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童話「盲聾の星」第十話

第一話→童話『盲聾の星』第一話|ひとり 杏 (note.com)

6.
それからしばらく経った春の夜、あの彗星がラムダたちのもとへ帰って参りました。

「おおい、待たせたね」

何やら、大きなボールを抱えています。失意のあまり、長いこと弱々しくしか光れなかった星たちは、突然まぶしい光が現れてたいそう驚きました。

「そら、ご覧」

彗星が空にボールを放りました。さて一体、ボールのように見えたものはなんとも美しい満月です。

「この明るさはなんだ」

見えない眼をきょろきょろさせるラムダに、彗星が「お月様さ」と教えます。周りが一斉にはしゃぎ出しました。

「お月様って言うんだって。ねえラムダ、お月様はきれいな金色をしているよ」

「そうだこの色は」

「あのお姫様ではないか」

満月は、麦穂のような金色でしたから、セリーヌ王女にちがいないとわかったのです。月のなかに、彼女の精神が宿っているのです。ラムダは信じられず、出す言葉も見つかりません。「彗星さん、ありがとう」と口々にお礼を言う星たちに、彗星は「なに、わしはただ運んだだけさ。礼なら親御さんに伝えといてやる」と笑いました。

「父さんと母さんが、ですって?」

ラムダは思い出しました。あの日、あの朝、両親が北へ立つときに、いつか必ずいいものをくれると約束してくれたことを。もう長いあいだ目の前の務めに一生懸命で、両親を想ったことはほとんどありませんでした。ラムダは、真夏の正午のような強いぬくもりを感じました。

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