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「放課後の二人」

閑散とした住宅街のはずれにある小さな公園には四つのベンチが置いてある。

電車を乗り継いで帰る僕の帰路とは真逆の方向にそれはあった。普段過ごす生活圏から少し離れただけでなんだか足元がふわついたような感覚になる。

「この近くに私の住んでる家があるんだ」

そういう彼女に連れられて彼女の家の前まで足を運んだことはあるけれど、中まで入ったことはなかった。

公園の入り口近くのベンチに腰を掛けて、なんでもない話を弾ませた僕たちの間にはゆるりと特別な時間が流れていた。

学校での出来事や部活の話、同じ学校の中にいても過ごす場所がちょっとでも違うだけで、そこには知らない世界が意外とたくさん転がっていた。

僕の方に体を向けながら話をする彼女があんまり楽しそうだったから僕もつられて楽しくなった。時間を忘れた僕たちは遊びに夢中になる子供のように刻まれる針の外にいた。

肩にも届かない短い髪は時より無邪気に揺れて弾む言葉と重なった。そして時々抜ける微かな風は彼女の元から柔らかい匂いを運んでいた。

匂いは記憶に結びつく1つのパーツみたいにその瞬間を紐付ける。とりわけ胸に滲むような匂いは僕の中にある薄れた記憶を呼び出す役割を担ってくれていた。

これまでもその匂いが焼き付いた記憶は何故かすんなりと思い出すことができた。

抱きつかれるようにギュと胸が締まってじんわりと暖かさが広がるようなこの匂いもきっと今に刻まれて、一枚の写真ようにこの瞬間を僕の記憶に焼き付けるのだろう。

彼女の話が一息ついて僕の言葉も途切れた頃に、どこかでカラスは鳴き出して辺りは夜を迎える準備を進め始めていた。

「寒いね」と言いながら時計を見ない僕たちは頭上に広がるキャンバスを眺めて、いつまでもそこにいようとした。

体を寄せて触れ合う肩の感触とその温もりを感じるだけで満たされていた若い僕たちの真っ直ぐで不慣れな恋には

鮮やかな熱を残したこの空のように、突き抜けるような美しさと、どうしようもないほどの切ない色が溶けていた。


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