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ドタバタ米国留学記 #9 引越し

念願叶って24歳でロサンゼルスの語学学校へ留学するものの、出発したその日から「ろくに準備もせず出国してしまったことを大いに後悔する」っていう、先が思いやられる衝撃のはじまりからの、英語まみれの授業、寮での生活、クセのある人々など、たった16週間に起きたおもしろエピソードをたっぷりと綴ります。

テレビを買う

寮に入って1ヶ月半くらいしてから、自分の部屋で見るためのテレビを購入しました。
ビデオデッキがついているタイプの、テレビデオ (ビデオ内蔵型テレビ受像機) ってヤツです。

「今回の留学の目標は "正しい発音を習得する" と決めた」と『#3学校に行く』で書きましたが、そもそも聴き取りが出来ないとそれは学習できないと思い、音を聴きとる学習目的でテレビを買うことにしたわけです。

出不精で、一人時間が大好物。この時はまだルームメイトもおらず部屋でのびのびくつろげていたのもあって、テレビがあったら最高じゃないかと思いましてね。
友達が電気屋さんに行くというのでついて行った時にテレビデオを見つけて、買えない値段じゃないっていうので少し悩みましたが、「買っちゃいなさいよ。これは必要なんだって」と、もうひとりの自分が囁いてくるので買ってしまいました。

母国語以外の言語習得の臨界期はだいたい10〜12歳までといわれています。
「音として」英語を自然と身につけることができる限界が、10歳前後らしいんです。
ある年齢を過ぎてから英語を学ぶと "R" と "L" の音の違いがわからないとか、"th" が発音できないなど、日本語にない音の識別が難しくなるんだそうで、母語がある程度固定してしまう前に学習しはじめるのが良い、と聞きます。

でもこの時、ワタシは既に大人。
「英語は日本語を通して頭に入る」っていうシステムがとっくに確立されてしまっているので、子供の感覚と同じ「英語を音として捉えてみよう」と思ったわけですね。

となると、一番わかりやすいのは「テレビで子ども向け番組を見る」なので、手始めに教育番組やアニメを見てみることにしました。

王道の教育番組といえば『セサミストリート』。
これは全てが優しいので、発音の聞き取り練習として視聴しました。小さい頃 NHK で放送されていたのを見ていたワタシとしては身近な番組でしたし、普通に登場キャラクターが好き、っていうのもありますけどね。

日本でやっていたアメリカのアニメといえば「トムとジェリー」や「ピンクパンサー」で、週末の早朝に放送されていたんですけど、親より先に目覚めちゃったから仕方なく見る、って感じで、雨戸が開いていない真っ暗な居間でこっそり見ていました。
アメリカのアニメキャラ (人間) の絵柄はイマイチ好きじゃないのに、これらは好きでよく見ていたのでこれがいいと思ったんですが、よく考えたらセリフがないんですよ。叫び声とか効果音 (音楽) で構成されていましたからね。

っていうので、他に何か良さそうなアニメはないか?と探したら、見つけました。
それが『 DRAGON BALL 』。
日本の、あの、『ドラゴンボール』です。

もちろん、英語のバージョンです。
ストーリを知っているのでわかりやすいし、ビジュアルにも拒否反応はないし、日曜日の午前8時くらいから放送されていたのでゆっくり見られるな〜、と思いましてね。
で、オープニングからガッツリ見るわけですが、悟空の声がイメージに全く合わず、違和感しかなく気持ち悪くて見れない、っていうね。

他、『ポケモン』や『デジモン』も放送されてましたけど、声が気になっちゃって全然見れない。
無理でした。
単語や語彙ごい、言い回しなんかが学べると思ったんですけど。

これは想定外。

結局、アニメではなくドラマに方向転換し、日本でも放映されていた『ビバリーヒルズ青春白書』で学ぶことにしました。
っていうか、普通に見るのでついでに勉強、って感じで。

ただね、内容がなんていうか。
ティーンドラマだけに恋愛や悩みなんかが中心で、そこに複雑な家庭事情やドラッグ、銃、人種差別などの社会問題とか葛藤を描いているので、セリフが重いんですよね。
ただ、言い回しなんかはとてもわかりやすいので、それについてはやっぱりドラマが持ってこいなのかな、とは感じました。

こんなテレビ生活がはじまり、一人部屋状態を満喫するわけですが、ある日学校側から寮生活をしている留学生に向けて、インフォメーションがありましてね。

『寮を移動してください』

寮から寮へ

寮は2棟に分散する形になっていたのを、大学が休みの間一番大きい寮にひとまとめにする、っていうことで、留学生全員で動かなければならなくなりました。

え〜〜〜〜。
超快適なのに。
やっといろんなことが慣れてきたっていうのに、引越し?

その大きい寮というのは丘の上に建っているらしく、坂をだいぶ登って行かなきゃならないっていう、まぁまぁ過酷な移動になりそうなんです。
ワタシの寮生活は2ヶ月経っていないくらいで、ワタシより先に来ているメンバーより荷物は少ないんですが、到着時のとんでもない重さのスーツケース (プラスα ) を運ばないといけないわけですね。

リアカーみたいなのがないと到底運べない、っていうので、誰かがどこからか借りてきまして、それを使ってみんなで荷物を移動させることになりました。
ホームステイをしている友達数人も手伝いに来てくれて、手分けして運びます。
スーツケースに荷物を詰めて、リュックには授業で使う教科書や辞書を入れて、入りきらないものは段ボールにぶち込み、ワタシの場合は更にテレビ。

引っ越しがあるなら、もっと早く言って欲しかったわ〜。
移動してから買えばよかったじゃ〜ん。

まさに、民族大移動。

それが結構な距離で、えっちらおっちらとカーブの坂を登っていきます。
学校とカフェが更に遠くなってしまう、っていうのもあって何とも気乗りしない作業だったんですが、寮についてそれは一瞬で消え去りました。

正面入口を入ってすぐの広いロビーには何人も座れる巨大なソファ、真ん中にはビリヤード、ロビーの一角には共同キッチンスペース。

なにコレ。

外からはキーがないと開けられないセキュリティ付きドア。建物の裏側にも出入りできるドアがあり、それも内側からしか開けられないようになっています。

スゲ〜。

予想を裏切る、比べものにならないくらいの豪華な作りに、「割増料金は発生しないよな?」と思ってしまうワタシはなんて貧乏くさいんだと思いつつも、テンション爆上がりでしたよ。

ラッキ〜〜〜。

どうやらこの寮は、大学院生が利用しているものだそうで、それはそれは立派な設備でしてね。
今までのあの寮はなんだったのか?
大学院だとこうまで違うのか?
上のレベルを目指そうとする向上心に火をつけるようなこの差が、アメリカ人のハングリー精神を養うんでしょうか。

何にせよ、超ラッキーであることに変わりはなく、ここでの生活をみんながエンジョイすることになります。

パーリーピーポー

建物は横長に広く、中央から左側が女子、右側が男子と分かれているだけで、自由に簡単に行き来ができます。
正面のロビー以外にも所々ソファやイスが置かれていて、くつろぎスペースがたくさんあり、数日もすると、ホームステイをしている子がず〜っと寮にいて帰らなくなったりして、いつの間にか人で溢れ、夜になるとどんちゃん騒ぎ状態でした。
誰かが残したピザや、いつ誰が開封したかわからないお菓子なんかを平気で食べてましたね。

ロビーの一角にあるミニキッチンでは料理が作れるので、一度だけ『日本食パーティー 』をしたことがありました。
なぜかワタシが料理することになり、卵焼き、豚汁、唐揚げ、揚げ出し豆腐なんかを作った記憶があります。久しぶりの日本食に、日本人留学生が飛びつきあっという間に無くなりましたけど。
" 蕎麦 "を持っていた子が、「いっぱいあるからコレ食べよう」と1kg 全部を一気に茹でてしまって、見たこともない『うずたかき蕎麦の山』が出来上がり、「誰がこんなに作った?」「何考えてんだ?」と、ちょっとした事件になったりしてね。

毎日誰かしらが電子レンジで何かをチンするので、ロビー周辺はいつもいろんな匂いがしていて、カレーやラーメンなんかの匂いにはどこからともなくワラワラと人が集まり「一口くれ」祭りがはじまります。
日本の "カップヌードル" や、韓国の "辛ラーメン" が人気でした。

とある朝、突然火災警報器が鳴り響き、寮の外へ避難するよう指示が出されたことがあります。
皆、なにが起きたのかわからないけどとりあえず建物の外へ移動して、ちょっとした騒ぎになりました。シャワーを浴びている途中慌てて外に出た子もいて、腰にバスタオルを巻いた姿で、頭と手はシャンプーだらけ。
ほぼ全員が油断した格好のまま、結構な時間を外で待機させられることになったので、苛立ちが募りザワザワしはじめました。

どうやら、ドーナツか何かをレンチンした際、加熱時間を誤ったらしく火が出たみたいなんですよ。
本人曰く、そうらしい。
ワタシにこっそり言ってきたんです。
「アユミ、どうしよう。1分押したつもりが10分だった。私が犯人です、なんて今更言えない。やばい」と。
特に男衆が相当ピリピリしていたので、ビビってしまった彼女。
まさかの事態に本人もビックリで、悪気がないだけに「部屋に戻れば落ち着くから今は何も言わなくていい」「後で "私でした、ごめんなさい" と謝ればいい」とだけ伝えました。
正直に話せば許してくれる優しい人たちだから大丈夫、とワタシは思っているので。
その後、安全が確認されて、みんな部屋に戻りました。

寮の中に、留学生だけの小さな世界が出来上がり、クセのある人たちとの交流は更に深まっていきます。

つづく・・・


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