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生演奏っぽいフレーズが特徴。トラップの派生ジャンル「Plugg(プラグ)」とは?【サウンドパックとヒップホップ 第9回】

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2022年8月17日掲載の「サウンドパックとヒップホップ」の第9回です。

なお、この記事に登場する曲を中心にしたプレイリストも制作したので、あわせて是非。


レイジに次ぐ注目のスタイル「プラグ」

米メディア「XXL」による注目新人を紹介する名物企画「XXL Freshman Class」でのCochiseSoFaygoの選出、映画『ミニオンズ フィーバー』のトレイラー映像でのYeatの抜擢…などなど、Playboi Carti以降のスタイルを持つラッパーたちの活躍が目立つ2022年。Playboi Carti本人も大型フェス「Rolling Loud」に出演するなど、引き続きその存在感の大きさを示している。

昨年大きな話題を集めたヒップホップのサブジャンル「レイジ」は、Playboi Cartiが以前から取り組んでいたサウンドに通じるスタイルだ(名前の由来はPlayboi Cartiが客演で参加したTrippie Reddの楽曲「Miss the Rage」から)。先述したラッパーたちもレイジ系のビートを好んで使っている。しかし、新進ラッパーたちの間で現在流行中なのはレイジだけではない。特に今年大きな注目を集めているのが、「プラグ(Plugg)」と呼ばれるスタイルだ。

プラグはレイジと同じくトラップの派生ジャンルで、ドリーミーでリラックスした雰囲気、キーボードで弾いたようなメロディアスなフレーズなどが特徴として挙げられる。このスタイルのオリジネイターはアトランタのコレクティヴ、BeatPluggzだ。プロデューサーのMexikoDroStoopidXoolが中心となって2013年頃に設立された同コレクティヴのサウンドが、「plugg!」というプロデューサータグと共に広がりそのままジャンル化した形となる。アトランタのアンダーグラウンドから始まったプラグはインターネットを通して広がり、一時期衰退したものの現在再び活性化。今年6月にはプラグの拡散において重要な役割を担ったプラットフォームであるSoundCloudがプラグのドキュメンタリーを制作するなど、新たなフェーズに突入しつつある。

今回はそんなプラグのルーツや歩みを振り返りつつ、近年の新たな動きなども取り上げていく。


プラグに内包された西海岸フレイバー

プラグを生み出したBeatPluggzのMexikoDroは、そのメロディアスな持ち味からキャリア初期にはZaytovenとよく比較されていた。MexikoDro本人は米メディア「The Hundreds」のインタビューでその類似性を否定しているが、Zaytovenと共に活動していたGucci ManeOJ Da Juicemanについても同インタビューで語っている。BeatPluggzを結成した2013年はMigosのシングル「Versace」のヒットなどでZaytovenが再び注目されていた時期でもあり、影響は少なからず受けているのではないだろうか。

インターネット上にもビートメイク動画がいくつかアップされているが、Zaytovenはプログラミングやサンプリングではなくキーボードを弾いてビートを作るプロデューサーだ。そんなZaytovenの過去作品を聴いてみると、確かにプラグに繋がるようなビートは散見される。Gucci Maneの2008年作『The State vs. Radric Davis』に収録された「Bricks」Gorilla Zoeの2009年作『Don’t Feed Animals』収録の「So Sick」などだ。

また、Zaytovenをフックアップしたベイエリアのラッパー兼プロデューサー、JT The Bigga Figgaのビートにもプラグ的なものは発見できる。JT The Bigga FiggaがプロデュースしたSan Quinnの1994年作『Live ‘N’ Direct』収録の「Ya Betta Come On In」はハイハットの手数も多く、高音シンセの響きもそれっぽい。サンプリングよりも生演奏が好まれた西海岸のスタイルがZaytovenを経由して、アトランタにて独自進化したものとプラグを捉えることもできるだろう。

そうしてBeatPluggzが生み出したプラグは、2010年代前半から半ば頃にかけて最初の黄金時代を迎えた。Playboi Cartiも初期はMexikoDroと共に制作しており、「Broke Boi」「Money Counter」などのプラグ路線の曲を残している。2010年代半ばそのほかにもFamous DexKodak Blackといったラッパーがプラグに挑戦。Rich The Kidが2015年に放ったシングル「Plug」はMexikoDro制作でKodak BlackとPlayboi Cartiを客演に迎えた鉄板の布陣で、プラグをメインストリームに運ぶことに成功した。

しかし、こういったプラグに挑んでいた大物ラッパーたちの多くが、その後プラグから離れてほかの路線に進んでいった。プラグからスーパースターとなったPlayboi Cartiも2017年のミックステープ『Playboi Carti』収録の「Had 2」などでプラグに挑んでいたものの、MexikoDroとの間に起きたトラブルもあり遠ざかっていった。また、エモラップの流行やLil Uzi Vertのブレイクなどもありトレンドが別のものに移り変わったこともあった。こうしてプラグの最初の黄金時代は過ぎ去っていった。


プラグの二次ブームとサウンドパックの活用

しかし、2019年頃からプラグは再び活性化していった。その要因の一つとして挙げられるのが、「プラグンB(pluggnb)」と呼ばれる新たな派生スタイルの登場だ。

プラグnBは、90年代R&B的なメロウネスをプラグに取り入れたもの。XanGangDylvinciなどのプロデューサーが推し進めていたスタイルで、Autumn!Summrsといったラッパーがそのビートを使ってきた。2019年にはラッパーのFLEEがBeatPluggzのStoopidXoolと組んだアルバム『XOOL SUMMER』収録の「SWISH/USE 2」で人気R&BシンガーのBrent Faiyazを迎えたプラグンBを披露。プラグのオリジネイターと共にプラグンBのムーブメントを彩った。

また、プラグのリバイバルも早くも生まれていた。CashCacheCash Cobainなどのプロデューサーが頭角を現し、ラッパーではTony Shhnow10k Dunkinなどが登場。こういったプラグ第二世代たちの登場を受けてなのか、2020年にはDrakeがミックステープ『Dark Lane Demo Tapes』にMexikoDroをプロデュースに迎えてプラグに挑んだ「From Florida With Love」を収録した。その後もLil Tecca「Show Me Up」MadeinTYO & UnoTheActivist「Plug」などが生まれ、プラグは再びメインストリームに浮上。前後してアメリカ以外でもフランスのSeraneなどがプラグ路線で人気を集め、そのスタイルは世界中に広まっていった。

ここまで振り返ってきた通り、プラグはキーボードを弾くZaytovenのようにプログラミングというよりも生演奏っぽいフレーズが好んで使われるスタイルだ。なお、プラグ第二世代の代表格、Tony Shhnowはサンプリングを用いた曲も多い。楽器を弾けなくてもそのグルーヴを取り入れることができ、クリアランス問題に悩まされることのないサウンドパックはプラグ制作にうってつけのものと言えるだろう。

また、近年ではプラグンB以外にもハイパーポップの要素をプラグに導入した「ハイパープラグ」のようなスタイルも生まれている。こういったプラグを拡張する動きも、特定のジャンルの要素を手軽に引っ張ってくることができるサウンドパックが浸透した現代ならではものだろう。サウンドパック文化の浸透によってますます加速するかもしれないムーブメントとして、プラグには今後も注目だ。

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