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公務員YouTuber・BUZZ MAFF仕掛け人が語る「タブーを壊せば生まれる推進力」

水と油、犬と猿、うなぎと梅干し、薬とグレープフルーツジュース。

そして、国家公務員とYouTube……と思いきや。

「混ぜるな危険」をためらわず、この組み合わせを見事に成功させた農水省官僚は異色の経歴だった。

「世界を農でオモシロくする」をテーマに、インターネット農学校The CAMPusの校長として、食と農に関するあらゆる活動を展開する井本喜久氏。初著書『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』刊行にあたり、「地域×農」にまつわるオンライントークライブが2020年9月5日に行われた。本記事では、農水省公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」を仕掛けた松本純子氏との対談模様を、編集・再構成してお届けする。

フードアナリスト・野菜ソムリエの顔を持つ異色の農水省官僚

井本:マツジュン(井本・松本間の呼び名)は、実は農水省の職員だけど、フードアナリストでもあるんだよね?

松本:そうなんです。

井本:フードアナリストや野菜ソムリエなど、国家公務員の枠を超えてマルチに活躍されてる印象ですけど、農水省にはなぜ入られたんですか?

松本:家族の影響がありますね。父親は仕事をしつつ週末は家庭菜園をしてて、30種類以上の野菜を作ったりしていました。そして、母は料理上手で。私も、ずっと食に関わっていきたいなという思いがあって、農水省に入りました。

井本:食とか農が身近にあったんですね。

松本:はい。でも、外部の会議に行くと「有識者」のような扱いをされてしまって。例えば名簿を開くと自分の名前が一番上とかに書かれてたりするんです。なのに、私は、実際に農業をしたことがなかったし、土地のことも知らないっていうのが恥ずかしくなってきて。食育とかもどんどん進めなくてはいけない立場なのに恥ずかしいなと思って、フードアナリストと野菜ソムリエの資格を取りました。

平日は官僚。週末は農ライフ。

井本:なるほど。今も、農業に触れたりしてるの?

松本今日もさっきまでずっと畑にいました(笑)

井本:週末農ライフってやつ?

松本:「日本の農業」の頭文字をとって、「NINO FARM」っていうのが、埼玉の草加市にあって。草加駅から徒歩5分のところで、東京にもそんなに遠くないんです。さっきまで、そこの畑で汗を流して、サウナに入ってから帰ってきました。

井本:サウナ、いいね~(笑)でも、それは毎週末やってるわけだけど、お仕事ではないの?

松本:そうですね、仕事とは区切ってます。ただ、プライベートでnoteをやってるんですけれど、そこで農作業の様子や、そこで採れた食材を使ったレシピを公開したりってのを5年くらいやってます。

井本:すばらしいですね。

「農文化×YouTube」への挑戦

井本:今日のテーマは、「注目を集める農文化」ですが、BUZZ MAFFについてお伺いしてもいいですか? 松本さんが担当されてるんですよね。

松本:はい。BUZZ MAFFは大臣の一言から始まったんです。YouTubeを活用するアイデアは斬新だと思ったし、周りの方のサポートもあって実現できたんです。私の仕事以外のライフワークでやっている活動とも近いし、そういう働き方をしてたので、それをYouTubeで発信したらすごく面白いんじゃないかなと思い始めました。

井本:そうなんですね。コロナのタイミングというのも相まって、みんなYouTubeに向かう時間とかもあったけれども。

松本:井本さんの本でもあるように、コロナですごいオンラインとかテクノロジーが進んでいるのを感じていて、YouTubeも今年の1月2月くらいのころから20%も視聴時間がアップしているらしいんですよね。

井本:20%も!

松本:はい。若い人は特になんですけれど、それだけBUZZ MAFFを観てくれるタイミングは大きかったですね。それと、農に興味を持つ人たちの割合が一気に増えたから、BUZZ MAFFがちょっとバズったのもあると思います。

【BUZZMAFF】九州農政局YouTube「タガヤセキュウシュウ」

↑SNSで大いにバズった「花いっぱいプロジェクト」のお知らせ動画。新型コロナウイルスの影響で需要が低下している花の消費拡大を図るため、家庭や職場に春の花を飾って楽しむことを提案。一見、真面目な公務員のお知らせ動画に見えて、シュールで笑える展開に大反響。以来九州農政局YouTubeチーム「タガヤセキュウシュウ」は根強い人気を誇る。

【BUZZMAFF】農林水産大臣にアフレコしてみた

井本:BUZZ MAFFおもしろいよね! あの、大臣にアフレコしてみた、とかさ。あれは、大臣OKしてくれたのか……?(笑)

松本:一番聞かれますね(笑)大臣に事前に知らせたのかと聞かれるんですけど、アフレコの第一弾は見せずに公開しました。

井本:へぇ、すごいね。

松本:もちろん、直近の幹部とかには相談しましたよ。ただ、大臣のアフレコしてる動画ってコロナのときにみんなに聞いてほしい買い物のときの注意点を説明するものだったんですね。「密になってはいけない」とか。でも、そういうスピード感を持って伝えなきゃいけないことでも、大臣会見だとなかなか若い子はYouTubeで観るとかしてくれない。それで、再生回数も全然増えなくて伸び悩んでいたときに、BUZZ MAFF発信者のTASOGAREの松岡くんって面白い子がいるんですけれど、彼が「アフレコしたら聞いてもらえませんかね」って言って。

井本:ほぉ、アフレコ(笑)大臣の。

松本:これ聞いたときに痺れたというか、もし、やるなら応援するよって言って。炎上するかなぁ、スベるかなぁと思いながら公開したら、高評価96%くらいで。

井本:とってもいいと思う。

中央省庁のタブーをぶち壊すことで生まれる推進力

井本:特に、日本の社会って真面目に語らなければいけないみたいな、○○しなければいけないっていうことが多いからね。中央省庁系のメッセージなんて、まさにそうだよね。だけど、「そんなの関係ねぇ!」って、攻めていくところ。そもそもやってる人たちが面白そうだもんね。興味持っちゃうよね。

松本:やってる人たちが面白いんです。あと、最初はコメント欄を非開放にしてたんです。でも、途中からオープンにしたらコミュニケーションが生まれたんですよね。「面白い」とか「ここ違うんじゃないですか?」とか指摘が入ったり。それが作る側への応援になって、モチベーションにも繋がっていって。アフレコ動画を作った松岡くんも、BUZZ MAFFを始めた最初は、顔出しNGでフードを被って後ろ姿で出演したいと言っていたのに、今や、顔を出して発信してるんですよね。イケメンですよ、見てない人は見てください(笑)発信者自身も視聴者の方に勇気づけられてどんどんよくなっているっていうのを感じています。

井本:だから、タブーをぶち壊していくっていうのは、ネガティブな方向じゃなくてポジティブな「面白いから」っていう方向に舵を切っていけばいいと思うよね。本筋、伝えたいことが明確にあったら、それを伝える方法は、従来通りじゃなくていいと。

松本:BUZZ MAFFも、「国家公務員が顔出しをする」っていうことは絶対に批判されるから、「自分たちはサングラスで出ます」とか言ってたんですけど、逆転の現象が起きて。YouTubeって、顔出ししていないとネガティブなコメントが入るんです。反対に顔を出せば、好意的なコメントが投稿される。それが農水省の中でも起きていて、顔が見えて一生懸命説明しているので、省内でもいろんな政策があるんですけれど、それをBUZZ MAFFとコラボしたいって声が増えてます。

井本:間違いない。それはスーパーの生産農家さんの顔写真とも似てますよね。昔はあれで「いいね」という感じになってたけど、今はそれを通り越して、インターネットがあるんだから、農家さんも「俺がこれを作ってますよ!」というのを自己PRできる時代。そういうのを絶妙に組み合わせた「ポケマル」なんてのもあるよね。テクノロジーをうまく活用しながら、どんどん自己主張をしたり、自分はこうなんだ、私はこう思うっていうのを言い合える環境をもっともっと作っていけたらいいなぁって思ってます。BUZZ MAFFは、そこ役割大きいと思うんで、ぜひやっていただきたいなと思います。

井本 喜久 (いもと よしひさ)
⼀般社団法⼈The CAMPus 代表理事
株式会社The CAMPus BASE 代表取締役
ブランディングプロデューサー
広島の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業するも広告業界へ。26歳で起業。コミュニケーションデザイン会社COZ(株)を創業。2012年 表参道でBrooklyn Ribbon Friesを創業し食ブランド事業もスタート。数年後、家族がガンになった事をキッカケに健康的な食と農に対する探究心が芽生える。2016年 新宿駅屋上で都市と地域を繋ぐマルシェを開催し延べ10万人を動員。2017年「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット 農学校 The CAMPusを開校。全国約60名の凄腕農家さんを教授に迎え、農的暮らしのオモシロさをワンコインの有料ウェブマガジンとして配信中。2018年(株)The CAMPus BASEを設立。全国の様々な地域で農を軸に地域活性を図るプロジェクトをプロデュース中。
松本 純子 (まつもと じゅんこ)
農林水産省
2000年入省。地方農政局(4カ所)を経て、本省勤務。米政策、食育政策担当、報道室での閣議後大臣会見担当後、現在は広報室にて日本初の官僚系YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」の立ち上げから運営まで従事。フードアナリスト、野菜ソムリエなどの資格も取得、週末農業NINO FARMの活動など業務外での食に関わる情報発信も積極的に続けている。
『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』  著・井本喜久
★AERA10/19号「アエラ読書部 森永卓郎の読まずにはいられない」で紹介!
★読売新聞「本よみうり堂」にて書評が掲載されました!(10/18)
都会と地方のよさを合わせた働き方をつくる!
・多拠点生活、地方移住、Uターン・Iターンに興味がある。
・田舎で自然に囲まれて、家族や仲間を大切にしながら暮らしたい。
・「食」や「環境」、SDGsにかかわる活動がしたい。
そんな方に提案したいのが「新・兼業農家」。
従来の農業は「大変で儲からない」というイメージが強いものでした。
しかし今の農業は、工夫次第で「楽しくて、カッコよくて、健康的で、儲かる」!
地方と都会を自由に行き来し、これまでの仕事や興味のあった活動と組み合わせ、相乗効果で成果を上げる働き方を可能にしてくれます。
それを後押ししてくれるのが、柔軟な発想・計画・マーケティング・営業・PRなどのビジネススキル。
ビジネスパーソンこそ、「新・兼業農家」に向いているのです。
本書で提唱する「コンパクト農家」は、ビジネス⾯での基準値を「0.5ha(1500坪)で年商1000万」に設定。
数多の成功農家に学びながら自身も二拠点生活を営む「インターネット農学校」校長と共に、新時代の農業の始め方について学びます。

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