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【書評】パターン・シーカー 〜自閉症がいかに人類の発明を促したか

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私は、これまで大学や研究所などの職場を経験し、とんでもなく頭のいい理系の人達を間近で見てきた。その経験則として、ASD(自閉症スペクトラム)と理系分野の高い知能は関係があるのではないかという感想を持つに至った。理系研究職の人は、社会不適合者とまではいかないが、周囲とうまくコミュニケーションを取っている人でも、「あの人誰だっけ?」と顔を覚えるのが苦手だったり、他人の感情を瞬時に想像するのが苦手な人が多いという印象を持っている。

今回は、理系とASDの関係を考える上で、非常に参考になった本を紹介しようと思う。
ザ・パターン・シーカー (Pattern Seeker: パターン探しの達人) は、自閉症研究の世界的権威であるケンブリッジ大学教授、バロン=コーエンによる著作である。

内容

この本のキーワードは「システム化能力」と「自閉症」である。
人類は、物事を観察し(例えば、星空)、仮説を立て(星の動きには1年ごとの周期がある)、それに対して試行錯誤を繰り返す(星の動きがわかるように、大きな石を何度も配置し直す)中で、発明(星の動きを観測して季節を読み解く装置)を生み出してきた。このプロセスを「システム化」と呼ぶが、この高度な「システム化能力」は、私たちホモ・サピエンスにだけ備わっているものだという。

「システム化能力」の高さをスコア化し、数万人規模のアンケート調査したところ、このスコアが高い人物は、以下の特徴があるという。

  • 理系分野の職業についている割合が高い。

  • 非言語性の視覚知能テストのスコアに優れる

  • 自閉症のスコアの高さとも相関があるという。

  • 他人の感情を推し測る「共感力」のスコアが低い傾向にある。このことは、「システム化能力」の高さと「共感力」の高さは両立し難いことを示す。

  • 男性に多い

ちなみに「システム化能力」のスコアについては、以下サイトで測定ができる(英文)。


「システム化能力」と自閉症は遺伝する

「システム化能力」のスコアが高い人には男性が多いが、これには妊娠中に胎児が浴びるテストステロン(男性ホルモン)が関係しているようだ。
妊婦の羊水中のテストステロン量を測定すると、その値が高いほど、赤ちゃんの「システム化能力」が高く、「共感力」が低くなる傾向が見られたという。また、マウスの脳に添加して観察すると、特定の脳領域の神経が増えることが観察されている。

さらに調査を進めると、双子研究などで「システム化能力」を高める遺伝子と、自閉症に関係する遺伝子は共通のものが多いということが明らかになる。
また、アメリカのシリコンバレーのように、ハイテク企業が集まる拠点が世界各地にあり、そこでは「システム化能力」の高い男女が集まって、そのカップルの子ども達が多く生まれている現状がある。
そうした都市のひとつである、オランダのアイントホーフェンでは、自閉症の子が発生する割合が高いことが実際に示されている。同様の傾向が、シリコンバレーやマサーセッツ工科大学の卒業生にもありそうだと著者はいう。

また、アメリカの最も裕福な家庭の子どもを調査した所、一般家庭の4倍(8%)ほど、自閉症の出現率が高いという。新商品の発明や経営の最適化などのビジネスの成功要因が「システム化能力」の高さと関連しているとすれば、この結果も納得のいくものだろう。

この本を読んでの教訓

他人に共感する能力と、「システム化能力」は両立しにくい傾向にある。そして、この両者は遺伝によって決まっている部分が大きい。
どちらの才能も、人類の文化を発展させた偉大な能力であり、尊ぶべきものである。一方で、高度な「システム化能力」は自閉症をもたらす側面もある。一人一人の個性を受け入れて、才能を伸ばしたい。


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