Go ーー。これには地球も真っ青。一方その頃、私といえば泡を吹いて勢いよくその場にぶっ倒れていました。きっとこれが俗に言う、目の前が真っ白になった、と言う事なのですね。
 二人とも慌てて私を取り囲み、顔を覗き込んで何度も身体を揺すって呼びかけていたようなのですが、私は糸の切れた人形のように首をカクカクするだけで、二人の声は膜でも張った様に遠くの方で聞こえました。天井の木目はやがて意識の向こうに遠ざかり私は静かに目を閉じました。このまま意識を失って死ねたらよかったのに。

 気が付けば目からすっと涙が溢れていました。何の涙だったのでしょう。羞恥心のあまりに流れたのか、それとも、もうバレるかもしれないと人に怯える必要がなくなり憑き物が落ちた故のものだったのでしょうか。吹っ切れたような妙な満足感と同時に、どうして、なんで、という子供の駄々みたいな悲嘆や憤りが一緒に込み上げてきて、視界がぐにゃぐにゃに歪んでボロボロと頬を流れてしまうのです。ロイ君に抱き起こされてミカエルさんに親指で擦るように涙を拭かれた後、しばらく放心して、やがて膝を抱えて顔を埋めてじっとめそめそしていました。
 兄弟二人は何ともいえない顔で見合わせて、ロイ君はやれやれとでも言いたげな呆れた様子で肩を竦めて顔の片面を覆い、ミカエルさんは湿った息を短く吐いて顰め面で眉間を揉んでいました。誰も喋らなくなると、流れっぱなしのアニメ声が遮られる事なく宙に響いて、気まずさばかりが増していき、ますます居た堪れない空気になって私は消え去りたい一心でした。
 私が膝を崩して顔を上げる頃、ロイ君は絨毯の上に寝そべって、没頭していたのでしょうか、黙り込んだまま漫画を読み耽って、傍には既に数冊が積み上がり、時折資料集の方にも手を伸ばして読み直してる様で、ミカエルさんの方は私の恥ずかしい妄想を書き綴った走り書きメモを舐める様にじっくりと斜め読みしながら、原稿の束を手に何か思案でもするかのように一頁をじっと眺めては、下の頁と見比べて頁を剥ぐってまた眺めてを繰り返していました。私は口を開きました。今にも消え去りそうな蚊の鳴くか細い声でした。
「あの…」
「やぁ、モモ。気分はどうだい。随分と落ち込んでたみたいだけど…」
「どうかな桜杏。少しは落ち着いたかな。まさか、君がそこまで思い詰めていたとは思わなかったがね」
 ロイ君もミカエルさんも訪問時の削いだ刃物みたいな棘のある雰囲気はすっかり無くなっていつものお二人に戻っていました。むしろ此方を酷く気にかけた様な優しげな声音がこそばゆく感じるほどに、余所余所しくやんわりした態度になっていて、流石にやり過ぎたと負い目を感じていたのかも知れません。二人の眼差しは私を長閑やかに見つつも何処か怖がっている様でした。私がまた昂って感情的になるのではないかと不安に思ったのかもしれません。
 お二人に何か言おうと、あれこれ考えてみたのですが、ああでもない、こうでもないと、口の中をもごもごする内に、どんどん気が小さくなって鼻の奥がツンとしていくだけで、肝心な時に、気の利いた言葉一つ思い浮かばないので、ここはいっそ変に飾ったり気取ったりせず心に正直であろうと、喉元に迫り上がるものを飲み込み耐えようと口を噤んで尚口端の隙から涎が漏れて袖を汚してしまった時の、そんな悲壮感を持ちつつも、まるで母親の一喝でも受ける前の様な、何かの判決を受ける直前の如くの、そんな風にじっとして動かず、大人しく私を待っているお二人に向けて、ほんの少し口を開いて、ポツリと本心を打ち明ける事にしました。
 瞬間、厳粛な態度に姿勢を正すお二人の姿は、まるで幼い頃からそう躾けられていたのか、それとも長い軍事生活でそう訓練されていたのか、それとも上官の理不尽な怒声を受ける中で自然と身についたものであったのか、私にはとても推し測れるものではありませんでしたが、私からすれば、ご自分を守る為に身構えているみたいで、いたわしく、少しかわいそうでした。
「……あの…本人の目の前で、声に出して読み上げなくとも……。恥ずかしさのあまり、死んじゃうかと思いました…」
 するとミカエルさんは、意外そうに眉を上げて、私を軽蔑でもしたかのように、揶揄うような声色で言いました。
「ほう、そうかね。私からすれば実に興味深い内容だと思うがね。桜杏という人間は我々の前では当たり障りのないタテマエを言いつつ、ホンネは日夜こう言った類の事を考えていて、人前であっても常にこの様なアレばかり空想するので上の空、だから我々に対して一向に心を開かず掴みどころがなかったのか、…と一人納得していた所なのだが、違うのかな」
「だからって声出して読まないで下さいよう……恥晒しも良いところです…殆ど公開処刑ですよ…」
「菊と刀…、例の『恥の文化』というヤツかね」
「ああ!俺の国のベネディクト君が書いたヤツ!それなら俺も名前は知ってるんだけど、日本人からするとアレも若干ズレがあるというか…、日本人の実体とちょっと違うらしいんだよね。後やっぱりキリスト教圏の優越性に結びつくカンジだし、戦時中なのもあって若干偏ってるんだろうね。でもまぁそれ抜きにしても、俺には難しい民族だよ、ホント。そんな日本人のさらにDeepな人種のオタクなんてもっと難解だろうさ」
「そ、そうですよね…。日本人でもオタクを見る目は若干冷ややかと言いますか、Cool Japanと言ってAnimeやMangaを大々的に国外に宣伝する割に、国内のオタクの民のカースト地位と社会的信用は低いと言えばいいのか…。ぶっちゃけオタクと言うと一般人は変質者や会話のできない変人という目で見てきます……。一般人にとってはオタクはクールというよりおサムイのですね…日本人も…決して、一枚岩ではないのです…」
「…まぁ、確かに、我々からすると日本人と言うのは度し難い事は確かだな。謙虚で聡明な大和撫子と思わせながら、内心ではこんなエロティックなホモセクシャルを描いているとは…、私より上の世代の敬虔なクリスチャンならばこれは悪魔の書物と焚書して君に悪魔祓いを処していたところだな。君も中々Freakな性癖を持っているではないか。それとも君は意中の男にこうされたいのかね。流石はHENTAIを世界に知らしめた民族の末裔だな」
「……その…ミカエルさんの仰りたい事、私を軽蔑するお気持ちはとても良くわかります…でもどうか、あまりいじめないでください…。日本人でもおかしいと自覚していますし、私自身が一番変だなって痛感していますから…」
「これは失礼した。こんなものを我々に黙って隠し持っているぐらいなのだから、そんな清楚な見た目をして夜は大した痴女なのだろうな、君は」
「………あの……その……、オタクはオタクでも全ての方がキャラに自己投影したりする訳でも、自分がそうなりたいという訳でもなくって…あくまでフィクション作品の傍観者として客観的に楽しんでいるのであって…、そのようなアレを私自身がされたい訳では…」
「ほう…、君はこれを読んで楽しんでいるというのかね。とんだ淫乱だな。では君自身は何をされたいと言うのかな」
「……う…」
「……ヘイ、変態紳士のbanter man. ネチネチモモをいじめて悪趣味だぞ。ここは中世で、兄貴は公文書片手に淫魔の話を浴びせる魔女裁判の異端審問官サマ気取りかい?そう言う露骨な誘導尋問は頂けないと思うケド。そう言うのは弁護士の俺を仲介してもらわないと困るぞ!それ以上無意味な質問を続けるなら異議でも申し立てるかな、セクハラ司法官のデーティングもできない童貞牧師のゲス兄貴」
「…いや、特に他意はなかったんだが。そして誰が、誰の弁護士だと言うのかね。法の支配する公正で神聖なる裁きの庭で、賠償金や慰謝料と称して民事訴訟で賞金稼ぎする事で有名なカウボーイ気取りのメリケン風情が。私はただ純粋に“これは何か”と桜杏に紳士的に尋ねていただけだが。わかったかな、俺様番長の女性のエスコートもできない誇大妄想の激しいエロガKIDsの愚弟クン」
「さぁね、それはどうかな。こう見えて兄貴は俺以上にキワモノ好きの変質で陰湿な性格だからね!揶揄い半分に女の子を辱めて楽しんで見えない所でほくそ笑むなんてお手のものさ。あまつさえ相手の女性を泣かせるなんて、きっとこの場に英国紳士の兄弟がいたら聞いて呆れるだろうね!だろ?ライミー・Britbros・サディスティック中佐殿」
「おや、レディファーストが得意な国の人間とは思えない強引なやり方で部屋を開けて回った挙句に『もも』と愛らしいひらがなのプレートが掛かった淑女の部屋を見つけた途端に迷わず一直線に走り突っ込んでダイナミック転がり侵攻(アタック)した何処ぞの国の英雄かぶれが何を言っておられるのかな。ヤンキー・MF・バイオレンス軍曹君」
「お二人とも…こんな時まで言い争いするのはおやめ下さい…」
「…」
「…」
「睨み合いもやめましょうね…ロイ君、ニコニコしててもダメです…とにかく両者とも鞘に収めて下さい、後どうしてこうなったのか、ちゃんと説明して欲しいです…どうかお願いします…」
「………その、俺が悪かったよモモ、だからそんな悲しい顔しないでくれよ…」
「すまなかったな、桜杏」

 その後も必死にオタクグッズを隠そうとしたのですが、もうバレてるから、今更遅いなと二人から畳みかけられるようにダメ出しされるので、仕方なく事情を話して原稿の進みが遅れていてこのままだと入稿に間に合わないかもしれないと相談したのです。すると、兄弟は何処か示し合わせた顔をして、ふとこんな事を言ったのです。
 その同人誌の原稿を手伝うと。
 それは助かると一瞬思ったのですが、それも束の間、果たして『同人素人』で日本文化に馴染みのない二人に『MANGAの絵』がどれだけ描けるのだろう、と疑念が湧いたのです。試しに今私がハマっている漫画ジャンル『えだらん』のイチオシカップリングである『すばもも』を題材に兄弟二人に自分の今考えている同人誌のストーリーをお話しして、その通りにネームをきってもらうことになりました。
 隣室で携帯ゲームをしつつ待つこと小一時間。兄弟は二人揃ってネームを書き終わったと戸を叩いたのです。時間通りにまとめてみせた兄弟にすごいなと思いつつ、どれどれ、と二人の漫画ネームを見てみると、思わずその場にひっくり返るような思いでした。

 まずアメコミヒーローの本場、米国人のロイ君のネームなのですが、仮にも恋愛が主題のはずのすばもも同人のネームに、何故だか突然『Mark・Hamilton(マーク・ハミルトン)(仮)』なる人物が現れ攻めの空晴から受けの百夜を掻っ攫いつつ、空晴を諸悪の根源であると敵対しマークが得意の射撃で彼を撃ち倒しヒロインの百夜をゲットしてハッピーエンド、マークの健闘は都会の街頭のオーロラビジョンにデカデカと映し出され、国中の国民が湧いて彼が右手を振れば歓声を上げる有り様。忽ち国民的人気者になり、舞台は日本なのに何故かアメリカ首都ワシントンD.C.のホワイトハウスで政府高官から人類を世界的危機から救ったと表彰され全世界から讃えられる英雄になる、というトンデモアクションヒーロー漫画にシナリオが書き換わっていました。所謂善が悪をやっつけるという分かりやすい勧善懲悪のストーリーなのですが、まるでアメリカのプロバガンダ映画を思わせる内容で、米軍は世界の秩序を防衛する正義の軍隊であり、主人公は米国の秘密結社が保管する古文書に預言されていた救世主で、後に世界的英雄として讃えられ歴史に記録されるという重厚なキリスト的世界観を持ちつつ政治宣伝の激しい軍事モノの話になっていて、思わず頭を抱えてしまいました。
 ロイ君はアメリカ出身で仮にも本業は米軍人のサージェント、ロイ君・マーティン軍曹殿な訳ですから、ヒーローモノが得意で米軍贔屓なのはわかるのですが、肝心のすばももは何処に行ってしまったのでしょう。頑張って理解しようとしているのですが、どうしても悶々とする気持ちを隠し切れないのです。おまけによく見ると、最後の頁の隅の方にto be the continuedとありますが、まさかこれにはエピソードⅡもあると言うのでしょうか…?遊び心か何かかもしれませんが、映画内で完結しつつ幕引きで『まだ終わってなかった!』と登場人物に気づかせて次回作を仄めかせる物語の締め方までアメリカナイズの映画仕様なんだもの。本当にロイ君は商売上手なんですから…。
 ロイ君曰く「こんないい年こいて世界滅亡や人類に復讐なんて計画するダメな大人がマンガの主人公で、いざとなったらヒロインを道連れに心中しようとか人類に絶望してヒロインと二人きりだけの世界を作って君がイブで僕がアダムで人類の歴史をもう一度やり直そうなんてDead or Destroyの選択肢しかないなんちゃってジャパニーズキリスト観とMADE IN JAPAN特有の似非イルミナティ終末論の抜けない厨二病の男が相手役じゃ、この根暗で自己主張もできない上に凄まじい過去と秘密を抱えながら敵幹部をやりつつ健気にも生き別れの妹(訳あり)に尽くすだけ尽くして死んじゃう重要な役柄の癖に作中であまり目立たない活躍の地味なヒロインはいつまで経っても幸せになれないと思うから、いっそこのまま別れた方がこの二人の為だと思ったんだよね。だからここで颯爽と俺が参上して鮮やかに問題を解決してヒロインに笑顔を取り戻したついでに軍隊を派遣して諸悪の根源を一網打尽に破壊しつつ同時に世界も救ってみせたっていう訳さ!最高にCOOLなエンドロールだろ?」と、星を出さん勢いで片目をウィンクして眩しい笑顔でサムズアップするロイ君。二の腕たなびく星条旗。
 キャラデザも設定も口調もあからさま過ぎて敢えて触れずにいましたが、やはり突然話に登場し全てを狂わせた驚異的な射撃スキルと命中率を誇る天才ガンマンの米軍人マーク・ハミルトンはロイ君・マーティンその人であり、これはいわゆるメアリー・スー、端的に言って某匿名掲示板に書き込まれる例のSS系スレッドでご都合主義的に登場する『俺くん』という事なのでしょうか。シンプルな構想ながら話の盛り上がりや引きが完璧でこの濃密なストーリー展開を無理矢理48頁に収めたものですから、劇画風の作画で話は至って真面目でシリアスな内容なのに何処かソードマスターヤマト誤植編の打ち切り漫画を思わせるような目まぐるしい展開の早さで、下手をすればシュールギャグにも見えなくもないのがまた味わい深いのです。しかもご本人のロイ君はこれをイカしてると思っていて、狙ってやった訳ではないのだからやはりロイ君のこれは天然ものの才能なのです。あ、そうか、きっとこれは2時間映画を想定した脚本を元に漫画化されているのではないかと思ったのです。だからこんなにも濃密でとても48頁の薄い本には収まらないわけなのですね。こんなに奥行きがあって幾らでも登場人物を追加して設定を後付けできそうなぐらいに、人物の相関関係が作り込まれた規則性のある世界観のハードなローファンタジー、確かに一作で終わらせるのは、些か惜しい気が致します。続編ありきで作られる超監督と最高のスタッフが揃った潤沢予算のSF超大作、アメリカ映画仕様という訳なのですね…。そういえば、NER…じゃなかった、ハリウッドの資金は何処からでてるんだろう…、謎です。
 確かにロイ君の考察は実に的を得ていて、実際に空晴という男はとんでもないエゴイストなキャラクターなのです。人を遠ざけて世の中を最悪だと嘲る癖に自分を変える度胸もなく、学生時代は学業とバイトと途上もない努力で人生を費やし他者と比較され能力の差に打ち拉がれつつ職場で徒労するも実を結ばず、かと言って他者に対する期待を捨て切ることもできず、誰かの良心や善意のようなものが自分の行手を照らしてはくれないだろうかと両手を広げ虚空に強請り、一方で他者を疑い蹴散らすような社会への一方的な不信感と厭悪も抱えている様な、屈折しつつも何処かで悪い大人になりきれないでいる偽悪的な人間であり、そんな中で百夜という神秘的で弱く優しいだけが取り柄のおっぱいの生えた男性器のない天使みたいな少年に命を救われ、そのショタに対する淡い恋心と憧れと敬意が、やがて一向に自分に靡かない苛立ちと共に嫉妬と憎悪にも似た感情に変わっていき、最終的に彼女に対して略奪と支配の欲望をぶつけて我が物にせんと目論み、善良だが少し皮肉屋の青年の体を装って彼女に近づき入れ込んでしまうという、人生を上手く賢く生きることのできない青臭さと臆病な優しさと深い敗北感を抱えており世の中の不条理の陰が尾を引き彼をより孤独に追い込んで凶暴な人格へ歪めていく、という挫折した少年がそのまま大人の姿になり世の中に置き去りにされたかのような喪失感を持ったアダルトチルドレンが持ち味なこの男は、不器用さと偏屈な真面目さが祟りに祟ってヒロインの喪失をきっかけに最終的に世界を破壊しようと画策するような淋しく烏滸がましく故に心の貧しい幸いなる男、一言で言えばダメな男の劣化版、そこに捻くれた青年要素を足してスーツを着せて26歳の若造に年齢操作して少しイキっていてかけ算して隙間を太宰治で補強して汎用性人型決戦兵器の量産型企業戦士にジョブチェンジした後で背景で見切れている顔の邪悪な刑事のプロトタイプみたいな背景モブの犯人風味にした感じで、俺に唯一手を伸ばしてくれたあの子を見捨てた世界なんてみんな滅んでしまえ、という一般人からすれば傍迷惑な鬱々しいだけのアウトローで人に懐かない捨て犬みたいな病んだ男の人でした。
 対するその男が唯一心を許し執着しているというヒロインの百夜は、これまた病的に心の壊れた人間で、自分の事も碌にできない癖にやたら人の不幸を一緒に抱え込もうとする極度のお人好しで相手の孤独や寂しさを敏感に感じ取って寄り添い心の傷を包み込み癒やそうとするあまり相手のエゴに巻き込まれて共に地獄に堕ちてしまうような、空晴とは別の意味で倫理観と貞操感の狂った自我を感じられない無気力な気狂いの女で、その癖抑圧された自己はストレスに耐えきれず心の内に静かな狂気を作り出しやがてその心理的防衛機制は一人歩きして百夜の保護人格である『空晴』という架空の男を生み出して、人が求めればその狂気にも似た愛情を無差別に与えようとする善意と優しさと良心に満ちた人柄である一方で、世の中に対する深い絶望と諦念を抱えて他者に対して心の一線を引いて『自己』を晒し他者に触れられる事を心の何処かで拒絶している為に、ある男の情動を掻き乱し欲望に火をつけて世界的な陰謀に巻き込まれていくという、一言で言えば髪の毛がピンクブラウンとその他もろもろのヒロインを混ぜ混ぜした後でそこから灰汁を抜いて特徴も抜いて見た目地味にして例によって無口にして若干アスペにして仕上げに母性溢るるおっぱい星人のママの肉を被せて無味無臭の凡人菩薩ヒロインこそこの女ショタであり、これまた一般人からすれば理解できないような価値観を持っていて、何かと単独行動の多く孤立しがちで、これまた一匹狼気質の人に靡かない頭のおかしい人物です。
 端的に言ってこのカップルは人間的に終わっている狂人同士が身を寄せ合って世間から逃げるようにしつつひっそり惨めに傷を舐め合っているに過ぎず、果たしてこれは恋人同士が抱く愛情の類なのかそれとも互いを利用しあってるだけの軽薄な関係に過ぎないのか、そんな人の持つ卑しさ醜さ浅ましさに対する恐怖と拒絶、そしてそんな人間の一人である自己に対する強烈な嫌悪と世の中と人生に対する諦念を根底に置いた、利害観念を超越した狂気的で背徳的な二人の恋愛観を描く為の、共依存と共存、共生がテーマのカップリングであって、大切なのはこの人間的に終わっている二人は必ず“セット”でなければならないと言う事なんです。
 天才的な推理力と鋭い洞察眼を持ちながら刺激的な事件がなければ面白くないと言ってコカインを自ら腕に注射するような天才を通り過ぎて変態の領域にまで達する霧の都の名探偵ことアーサー・コナン・ドイルの生み出した世界的有名推理小説の架空キャラクターであるシャーロック・ホームズと、そして洞察力こそ彼に劣るものの常識人で何かと奇行の多いホームズの良き理解者であり物語の語り手として読者視点に立って共に事件とその謎に切り込んでいくと言う導入と状況説明に最適で天才の影に隠れがちだけどもホームズシリーズの最大の良心である名助手のジョン・H・ワトソン博士が探偵の相棒役にいるように、空晴と百夜はえだらんシリーズにおける物語の要であって切っても切れない密接不可分の関係、遊戯王で言うところの表遊戯と裏遊戯のような、まさに表裏一体の光と闇、いえ寧ろ病みと闇、悪魔と悪党みたいな…、とにかくこの二人は離れ離れになってはなりませんし、そもそもこの二人がこういう関係になって後々ああいう展開にならなければ物語はそもそも成立しないので、だから人生を共にした結果二人に不幸や禍いが訪れようとも、決して二人を離れさせてはならないと。基本的にこの二人を待つのは悲恋と悲哀だけれど、それはあくまでも二人の恋の行手を阻まんとする世界意思と運命の見えざる手から逃れ、恋愛成就する為の最後の窮策としての無理心中や悲しみの復讐鬼と憎しみの連鎖と報復の虚しさ、連綿と続く恨み辛みの無限ループ、そうこれは単純に彼の悪意だけがそうさせたのではない、彼を取り巻く境遇、彼のその父親のそのまた更に父親のもっと先に遡る『空晴家』という彼の養父の家系と彼の生来の血筋が持つ因縁がそうさせたのだと、彼の悪意が殺意として実るその時が来るのを怨念と憎悪で丁寧に育て鋏で手入れしながら、まるで犬神家が芥子という麻薬で戦時に財を成したように、人の不幸で富を成した呪われた彼の系譜が、幾多の人の血肉と悲鳴によって出来上がった戦争と破壊と略奪の積年、人の歴史が彼をそうさせたのではないかと、えだらんとは、すばももの持つ悲恋とはそういう昭和の頃の邦画の持つ奈落、まるで仄暗い水の底から沸々と浮かび上がる様に、長きに渡って少しずつ膨らみ泥沼の底より芽吹いた世世の遺恨と鬱憤が怨毒の悪霊となりて彼に取り憑きて彼の私怨に共鳴し増幅する中で“彼女の懇願”によりてついぞ召命された横溝正史的な世界観の悲劇であって、あくまでもメリーバッドエンドが必要条件であり、それが二人の破局であってはならないと。それはえだらんにおける大前提なのです。
 ですから、確かにロイ君のいう事は至極真っ当でその通りなのだけども、それではすばもも、いえ、そもそもえだらんは成立しないのです。これは別にいつもの私の身勝手な妄想だとか主観的な感想や個人の解釈の類ではありません。このえだらんの作者が口うるさく後書きや備忘録と言った読者の目に入るところで、無粋にも何度も何度もしつこく繰り返し書いて読者の想像の余地を削いで飼い殺しにするものだから、間違いなくそれは『原作における変えようのない事実』なのです。
 つまりこのえだらん世界と言いうのは、どんなに偉そうで尤もらしいお題目を並べ立てようと、すばももの為に構築されただけの虚ろな世界であり、内容は全くない上に主人公とヒロインはなんだかんだ結ばれず終わるという全く生産性のない恋愛物語、つまりやまなしおちなしいみなしの“やおい”なのです。だからそこに意味を求めてもいけないし、キャラの心身成長だとか人生の成功だとか物語のハッピーエンドなどの報酬の類や作品の社会的意義を期待をしてもいけない。だってこれは陰湿で陰険で物鬱な太宰治的恋愛観を描く為の、敗北主義者の敗北主義者による敗北主義者の為のニヒリズムでルサンチマンの空気を何となく楽しむだけの乙女向けの脳みそふわふわ少女漫画であって、本当にただのやおいなのだから、そこには高尚なテーマや作者の政治的主張や宗教哲学、社会思想など微塵もありはしないのです。

 ーー…?ロイ君のネームがあまりに衝撃的で少し刺激が強すぎたせいでしょうか。意識が薄らいで、一瞬目の前が真っ暗になったような…、はて。ええと、そんな訳なので、ロイ君のこのネームは確かに物語としては個人的にとても良いと思うのですが、すばももの同人誌としては幾ばくかの問題があるようです。そもそもこれは所謂夢小説の類と一緒で、男性向けジャンルで言うなら俺君提督とか俺君Pが登場するエロ同人誌の導入のようなものなのです。それを何の前情報もなく、先入観も無く、同人知識もない内にやってのけるとは…。やはりこの兄弟、ロイ君は只者ではありません。しかも、多くの日本人の同人作家、とりわけ空間把握に苦悶して背景の作画で挫折する事の多い女オタクにとって、こんな最も簡単にパース線上に正しくビル群や人物を配置して、おまけにコミック的なケレン味やコマ割りの目線誘導を天然で理解しつつ、ダイナミックに躍動する人物のデッサンに寸分の狂いもなく、全体の遠近法やレンズによる画の歪みも違和感を残す事なく緻密に描写し、48頁のネーム一本を背景の書き込みぎっしりで簡単にやってのけるなんて!ぶっちゃけて言えば私より余程絵が上手いのです。ロイ君、なんて恐ろしい子…!むしろこんな内容も厚みもペラペラな薄いおホモ同人誌の為に、かように濃厚なアメコミヒーロー夢漫画を本家のアメリカ人に描いて頂けるなんて、すごく申し訳ない勢いです。もう土下座ものです。やはり私の描く絵は平面的なハンコ絵でしかなく、西洋芸術の血を引く者たちの天性の才、主観を取り除きモノを“正しく”見ることに対する飽くなき追究と数理と比率に基礎付けられた観察眼、ヒューマニズム賛歌のリアリズム嗜好を凌駕する事はないのかしら。いえ、それは比較文化研究における東洋芸術の評価としては些か卑屈さがありますね。私たちは濃淡が薄く平べったい絵かもしれませんが、線画による味のあるデフォルメセンスは特筆すべきと思うのです。そもそも西洋芸術は顔料と壁画と石による建築と彫刻、東洋芸術は墨に筆と木による建築と木彫り、無論この分類も少し乱暴で二元的すぎる気が致しますが、そもそも生活圏の環境と習俗、使用する素材と道具が異なる時点で、西洋芸術と東洋芸術の比較と評価は非常に困難なのです。ですのでこのロイ君の漫画…いえコミックと言う方が正しいのでしょうか。これはロイ君の国の文化と価値観が無意識に反映されていてとても興味深い作品なのです。ただ一つ難癖をつけるとすれば、これはすばもも本ではない、と言うことなのです。むしろそれが一番の問題です。最早すばももと言う絶対的な前提すら守られていないある種の問題作なんです。これはただのロイ君×百夜君のえだらん二次創作if展開夢漫画と言うかつて誰も描いたことのない未知のジャンルとカップリングになってしまいます。私は一体どう反応するのが最善なのでしょうか。ロイ君の気持ちはとても嬉しいですし、『作家ロイ君』のコミックとしては個性があって面白くて完成度も申し分ないのですが、ただこれはすばもも同人誌としてはあまり相応しいものではないと…。こんな時どんな顔をすればいいか分からないのです。上手く笑うこともできません。それに、ロイ君が満面の笑みで私にプレッシャーを与える中、とても言い出しにくいのですが、よく見ると百夜のキャラデザインが間違っているのです。百夜はあくまでリリムという天使の羽が生えた悪魔で、シスターの様な修道服や、少年らしい衣装、清楚な洋服を着るボーイッシュな現代ヒロインであって、和服と袴を着たり真っ赤なリボンを頭につけてボブの後ろにこんなにも長い丁髷なんてしていないのです。一体この子は何処からやってきたのでしょう!でも、デジャブとでも言えばいいのかしら…、この子、何処かで見たことがあるような…。
 と、そんな折、エヘン!とわざとらしい咳が耳に届きました。はっと意識を取り戻し横を伺い見ればミカエルさんは先程からずっと私の反応を待っていたようで、ネーム原稿を差し出しながら顰めた眉と厳つい目で睨むようにして机の向こうから凝視しているのです。いえ、違います、気のせいではなく本当に私を睨んでいるんです。ずっとロイ君のネームに悶絶していたから、自分を放置し無視されたと思って。
 英国紳士を絵に描いたような大人の殿方ミカエルさんですが、ああ見えて時たま幼い子供や少年の顔を見せる、と言えばいいのでしょうか。お母さんを弟に取られまいと憎まれ口で牽制して独り占めを目論み、母の気を引こうとテストで満点を取って優等生であろうと自らに課している斜に構えた年子の長男のように独占欲が強く存外に嫉妬深い。ましてこの兄にしてこの弟、弟もまるで母親が兄ばかり優先し期待しているのではないかと疑い、やたら兄のおもちゃを欲しがって自分のものにしようと手を出しお母さんにすぐ甘えて自分を見て欲しいと構ってもらおうとする末っ子のようにやたらと人に突っ掛かり好戦的である意味劣等感が強い。要するにこの兄弟は表向きは仲良くしながら、水面下では互いを出し抜こうと騙し合い競い合っていると言えばいいのでしょうか。お互いの仕事の成績や能力を比べ合い、睨み合ったのを皮切りに隙あらば取っ組み合いをするような血の気が多い事、変なタイミングで息があったかと思えば、ふとした瞬間に両者の間でバチバチと電流が走って、緊張で張り詰めてギスギスした邪険な空気になるので、三人揃っていると何かと息苦しい事が多いのです。そんな喧嘩の多い兄弟ですから、兄ミカエルさんにそのような怒った目で見つめられると、そんなに長い間、私は弟のロイ君の事ばかり気にかけて一人絶句していたのだろうか、と彼らの母親でもないのに、罪悪感が滲んで、冷や汗が額から浮き出てきて胃液は喉を込み上げて顔の血の気はみるみる下がってくるのです。
 一方のロイ君は先程見た威勢の良い姿勢のまま親指を天井に突き立てて、眩い白い歯を見せつけるように口端を上げて輝いたままの笑顔で静止していました。見れば先程と一寸も変わらないご様子。よかった。あまりの事に思考の海に意識が飛んで、ついモノローグで話し込んでしまったようですが、作中ではほんの一瞬の出来事だったみたいです。よかった〜!兄弟事変と言う大国同士の二人の軍人が魔術と銃器で争い地上を火の海の焦土に帰して人類ごと滅殺する世界未曾有の危機はなんとか間逃れたんですね。ヤッタネ!やっぱり何事も波立てず穏便が一番ですね。このように我関せずと傍観して日和見を決め込むところが日本人の悪いところなんですね。
 私は、ミカエルさんの刺さるような鋭い視線を頬に感じながら、コホン、と誤魔化すように咳をついて、トントンとロイ君のネームの四隅を整えて机に伏せ、今度はミカエルさんの方に手を伸ばし彼のネームを受け取りました。
 きっと真面目なミカエルさんの事です。ロイ君があの出来栄えなのだから、きっと彼も相当な質を持った、自由でカオスな内容に違いないのです…。
 
 彼らのネームが放つ異才のオーラを全身に浴びるたびに、私の自尊心は砂の器の如くに波打ち際にあらば木枯らしに吹かれて忽ち砂粒に還って跡もなく崩れて去ってしまう、そんな頼りない想いなのです。少し奇妙で、そして切ない。醜くも美しいこの世界で私は一体何に縋って生きていけというのですか。
 そして、肝心なミカエルさんのネームの中身なのですが、それがなんと不思議なことにそこには表紙が付いてました。しかし、それは簡素なもので、漫画雑誌にあるようなイラストなど見当たらず、端的に言ってまっさらな紙の中央に不器用な日本語でタイトルが書かれているだけなのです。そして、どう見繕ってもその手にあるのは紙束。大学のレポートでも見るような厚みを帯びていたのです。というよりも、これは最早論文形式と言うべきプレッシャーを放っているのです。ロイ君のものも強烈な個性を醸していましたが、ミカエルさんもミカエルさんで何か重大な間違いを犯しているような…。いえ、先入観はこの際捨てた方がいいでしょう。私は思わず喉を鳴らしました。しかめ面して物々しい圧力をかけるミカエルさんを感じつつ、私はおずおずとそのネームの束を受け取りました。
 ええい、ままよ。私は表紙を捲りネームを見ました。そして、そのままお茶の間から全身を発射して屋根を突き破り、放物線を描き頭から畳にめり込んでしまうような思いでした。
 
 まずレポートとばかりに添付された表紙のタイトルには「『えだらん』の同人誌すばももに関する考察と改訂案」と書かれてました。あ、ちゃんと専門用語を使って書いて下さってるのはファンとしては嬉しいポイントです。まるで役所の文書を感じさせるような長さの題字ですが、それは文字通り序の口に過ぎなかったのです。
 表紙を捲って見れば、ルネサンス期の緻密で写実的なデッサンを思わせる繊細なタッチで人物が描かれており、その絵のコマの横にセリフが綴られていて、ネームというよりは絵コンテに近い形だったのです。そして肝心なシナリオと言えば、まるで推理小説を絵に描いたようなサスペンスな内容に書きかわっていて、まるで誰か死人が出てしまうのではないかというスリリングな展開になっていったかと思えば、当然のように「サマエル・スチュワート」なる原作にいない筈の軍人キャラが幅を利かせているのです。そして様式美と言わんばかりにこの男も百夜に惚れ込んでいて、空晴に牽制を始めて物語は明後日の方向に向かっていきます。二人の男と男は一人の女を巡って、あ、違いました、二人の男と男は一人の少年を巡って熾烈に争い啀み合い殺し合い加熱する三角関係はお昼のメロドラマ並みにドロドロで火曜サスペンス劇場並のベトベトな愛憎劇を展開し物語はいよいよ持って佳境を迎えるのです。そして、3人の関係は平行線のまま、しかし百夜とサマエル・スチュワートとの関係を匂わせながら幕引きするという、狡い終わり方なのです。想像の余地にお任せします、と読者に委ねているようで完全に含みを持たせて、一つの結末にしか辿り着かないように計算されている有様なのです。
 やおいの神様、教えてください。どうしてこの兄弟、いえ、男の人というは、どうして、どぼじて、やたらSSや同人誌の二次創作で『俺くん』や『モブおじさん』を登場させたがるのですか。一体何故、何の疑いもなくレギュラー顔でオリキャラが物語に介入してくるのですか。そして何ゆえ当たり前に主人公面でCPの関係に割って入ってそのままヒロインをNTRってしまうのですか。殿方というのは、なんて分厚い面の皮の持ち主なのかしら。無論、夢も嗜む私ですが、それでもなんだかこう、一線を飛び越えた感が否めないのです。
 このミカエルさんのある意味でダダイズムやシュルレアリズムを彷彿させるようなアバンギャルドな異色作は、ロイ君のマーベリックならぬマーベル社イズムのマーベラスな怪作同様、御曹司様に気に入られて無理矢理テニス部のマネージャーになった夢主がそのままテニスプレイヤーの才に目覚めて、強豪校の男子テニス部の中学生とは思えない老け顔のイケメン男子たちと、何故か女子テニス部との区別なく夢主がテニス部の彼氏とのダブルスで一掃していくようなワナビ感があるのです。ですから、これはもうすばももではなく、空晴とミカエルさんが百夜を巡って争うの三竦みで、当て馬となる余り者のいる三角関係、実質オチでミカエルさん×百夜を匂わせて幕引きするという狡い構成のミカエル物語なのです。これはすばももの本の筈なのに、ってなんで俺くんが…!?ああ、もうめちゃくちゃだよ…もうダメだぁ…おしまいだぁ。
 また、ウィリアム・シェイクスピアなどの悲劇的な戯曲や『クラリッサ』や『ラブド・ワン』などの英文学のあらすじを見ても思ったのですが、イギリス文学はどうしてやたらドロドロして陰鬱でブラックでよく人が死ぬ上に、三角関係で男と男が女性を奪い合い挙句に想い煩う女性が死を迎えるような闇の腐女子のBLの世界観みたいな薄暗い略奪愛や恋の鞘当てのような悲恋話が多いのでしょうか。そしてそれを好む紳士淑女が多いということは、もしかして英国人はみんな潜在的にホモで腐女子なのかな。こんなこと国教会の信徒や清教徒などの英国クリスチャンの方に仰ったらこっ酷く怒られてしまうのかしら。そうは言っても、イギリス人の好むブラックの匙加減が私にはとても理解できないんですもの。コーヒーを煎れる時砂糖を入れるかミルクを入れるか、紅茶を注ぐ時ミルクを先に入れるか後で入れるか、打ち上げ花火を下から見るか横からみるかの次元ではなく、彼らの感性と趣向が米国人以上によくわからないんだもの。米国人みたいに純情な感情は空回りせずに常にウェルカムフルオープンじゃないんだもの。米国人と同じく徹底した個人主義なのはいいとしても、こちらが何も言わないと何も言わないし、いつも一線引いて遠くから皮肉に冷笑してるだけなんだもの。こちらが引くととあちらも引いて、こちらが黙るとあちらも黙って、こちらが話すと口を開いて、やっと口を効いたかとおもえば冷ややかに世間を嘲け笑う。こちらが褒めるとあちらは嫌味を言い、こちらが凹むとあちらは楽しそうに笑い、こちらが泣くとあちらは嬉しそうに笑って、もう心許ないと、こちらがそっと身を引くと、あちらは血相を変えて私を引き止める。こだまでしょうか、いいえツンデレ。何故だと尋ねられても、むしろ私の方が話がわからないのです。もうわけがわからないよ。英国人の頭はいっちゃってるよ、ヤツら未来に生きてるよ。
 何を怒っているのかとミカエルさんにしばしば尋ねられる事があるのですが、私からすればいつも怒っているのはミカエルさんの方に思えるのです。ロイ君ですら、私と話していると突然不機嫌になって、そのまま顔を伏せて無言で私の横を過ぎて立ち去る事も多いのです。お二人はいつも大抵兄弟喧嘩をしているのです。日頃私に辛辣に物を言い手厳しい指導をしては醒めた目で笑うミカエルさんは、私が根を上げて仮病で家に引き篭もると、決まって小首を傾げて何かを言いたそうに不満なお顔をして病気になった理由を話しなさいと真摯な態度で仰るのです。それはご本人が一番よく分かっている筈なのに、わざわざ私に尋ねる理由がよくわからないのです…。
 そしてミカエルさんがそうやって解せないとばかりに自問自答してるうちに、ロイ君はしてやったと言わんばかりに嬉しそうなお顔をして、今度は彼の方が自宅に引き篭もる私を尋ねてスナック菓子を手土産にお茶を飲みにやって来るのです。お通しした客間の革椅子にどしりと座り込んで、お皿に盛られたポテチを私に勧めつつ、一人どんどんとお口にポテチを頬張り、ほっぺた一杯にお菓子を貪りながら、お兄様であるミカエルさんの悪口や小言をこれでもかと私に言い含めて楽しそうに微笑みなさって、そのうち満足して一人帰宅するのです。彼はゲームが好きなお方です。ですから私が多少ゲームを齧っている、という事をお話しすると、目の色を変えて話題に食いついて、次に家に遊びに来る時には日本のレトロゲームや携帯ゲームをハードごと持ち寄って家を訪ねて来るようになりました。客間に置かれた長机を挟んで向かい合い通信ケーブルを繋いで一緒に携帯ゲームをしたり、畳張りの隣室でテレビを前に二人並んでパーティゲームをしたりしました。ロイ君のご家庭はあまりゲームをよく思わない家庭だったようで、クリスチャンのご両親から目を盗んでゲームをするには、携帯機を外に持ち込みご実家の近くに広がる一面の綿畑の奥まった場所にある廃屋の中で一人隠れてやるしかなかったと言うのです。大人になった今はこうして好きなだけ据え置きゲームをできると楽しげに話していました。コントローラーを手にゲームに没頭するロイ君の瞳は燦然と輝いていましたが、広い和室の隅の方で、テレビに映るゲーム画面を二人一緒に見つめながら、こじんまりとした様子でゲームをしている時「俺、家族とこういうのした事がないから、こうして誰かとゲームするの夢だったんだよね」と不意に漏らした言葉の響きが妙に耳に張り付いてずっと私の胸の奥で支えているのです。
 すると翌日の夜、今度はミカエルさんが不機嫌そうでいて困ったような難しいお顔で軒先に尋ねてきて、弟さんのロイ君の悪口をけたたましい勢いで吐き捨てて、思わず圧倒され言い淀む私の手に何かの小さな袋を押しつけた後「ここ最近は治安が悪い。君も一人者なら戸締りを確認してから眠るように、いいかね」と一方的に告げて怒った目のまま用件も言わずに膝下まである外套を翻して寒空の下を足早に去っていくのです。手元を見ればミカエルさんの握り拳でくしゃくしゃになった造花が私の掌の中でくったりと萎びていて、リボンのついた透明の包み紙の中に入ったクッキーは怒りに力んだミカエルさんの拳の中で見事潰れて儚くなっているのです。それは、薄らと雪の積もる冬の日でした。黒い外套には雪が付いたまま払われておらず、表情の削いだお顔で見つめる彼の、深く被った制帽の鍔にも白い雪が乗っていました。一体何の仕事を終えてここに立ち寄ったのでしょう。彼は例の軍服を纏って仕事帰りにそのまま直接訪れた様でした。なんだか目が暗く虚ろに濁っていたので、せめて肩口にかかった雪だけでも払って差し上げたかったのです。ですが、彼は私の手が近づくのを嫌うかのようにパシッと革手袋で私の腕を掠め取ってそのままやんわりと掴んだまま力を失い宙を沈んでいくので、私はいそいそと手を引っ込めるしかなかったのです。傘を差すのを嫌がる国のお人ですから、意地でも差したくなかったのかもしれません。でも日本海側の越後の天候は兎角変わりやすいのです。弁当忘れても傘忘れるな、という言葉もあるぐらいですから、せめて帰り道ぐらい私の傘を持っていってくださってもよかったのに。さっさと踵を返した背中に向けて傘を片手に追いつこうとしても二、三歩軒下を歩いた後さっと雪風が吹いて、風に煽られて幾多に舞う小雪が収まり、暴れ袖が鎮まって凍る顔を上げる頃には、ミカエルさんの姿は粉雪に攫われてしまったかのように忽然と消えていて、雪道に着いた軍靴の足跡ごと彼の姿はなくなってしまうのです。
 兄弟は何かとずっと喧嘩ばかりして、代わる代わる愚痴を言いに私を訪ねてくるのです。私はどうも彼らの兄弟喧嘩の板挟みにあっているのです。兄弟はお互いに素直じゃない捻くれたところがありますし、正反対のようで不器用な所はよく似ているお二人だから、きっと第三者の立場にある私を密かに頼りにしていたのかもしれません。気を回したつもりで、仲直りの仲介を申し出た事もあるのですが、ロイ君もミカエルさんも何だか居心地の悪いお顔をして話をかわしてしまうので、一層二人の関係を複雑にしてしまった気がして、後悔で息が詰まる想いをする事も多いのです。それでもなんとかお二人に取り次いで、秘密裏にお二人の会食の場を設けても、兄弟喧嘩は収まるどころか、ミカエルさんは機嫌の悪さを隠すことなくお皿に横たわるお肉にナイフとフォークを突き刺す勢いで切り分けた後荒々しく口に運んで睨めあげるような氷の目つきでナプキンで口元を拭き、ロイ君は無言でコーヒーを啜ってじっとりとしたお顔でお肉をフォークで口の奥に押し込んで、何か別のものでも噛み締めるようにして永遠と同じ肉を噛み続けるだけです。そうやって私が何かしても火種にガソリンでも投げ込んだように悪化するだけで決して下火にはならないのです。確かに、私は物分かりも悪く、あまり気が回る方でもありません。ですのでこれ以上余計な事をしないよう、お二人から距離を置こうと連絡を絶つと、すぐに彼らは二人揃って自宅を訪ねてきて「何か我々に話す事はないか」と例の言葉を神妙なお顔で尋ねてくるのです。もう本当に、本当に私は何の事だかわからないのです。いつか誰かにあんぽんたんのおたんこなすのちんちくりんと言われた私です。きっと私の知らない所でどうしようもない事になっているのでしょうね…。
 兎角、英国人は二枚舌がすぎて、その“含み”の多さは日本の京都人並みなのです。有名なぶぶ漬けの話ではないですが、彼らの御言葉と言えば、自分に正直な米国人の褒め言葉と違って、“額面通り”に受け取ってもいけませんし、こと政治やビジネスなどの交渉ごとにおいては、彼らの囁く口当たりの良い甘い言葉とは裏腹に、その腹に一物黒いものを抱えている事も殊更に多いので、文字通りに受け取り素直に喜ぶ事もできないのです。フェア・プレイを重んじる彼ら英国紳士はウィットとユーモアを絶妙に使い分けて、彼らの嗜むジョークは機知に富んだ朗らかな聡明さを伺えるかと思えば、突然相手を突き離すような薬にもならぬ毒気を孕んだ惨たらしいブラックな皮肉を帯びて、彼らの舌の使い分けようと言ったら、流石の日本人でもその空気の違いを読みきれないのです。幾ら私ども日本人は舌の先が繊細で英国人の舌は肥えてないと言えども、その英国人の舌と言うのは、料理の味は分からなくとも、こと議論と独自のユーモア・センスに関しては、元来喋りが得意ではない日本人の舌を巻く程に、日頃彼らは舌端火を吐いて、もう筆舌しがたき程に、兎角に舌が回るのです。私と言えばもう畏まるしかなくて今も舌々と言い過ぎて舌が縺れて口を噛む勢いです…。
 後、やはり文学者の文体と違って女オタクや腐女子の文体はその…、いえ特に私個人に限った話なのでしょうが、私の文章は特有の気持ち悪さがあって、なんだか自己嫌悪で心が萎んでしまうのです…。

 もしこれが夢じゃなかったとしても、これはきっとお二人が私を愛している故の事ではなく、ただ自分に欠けた何かを取り戻そうと、己を満たす為に私を利用しているに過ぎないのです。だから私は愛されてる訳ではないから、大丈夫なのです。きっと、このまま、こうして、3人揃って、仲の良い、お友達と、して、兄弟、の、お二人、が、喧嘩せず、仲良しで、私も、お二人とずっと、このまま、3人、仲良く、居ら、っれ

 朝起きると、私は一人ベッドの上に横たわっていて、二人は部屋から居なくなっていました。布団はいやに綺麗にわたしに被さっていて、ベッドの四隅に合わせて布団も枕も整えられていました。

Thank you for BL, Fuck you for BL.
Fu-joshi is forever.

追伸(P.S)
拝啓 海外の隣人の皆様
 お元気ですか。おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。
 この文章は海外では一体どのように翻訳されているのか、私、気になります。元ネタの説明も意訳も日本人でもわからない様なオタク構文で申し訳ない限りです。
 どうぞ、お身体に気をつけて、仲良くお過ごし下さい。

かしこ

鬼月 桜杏

【4】詳細設定

[1]AVALONE

【1】登場人物
オビツォート公爵家(リリス一族)に幽閉される令嬢 Lilibet・Clarissa・Alicia・von = Obizoth(リリベット・クラリッサ・アリシア・フォン = オビツォート)
 オビツォート家の子女リリベット(Lilibet)令嬢。愛称はLily(リリー)。
 王家と所縁のある家柄のオビツォート公爵家の子女として生まれながら子宮に病気があり、公爵家のお世継ぎを産めない身体であった為に、公爵から冷遇を受けており、自閉傾向の症状を持ち魔力が強いことから、屋敷で使われていない物置同然の埃っぽい隅の部屋に幽閉され、ネグレクトを受けて育つ。(仮:軽度知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害でサヴァン症候群を合併してる?)。
 オビツォート家に古くから仕えるウォード家の子息であり、成人後オビツォート家とリリーに仕える騎士(Sir)となるミカエル卿と幼少から一緒に過ごしてきた公爵家子女のリリー。公爵家当主から虐待(ネグレクト)を受けて幽閉生活を送っていた為に屋敷の外の世界を全く知らず、唯一自分に優しく接してくれるミカエルだけがリリーにとって本当の家族で、彼に対し父性の様な憧れを感じていた。
 しかし16歳になったある日、王家の統べる帝国に革命を起こさんとするレジスタンス(テロリスト)らによるオビツォート家屋敷の襲撃により、リリーはミカエルと別れて屋敷の外へ逃げて、生まれてはじめて外の世界へ飛び出すことになる。
 そしてリリーはレジスタンスのリーダーであるロイによって保護され、レジスタンスの一員として独裁政治の蔓延る帝国に自由を齎さんとしてロイや反抗軍と共に戦う事を自ら志願し、帝国側であるオビツォート家とその子女である自分に仕える唯一の騎士であり自分の家族同然であったミカエルと敵対する形で再会する事となる。

オビツォート公爵家とリリーに仕える騎士 Sir.Michael・Ward/Sir.Michael(ミカエル・ウォード/ミカエル卿)
 オビツォート公爵家に仕え、代々優秀な騎士を輩出するウォード家の長子。幼い頃より公爵家に仕える騎士を志願し訓練していたが、学問の成績が伸び悩み学習が人よりも遅いことから、ウォード家において能力の劣る落ちこぼれとしてのレッテルを貼られ、10歳の頃に公爵家に仕える騎士の修練者として認められたものの、公爵家で冷遇を受けており存在を疎まれていた幼子のリリーの世話人(小姓/ペイジ)として拝命され、公爵家主人から実質的な不要宣告を受けたミカエルは幼いリリーを前に酷く落ち込んで捻くれてしまった。
 しかしリリーに仕える中で彼女の無邪気な言動に絆され、年不相応な幼い態度である一方で勉強や本が好きで不思議な知性を感じさせるリリーと共に生活する中で、勉学に励み基本的な教養を身に着ける傍ら、日常的に騎士となるための軍事的な訓練を継続して騎士道と剣技を極め、少年ミカエルは青年期になるに伴い心身ともに大きく成長していく。そしてミカエルが20歳を迎える頃には落第生の汚名を返上してオビツォート家とリリーに仕える正式な騎士として叙任を受ける事になる。幼い頃からリリーに仕えてきたミカエルは、16歳を迎える彼女の成長を喜び、彼女に仕える騎士として畏敬の念をもって接しつつも、ペイジの頃から密かに恋心を寄せており身分違いとは理解しながらいつか夫妻として正式に婚約できないかと淡い期待を寄せていた。
 一方で彼女が屋敷の外の世界を知らない事、自分以外に信頼を寄せる親しい間柄の人間もいない事から、彼女に対して支配欲や独占欲を抱くようになり、リリーが自分しか頼る者がおらず自分だけに心を開き依存している今の状態に背徳的な喜びと言いようのない優越感を抱いていた。しかし、もしも彼女が屋敷の外の世界に興味を抱き自分以外の人間(男)を知れば、いつしか彼女が自分の手から離れ二度と手の届かない所に行ってしまうのではないかと恐れるようになり、誠意と人格のある人柄とは裏腹にリリーに対して強い執着を持ち、無意識に彼女を束縛するようになる。
 ミカエルが卿(Sir)の敬称を授かりリリーが16歳を迎え数月が経過したある日、ミカエルの騎士としての軍事的な功績と実力(過激派の政治団体やテロリスト、強盗などから領土を防衛し守衛を統率する指揮力等…)が認められ、予てからの悲願であった帝国直轄の騎士団(軍隊と同列)に入団できるよう公爵家側が取り次ぐ話が出ていたが、脳裏にリリーの寂しそうな顔が浮かんで、自分がいなくなれば彼女を守る人間がいなくなる事を危惧し、その話を辞退する事にしたミカエル。しかしその夜、オビツォート公爵の密談を偶然耳にしてしまい、公爵主人がリリーを娼婦や見世物として何処かに売り飛ばすか、子供に恵まれない物好きな名家に養女に出す算段をしている事に強いショックを受け、その翌日リリーに「教育」として接吻を施しそのまま純粋無垢な彼女と性行為に及んで肉体関係を結び、自分が守ると誓い敬っていた筈の彼女の純潔を自分自身が奪ってしまう。
 彼女との堕落した性生活を続ける内に、自分の中でリリーの存在が何にも代えがたい大切な想い人となっている事を強く自覚したミカエルは、彼女が自分の子孫を産めない身体であるのを承知して、公爵主人に彼女との婚約を正式に申し込もうと考えていたが、数日後公爵家の屋敷がレジスタンスの襲撃に巻き込まれてリリーと離れ離れになり、彼女が自分の傍らからいなくなるという最も恐れていた事態が起ってしまった。レジスタンスとの攻防は激化し、守衛(兵士?)を率いてレジスタンスからオビツォート家の屋敷と領土を防衛しつつリリーの行方を探していたが、漸く再会した彼女は、レジスタンスリーダーであり血を分けた弟であるロイの右腕として、又自身の仕える帝国を打ち倒さんとするレジスタンス側の一員として自分と対峙したのだった。

レジスタンスリーダー Roy・Draper(ロイ・ドレイパー)
 帝国の独裁政治に抵抗するレジスタンスのリーダー。ミカエルの異父兄弟。人格者であった先代とは打って変わって独裁的な暴君と成り果てた現国王が支配する帝国に再び自由と栄光を取り戻さんと奮闘する革命派の父を持つ。母親は帝国の領土に古くから土着している民族由来の伝統的な家系であるが、父親が褐色肌を持つ帝国の外から来た異邦人の血族であり、自身の肌が黒いことから同年代から不当ないじめを受けて、身分や階級の高い支配層から差別(冷遇)されていた。その為帝国側や貴族に対して強い恨みと憎しみを抱いており、王家と所縁のあるオビツォート公爵家とそれに仕えるウォード家、ひいては兄に対して一方的な怒りと憎悪の念を向けていた。一方で、比較的裕福な暮らしをしていた(と思っていた)兄を心の何処かで羨ましくも思っていた。現国王による支配政治から自由を取り戻そうと画策する父親の姿勢に倣い革命派の政治団体や民間の兵団(傭兵部隊?)から人員を抜いて過激派武装組織のレジスタンス(自由軍/革命軍と呼称される)を結成し、実践的な革命運動と帝国支配の不合理を市民に訴える啓蒙活動を率先して行い、横暴な政策する王家や市民に対して重税をかけ粗暴な扱いをする貴族の屋敷を無差別に襲撃し、帝国で悪名名高いテロリストとしてその名をはせていた。
 ある日の事、レジスタンスの活動をする中でかねてからの目標であり、数年前から計画していたオビツォート公爵家襲撃に功を奏するも、ロイの部下の一人が屋敷周辺で行き倒れになっていた高貴な身なりの少女を捕捉したとの報告が入り、直に会ってみて驚愕する。その少女の正体は過去ロイが兄一家を尋ねてオビツォート家の屋敷に訪れた際に偶然出会って以降、ずっと想いを寄せていたあの時の屋敷の娘がリリーであった。母親に一目会いたいとオビツォート家に訪れた少年ロイとその父親は、ウォード家の主人(ミカエルの父親、ロイの母親の現夫)から邪険にされるだけで鼻から相手にされずに門前払いを受けて、ロイは深い憤りを感じて塞ぎ込んでいた。
 そんな時にリリーと出会った。父親がオビツォート公爵家の使用人と話す傍ら、母親に会うのを諦めきれず屋敷庭園に忍び込んだところ、憎き兄ミカエルがリリーの一人遊びを見守っており、その光景がまるで幸せそのもののように思えて酷い郷愁と激しい嫉妬の念を感じていたのだが、兄がその場を離れた隙を見てリリーの背後に忍び寄り、腹いせに痛い目に合わそうと肩に触れたところ、彼女は憎き公爵家の人間でありながら、侵入者の自分に臆する事もなく褐色の肌を持った自分を厭う事もなく、ただ穏やかで控えめな表情で自分を遊びに誘ってくる。呆気に取られ敵意も萎えてしまったロイに対し、リリーはただ純粋な好奇心を向けるだけで、野花で拵えた花飾りを自分に手渡して優しく微笑んだのを見た瞬間、ロイの頭から全ての事が抜け落ちて彼女に釘付けになり一瞬で恋に落ちてしまう。兄が戻ってくる気配を感じて素早くその場を離れて父の元に戻ったが、彼女の笑顔がいつまでも瞼に焼き付いて頭から離れなかった。
 自分の出生や人種などに関係なく貴族で初めて自分に優しくしてくれた女の子。その一瞬の出来事はロイの中で大切な思い出として心の奥底に仕舞われていたのだが、彼女との思いがけない再会がその淡い恋の情念を思い出させ、同時にロイに一つの邪念を生み出し、オビツォート公爵家の子女である彼女を人質にしてレジスタンス活動に利用する事を思いつく。あの後知ったことだが、オビツォート家の子女でありながら社交場や政治の舞台に現れないリリーは、噂によれば病であるとか気狂いであるとか悪魔であるとか根拠の薄いゴシップから有力な情報まで彼女に纏わる話を一通り把握していたが、いずれにしても公爵家にとって彼女の存在は疎ましく、彼女の素性が世間に明るみになる事は彼らにとって都合の悪い事に違いなかった。ロイは彼女をレジスタンスに組み入れ革命の為の策略に利用しつつ、彼女の淡い思い出を恋心として昇華し、母を奪い自身を貶めたウォード家とその長子である兄への復讐として、何も知らないリリーを自分の手の内にしようと目論むのだった。

レジスタンスに組する王家一族(分家?)の末裔(第一子)
 現在帝国を統治する王家の分家筋(親戚)で王族家柄の第一子。10代の子供であり、あまり頭がいいとは言えず、教養もまだまだ習得途上だが慎ましく穏やかな性格であり、市民に分け隔てなく接する思いやりのある姿勢が被支配層や労働層の市民の強い支持と共感を呼び、帝国支配からの解放と自由の象徴としてレジスタンスを中心に市民に祀り上げられ、「国を統べるにふさわしい人物」であるとして次期国王の再有力候補の扱いとなっている。

オビツォート家公爵主人(リリーの父親)
 帝国側に仕える公爵家の主人でオビツォート家はもともと王家に由来する王族の遠い血縁である。公爵家主人は保守的で合理的且つ打算的な考え方をしており、リリーに対するネグレクトと冷遇措置を行った中心人物。
 古に恐るべき魔王と契約した種族の末裔とされており、オビツォート家に伝わる伝承によれば一族は皆高貴なる悪魔の血を引くと言われる。人を呪う魔術に長けており、裏で帝国側に都合の悪い人物を呪い殺すなどの工作をしたり、優れた魔力により敵陣視察といった諜報活動も行っている。頭がよくカリスマ性のある人物。

帝国を統べる王家の暴君(独裁者)
人格者として国民に慕われていた父の亡き後に即位した現在帝国を治める国王。自己中心的で傲慢な性格であり、横暴な態度で重臣や家来を振り回す。自分より求心力のあった先代の父親を疎ましく思っており、そんな父が守り築いた帝国の威光そのものが気に食わないので国全体をおもちゃにして無茶な国政で市民の幸せを破壊しては喜んでいる無邪気故に邪悪な性格。

その他


【2】世界観・時代設定
独裁的な暴君が統べる帝国(中世~産業革命のイギリスイメージ)が舞台のスチームパンクと剣と魔法のファンタジーの悲恋物語。

帝国とレジスタンスの攻防
騎士×姫←反逆者 三角関係の恋愛(共依存と略奪愛)

AVALONE(アヴァロン)
理想郷→アヴァロン(AVALON)→イブ(eva)+アローン(alone)→孤独のイブ(EVALONE)(~20210704時点)
※Ava(アヴァ)でも「命」の意を持つ女性の名前となり、イブ(Eve)の派生の名前であるとの事[4]なので、AVALONEに変更(20210704).

[2]らしゃめん

【1】登場人物
鬼月桜杏(きずき もも)
 鬼や天狗の一種とされている「璃々夢」の種族の血を引く子供。越後の小さな山村に暮らす農家の娘。控えめで大人しい性格のお人好し。おっとりとしていつもぼんやりでのほほんとしているあんぽんたんのとんちんかん。身体が弱く幼い頃より農業の手伝いをしたり母の手伝いなどをしていて家事労働や料理が得意。しかし寺小屋などに通うゆとりもない為に学がなく、買い出し以外で山村を出ないので恐ろしい程に世間知らず。しかし頭は悪くない。魔力を秘めているが、魔術の基礎の習得や修練を積んでいない為にそれは活用されない。
 江戸で百姓を生業とする三上家三男の三郎の許嫁として幼い頃より定められていたが、桜杏が元服を終えていよいよ三上と婚礼の儀を迎えようとした直前に三郎当人が行方不明となってしまい、もともと貧しい家系であった鬼月家はその年の米の不作もあって年貢米を収める事が難しくなった為に、兄弟の中で一番病弱であった桜杏を人買いに売ることになった。桜杏は江戸にまで流れて、その桜にも似た淡く神秘的な髪色と日本人離れした赤の目が遊郭を経営する主人の目に留まり、横浜港が臨む港崎遊郭に買い取られ、外国人を相手にする外妾(がいしょう)、「らしゃめん」として働くことになった。
 そこで、初めての客人であるイギリス海軍の軍人Michael・Ward(ミカエル・ウォード)と、その異父兄弟であり二番目の客人であるアメリカ海軍の軍人Roy・Martin(ロイ・マーティン)の間で恋の板挟みに会う。

Michael・Ward(ミカエル・ウォード)
 イギリス海軍の軍人。軍事においては戦闘より参謀が得意で、没落騎士の家系ながら軍部ではそこそこの階級の人間らしい。英国に誇りを持っている紳士。桜杏の初めての客であり純潔を奪ったその人。軍部よりある重要な任務を受けて横浜の外国人の居留地で暮らしており、日本に長期に渡って駐留している。その任務とは日本の言語を習得した後に日本の現地人と接触してその会話や生活を観察し、そこから彼らの特徴とその生活習慣、独自の文化や宗教観を秘密裏に調査して英国に報告し、日本に対する英国の軍事政策の今後の方針とその決定を裏付ける為の諜報活動である。つまりミカエルは海軍に属する軍人でありながら、英国のスパイ(諜報員)でもあった。
 桜杏と接触したのはあくまでも性サービスを受ける為であり軍人としての激務の憂さ晴らしに過ぎなかったが、卑しいと思い込んでいた日本の遊女である桜杏の境遇に同情を抱き、次第に彼女に惹かれるようになる。
 彼女と親縁を深めて性交を繰り返すうちに彼女が本当の恋人や妻であるような錯覚を覚え、仕事で現地の人々と関わり実際に対話するなど、桜杏や任務を通じて日本人を知れば知るほど自身に課せられた任務である諜報活動に対して葛藤と罪悪感を覚えて一人苦しむようになってしまう。誰にも共有できない苦しみの吐き場所として遊郭に通いつめ、桜杏とのまぐわいと交流を心の拠り所にしていたが、ある時アメリカ軍人となった弟と再会し、憎まれ口と挑発的な態度で遊郭通いについて嘲笑を受けて煽られる。彼が桜杏と同じ色の髪を服の袖につけてるのを見つけて彼女と同じ香水をつけていると知り、彼もまた遊郭を利用して桜杏と性交に及んでいると知るや激情して、桜杏に対する紳士的な態度から一変して乱暴に性交を行い、頭の隅で桜杏は仕事でロイと行為に及んだのだと理解しつつも、感情を自制できず桜杏に対して失望と裏切りに似た強烈な怒りを感じ、仕舞には泣きしゃぐる彼女の顔を殴りつけてしまう。
 桜杏には初めから決められた許嫁がいて、無謀にも彼女は今もその男を一途に愛して帰りを待ち続けているが、彼は現在行方不明であり後に髷だけが戻ってきたことから恐らく彼はもう亡くなっていると踏んで、桜杏の心の整理がついた頃にいつかきっと自分を愛してくれると信じ込んでいたミカエルは、いくら花を送り香水を送り何度身体を重ね愛を囁いたとしても彼女は永久に手に入らないのではないかと気が付いてしまう。ならばもう強硬手段をと遊郭の主人と交渉し、遊女の顔を傷つけて売り物にできなくした事を理由に桜杏の借金を代替わりして身請け人として彼女を買い取り、宿敵である弟から彼女を遠ざけ自分の手元においてもう二度と誰の手にも届かないように、桜杏を自分の妾として遊郭から連れ出そうとする。
 しかし無理やり彼女を迎えの馬車に乗せて自分の居住地に向かう先に道を阻んで待っていたのは、車輪を見事打ち抜いて車を転倒させ、車から転げ出たミカエルと彼に抱きかかえられ地面に伏せた桜杏の二人を憎悪の目で睨みつけて拳銃をこちらに向ける弟の姿だった。

Roy・Martin(ロイ・マーティン)
 アメリカ海軍に属する軍人。ミカエルの異父兄弟。銃と自国が大好きで狙撃や銃撃戦、銃剣の扱いを得意とする。母方は英国人で父方が米国開拓以降に大陸に土着した開拓民(黒人?)の子孫。アフリカ系黒人の血が混じっており、肌が色黒である為に白人からからかいを受ける事が多く、その度に彼の口と力がモノを言っている。
 身分や家柄は自分と差ほど変わらないとはいえ、教育熱心の両親の元で育ち、紳士的で知性のある成熟した大人とされる優等生きどりの兄はロイにとっては宿敵の様な存在。ロイは兄が困難に直面した際に軍部を躍進した際に築いた金と地位で全てを強引に解決しようとするような権威的な気質がある事を見抜いており、自分が努力と苦労を重ねて漸く今の結果を得ているのに対して、物わかりのいいように見える兄の紳士的な態度に隠れたその卑怯で傲慢な性格とインテリジェンスな態度が気に入らず、兄に深いコンプレックスを抱えている。
 兄と比較されることの多いロイにとって、母以外に自分の事を認めてくれた唯一の人間であり、自分の初めての性の相手ともなった桜杏に対して強い執着と思い入れを感じており、兄が桜杏の最初の顧客であり兄と関係があると知るや、兄が桜杏に送った香水をわざとダメにして自分の好きな香りのコロンを送りつけて兄を牽制し、わざと彼を煽るような挑発的な態度を取って桜杏を兄に取られまいとする。大人特有の狡猾さと傲慢さ、強引さを持つ兄に対してやや子供っぽい幼稚さと狡さ、勝気さを持つ。
 現場主義で、優秀なコマンダー(指揮官)であるよりも愚直なソルジャー(兵士)である事を好み、エリート志向で下士官に対して命令する立場である事の多い兄とは生き方が真逆である。


【名前の由来】
(1)Sir.Michael・Ward(ミカエル・ウォード/ミカエル卿)

Michael(ミカエル)は聖書に登場する大天使ミカエルの名でヘブライ語で「誰が神の如きであろうか?(who is like God?)」の意味[19]。又、男性名Michael([羅]ミカエル/[英]マイケル)、Micah(ミカ)より。
尚、アメリカにおけるMicahという名前の採用率について、何故か1973年(三上克己の誕生年)を境にランキングを100位以上も上げており、1974年~1997年にかけては200位代を彷徨い、更に2010年以降はランク100位前後を常にキープしている[20]。一体何故なんだろう…。謎は深まるばかりである。
Ward(ウォード)は英語で守衛/主席管理者/羊の番人の意[1]。騎士で役人に近い立場であるが、あくまで下々なイメージで。

・次点候補
Spencer(スペンサー)/「執事・召使い」の意[2]→イギリスの貴族や名家にスペンサーの姓名があった為却下。

(2)Roy・Draper/Roy・Martin(ロイ・ドレイパー/ロイ・マーティン)
Roy(ロイ)はロイ・マスタング(鋼の錬金術師©荒川弘)の名前ロイ(Roy)由来。
Draper(ドレイパー)は大逆転裁判2©CAPCOMに登場するあるキャラクターの苗字に似ている事から

Royは仏語で「王」の意味[15][16]でRoyalなどと関連[18]、またケルト語で「赤い髪」[16]「赤」[5]、また女性名としてのRoyはスコットランド語の原義で「赤」の意(Rayなどと関連)[17]。→(Gaelic/ゲール語、ゲール語を話すケルト人)
Draper(ドレイパー)は「羊毛地の職人」の意[2]。
Martin(マーティン)は「ローマ神話の軍神マルス」由来[1]、戦闘狂のアメリカ人をイメージして。

・次点候補
Doyle(ドイル)/「色の黒い異邦人」という意味のケルト語の姓由来[2]→ロイの肌は色黒でアフリカ系の血筋も混ざっている為候補。
また英国の世界的な作家であるSirアーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle)から。
・眼鏡をかけている為かなぜかロイド(Lloydo)という名前のイメージがある。

※名前がロイドだとロイド・レイパーになるからダメだ…。

(3)Lilibet・Clarissa・Alicia・von = Obizoth(リリベット・クラリッサ・アリシア・フォン = オビツォート)
Lilibetは"さらに怪しい人名辞典(管理者 S. sonohara)"のHPによれば、英国の女王エリザベス2世(1926-現在)の幼名であり、又「リリベット(Fairy Princess)」と呼ばれる薔薇の品種も存在し[8]、夜の魔女Lilithを連想するLily(百合)と英国の国花である薔薇も同時に連想できる事が由来。また、Lili(独)やLilian(英)はElizabeth(英)の愛称の派生形であるとしている[8]。
LilianはElizabethの愛称が由来であるとしているが、19世紀に花の名前を女性に名づける事が流行して以降(20-21世紀現在)は、Lily(百合)とも関連するとしている[8]。
愛称のLily(リリー)はいつものLilith→百合(Lily)。又リリーシャ(Lilisha/Lilicia)などの名前を連想して。
※百合の花Lilyはフランスの国花でありキリスト教のシンボルであるが、特にマドンナ・リリィは聖母マリアの意もあるという。
※Lilyが女性名として使われるようになったのは上記とも関連して19世紀以降だと言う。[8]。

Clarissa(クラリッサ[羅])はClara(クララ)から派生する名前の一つであり[12]、クララ(ポケットモンスター ソード©GAME FREAK inc./Creatures Inc./Nintendo)由来。
Clarissaの意味は「明るく輝く」「透明な」等[12]。Clarissaの愛称はClaris英[13]。Lilibetのミドルネームの愛称をClaris(クラリス)にした理由は有名すぎるので省略。
また、英国の小説家サミュエル・リチャードソン(Samuel Richardson 1689-1761)による傑作に『クラリッサ(Clarissa/the History of a Young Lady/1748)』がある。『クラリッサ』の内容は、富と権力を求めクラリッサを利用する親族と復讐に生きる婚約者ラヴレースに人生を翻弄され、様々な苦難を強いられながらも、最後まで美徳を追及しようとする悲劇のヒロインの物語であるという。[※wikipedia[クラリッサ]より参考]
(どことなくラヴレースが三上やミカエルに似ている上に、境遇がこの物語におけるリリーを連想する事もあって、『クラリッサ』からかなりミカもも臭がする)

Aliciaは英国の数学者ルイス・キャロル(Lewis Carroll/[本名]チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)の著書『不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)』のAliceの派生の名前Aliciaから。
Aliceの意味は「高貴な生まれの」「由緒ある家柄」や[7]、「真実(独)」[7]等。Aliciaはアリーシャと読むことができる他に、Aliciaの派生にはAlisha(アリーシャ)も含まれており[9]、Alishaはウルドゥー語(Urdu)で「神に守護された」という意味を持つ[10]。
又、アリーシャ・ディクソン(Tales of Zestiria©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.)や、Aliceの愛称であるAlly/Alieと同名のキャラであるアリィ(ぷよぷよクロニクル©SEGA Corporation)を連想できる為。

von(フォン)は貴族のメジャーなミドルネームであり、貴族であるとわかりやすいので。(フランス系らしいが、イギリスの王族や貴族にも使われていたため採用)。
Obizoth(オビツォート)はユダヤとヘレニズムの女悪魔の名前でありLilithと関連するとされる[3]。abyzou。

・次点候補
Claire仏/明るい、輝くという意[7]で、Claraとほぼ同じ意味を持つ。「Claire Rose」という品種の薔薇がある[14]。
Shockley(ショックリー)/「悪鬼のいる小川」の意[5]、リリーの家系の裏設定が悪魔の種族リリスの家柄である事から実在する苗字は風評被害を与えかねないと配慮して。

(4)鬼月桜杏(きずき もも)
鬼月は新潟の佐渡由来のかなり珍しい苗字。霊の意味や中国では悪魔のようなニュアンスを持つ「鬼」が付く事とリリスを示す「月」から。
桜杏は杏が名前では「もも」と読みをあてられる事、桜と杏を合わせて「もも」と読ませる名前が実在することから。(歴史的観点による考察ではない)
「桜/梅/桃/杏/李(スモモ)」の花がとてもよく似ていることから、桜と杏子をあわせて「もも」と読むことが美しいと感じた為。[6]

・次点候補
杏(あんず/もも)→別の作品で使いたい。桜という文字を使いたかった為却下。


●名前候補欄
ミカエルはケルト系?アングロサクソン系?
ミカエル・ジョーンズ、ミカエル・スミス、ミカエル・ウォード、ミカエル・バトラー、ミカエル・メイソン、ミカエル・ドレイパー、ミカエル・クラーク、ミカエル・スチュアート

ロイはアングロサクソン系?アフリカ系も混血
ロイ・ドイル、ロイ・サリヴァン、ロイ・ビリング、ロイ・キートン

【5】漫画


【6】イラスト

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