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2人子持ちの有給 煙草の味を思い出す


色んな魚影の上を泳ぐ夢、宝石を頭にたくさん乗せて魚屋とポーズをとって写真を撮ってもらう夢。

 娘をバーバに預けて夫婦カウンセリングへ、ライオンズマンションに住んでいる先生宅へ。夫はコンビニでお金下ろしがてらチャリで、落ち込みがひどいので先行して話をしていてもらうことにした。

 私はバスを降りて、暑くなったもこもこコートを無理矢理腰に巻いた。(昨日までコートで正解、小春日和だからと上着なしで出かけられる人は勇気あるな)ペットボトルのダージリンティーとセブンコーヒーのカフェオレ2つとハードカバー1冊、ソフトカバー1冊、間違えて入れてしまった子供の花がっぱせんべい、など重いリュックを背負いながら通りを10分ほどぶらぶら下った。

 カウンセリング参加まで30分ほど待機時間があり、スマホの地図にあった近くのポケットパークに向かう途中にあった川を見ていた。本が重いからリュックは置いて、コートも汗ばんだ腰から剥いで人んちの石段に。
 綺麗なオレンジの尾っぽの小鳥が川の岩場で忙しそうに右左にクチバシを動かしている。川の中の長い草が川が流れる方向にだらしなくあるがままに流されたままになっている。水が透明で動いて光っていて、見ていて飽きない。
 こないだ公園の東屋に落ちていたスプートニクの恋人を出して読んで待っていようと思ったけど、民家の石段に座ると川が見えないのでやめた。道が広いのだ。川が見える柵のところに丁度いい石段みたいな座れる場所があればいいのにと思ったが、それがあったらもう竿がなくても釣りなんだなと思って無いことに納得した。

 夫婦カウンセリングが終わり、夫はメンタルクリニックに行った方が良いと言われたので私の行きつけ2軒に電話したが、お休みだったり、初診は当日では無理だったり。知らないところでもとりあえずと、歩きながら電話をかけようとしていると顔色の悪い夫がチャリを押しながらランチしたいと言った。子育てとか未来に繋がる話は禁止で、結婚前みたいにただなんでもない話がしたいと。

 私が限界になりキレて夫が落ち込む、いつもの我が家のパターンだったので私と居たいとは思わなかった。昨日キレた私が、子供も居る前で怒鳴って出て行くぞとリュックを持って玄関に向かったら、夫は行かないでと泣いた。でも無理に止めることもなかった、それに腹が立って、止めないならこれからシングルファザーになるけど本当にいいのか?と訳の分からない説得をしてしまい、そしたらリュックを強く握りしめた夫だった。
 
 私のせいで鬱になり、癒しも私に求めるのか。私は自分の気持ちを無視されたことを怒っていたのに、夫は私のことがまだ好きなんだと思ったら嬉しかった。でも、私がキレたら鬱になってしまうし、他のパートナーとの方が幸せになれそうだが。
 
 テラス席が魅力的なペルシャ料理屋のランチ、夫は生ビール(鬱は大丈夫なのか?とせっかくの前向きを止めない方が良さそうだと判断)私はサングリア(もうすぐ2歳の子の授乳中だが、いつも飲んでは居ないから舐める程度だすまん)

 後ろの席の人がタバコを吸いながら仕事していた。禁煙して7年の夫(赤いマルボロだった)禁煙して4年の私(俄然ハイライトメンソールだった)川にいるときからなんだか吸いたかった。禁煙しても夢の中では未だに普通に喫煙しているのだ、天気も良く、顔色の悪い夫を魔法のタイムマシンに乗せたかったから、煙草吸う?と提案。ああ、今なら吸えるよと夫。いまいくらなのかあとで教えてと嬉しそうだ。今日だけだと誓ってコンビニへ。
 ライター込みで620円、吸い始めはハイライトメンソールなんて無かった、キャスターが確か210円だった。入り口の紙を丁寧に破き、開いてトントンと小気味のいい音をさせると、夫は慣れてるね!もう一度やってみてと目を輝かせた。 
 夫と私は悪友のようにいつもタバコを吸う為に喫茶店に行き、ライブを見ながら何本も靴の底で火を消してきた。その私たちが、酒も煙草もやらず(夫はビールだけは飲む)毎週のように子らと公園に行き、ライブは数年ご無沙汰だし、絵本は毎日何冊も音読するのに自分の本一冊読み終えるのに苦労しているのだ。カウンセラーも、夫婦で発達障害じゃ(妻はアスペルガー傾向に加え虚弱と慢性鬱と首事故の後遺症と最近分かりかけてきたHSPもある)本当にまともに生活するのは難しいと話していた。
 未来を心配しても今が無ければ未来もないから、お金がかかってもヘルパーさんやシッターさん、宅配の食事などをフル活用して毎日1時間、それぞれ自分の時間を取らないとダメになると言っていた。
 授乳にもちろん喫煙はご法度、子育てにもご法度、ていうかもう煙草吸うなんて世の中的にダメな人種なんだろう。でも子育てしてるうちに進化したらしいパイポみたいのとか知らないし(かっこ悪いと思う旧人種だし)家庭が壊れるくらいなら肺がちょい黒くなった方が幸せのためだ。
 夫と吸った真昼間のタバコはくらくらして最高だった。誰も知らない、私はかなり子育て知識があり、モンテッソリー教育とかバリバリ取り入れてる真面目すぎるし人好きする社交的なママ、そしてママ友もいるなんて。秘密を作らないと大人になれないのは、抱えると辛いからなのかね。夫と秘密を分け合って、足りない私たち夫婦も今夜も頑張って家庭する。

 絵本、おさかなちゃんのばいばーい、おでんのゆ、バムとケロ、のみのぴこ、バーバパパのたんじょうび、うさこちゃんのたんじょうび、はじめてのおつかいを読んで灯を消すと子らは私の両腕の中で、夫も疲れてすやすや眠った。
 速やかに子らの頭をスッと抜いて、寝室の端っこの暗闇でこの日記を書きながら自分の部屋に移動した。
 煙草を1本だけ吸おう、サングリアを舐めたけど授乳せずに寝てくれたから良かった。オリーブ柄のコップに牛乳を入れ、鞄から静かに煙草を探し、キッチンであんこ饅頭をひと齧りして、自分の部屋のドアを閉めたら、猫も入って来れない。夜中の網戸を自由に開けて、灰皿は4年前に全部捨てたから無いので捨てる予定だったトマト缶に水を入れて室外機の上に置いた。木の椅子を窓の横にぴったり置き、ガレっぽい赤いランプを付けて部屋の灯りを消したら久しぶりの壁の色。煙草が有るだけで不思議と寂しくない、私の時間はここにあったのか、わくわくする。窓から流れる風は冷たい、そろそろ道路清掃車が通るかも知れない。

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