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ノルウェーの民話を再編した傑作絵本『三びきのやぎのがらがらどん』
「あのとき、この本」の紹介絵本より。紹介者は絵描き・漫画家のミシシッピ。
基本情報
タイトル: 三びきのやぎのがらがらどん
作者: マーシャ・ブラウン(文)、瀬田貞二(絵)
発刊: 1965年7月1日
作者について:
マーシャ・ブラウン: 1918年、ニューヨーク生まれの絵本作家。ウッドストック美術学校、ニューヨーク師範学校を卒業後、コーンウォール高等学校で英語と演劇を教える。その後、ニューヨーク公共図書館で図書館員をしながら絵本作家を目指し、1946年にデビュー。生涯で、アメリカ図書館協会から年間コールデコット賞を3回受賞したほか、イラストレーターとして年間最優秀の米国絵本イラストに贈られるコールデコット賞を6回受賞した。児童文学で最も名誉あるイラストレーターの一人。
瀬田貞二: 1916年、東京生まれの児童文学作家、翻訳家、児童文学研究者。東京高等学校、東京帝国大学国文科を卒業後、衛生兵(戦中)、中学の夜間部教師を経て、平凡社では『児童百科事典』全24巻の企画編集に携わる。1957年の退職後は童文学の分野で翻訳・評論・創作などを手がけた。トールキン『指輪物語』の翻訳は名高い。
絵本の概要
本作はノルウェーの民話を再編したもの。むかしむかし、大きさの違う3匹のやぎがいた、名前はみんな「がらがらどん」。山のくさばでふとろうと登ってきたが、橋の下には妖精トロルが「ひとのみにしよう」と待ち構えていた。
最初の二匹は、"後から来るがらがらどんの方が大きいから"と通してもらい、ストーリーはトロルとおおきながらがらどんの対決へ向かってゆく。
個人的な感想、及び考察
描線の太さとストーリーのシンプルさ、即ちブラウンの造形のアプローチと瀬田の言葉選びが見事な一体感を体現した傑作絵本。ストーリーに教訓性や感傷は微塵もなく、無駄をそぎ落としたフォルムの力強さだけが強烈に打ち出されている。
たとえば、冒頭の「やまのくさばでふとろうと」という表現は斬新だし、ちびやぎは「かた こと」、2番目のやぎは「がた ごと」、そしておおきなやぎは「がたん、ごとん」という細やかな言葉選びは話の盛り上げに重要な貢献をしている。結びの「キョキン、パチン、ストン」の結びも強烈だ。
「がらがらどん」は元の英語「Gruff」(荒っぽい低音の声)の誤訳が指摘されているが、語感の荒っぽさそのものがストーリーと不思議とマッチしているのだから因果なものだ。
また、トロルの「だれだ、おれのはしをかたことさせるのは」に対して、「おれだ!おおきいやぎのがらがらどんだ!」という芝居がかった名乗り上げの場面は、ブラウンの演劇教師のキャリアを想起させる。
やぎたちの愛らしい前振りやトロルの岩の怪物のような造形があるからこそ、大きいやぎのど迫力の勇壮さはある種のカタルシスを誘発させる。これぞプロの技。
その割にはあまりにもあっけなくトロルが片付くので、この話は対決や試練よりもコメディに近いような印象を持つ読者は案外多いかもしれない。
最初の二匹の言動は、単に保身を試みているのか、それとも大きいやぎに絶対的な信頼を寄せているのか、判然としない。しれっと仲良くふとっておわるが、この点を読み手に委ねている点が本書の読みどころではないか。
「つのでめだまをくしざしに、ひづめでにくもほねもこっぴみびんにして、トロルをたにがわへつきおとしました」などと、子供向けの絵本にしては全く容赦のないところもユニークだ。
関連リソース
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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