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改憲必要?:”緊急事態条項”についての備忘録

今月に入り岸田総理が憲法改正へ向けて準備を進める発言をしていました。日本国憲法改正への動きは、随分昔から何度もありました。自民党の憲法改正草案も、2005年案、2012年案、2018年案とあったものの一度も改正されずに現在に至ります。

今度の改正方針は、憲法9条自衛隊の明記に並び、今まで日本国憲法条文に存在しなかった「緊急事態条項」の憲法条文への明記も大きな争点のひとつになっています。様々な専門家や論者がいろんな観点から話していますが、今回は「緊急事態条項を憲法に明記する必要あるか?」という点に絞り、ジャーナリストの堤未果さんの動画【1946年憲法大臣の警告「日本人よ、緊急事態に気をつけろ!」】から、ポイント抜粋してみたいと思います。こちらの動画は、とても重要なことが端的にまとめてあって素晴らしいのですが…テキスト化されたものがちょっと見当たらなかったので、一覧できるよう、動画にのっとって要点を文字化(以下目次の1~4まで該当)してみました。


1.【結論】憲法に「緊急事態条項」を明記する必要ない

【結論】
憲法に緊急事態条項を明記する必要はない。(➡緊急事態条項の改憲不要)

【理由】
緊急事態に対処する法律は既に多数存在するから。むしろ憲法の条文として緊急事態条項を入れて(改憲して)しまった場合に、時の政権が憲法に明記された”緊急事態”を口実に権力を濫用悪用するリスク、独裁の危険性の方がよほど問題。過去の歴史を省み、国民の暮らしや人権を圧迫される危険性に注目し、気をつけよ。

2.政府が改憲して新規創設したい「緊急事態条項」とは?

テロや災害など緊急事態の際、政府や国会に一時的に強い権限を与えること
①政府が法律と同じ効力を持つ政令をつくることができる
②選挙なしで国会議員の任期延長をする

3. 前提として…「憲法の緊急事態条項」とは

● 「緊急事態宣言」と「緊急事態条項(憲法)」は違う

4.現行法に「緊急事態には対処できる法律や制度」がある

以下のような法律や制度が今あるので、わざわざ憲法に緊急事態条項明記は不要
[上記2.①に対応済みの法律]
(1) 緊急事態を対処できる現行法【災害時】
 ①災害対策基本法、②警察法、③自衛隊法
(2) 緊急事態を対処できる現行法【テロ発生時】
 ①国民保護法、②事態対処法
(3) 緊急事態を対処できる現行法【戦争・内乱発生時】
 ①自衛隊法、②国民保護法
(4) 緊急事態を対処できる現行法【パンデミック発生時】
 ①新型インフルエンザ対策特別措置法、②感染症法、③検疫法
[上記2.②に対応済みの制度]
(5) 参議院緊急集会(現行憲法54条2項但書き、3項)
日本において衆議院解散のため衆議院が存在せず国会が開催できない場合において、国に緊急の必要が生じたために参議院が開かれて国会の機能を代替する集会
<ポイント>
①緊急事態が起きた際に国会の代わりの機関として全ての国会機能を担う
②憲法改正の改憲発議はできない (←あくまで例外)
③参議院緊急集会で決定した内容は、総選挙後の衆議院で同意を得なければならない (←緊急時の法が平時に残って悪用される危険性を除去。平時にクールオフして再検討が必須になっている。時の政府のやりたい放題、長期政権を防ぐ仕組み)
※1946年当時の金森徳次郎憲法大臣「緊急という言葉を口実に悪用されるおそれがないとはいえない」。日本側から権力の暴走を防ぐ目的でGHQに入れてもらった制度。

以上、動画の内容のポイントまとめでした。

5.[雑感と懸念ほか] 改憲の流れに対して、各自どうするか?

・改憲の発議がなされない
・改憲の発議がなされ、国民投票へ

今まで通り、改憲の発議もなされず、また草案が流れたね…で終わる可能性もありますけれど、改憲の発議からの国民投票になる可能性もあります。日本国憲法第96条では、憲法の改正は、国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票によって過半数の賛成を必要とすると定められています。国民投票は方法から中身まで様々な問題がありそうです。改憲草案も現時点では内容が不明で、さらに一度も使われたこともない国民投票の中身というか方法がイマイチよくわからない現段階ですが、自分自身がざっくりと懸念している国民投票のポイントは以下の通りです。

[懸念点①]国民の過半数の賛成とはいえ…国民投票が有効となる定足数、最低投票率が明記されていないことです。これだと、極端にいうと投票率が2~3割でも有効な投票になってしまいます。国の形について考えてゆく重要な判断にこれでいいのでしょうか?株主総会でも、そこいらのちょっとした会議ですらも定足数ってものがあるのですが・・・。慎重な判断が要されるもののはずなのに、結構いい加減な印象です。

[懸念点②]とても重要な判断なのに、改正ポイントが複数ある。それもかかわらず、もしも複数の改正ポイント一括で「改憲に賛成or反対?」の二択で判断させるとするならば、さすがに雑すぎて、民意の反映という意味で公平性に欠くのではないでしょうか?最高裁判所の裁判官の国民審査ならば個別の裁判官ごとに×記入可能できますが、国民投票法57条みると、賛成・反対のいずれかを〇で囲むとあります・・・。株主総会のように項目ごとに賛成・反対を囲む方式なのか、包括的に賛成・反対なのか、この条文だけではちょっとよくわからないのですが、複数項目について改正案まるごと賛成か反対かを判断せざる得ない可能性も十分ありえます。
もしも、国民投票の争点が1つしかない(例えばブレグジット賛成・反対、みたいにシンプル)、あるいは、複数あっても複数項目の全てにつき、全面的賛成、全面系反対の人ならば、二択方法でもいいのかもしれません。しかし例えば、「自衛隊の明記は反対×でも緊急事態条項は賛成〇の人」、「自衛隊の明記は賛成〇でも緊急事態条項は反対×の人」など”部分的に賛成”または”部分的に反対”の人も沢山いるはずです。

ちなみに世論調査も、相手がどこまで改憲について理解してるのか、質問者と回答者の内容についての共通認識があるのかすらわからないのに「改憲に賛成ですか反対ですか?」って、雑というか本当に意味不明でなんだかよくわからないですよね。それと同列な雑さで憲法改正の国民投票を扱ってはいけないのではないでしょうか?

[懸念点③]そもそも憲法と法律の違いの理解から、改正案の内容複数のポイントまで、国民の理解が間に合うのか?法律は階層構造になっているので、案外難しいところがあります。わからないままノリで国民投票するとなると、その場の状況で感情的に判断したり、単なるメディアや有名人を使ったプロパガンダ合戦になってしまいそうなのを懸念しています。

ちなみに憲法と法律の違いについて、復習がてら、ざっくり説明すると、国家権力が(国民に)拘束されるのが憲法で、国民が拘束されるのが法律です。
つまり、憲法は国家の基本法で、「国の枠組み」を作ると同時に、国家権力の暴走を抑止するための「国家権力と国民との約束」という機能を持つわけです。だから、国家権力はその国民との約束(=憲法)に縛られる。
そんな憲法(国家権力の暴走は阻止されてる、国民の人権侵害しない前提)に従って法律が制定されている。だから国民は法律に安心して従える、というか従わなければならない。だから、万が一、その法律自体が実は人権侵害をしているなどの憲法違反ならば、その法律は違憲からの無効となるわけです。

そんな中、緊急事態条項というのは、緊急事態を名目に国家権力を暴走しかねない状況を特別に許容するものであり、本来の憲法の機能のいわば「逆コース」なわけです。そのリスク回避策として参議院緊急集会という制度が戦後導入されたのです。だから、とてもとても慎重に考える必要があるのです。

ちなみに、自分の懸念とは別かもしれませんが、前述のジャーナリストの堤未果さんは、憲法99条違反として「改憲発議自体の阻止」を呼び掛けているようです。

今後も、国際情勢の変化や国内の自然災害等が起こる中で、賛否両論いろんな意見や、様々な立場、多様な行動への呼びかけなどが出てくると思います。日本国憲法のあり方は、日本人全員に関係のあること。実際今後、改憲の発議が無かろうと行われようと、その場のノリや感情や単純さ、大きな声などに流されず、これを機に、各自で立ち止まって、長期的視野から多角的にとらえて、ひとつひとつあらためて慎重によく考えて判断し、自分の行動を落ち着いて丁寧に選択していきたいですね。未来の自分と何代も先の未来の日本人と、その人たちとつながった世界のためにも。

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