ベスト4をかけた戦いは…
チームは劇的な勝利が続き、準々決勝(ベスト8)まで勝ち上がった。
皆、こんな経験は初めてだ。
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私も二ケタの背番号ながら、初戦の途中からずっと試合に出続けている。
準決勝(ベスト4)をかけての一戦は、未知の世界への突入であった。
『俺たちってそんなに強かったのか?』選手の間には不思議な空気が流れていた。
一番驚いていたのは、選手よりも監督だったかもしれないけど。
準々決勝の相手は、あまり事前の情報がなかった。
唯一の情報は、『前の試合で背番号6のショートが先発で投げていた。球がかなり速いぞ。次の試合も、その選手が投げてくるのとちゃうか』という、監督からの情報だけだった。
初戦、二回戦と好投手と対戦し、勝ってきた。
どちらの投手も球速はそこまで速いとは感じなかったが、打ち崩した感はない。
少ないチャンスをものにして僅差で勝ってきたというところ。
『球がかなり速いぞ』という情報は、ワクワクするとともに、不安も大きくなった。
そんな中で始まった準々決勝。
私は2番セカンドでスタメン起用された。
相手投手は、監督からの情報どおり背番号6が先発してきた。
第1打席、初球。
えっ⁉
めっちゃ速いやん!
ヤバい、こんなん打てへんかも…
間違いなく、今までで一番速い。
練習でよく行ったバッティングセンターの135キロに匹敵するくらい速い。そう感じた。
※35年ほど前、中学生でこれくらいの球速を投げるのは全国トップクラスではなかっただろうか。
でも、速くてもミートさえすればなんとかなる。
と中学生ならではの『怖いもの知らず』の精神だった。
2球目。
ミートすることだけを意識して当てた打球は、ピッチャー右側足元への低い打球…
さすが背番号6の投手だけあって、上手くさばかれてしまった。
結果はピッチャーゴロ。惜しい打球であった。
決して当たりは悪くなかった。
そう記憶している。
初回の打席でピッチャーゴロ。
それだけの話で終わらないのが、私の性格だ。
余裕を持ってアウトのタイミングだったのに、一塁ベースにヘッドスライディングをしたのだ。
まるで、ゲームセットの瞬間の最後の打者のように…
本当は、そんなつもりではなかった。
まだ、初回なのに。
これには伏線があった。
初戦に代打でツーベースを放ったとき、二塁ベースに向かってヘッドスライディングをしていた。
もともと、ヘッドスライディングは苦にならなかったので、本番でもセーフになりたい一心で思わず頭から滑り込んだのである。
このとき、ベンチがすごい盛り上がったのを覚えている。
それ以降、どんな平凡な打球でも全力疾走し、アウトセーフ関係なしにヘッドスライディングをすることが私のトレードマークのようになっていた。
背番号二ケタで控えの選手だったのに、試合に出してもらえることが嬉しくて嬉しくて。
今振り返ってみると、その嬉しさがヘッドスライディングというパフォーマンスになっていたのかもしれない。
チームメートもそれを期待するかのように、初回のピッチャーゴロでもベンチから「飛べ、飛べ~っ!」言ってヘッドスライディングをすることを期待して叫ぶのだから…
ヘッドスライディングを見てチームが盛り上がる。
それでチームが活気づくなら『なんぼでもしたるわ!』と乗せられてしまっていたのかも。
このことから分かるように、私は背番号二ケタの控え選手から、いつしかチームのムードメーカーになっていたのだ。ガッツだけは誰にも負けたくなかった。
だけど、この試合でミラクルは起きなかった。
結果はよく覚えていないが、負けたのは間違いない。
完封負けだったのか、コールド負けだったのか。
ただ覚えているのは、相手投手の球が速かったこと。
そして、チームも抑え込まれたこと。
それでも、ピッチャーゴロでヘッドスライディングしたことは35年ほど経った今でも記憶に残っているのは理由がある。
小学生の頃から、甲子園と高校野球に憧れていたけど、なかなか野球ができる環境ではなかった。
ようやく中学三年生の春から試合に出してもらえる機会が増え、最後の大会で二ケタ背番号ながら試合に出てタイムリーを打った。
経験豊富な選手であれば、そこまで覚えていないかもしれない。
しかし、数少ないチャンスで結果を残せたような経験はインパクトが強く、何年経っても色褪せない。
中学校での野球部としての成績はベスト8で幕を下ろした。
中学三年間での練習量は、『野球』と『勉強』の両立を目指していたために他の選手よりも不足していたことは否定できない。
そもそも、一・二年生のときは、ほぼ幽霊部員だった。
他の中学校なら、退部させられていてもおかしくなかったであろう。
それでも、監督や他の部員の理解もあって最後まで野球を続けることができたことに感謝を忘れてはいけないと今でも思っている。
そして、ひとつだけ気になることを抱えたまま野球部を引退した。
それは、背番号『4』セカンドのレギュラー選手のことだった…
次回へと続く…
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