魂の蚕食者 Ab-Hastrum

「噫! アブ=ハストラム!」

 彼はそう叫び、息を引き取った。痛ましくやつれ果てた姿で。彼はスポーツマンだった一方で読書好きで、図書館に籠ってる様な私ともよく話が合った。いい奴だった。

 最期の彼の言葉、アブ=ハストラム。それはアリエル・モントロール作のファンタジー小説“Wrtum”シリーズに登場する邪神の名前だ。

 物語の最大の敵であるアブ=ハストラムは、邪悪な者共を率いて異世界ウルトゥムの支配を企んでいた。しかしアメリカの青年トマス・アタスンと、ウルトゥムの自由の民ウルトゥルミー達によって倒された。

 “Wrtum”は彼も私も好きな作品だった。だが彼は何故、今際にアブ=ハストラムと叫んだのか。私がふと疑問を口にした時、妙な老人が声をかけてきた。

「アブ=ハストラム! 君も奴に苦しめられている口かね?」
「は?」
「そう、かの悪しき神性は物語の中だけの存在に非ず!」

 この時は、とんだ狂人に絡まれたものだと思った。

【続く】

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