オプチカル合成?

今朝の明け方目覚めて、
なんだかよくわからない夢を見ていた。
その夢の中に出て来た言葉が、
「オプチカル合成」、多分字はこう書くのだと思う。

オプチカル合成って、
すっかり忘れていたが、
CMの制作会社に勤めていた頃、
ほんの少しの間だけ使っていたけど、
すぐに使われなくなった言葉だ。

僕がその会社に入社したのは、
1990年の4月だったと思うのだが、
その年はフィルムがビデオテープに、
完全に移行する最後の年だった。

なのでその会社には、
35ミリフィルムの
映写機と編集機がまだ置いてあった。
というか現役でまだ使われていた。

つまりスタジオ撮影やロケ撮影で撮影した、
CMの素材の映像が、
ラッシュといって、
35ミリのポジフィルムで現像所から届けられ、
それが会社の試写室で、
無音で無編集の状態で映像だけが試写され、
スタッフやクライアントなどが、
出来を検討する「ラッシュ試写」という、
イベントというか、儀式が執り行われていたのだ。

このラッシュ試写において、
口うるさいクライアントからは、
ダメ出しが出て、
撮影からやり直し、
というようなこともあった。

とりあえずラッシュ試写でOKをもらうと、
次はラッシュ編集といって、
ラッシュ素材をはさみで切って、
テープで貼り合わせて、
という原始的な方法で、
編集して完成品の見本を作る。

でもこの素材にはまだ音がついておらず、
無声のまま上映しながら、
僕たちが雰囲気で音をあてて、
つまりナレーションのセリフを言ったり、
効果音を「ズババババーン」とか、
口で言ったりして
「ラ編試写」というものをやるのだ。

僕が入社した年のうちに、
会社からは映写機も
フィルム編集機も撤去されたので、
僕たちがリアルにフィルムに触る最後の年代になった。

それでオプチカル合成とはなんなのか、
という話なのだが、
映像がフェードアウトする時や
オーバーラップするような時には、
現像所で「オプチカル処理」というのを
してもらわなければならなくて、
例えばある場面とある場面を
オーバーラップさせる処理の場合、
完成品の何分何秒の位置から、
素材Aのコマ番号・・・・・から
素材Bのコマ番号・・・・・を
一秒の尺でオーバーラップさせる、
というような「オプチカル指定書」を書いて、
現像所に提出し、2~3日待って、
その部分が現像されてから、
改めて試写するという、
とてもややこしいプロセスを
経なければ見ることはできなかったのである。

今はどうなのかといえば、
撮影も編集も全てデジタルなので、
撮って来た素材は目の前で、
簡単にオーバーラップでも、
フェードアウトでも、
その他のややこしい加工でも、
簡単にできるし、
オーバーラップの尺も、
一秒にしたり二秒にしたり、
0.5秒にしてみたりと、
何度でもやり直して見てみることができる。

家庭でもそんな加工が簡単にできて、
もはや当たり前になりつつあるのだが、
僕が新入社員の頃は、
「フィルムは手を切る場合があるから、
取り扱いに気を付けてね」とか、
オプチカル指定書なんかは、
「こんなややこしいものは、
もうすぐなくなると思うから」などと、
説明を受けながら習ったものである。

本当にすぐにその年のうちに、
オプチカル合成なんていう言葉は
全く使われなくなったし、
今はその言葉の意味を知る人なんて、
ほとんどいなくなっているはずだ。
僕だって数十年ぶりに思い出したのだから。

それで夢というのはどういうものだったかというと、
僕がしばらく使っていなかった、
自分の作業場のマンションの部屋に行くと、
いつのまにか近所の野良猫が
ベランダで子猫を産んでいて、
網戸のすき間から
部屋に自由に出入りしているようで、
作業場の中を子猫がピョンピョン飛び回っている、
とうような内容の夢だった。

それで僕は「この子猫たち、
機材や素材のフィルムに、
おしっこかけたりしてないだろうな」
と心配するのだが、
オプチカル合成という言葉が、
どんな文脈で出て来たのかは不明。

ちなみにエヴァンゲリオンで、綾波レイが乗る機体を零号機、碇シンジが乗る機体を初号機と言うが、この、零号、初号という言い方も、コマーシャルやアニメ作品など、フィルムで仕上げる作品にまつわる用語で、まず撮影したままの素材をラッシュ、ラッシュを粗編集したものをラッシュ編集(ラ編)、完成一歩手前の作品を0号(零号)と言う。そして完成品第一号を初号と呼ぶのだ。僕の経験したCMの制作においては、ラ編、0号試写、初号納品などいう用語を使ってスケジュールが組まれていた。更に言うと零号というのは、経済的な援助を伴わない妾のことを指す俗語でもある。このようにエヴァンゲリオンというのは複雑な裏コンセプトが隠された作品なのである。

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