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レイジの近況と国内の土壌

ヒップホップのサブジャンル「レイジ」の英語版Wikipediaで、以前私が書いた記事が参照されていました。

一過性の流行のようなムードもあったレイジですが、あの記事を書いてから2年が経っても終わらず、今でも高い人気を集めています。ピアノやストリングスを用いたメンフィスっぽいトラップ、ドリーミーでレイドバックした「プラグ」などと共に、しばらくトラップのスタンダードのような形で根付いていきそうです。

この2年間のレイジにまつわるトピックをおさらいすると、まずMikikiの記事で初期の導入例として挙げたラッパーのSoFaygoが昨年にアルバム「Pink Heartz」をリリースしていました。

しかし、この作品では意外なほどレイジ路線は控えめ。Ken CarsonをフィーチャーしたHell Yeahはレイジでしたが、それ以外は所属レーベルのCactus Jackのカラーに合わせたような曲が目立ちます。

そのKen CarsonはPlayboi Cartiのレーベル、Opium所属のアーティストです。2020年のアルバム「Whole Lotta Red」がレイジ前夜の重要作として指摘されることの多いPlayboi Cartiですが、OpiumでもKen Carsonなどレイジに取り組むラッパーと多く契約しています。Playboi Cartiはレイジの誕生に影響を与えただけではなく、それを支え続けている重要な存在です。Playboi Carti本人とOpium所属のHomixide Gangに相次いで厳しいニュースがあり、それは批判すべきものではありますが…。

Playboi Carti作品でレイジの前身のようなビートを作っていた、Pi'erre Bourneも引き続きレイジ的な曲を残しています。2022年にはJellyとの「Wolf of Peachtree 2」Juicy Jとの「Space Age Pimpin」の2枚のタッグ作に加え、ソロ作「Good Movie」もリリース。いずれもレイジ色が強いわけではありませんが、Jellyとの「Twin」やソロのSafe Havenなどで近いスタイルを披露していました。また、レイジの影響源の一つとなった(であろう)Wiz Khalifa率いるTaylor Gangに所属していたJuicy Jとの作品リリースは重要なトピックです。というか、むしろTrippie Redd「Trip At Knight」のように振り切った作品をリリースする方が変わった動きと言えるでしょう。

そのTrippie Reddは、今年に入ってから新たなアルバム「MANSION MUZIK」をリリース。前作のようにレイジ中心の作品ではありませんが、それでもLUCKIを招いたDIE DIEのような曲も収録していました。なお、同作にはプラグnbで人気を集めるSummrsも参加。新たな動きを逃さないTrippie Reddのトレンドセッターぶりが伺えます。

Trippie Reddと古くから親交のあるYoungBoy Never Broke Againも、今年リリースされたアルバム「I Rest My Case」でレイジを導入していました。現代屈指の人気アーティストであるYoungBoy Never Broke Againの取り組みは、今後さらに多くのアーティストがレイジを取り入れるきっかけになってもおかしくはありません。

YoungBoy Never Broke Againとお互いの作品に参加し合っているYeatも、現在のレイジを代表するラッパーの一人です。Lil Uzi VertやKen Carsonといったレイジの重要人物とも共演しながら活動を進めてきたYeatは、奇妙でフリーキーなフロウをトレードマークに現在人気を拡大中。昨年には映画「Minions: The Rise of Gru」の予告編で使われたシングル「Rich Minions」など、華やかな話題も増えつつあります。

Yeatは今年リリースのアルバム「AftërLyfe」収録のShhhhで「日本で俺のトレンドがコピーされる」とラップしていますが、それについては恐らく日本のシーンどうこうというよりもセルフボーストの形として言っているように思います。日本でレイジが流行しているのは事実としてありますが、そもそも日本ではレイジの誕生以前からレイジに通じるような曲が生まれており、それが定着しそうな土壌はありました。

例えば2009年にSEEDAがリリースしたアルバム「SEEDA」に収録されたGOD BLESS YOU KIDは、Mikikiの記事でレイジのルーツとして取り上げたThe Runnersなどの作風を思わせる曲です。LBとOtowaが2010年に発表したミックステープ「FRESH BOX(β)」にも、「Working Everyday」などそれに近いシンセが鳴る曲が収録されています。

また、レイジの流行を決定付けたTrippie Reddの名曲Miss the Rageはフューチャーベースのサンプルパックを使った曲ですが、日本ではフューチャーベースにラップが乗るような例も以前からありました。例えばm-floが2018年にリリースしたリミックスアルバム「BACK2THEFUTURETHEALBUM」には、TREKKIE TRAXCarpainterが手掛けたprismのリミックスを収録。ここでのフューチャーベース的な高揚感のあるシンセとラップ・歌の交わりは、時折レイジにも通じる魅力を放っています。

そして今年に入り、福岡のラッパーのPEAVISがそのCarpainterとandrew(とMasayoshi Iimori)というTREKKIE TRAX人脈と共にレイジに挑んだシングルDrive in Futureをリリースしました。同曲が収録されたPEAVISのEP「Blooms」は、レイジだけではなくレゲトンやハイパーポップなど多彩なスタイルを取り入れた快作です。そんな同作のレビューをMikikiで書きました。このユニークな作品の魅力を、サウンドとラップの両面から紐解いています。皆さま是非。


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