スイカ直売オンラインショップ4期目の振り返り。当たり前のことを当たり前にやろう。
今年も無事に「福賀すいか」の収穫・販売が終了。
毎年恒例となったオンラインショップの販売について振り返っていこう。
今となっては農産物のEC販売はひとつも珍しくない。大手ECサイトも盛り上がっているし、SNSを使って個人で注文をとっている農家も増えてきた。
その気になれば今この場で始めることだって出来てしまうわけだけれど、当然ながら上手くいく人とそうでない人が出てくる。なんならプレイヤーが増えれば上手くいかない人のほうが多いんじゃないかとさえ思う。
「誰でも簡単に始められること」には競争相手も多い。ネット上にひしめき合う農家の中から見つけてもらうということが日増しに難しくなっている。
そんな過酷になりつつある「農産物EC販売戦線」で生き残り…というか確実に成果を伸ばしている我らが「福賀すいか」の実践例が、ひょっとしたら誰かの役に立つかもしれないので、今シーズンの結果の振り返りと合わせて「今年新たに取り入れたこと」も共有したい。
過去シーズンの振り返りと、EC販売における実践はある程度まとめているので、この記事と合わせてこちらもどうぞ。
2023年の販売成績。
さっそく数字上の結果を発表すると、注文件数は昨年比で50%アップ、販売金額は64%アップとなった。
スイカのオンラインショップを立ち上げて4年目。リピーターさんも確実に増えてきたこと、そして後述するけど新規さんを増やすための打ち手を新たに用意していたことがきちんと効いたんじゃないかと思っている。
販売金額が注文件数以上に増えたのは値上げの影響。これもこの後の項目でしっかり解説するので、ここからは昨年までからの変更点、具体的に何をやってきたかについて触れていこうと思う。
【変更点⑴】大きな値上げに踏み切った
今年「福賀すいか」は大きな値上げに踏み切った。経費高騰に対しての応急処置的な値上げではなく、この先10年の生き残りをかけた値上げとなった。
詳しくはショップにも掲載したこちらをどうぞ。
実を言うと、「福賀すいか」の生産者で構成される部会に今年の販売価格を提案したのはこの僕。提示した値上げ幅を見て「買い渋る人もいるんじゃないか」と、かなり躊躇った生産者もいた。
確かに今まで買ってたお客さんが買い渋るケースも出るかもしてない。でも自分としてはかなり強気で構えていて、お客さんに対してやや乱暴な表現になるけれど「ここで価格上げないと、もう『福賀すいか』食べられなくなるよ?それでもいいの?」くらいの気持ちで価格を決めた。
どんなに評価されていても、生産体制が維持できなければものづくりは続けられない。生産者がちゃんと稼ぎ、アルバイトさんを手厚く雇い、新たな生産者を育てなければ早晩「福賀すいか」は消えてなくなる。
これは動かしようのない現実であり、このことはスイカを買って食べてくれるお客様にもちゃんと受け止めてもらう必要があった。
実際、「『福賀すいか』が無くなるのは困る!」「やっぱり夏は『福賀すいか』が良い!」と言ってもらえるだけのものを作っている自負があるし、値上げをしたことによるクオリティへの期待にも応えられる自信があったので最終的には部会の生産者全員が今年の価格設定に賛同してくれた。
蓋を開けてみれば、注文件数は大きく伸びた。事務局は毎年、販売期間はひっきりなしに問い合わせの対応をしているが、価格が上がったことに対するネガティブな指摘は一件もなかったそうな。生産者が発信した覚悟がちゃんと届いたのかなと思うと少し嬉しい。
もちろん、言わないだけで高いと思った人もいただろうし、高くなったから買わない人もいたんだろうと思う。でも販売結果をみれば明らかな通り、買わない人のことは最初から考えなくていい。最初から存在しないものとして、買ってくれる人たちのことだけ考えればいい。
この後に触れるけど、値上げをすることによって新たな打ち手を用意できると言うのも重要なポイント。新規のお客さんを獲得するための予算を作るためにも値上げが必要だったし、初めて出会うお客さんには値上げなんて関係ないので、値上げするタイミングには新規のお客さんの獲得をセットで考えるのがミソ。
【変更点⑵】新たにリーフレットを同梱
そんなわけで、今年から新たに始めたのがリーフレットの作成。
スイカの販売でずっと気になっていたのが、
誰かからスイカが贈られてきてそれを食べたとき、「美味い!これは自分でも買ってもう一回食べよう!」とか「自分もお世話になってる人への贈り物に使おう!」と思ったとしても、購入するための動線がなかったこと。
自信のある品物を作っているだけに、ここは大きな取りこぼしをしているのではないかと考えて、オンラインショップへの動線となるような同梱物を作ることにした。
その効果は果たして出たのか。
販売期間中の肌感覚でいうと、明らかにご新規さんの注文が多かったように思えた。
販売終了後に数字をきちんと拾ったところ、ご新規さんの注文は前年比で24%多くなっており、感覚通りの結果だった。
(ちなみにリーフレットを作っていなかった昨年のご新規さんの数は、さらに前年と比べると11%減という結果だった)
もちろんこの全てがリーフレットの効果によるものではないにせよ、ご新規さんの獲得のために、毎年働いてくれる武器を手に入れられたことは大きな進歩だと思う。
ちなみにデザインは、写真から文章からレイアウトまで、完全なる僕の自作。笑
リーフレット作成にあたって、意識したことはおもに2つ。
1、生産者の顔写真は載せない。多分いらない。
まずリーフレットには僕ら生産者の顔写真は絶対に載せないことにした。
※ここから盛大に僕の主観、というか偏見が入ってます。
リーフレットに限らず、農産物の広告物にはよく生産者の顔が写っているのを見たことがあると思う。
畑で野菜持って、いかにもいい人そうな笑顔だったり。
かと思えば腕組みしてドヤ顔だったり。
性格の悪い僕は思ってしまうんです。
自分がお客さんなら…いらないなあ…
いや、これ意外と冷静に考えてみてほしいんだけど、自分が食べる野菜や果物を作った人間がどんな顔、どんな人相してるのかって、そんなに気になる?
写真の上でいい顔してたところで農家の腹の内なんてわかるわけもなく…
日常的にSNSで発信してれば、そっちを見てもらえれば顔も人間性もよっぽどよくわかるわけで…
一度買ってくれたお客さんが、より親近感を持ってファンになってくれるためにも…っていうことなら、自身のSNSへの動線をしっかり作っておけばそれで十分。
顔写真はあってもなくても、多分その後の売り上げには影響しないと思う。
ここまで言っておいて本当に酷い話ではあるけれど、「福賀すいか」にはなんと、生産者の顔が写り込んだ同梱物がすでに存在している。笑
生産者が一列に並んで、あろうことか法被を着てドヤ顔で腕組みしているというフルコンボ。
これは、うちのすいか部会が農協の中にある部会ということもあり、農協として掲載しなければならない情報が載せてあるものなのでおいそれと無くすわけにもいかず…
しかし、6人中70代が3人、男ばっかりが並んだ写真なんか見て誰が喜ぶのか全くわからないし、売り上げ増加に1ミリも貢献してなさそうなペラ1なので、いつか大きく変えていきたいなあ。笑
2、「お客さんに専門的な話なんて伝わらない」と諦めない。
もうひとつ意識したことは、リーフレットに載せるスイカの解説について。
このリーフレットは、われわれ生産者が一方的とは言えお客さんにコミュニケーションをはかれるものでもあるわけで。
その中で大切にしたいのが、
「福賀すいか」をお客さんに愛していただくこと。
そしてそのためにはお客さんに「福賀すいか」への理解を深めてもらうことが必要だということ。
このスイカはなぜこんなに美味いのか、なぜこんなにデカいのか。そんなお客さんの素朴な疑問に答えるためには、どうしたってある程度の専門的な話題が必要になる。
スイカ栽培のこと、生育する環境のこと、生産者がこだわっていること。
基本的に僕は、そういう話題をお客さんに押し付けることを避けるようにしている。「生産者のこだわり」なんてものは、生産者が勝手にこだわってるだけのものだから。例えば農薬使わないとか化学肥料使わないとか、それが要因で美味しくなってるなら立派なこだわりだけど、そうじゃないことがほとんどで、「お客さんの利」に関係ないことで勝手にこだわってることをアピールしてもどうにもならんというのが僕の見解。
お客さんにとって大事なのは「美味いかどうか」。
だから、美味いこと、つまりお客さんに響く「商品のクオリティの根幹」に関することに限ってはお客さんに共有すべき話題ということにしてリーフレットに盛り込んでみた。
ちょっと話が逸れたけど、さっきも言ったようにスイカ栽培の話題を盛り込むとなると、ある程度専門的な話をしなければならなくなる。
果たして伝わるだろうか。理解してもらえるだろうか。興味を持ってもらえるだろうか。
心配すればキリはないけれど、「福賀すいか」への理解を深めてもらい、長く愛してもらうためにも勇気を持って踏み込んで伝えなければならんでしょう。
そんなわけで、専門的でわかりにくい用語はなるべく避けつつ、慎重に言葉を選びながら書いた。
スイカという作物の難しさや、福賀という地域がスイカ栽培に有利な環境であること、そして他産地の平均を大きく上回るサイズのスイカに込めた作り手の思い。
伝えたいことは山ほどあったけど、何となく手に取って開いた時に苦しまずに読み切れるくらいの文章量になるよう余計なことはとにかく削った。
最初に作ったやつなんて文字がビッシリしてほんとに読む気が失せるほど酷かった。
写真もデフォルトの長方形から丸にすることで背景の余白が増えて、少し圧迫感が軽減できるので気持ちばかり見やすくなってるんじゃないかと思う。
いろんなことのバランスをとるのには苦労したけれど、見る人がストレスを感じない範囲で、「福賀すいか」のことをより理解してもらうことができるようなリーフレットが出来上がったと思ってる。
来年以降もこのリーフレットがスイカに同梱されるので、また新しい人とのご縁を繋いでくれることを期待している。
【相変わらずなこと⑴】予約販売は必須。今後も続けます。
オンラインショップ2年目から始めた予約販売も恒例になってきた。
過去の記事でも書いたことあるけれど、予約販売の一番のメリットは販売期間を増やせること。
7月からお盆まで、およそひと月半という期間が福賀すいかの収穫期間で「収穫が始まったから販売します」というのは悠長に構えすぎ。
SNSで常に栽培の様子、スイカの成長の様子を発信しているのだから、そこに引っ掛けるようにさっさと売り始めてしまえばいい。
毎年恒例となったスイカの予約販売は好調で、今年は用意していた予約販売分が全て売り切れた。
あまりに早く売り切れてしまい、後から始まる予定だった通常販売の開始を数日前倒しする事態になったので、本当にありがたい。
○予約は早ければ早いほどいいのか?
基本的に何の制約もないのであれば、予約の開始時期は早ければ早いほどいいと思う。しかし、スイカの場合は実は制約がけっこうある。
例えば極端な話、来年の夏のスイカの予約を今からとる。
来年ともなると、スイカの到着日をお客さんが指定することは難しい。人によっては、住所が変わってしまう場合もある。
お客さんが予約した後で住所が変わった場合、変更の手続きに事務の負担が増えてしまう。
そして到着日が指定できないと、不在による再配達が発生してしまう。
スイカといえども生鮮食品なので、あまり再配達は望ましくない。そして重いものなので再配達は運送業者さんへの負担を増やしてしまう。
(スイカ販売における再配達リスクの話はけっこう重要なことなので、別の記事でしっかり書くつもり)
あまり早すぎる予約販売は、スイカにはリスクが伴うのでやはり時期を見極める必要はあるけれど、比較的軽いものや日持ちのするもの、あとは体験を売るような場合であれば予約販売はほんとに早ければ早いほど良いと思う。
【相変わらずなこと⑵】検索されて見つけてもらうんじゃない。こっちからお客さんを検索する。
これはもう本当に何年も同じことをやって同じことを言ってるから自分的には今更な話になるけれど、「インターネットで販売する」「SNSで発信して宣伝する」ということになると本当に多くに人が間違ってることなので今年も言っておく。
インターネット上に商品を出品したら、お客さんがネット検索して自分の商品を見つけて、そして買ってもらう…なんてことが当たり前に起こると思ったら大きな間違い。
SNSで自分の商品を告知したらフォロワーさんがすぐさま買ってくれるはずだから、フォロワーを増やしていこう…なんてことも、大きな間違い。
特にこれから商品やサービスを売っていこうという段階にある人が間違っちゃいけないのは、お客さんに検索される・お客さんに見つけてもらうというスタンスでは絶対に売れないということ。
SNSを巡回して、お客さんになり得る人を必死に探す。
そして、直接コミュニケーションをとっていく。
あくまでもコミュニケーションなので、相手によって内容もすべて変わっていく。テンプレのセールス文のコピペなんてもってのほか。
もちろんこうしたアプローチがすべてスイカの購入につながるわけではない。スイカが本当に好きそうな人で、どれだけ可能性を感じたとしても、うまくいくことの方が少ない。
確かに、この試みが全体の注文のうち何件も占めているわけじゃない。1件ずつの積み重ねの世界。効率も悪い。
でもそうやって積み上げる「1件」の注文を、絶対に軽んじてはいけない。
その1件で、自分の商品を売るためにこういうドブ板の営業ができるかどうかが試されている。
相手に合わせてより具体的な言葉を使えるか、自分は顔も名前も晒した上で無視されたり振られたりすることを厭わずに相手に絡んでいけるか。
目の前のひとりの心を動かすために一生懸命考えた表現の方が、結果として多くの人の心に残るというもの。
最初から多数を狙えば言葉は狙い所を見失ってボヤけてしまう。
ひとりひとりにきちんとぶつかっていけるだけのメンタルとセンスを鍛える訓練だと思ってどんどん絡んでいけば良い。
当たり前のことを当たり前に。
オンラインショップを立ち上げてから毎年こうして振り返りをして、何か教訓めいたことを綴れればと思い書いてきているわけだけれど…
書けば書くほど、「まあ、そりゃそうでしょ」と言われてしまうような当たり前のことしか出てこない。
結局、当たり前のことを当たり前にやれば、当たり前の結果が出るもんなんだと思う。
売り上げ大幅アップのコツとか、目から鱗の〜とか、そういうのじゃなくてね。地味でパッとしない、でも確実に一歩進める…みたいなことを淡々と積み重ねていくしかない。
でも誰もがそういう「小さな当たり前の一歩」を追求できてるわけじゃなくて、少ないトライで特大ホームランを狙おうとする。だからネット上には「出品したのに売れない」という農家の屍で満ち満ちているんだろうなあ。
あと当たり前ついでに言っておくと、商品そのものの力、僕らで言うとスイカのそのもののクオリティが圧倒的に高いことがスタートライン。
美味しくなきゃなんも始まらないという当たり前の話もここに置いておきます。
農家は技術。全ては技術。
そういうわけで、来年も当たり前のことを大切にしながらスイカを届けて参ります。
今年初めてご注文された方も、毎年買ってくださる方も、本当にお世話になりました。また来年もよろしくお願いいたします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?