グラウンドの砂埃【青ブラ文学部企画】参加!
女子バレーボール部の朝練。
先ず、部室の前から対角線のグラウンドの角に立つ部長を目指して
「スコイ!スコイ!スコイ!!」
とお腹から声を出す。
声が通れば、両手で️⭕️の合図が出る。
これが1年生なんかは、先ず通らない。
グラウンドの真ん中では、野球部が声を出しながらキャチボールをしている。
「スコイ!スコイ!スコ~イ!!」
私は、腹の底から声を出した。
一瞬、野球部の金巻君と目が合った。
3年生になると、2年生の時に付き合っていた1年上の先輩「ピンクちゃん」とはお別れしてしまった。
彼は下級生の女子に人気で、持ち物にピンクが多かったので、みんなから影で「ピンクちゃん」って呼ばれていた。
ちなみに私は「なるとし」だから「なる」って呼んでいた。
上級生がいなくなった学校の校舎は、少し頼りなく寂しく感じられる。
いつも、3階渡り廊下のこの場所で、一人ポツンとたたずみ、校舎反対側の2階の渡り廊下を見下ろしていた。
そして、私と目が合うと軽く手を振ってくれる。二人で決めていた時間。
その場所に今、私は一人で立っている。
2階の渡り廊下を、少しアバズレた2年生達が、かけて行った。
ふと気がつくと、後ろに金巻君が立っていて、私の名札を覗き込んだ。
「まだ付き合ってるの?」
「ううん、もう付き合ってないよ」
「別れたん?やった!」
金巻君は小さくガッツポーズをして、そのまま行ってしまった。
ピンクちゃんは下校時、よく校門の真正面の鉄柵に腰掛け、私を待っていた。
学校では少しだけ知られていたカップルだったし、学校では、彼氏彼女がいる人は、お互い予備の名札を交換して、自分の名札の裏に貼り合わせるのが流行っていた。
それを知っていて、金巻君は名札を覗き込んできたのだ。
3年生でのクラスは、私は3組で金巻君は9組
。夏休み前には、話題は体育祭でもちきりになる。体育祭は2クラスが同チームになり、色分けされる。
私は最後の体育祭に思い出を作ろうと、応援団に立候補した。
「ねぇねぇ、たかちゃん聞いた? 9組と一緒だって!」
「あっちは野球部の金巻が団長に立候補してるらしいよ!」
「え、そうなんや…」
金巻と一緒かぁ…。ハーちゃん大丈夫かな…。
バレー部の同級生のハーちゃんはセッターで、金巻君の事が好きだった。
以前、金巻君が私の事が好きだと分かり、私にトスを上げてくれなくなった時期があったので、ちょっと心配だな…。
応援団の練習は、夏休みには数回、それぞれクラブ終わりでも、みんなで学校に集まり、曲決めや振り付け等を決めていった。
「金巻、頑張ってるやん。」
いつもにこにこ笑っていて、優しいオーラのある、どちらかというと、ガチャガチャした野球部の中でも一歩引いた立ち位置の金巻君だけど、団長として先頭に立ち張り切っていた。
新学期が始まると、自分のクラスや下級生のクラスへ、応援団員が数人に別れて、応援の指導に回った。
金巻君は同じチームに私を引き入れ、一緒に指導に回った。
応援団のみんなとは、既に優勝目指して一致団結し仲良くなっていたし、私は金巻君の後をついて行くのが何だかとっても楽しかった。
そして数回の体育祭全校演習が行われた時には応援合戦の時間もあり、グラウンドで全校生徒が体育祭のチームに別れて、応援の練習をする。
暑く、乾燥で巻き上げた砂埃の中、大声を張り上げる金巻君がとても頼もしく見えた。
体育祭前日の放課後の、最後の応援練習の帰り道。
私はいつも通り、同じ応援団で9組のかおりちゃんと一緒に帰っていた。
すると、ふと気がつくと、後ろから男子2人がついて来る。
一人は自転車を押して歩いていた。
「あれ?金巻やん。あいつ違う道やのにね」とかおりちゃんが言った。
私のお家の近くの分かれ道で、かおりちゃんとバイバイして少し歩いていると、
「たかちゃーん!待ってー!金巻が呼んでる!」と、かおりちゃんが走って来た。
金巻君が自転車に乗ってやって来た。
「今、付き合ってる奴おらんやろ?俺と付き合って」
「でもさ、ハーちゃんはどうすんの?」
「ハーちゃんの事は大丈夫だから…」
「うん、考えとく」
それ以降、金巻君はしょっちゅう私にお手紙をくれるようになった。
応援合戦は優勝し、一緒に喜び合った。
でも何故だか、お手紙はかおりちゃんからの手渡しだったり、私と同じ塾に通う9組のたけし君からの手渡しだったりした。
私は結局、金巻君にお返事をしないまま、卒業式を迎えた。
最後に直接「ねぇ、名札ちょうだい」と金巻君に言われ、「いいよ」って一枚だけの名札を金巻君に渡した。
今でも目を閉じると、学校のグラウンドと砂埃と体育会系クラブの掛け声の喧騒がセピア色に広がる。
先にハーちゃんが金巻君のことが好きだって知ってたから…と踏みとどまった、始まらずに終わった恋。
まだ、たとえ誰かを傷つけても奪いたい…とか、恋愛の切なさ苦しさを知らない頃の、青春の1ページ。
完
山根あきらさんの【青ブラ文学部企画】に参加します!
締切は今日まで!
ずっと気になっていたものの、最近なかなかnoteが書けずにいた。
よく読むと、この企画は、
『なにか書きたいのだけれども、テーマが思い浮かばないと、創作しにくいということがあります。(略)
そこで、この記事では、創作のテーマをいくつか提案してみたいと思います。』
という習作の為の課題を出して下さった!
ならば参加せねば!
お題は、#始まらずに終わった恋
にしました。
あきらさん、今回も〆切りギリギリの滑り込みセーフε=\__〇_
よろしくお願い致します^^
いつも楽しい企画を考えて下さり、ありがとうございます♡
この様な長文の駄文を最後まで読んで下さり、いつもありがとうございます😭♡