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スポーツという名のエンターテイメントの持つ力


 昨年からのコロナ禍において、あらゆるエンターテイメントが打撃を受けている。「不要不急の外出を自粛する」よう、国からお達しが出ているためだ。そもそも「自粛」を「要請」するという言葉の矛盾は一先ず置いておくとして、各種エンターテイメント業界から悲鳴が上がっているのはご存知の通りだ。

  観劇や観戦が規制される中、粛々とオリンピックの開催に向けた準備は進められている。世界的に蔓延しているコロナ禍で海外選手が日本へ来てくれるのか、受け入れて大切な各国のアスリートの皆様の健康を保証できるのか、責任は持てるのか。IOCやJOCの真意や思惑は知る由もないが、何が何でもオリンピックを開催しようとする動きに関しては、私は賛同しかねる立場だ。

 とはいえ、これほどまでにオリンピックの開催に固執するのは「お金」だけが理由ではないのではないか、とも思う。というかそう思いたい。
 なぜなら、私なりにスポーツをする・観戦する事の熱量や感動の力を知っているからだ。直近ではプロゴルファーの松山英樹選手がマスターズ優勝を果たしたり、バスケットボールの渡邊雄太選手が本場NBAのチームと本契約を結んだり、急性白血病を克服した水泳の池江璃花子選手が五輪代表内定になったりと、日本人アスリートの活躍が目覚ましい。コロナ禍で気がふさぎがちな中、こうしたニュースを聞くと晴れやかな気持ちになる。
 私はスポーツ観戦、特にサッカー観戦が好きで、時間とタイミングが合えば家族と観戦に行くのだが(最近はめっきりテレビでの視聴)、目の前でプロの選手の白熱したプレーを観るのは実に面白い。サポーターの皆さんの声援を一身に受けてプレーに臨む選手の雄姿は更に応援のボルテージを上げる要素になる。

 個人的に経験した話をしたいと思う。
 2018年7月7日に西日本豪雨災害があった。当時私は被災県の一つである岡山に住んでいたが幸い被災は免れた。報道の通り甚大な被害があった地域もあり、情報が錯綜したり、物資の過不足や供給体制など、現場はかなり混乱していた。
 そんな中で、サッカーのホームゲーム開催について是非が問われていた。「こんな大変な時にサッカーの試合なんて不謹慎だ」「サッカーなんてやっている場合じゃない」という意見もあれば、「こんな時だからこそ前を向いて盛り上げていこう」「こんな時こそ経済をまわしていこう」という意見。どちらの意見も間違いではないと思う。
 結局、試合は決行となった。元々チケットを取っていた私たち家族も観戦に向かった。
 正直、状況が状況である事や様々な反対意見もあっただけに、観客は少ないだろうと思っていた。反面、子どもも連れている手前、少ない方が逆に気軽でいいかも、と私自身はプラスに捉えていた。
 ところが、実際会場に行くと溢れんばかりの人でごった返していたのだ。フードに並ぶ長蛇の列。次々と売切れていく商品。自販機の飲み物ですら売切れが相次ぐ始末。いざ開場になりスタジアムに入ると、会場はサポーターで埋め尽くされていた。
 サッカーでは、開場後試合前に選手がウォーミングアップなどをしている時、サポーター達が各々のチームを応援するためのチャント(応援歌)を歌う慣習があるのだが、その時、相手チームの横断幕に書かれていた言葉は…

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「心ひとつにがんばろう 晴れの国岡山」

 「心ひとつに」はファジアーノ岡山のチャントの歌詞にもあり、今やハッシュタグとしても使われるほどファジアーノ岡山を象徴する言葉である。それを横断幕として掲げてくれた事、岡山への応援コールをくれた事。はたからすれば大したことではないように思えるかもしれないこの行為で、私自身胸が熱くなり、何にも代えがたいパワーをもらった。会場に来ていた被災者の方もそうだった方は少なくなかったようで、試合が終わり、会場を後にする中で「始まる前のチャント嬉しかったなぁ」「頑張るしかないよな」という会話を聞いたり、「こんな中でもわざわざ来てくれてありがたいよな」「フードも完売ってありがたいわぁ」という声をあちこちで耳にした。試合自体も白熱し、結果スコアレスドローに終わったが、お互いのチームをたたえ合う拍手は退場のアナウンスが流れてもなお中々止まなかった。

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  すさんだり憂鬱な気持ちを一変させてくれるほどのパワーを秘めているスポーツ。エンターテイメントは「不要不急」と言われてしまうけれど、気が滅入っていては個々のパフォーマンスも落ちてしまう。
 オリンピックという一大イベントを成功させたいのであれば、まずは現在国内で行われているスポーツイベントがどのように管理・運営されているのかを把握する必要があると思うし、そこから運営方法を学び、オリンピックに反映出来るか否かを判断しなくてはならない。
 もちろん聡明な政治家の皆様であられるので、そんな事は私のような素人の意見など百も承知であろうし、私が無知なだけで水面下できっちりこなしておられるであろう。

 ここまでこじれてしまったオリンピックが行われたとして、手放しで楽しめるかどうかはわからないが、アスリートの皆さんの雄姿がコロナで疲弊した私達の生活の一筋の光となり、活力となることには大いに期待したい。



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