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ヒップホップ史における15人の名「シンガー」

音楽誌「別冊ele-king ヒップホップ誕生50周年記念号」に寄稿しました。名盤100枚を紹介するディスクガイド部分で12枚のレビューを担当しているほか、「50年分の私の偏愛アルバム/シングル」のコーナーで3枚の作品を紹介しています。

今回の私の裏テーマとして、「名盤を聴くだけではわからないことも伝える」というものがありました。そのためDJのカルチャーやある時代に局地的に起こったムーブメント、リスナーの感覚の変化などにも触れています。

その試みの一つに、とある作品のレビューで書いたNate Doggの話があります。Nate Doggのソロやグループの213での作品はこの本では取り上げられていませんが、ヒップホップ50年の歴史においてNate Doggがフックを歌った名曲は数えきれないほどあります。

しかし、そもそもNate Doggのような「シンガー」は、ヒップホップを特集する際には微妙に扱いが難しい存在です。そこで今回は、ヒップホップ史における15人の名シンガーを紹介します。



Anthony Hamilton

焦げたようなソウルフルな歌声が魅力のAnthony Hamilton。ソロ作では本格派ソウルシンガー然としたスタイルを聴かせますが、ヒップホップ作品への客演も多く行ってきました。ソウルシンガーを求めそうなブーンバップ系譜のラッパーだけではなく、トラップを中心に取り組んでいるJeezyのようなラッパーの作品にも参加しています。

Jadakissの2004年作「Kiss of Death」からのシングル「Why」は、Havoc制作のメロウなビートとその歌が見事に噛み合った名曲です。


Billy Cook

テキサスヒップホップ史にはBig MoeChalie BoyDon Toliverのような歌とラップの間を行くようなアーティストが多く活躍してきました。そんな中、Billy Cookのスタイルは早口でも明確に「歌」。そのソウルフルな歌声でテキサスG名曲を多く生み出してきました。

Trae Tha Truthの2003年作「Losing Composure」に収録の哀愁曲「Days of My Life」は、私の一番好きなヒップホップの曲の一つです。


BJ the Chicago Kid

現行のアーティストならこの人は欠かせません。Anderson .PaakKendrick LamarJID……などなど、シーンのトップに立つ数々のラッパーの作品に参加してきた名ソウルシンガーです。自身の作品にもかなりラッパーを迎えていることからも、完全にヒップホップシーンの一員と言えると思います。

Chance the Rapperの2013年のミックステープ「Acid Rap」に収録された「So Good (Good Ass Intro)」がお気に入り。ゴスペルとジュークを結合させたビートを見事に乗りこなしています。


Charlie Wilson

ヒップホップ50年の歴史よりもキャリアの長いCharlie Wilson。所属バンドのthe Gap Bandの曲がサンプリングネタとした愛されただけではなく、Snoop DoggからTyler, the Creatorまで様々なラッパーの作品に客演してきました。Jay Worthyも以前インタビューした際に共演したい旨を語っています。

客演曲で一曲選ぶとしたら、Pharrell Williamsの2006年作「In My Mind」からシングルカットもされた「That Girl」です。Snoop Doggも交えた三人の名コンビネーションが堪能できます。


Dwele

クールで繊細な歌声が魅力のDweleは、J DillaSlum Villageなどのデトロイト勢の作品への客演で毎回ハイライトを生み出してきました。Big Sean2Pacなどメインストリーム寄りの作品にも参加しており、ヒップホップにおける重要なシンガーの一人と言えると思います。

私が好きなのはWaleの2015年作「The Album About Nothing」に収録された「The White Shoes」です。明るいビートとDweleの歌が完璧にマッチしています。


Jazze Pha

どちらかといえばプロデューサーとして知られているJazze Phaですが、シンガーとして自身が手掛けた曲のフックを歌うことも非常に多くあります。そのアクの強い歌声の「乗っ取り力」はかなりのもので、主役の座を奪うことも少なくないです。

Telaの1996年作「Piece of Mind」に収録の「Sho Nuff」は、そんなJazze Pha関連曲の中でも屈指の名曲です。別冊ele-kingでも少し触れた「オーガニックなメンフィス」を代表する曲でもあります。


Mary J. Blige

ヒップホップ史における名シンガーと聞いて、「クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル」ことMary J. Bligeが真っ先に浮かんだ方も多いのではないでしょうか。ヒップホップのビートでソウルフルかつ(初期は)ラフに歌うそのスタイルは、現行シーンのメロディック・ラップにも間違いなく繋がっているものです。

客演曲で選ぶなら、Dr. Dreの1999年作「2001」収録の「The Message」を。Dr. Dreとの完璧なタッグが味わえる名曲です。


Mo B. Dick

No Limit Records作品を買う目的の一つが、Mo B. Dick関連のメロウ曲というG好きの方も多いと思います。Sons of Funkと共にNo Limit Recordsのメロウサイドを支えたその歌心は、同レーベルにおけるNate Dogg的存在とも言えるのではないでしょうか。

一曲選ぶとしたら、Master Pの1997年作「Ghetto D」からのシングル「I Miss My Homies」です。これぞNo Limit Records印のメロウ名曲。


Nate Dogg

お待たせしました。この記事を書くきっかけとなったNate Doggの登場です。そのダンディな歌声はSnoop Doggや2Pacといったウェッサイ作品はもちろん、LudacrisMobb Deepなどの作品も彩ってきました。この記事をランキング形式にするとしたら文句なしの一位です。

一曲選ぶのが困難なほどの名フック職人ですが、「別冊ele-kingで私が言及していない」という縛りを加えると、50 Centの2003年作「Get Rich or Die Tryin'」からのシングル「21 Questions」で。ガアーアアル。


Rihanna

RihannaJay-Z周りの人というだけではなく、ラッパーの曲への客演もかなり行ってきたアーティストです。自身の作品にもヒップホップ人脈を積極的に迎えており、他ジャンルも視野に入れてヒップホップ史を語るとしたら避けては通れないと思います。

ソロ作でもヒップホップ要素は強いですが、ラッパーへの客演曲ならKendrick Lamarの2017年作「DAMN.」収録の「LOYALTY.」を推します。ラッパーと普通にマイクリレーをしているヒップホップ感覚。


Raphael Saadiq

キャリア初期にはTony! Toni! Toné!で活動し、その後のソロ活動ではネオソウル~レトロソウル道まっしぐらなRaphael Saadiqですが、Q-TipRick Rossなどラッパーとの共演曲もかなり多く残しています。地元ベイとの繋がりも強く、G好きの間でも密かにファンが多いのではないでしょうか。

そんな「ベイのシーンの一員としてのRaphael Saadiq」という意味では、Lunizの1997年のシングル「Jus Mee & U」がお気に入り。Gなメロウも上手い人です。


Ronald Isley

Charlie Wilsonと同じくヒップホップ史よりも長いキャリアの持ち主ですが、ここまでヒップホップシーンから愛されているアーティストもなかなかいないと思います。サンプリングネタだけではなく、客演も余裕でこなす横綱シンガーです。

客演曲は大体素晴らしいですが、一曲選ぶとしたらUGKの2009年作「UGK 4 Life」収録の「The Pimp & The Bun」を。その甘い歌声がGなサウンドに完璧に溶け込んでいます。


Sleepy Brown

Dungeon Familyの中核、Organized Noizeのメンバーとしても知られるSleepy Brown。プロデューサーとしてOutkastGoodie MobKuruptなどヒップホップ名盤を多く手掛けていますが、自らフックを担当した曲もかなり残しています。

一曲選ぶなら、やはりOutkastの1993年のシングル「Player's Ball」です。ここでのソウルフルな歌声がなかったら、今の色々なものがなかったと思います。


T-Pain

元々ラッパーだったT-Painは、ヒップホップ史における最大のゲームチェンジャーの一人です。ヒップホップ50年の歴史を振り返る際、「R&Bだから」を理由にT-Pain抜きで語るとかなり無理が出てくるはず。当然のようにラッパーへの客演も多い超重要人物です。

Nate Doggに並ぶのではないかと思うほど名フックが多いアーティストですが、私が忘れがたいのはBow Wowの2007年のシングル「Outta My System」です。切ないメロウ名曲。


Ty Dolla $ign

「現代のNate Doggといえば誰?」と聞かれたら、G好きの方はNhaleと答えると思いますが、多くの方は恐らくTy Dolla $ignの名前を挙げるのではないでしょうか。その低めの声でラップっぽい歌を聴かせるスタイルは、Nate Doggと同じく西海岸を越えて全米で愛されてきました。

「気付くといる」レベルの膨大な客演数ですが、一曲選ぶならMegan Thee Stallionの2019年のシングル「Hot Girl Summer」です。Megan Thee StallionとNicki Minajの共演というトピックが話題となりましたが、Ty Dolla $ignのフックあってこその曲だと思います。

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