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抱えるゴーストライター 歌うDrake

東京のヒップホップコレクティヴのONENESSがリリースしたシングル「コイントス」のプレスリリース文章を担当しました。各種配信サイトで聴ける・ダウンロードできます。

東京・平和島発のヒップホップコレクティヴのONENESSがニューアルバム「Original ONES」のトラックリストを公開した。8月にリリースしたシングルSaturday Night Special 2を含む15曲入り。さらに、あわせて同作からの先行シングル第二弾「コイントス」を9月12日(木)にリリースする。

MVTENstz7AWERAの三人の異なるスタイルのラッパーのほか、ビートメイカーのPhaze1992やアートワーク等を手掛けるクリエイターのSlit Eyedなど様々な顔ぶれが揃うONENESS。今年に入ってからは先述したシングル「Saturday Night Special 2」のほか、2021年に手売りのみで販売した人気作Slit EPの配信リリースなどを行ってきた。また、そのマルチな特性を活かし、コレクティヴで運営するブランド「eazy」から自主制作のカセットテープやアパレルなども販売している。

今回リリースするシングル「コイントス」は、郷愁感のあるギターのループと南部ヒップホップ的なドラムを用いた楽曲。ビートはPhaze1992が手掛けた。社会問題からDrakeのゴーストライター問題にまで切り込んだリリックを、三者三様のスキルフルなラップで硬派でいてエモーショナルに表現したものとなっている。これは2020年代のスタイルを感じさせるビートの仮タイトルが「Emotion」だったことに着想を得たものだという。

また、配信リリースと同日にはMVも公開予定だ。

以下、メンバーの7AWERAよりコメント。

昭和のアニメや漫画に出てくる未来都市が今の東京なら、この曲はそれに対するアンサーソングのような曲です。

2024年の社会はどんな状況にあって、そこに立つ自分がどう感じているのかをリリックにしました。

アルバム「Original ONES」トラックリスト

1. intro
2. Saturday Night Special 2(※8月20日 先行リリース)
3. BOTTOU
4. College uniform
5. コイントス(※9月12日 先行リリース)
6. skit
7. ONElap
8. eazy tribe
9. シュノーケル
10. 頭文字T
11. turbo
12. skit
13. Monkeytime
14. OINORI
15. sss


プレスリリースでも書きましたが、今回のシングルでは7AWERAが「抱えるゴーストライター 歌うDrake」とラップしています。Drakeのゴーストライター起用はこれまでにPusha Tなど様々なラッパーが言及しており、今年大きな話題を集めたKendrick Lamarとのビーフの際にもそれに関するラインがありました。

ビーフについては「てけしゅん音楽情報」のこちらの動画を。余談ですが「てけしゅん音楽情報」には私が作った年表を共有しました。そこで今回は、Drakeのゴーストライター起用やそれに関連するトピックを振り返っていきます。

まず最初に挙げられるのが、Drakeが2019年まで所属したレーベルのCash MoneyのオーナーであるBirdmanに関する話題です。Birdmanのような社長ラッパーが自身でリリックを書かないこと自体は珍しくありませんが、Clipseをフィーチャーした2002年のシングル「What's Happened to That Boy」に関しては少し異なる問題がありました。Pusha T後のインタビューで同曲のBirdmanのリリックについて「俺はあのレジェンド(※Lil Wayneのこと)に書いてもらうと思っていたんだけど、アイツは代わりにGillieのところに行ったんだ(笑)」と話しています。GillieとはCash Moneyに所属していたフィリーのラッパーのGillie da Kidのことです。これはBirdmanを通したLil Wayneの作詞能力への疑いであり、この挑発はLil WayneとのClipseのビーフを過熱させ、そしてLil Wayne主催レーベルのYoung Moneyから出発したDrakeにも影響していきます。

Drake本人の話題としては、最初に問題となったのが2009年のヒット曲Best I Ever Hadです。同曲ではLil Wayneの曲「Do It for the Boy」引用しており、元ネタをプロデュースしたKia Shineが「Best I Ever Had」にもソングライターとしてクレジットされています。このことについてKia Shineは「あの曲の権利の25%は俺が持っている」と主張し、Drakeは「確かに彼がビートを作った曲から引用したが、彼とは会ったこともないし25%は嘘」と反論。真偽はさておき、Drakeは初のヒット曲からソングライティング関連のトラブルに見舞われました。

Drakeは「Best I Ever Had」以降は順調にスーパースターの階段を登り、2011年のアルバム「Take Care」で音楽性を確立。MigosのシングルVersaceのリミックスなど客演も多数こなしていきます。そんな中、2014年に客演したYGのシングル「Who Do You Love?」のヴァースがまた波乱を呼びました。同曲のリリックはベイのラッパー、Rappin' 4-Tayが1994年にリリースしたシングルPlayaz Clubに酷似していたのです。

オマージュとも言えるかもしれませんがRappin' 4-Tay本人はTwitterで怒りのツイートを投稿し、訴訟を起こすことはなかったものの最終的にDrake側が10万ドルを支払ったと報じられています。なお、Kendrick Lamarがディス曲「Not Like Us」でベイの話をしているのはこの件も込みなのではないかと私は思っています。

そして2015年、Meek MillがDrakeについて「アイツは自分のラップを書かない」とTwitterで暴露しました。これにはDrake作品を多く手掛けるプロデューサーの40が「Drakeはただのラッパーではなくミュージシャンであり、プロデューサーであり、クリエイターだ」「俺たちはラッパーが自分自身を閉じ込めておきたい境界線を超えている」などと反論。Meek Millの暴露から始まったビーフは、その後のDrakeのディス曲の鋭さとユーモアによりDrakeが勝者と見なされることが多いですが、「Drake=ゴーストライター」のイメージを強固にした重要な出来事でした。

このMeek Millから受け継いだゴーストライターネタのバトンでディスを続けたのがPusha Tでした。Pusha Tは2016年に放った曲「H.G.T.V Freestyle」でDrakeのペンの技量に疑問を投げかけ、Drakeのゴーストライター起用疑惑を強調。そして「Young Moneyの一員」ではなくDrake個人とPusha Tのビーフも本格化していきます。また、同年にはKid CudiがDrake(とKanye West)が大人数のソングライターを使っていることを名指しで批判。Drakeはシングル「Two Birds, One Stone」でKid CudiとPusha Tをディスりました。なお、同曲のプロデュースはKid CudiとPusha Tの二人と縁の深いKanye Westと40です。タチが悪い。

こうしてGOOD Music関係者を中心に盛り上がったDrakeのゴーストライター起用への追及ですが、2017年にはまた別の角度からDrakeのペンに疑問の声が上がりました。DrakeのシングルKMTXXXTENTACIONのシングル「Look At Me!」の類似性です。このことはXXXTENTACIONの破天荒なキャラクターも手伝って大きな話題を集め、XXXTENTACIONにとっては転機となりました。

そして2018年、Pusha Tがアルバム「DAYTONA」収録のInfraredで再びDrakeのゴーストライター起用疑惑を追及。ここからDrakeとPusha Tの激しいやり合いが続き、最終的にはPusha Tの悪名高いディス曲「The Story of Adonis」を生みました。Pusha TのここでのDrakeの隠し子暴露やミンストレル・ショウを想起させるアートワークなどの痛烈さから、このビーフはPusha Tの勝利と見られることが多いです。

その後数年間はDrakeのゴーストライター関連の話題で目立つものはありませんでしたが、2024年になってKendrick LamarとDrakeのビーフが本格化。ここでのKendrick Lamarのディス曲、そして続いて出たRick RossによるDrakeディス曲「Champagne Moments」にも当然のようにゴーストライターネタがあり、Drakeの弱点として完全に定着していることが伺えます。

なお、このDrakeとKendrick Lamarのビーフについて、Kia Shineは「俺が『Best I Ever Had』を書いたと言った時は誰も信じてくれなかった」と、Kendrick Lamarがディス曲の中でゴーストライター起用問題を追及したことを自身の経験と結び付けて語っていました

ここで私が気になったのが、「どこからどこまでをソングライティングとするのか」ということです。Kia Shineは後のインタビューで「Best I Ever Had」について、「Lil Wayneとスタジオに入ってレコーディングしたら、ある日その曲がDrakeのものになることを知った。(配給元の)Universalに確認しに行ったら権利の25%を譲るという話を聞き、実際にそうなった」と話しています。これはDrakeの「Kia Shineとは会ったこともない」という発言とも一致しています。つまり、「Kia Shineが作ったビートから生まれたメロディだから」Kia Shineがソングライターとしてクレジットされているのです。これと似たケースでさらに上を行くのが、DrakeをフィーチャーしたTravis Scott「SICKO MODE」です。

同曲にはA Tribe Called Questのメンバー全員の名前がソングライターとしてクレジットされていますが、これはTravis Scottのヴァース中に一瞬差し込まれるThe Notorious B.I.G.Gimme the Lootのサンプリングが理由です。「Gimme the Loot」ではA Tribe Called QuestのScenario (Remix)における客演のKid Hoodの声ネタがスクラッチで入っているので、「SICKO MODE」には「元ネタとその元ネタ」に関わった人としてA Tribe Called Questメンバーの名前が入っています。

これは人によっては「やり過ぎ」と感じる方もいるかと思います。しかし、「このくらいならクレジットしなくてもいい」と伏せた場合、それは人によっては「ゴーストライターが書いた」と見なされるケースもあるのではないでしょうか。サンプリングに限らず、例えば「ここのリリックはこうした方が良いのではないか」とその場にたまたま居合わせた人や事前に聴かせた人に提案され、それを採用して少し修正した場合、その人はソングライターとしてクレジットされるべきなのか? ゴーストライターについて考えていると、そんな疑問も浮かんできます。

とはいえ、Drakeほどの多忙なスーパースターであの作品量、かつビーフ時におけるレスポンスの早さや開き直った態度を思うと、きちんと本格的に書いているゴーストライターがいてもおかしくはないという気がするのも確かです。最後にもう一つ「気がする」話をすると、Gillie da KidもRick Rossも元Suave HouseClipseのマネージャーはSuave HouseのオーナーだったTony Draper、Kia ShineはT-Mix8Ball & MJGらとの曲を多く残し……と、なぜか出てくる名前にSuave House関係者が不思議と多い気がします。なんなんでしょう。

そんなSuave Houseは、カントリーラップ系のサウンドでThree 6 Mafiaなどとはまた違うメンフィスラップを追求したレーベルでした。それはテキサスのRap-A-Lotとも通じるスタイルであり、そしてONENESSの今回のシングル「コイントス」もその流れで聴ける曲だと思います。この素晴らしい新曲を聴きながら、アルバムリリースを楽しみに待ちましょう。

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