深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海 第15章 絹と酒 地中海からの手紙
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地中海からアドレア海へ 白い便箋 異郷で見送ってくれる誰がいるわけでもなく 充分に豪華な睡眠 船の旅がこの上なく贅沢なもの 不思議な深い喪失感 女としては鋭すぎるほど鋭い横顔の亜麻色の髪の女性 ウイスキーで陶然となる 絹みたいね 通行人に過ぎない 意味が少し違う危険 長く異郷にいると知らないうちに疲労が蓄積し疲労が好奇心を摩耗させ外界にたいして無関心になるという危険 ひとり旅はとりわけ危うさが際立つのだがしかしこのような危うさをはらむことのない旅とはいったい何なのか 一歩踏み外せば 不思議な往来者 人を求めるのは破綻しそうな自分に歯止めをかけるため 終わってしまった 失ってしまった 許しがたい背信 Breeze is nice.
旅の軌跡
香港→マカオ→香港→バンコク→チュンポーン→ソンクラー→ハジャイ→バターワース→ペナン→バターワース→クアラルンプール→マラッカ→ジョホールバル→シンガポール→カルカッタ→キウル→ガヤ→ブッダガヤ→パトナ→ラクソール→ビルガンジ→カトマンズ→ビルガンジ→ラクソール→パトナ→ベナレス→サトナ→カジュラホ→ジャンシー→デリー→アムリトサル→ラホール→ラワルピンディ→タクシラ→ペシャワール→カイバル峠→ジャララバード→カブール→カンダハル→ヘラート→イスラムカラー→カルカレフ→テヘラン→シラーズ→ペルセポリス→イスファハン→テヘラン→コム→バザルガン→エルズルム→トラブゾン→アンカラ→サムスン→イスタンブール→ケシャン→イプサラ→アレクサンドロポリス→テサロニキ→アテネ→ミケーネ→スパルタ→ミストラ→トリポリ→オリンピア→アルゴス
この15章はいつもの文体とは異なり、手紙風な物語が展開する。
これはこれで興味深く読むのが楽しい。
人と出会い、今何をして、どこにいて、何を感じ、ひたすら内省する主人公。
私はずっと深夜特急を読んできて、
おそらく第5巻のこの15章が感情のクライマックスなのではないかと思った。
ただクライマックスとは言っても、最も盛り上がるのではなく、
最も考え込み、空虚に満ち、喪失感の漂うものなのだ。
15章では主人公が兼ねてから憧れていたギリシアのペロポネソス半島を移動する話が続くだけで国境を跨ぐシーンは出てこない。
最後に踏ん切りをつけてイタリアのブリンディジに渡るところで15章は終わる。
長い一人旅を続けていくと、きっと多くの人がこの境地
すなわち最も考え込み、空虚に満ち、喪失感の漂うものに至るのではないか?
全く同じではなくても、似たような感情を持つのではないか?
旅とはそういうものなのではないか?
旅のゴールは物理的な到達点に辿り着くことも一つではあるが、
もう一つの側面として、精神的なゴールは達観、いや諦観なのかもしれない。
私は20代に旅をたくさんしてきて、
旅納めとして26歳のチベットラサの旅を最後にしばらく旅には出ていなかった。
ある一定の達観感を得た気がしたのだ。
26歳・・・
奇しくも主人公である沢木耕太郎がこの旅に出たのも26歳だった。
深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン 第16章 ローマの休日 南ヨーロッパⅠ に続く
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