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マネージャーの付加価値: 真のコンサルタントと高級文房具の分水嶺

コンサルティングという「意思決定を促す」仕事で、一人のコンサルタントとして価値を出するために気を付けるべきことを前回の記事で紹介した。

コンサルマネージャーの付加価値とは

一方、ではクライアントにとってコンサルティングファームのマネージャーの付加価値とは何だろう。(マネージャーとは、プロジェクトチームを率いて、案件の運営・成果物に責任を持つ立場)

マネージャーの付加価値は、チームの活動がクライアントへのより大きなインパクトにつながるように活動のかじ取りをすることであり、そこには二つの重要な視点がある(脚注1)。

A. プロジェクトが難航しそうなところを見極めて手を打つ

プロジェクトが難航するとき、それはたいてい社内の意思決定プロセスの問題か人(の関係性)の問題だ。マネージャーの付加価値は、それまでの経験から、難航しやすいところを事前に察知して手を打つことだ。

ケーススタディ
前記事の設備投資判断の事例に沿うと、次のような難航が想定される。

意思決定プロセスの問題というのは、存在するはずの投資委員会や投資権限へのチームの理解が不十分だったため、結局今回投資判断するための検討を進めたが実を結ばなかった…というケース。

人の問題というのは、投資を進める上でオピニオンリーダー(必ずしも役職とは一致しない)をおさえきれなかったため、活動に反対される…というケース。

端的に言えば、意思決定行うために必要な資料上のクオリティアップや現場レベルの巻き込みはチームが主導できる。

しかし、実際はクライアント社内の政治的思惑や部門間の関係性が案件推進の障壁になることが多いため、マネージャーにはクライアント社内の政治的な関係性を加味した問題解決 (うまい話の通し方) をチームメンバーよりも広い視点で主導することが求められている。

B. より本質的な課題を解きに行く

これはなかなか難しいが、マネージャーは目の前の課題の背景に何があるのか、つまりなぜクライアントだけではその課題を解けなかったのかを明確にする役割を担っている。

そして、それが本質的に対処すべきこと(いわゆる解くべき「イシュー」)であるとファームのパートナー、およびシニアクライアントと合意し、チームリソースをはってでもそこを解きに行く、という意思決定を主導する必要がある。

特に戦略コンサルティングファームが支援するような仕事では、提案の時点で謳われたスコープや期待成果物をチェックリスト的に消化するチームよりも、柔軟にプロジェクトスコープや成果物を変化させていけるチームの方が結果的に高いインパクトを出しているように思う(脚注2)。

ケーススタディ
前記事の設備投資判断の例に沿うと、チームが活動を進める中で次に挙げるような根源的な課題が見つかる可能性が高い。

例1.社内プロセスやインセンティブのあり方が、大規模な投資を阻害している。設備投資に対してトータルで同じ額を使うにしても、小粒の投資ばかりしかできない仕組みになっている。

例2.生産管理システムにつなぎこむことで効果の出る投資ができない。その背景として、製造現場の指示系統と、生産管理(S&OP/SCM)の指示系統が、組織のかなり上の層に行かないと合流しない。このような場合、深堀していくと現場の改善が標準時間に反映されていないことが見えてくるかもしれない。つまり、その工場で作られる製品の原価や、工場の正しい生産能力を知る人間が社内に一人もいない…という問題だ。

このような役割を担うためには、マネージャーは普段からシニアクライアント (脚注3)と定期的に接点を持ち、プロジェクトのスコープに限らず彼らの関心事を掴みに行く必要がある。

そのうえで、一般論(ベストプラクティス)だけではなく、そのクライアント特有の現場の理解に基づいた対策案を投げかけていくべきだ。

一方、コンサルティングファームに仕事を依頼する経営者陣としては、プロジェクトの進捗報告だけではなくそのような提案が出てくるようなチームにこそ、継続してコンサルティングを依頼する価値があるのではないだろうか。

では真のコンサルタントと高級文房具の分水嶺とは

近年コンサル業界の就活人気が高まる一方、コンサルタントは高級文房具・高級派遣化しているという言説も多くみられる。

実際に他のファームで働いている方と会話する中でも、本部長や部長をクライアントに、彼らが頭の中に思い描く話をパワーポイントに落として社内稟議をお手伝いする、というプロジェクトがファームによっては結構ある、という話を聞いた。そのようなプロジェクトでは、クライアントである(本)部長の想像を超えたアウトプットが出るわけもなく、確かに高級文房具といわれても仕方がないだろう。

では、the client (プロジェクトにお金を払ってくれる人)が企業の経営層であれば、高級文房具ではないと言えるか?いやいや、企業の経営会議に向けて、幹部が言いたいことを、多様なサポートロジックとともに資料に落とすプロジェクトも、似たようなものだろう。

結局、真のコンサルタントと高級文房具の分水嶺とは、マネージャーが本稿で述べた視点を持ってチームの活動をデザインできているかどうか、にかかっていると私は思っている。これがプロジェクトに対するチームメンバーの姿勢に違いを生み、結果的にチームがクライアントの想像を超える成果を出せるかどうかを左右するのだ。(脚注4)

脚注

1) もちろん、コンサルティングファームのマネージャーは以下のような様々な活動も行っている。しかし本稿の主題からはそれるためまた別の機会に言及したい
プロジェクト内:
チームメンバーを育てること、チームメンバーがうまく回せていない部分では作業を引き取ってテコ入れすること、etc.
プロジェクト外: 新規案件の提案、採用やイベント準備などファーム内の様々な活動、etc.

2) システム構築や、専門コンサルのような決められたスコープに従った成果が価値を持つタイプのプロジェクトではこの限りではない。
また、スコープ変更の過程でクライアントの期待値をすり合わせることと、チームメンバーの作業量を適正な範囲内に留めることも、マネージャーが担うべき役割だ。

3) The client (クライアント社内でプロジェクトに実際にお金を払ってくれる人)や、その人より1-2レイヤー下の役職の人など。戦略コンサルティングファームの場合はCXOや役員を想定。

4) コンサルタントたるもの、まずは「真のコンサルタント」と「高級文房具」の用語を定義し、その差分を明確することから議論を始めないといけない…と言われそうですが、割愛させていただきます。笑