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ルアンパバーン紀行 第1話:ラオス中国鉄道

立冬|金盞香
令和5年11月20日

2023年11月11日土曜日 午前5時30分、ラオス国ビエンチャン市内のキングサイズベッドの上で目を覚ました。

一週間の仕事の疲れが身体に残ったままだったがなんとかベッドから起き上がり、昨日用意しておいた短パンとTシャツに着替え、1泊分の荷物を手早くリュックに詰めた。朝ごはんを食べる時間はなさそうだったので、おなかが空いたとき用の軽食も兼ねてリンゴ2個とバナナ4本を冷蔵庫から取り出し、ホテル備え付けの水も手に取った。先客が詰まっていて入らなさそうだったのと結露で荷物が濡れそうだったためリュックに押し込むことは諦め、その辺に落ちていたビニール袋に入れてとりあえず部屋を出た。

2階から1階に下る数秒のエレベーターの中で昨日の晩に配車アプリで予約しておいた車のナンバーを確認する。朝6時に本当に来てくれているだろうか、もし来ていなかったらタクシーはその辺で捕まるだろうか。そんな心配と万が一のシミュレーションをしながら外に出てみると、日中夜間は車やバイクでごった返していたホテル前の通りは全く往来がなくがしんと静まり返っていた。旅行に出る早朝の、非日常的な静けさとひんやりとした空気はいつ何度味わっても心がわくわくする。はやる心のまま左側をふと見ると一台だけ車が止まっていた。ナンバーを確認すると予約していた車。あぁ良かった。
配車の予約の際に目的地をすでに設定していたが、念のため目的地がstationであることを告げると音もなく発車した。電気自動車なのだろう。朝の静けさにたっぷり浸れるのでありがたい。

ホテルの角を曲がると紫色とオレンジ色のグラデーションの綺麗な朝焼け空が広がっていた。窓を開け、風で飛ばされないよう、また後ろからバイク等ですられないよう、渾身の力で右手でスマートフォンを握って窓の外に手を伸ばし、左手でシャッターを切った。ブレブレでピンボケしていておよそいい写真とはいえないが、きれいだと感じた色は切り取れたので満足した。

stationといえどいくつかある。これから乗るラオス中国鉄道のビエンチャン駅に向かっているかどうかGoogle mapをチラチラみながら座っていたが、どうやら問題なく向かっているようだった。一安心していると間もなく目的地についた。支払いはオンラインで完了していることをドライバーと確認し、降車した。時刻は午前6時半頃。

2021年に開通したラオス中国鉄道のビエンチャン駅は圧巻の巨大駅舎だった。規模でいえば日本でも同じくらいのものがいくつもあるのだが、幼い子供が書くような四角に三角を乗っけたような単純な「家」の形のまま、とにかく大きかった。自分が小人になったような気持ちになりとても不思議だった。さすがは中国資本、堂々としたものを作ったものだ。

少し早く着いたためまだ駅舎には入れなかったが、写真を撮ったりしていたら間もなく係員がでてきて営業開始となった。まばらにいた人たちがわらわらと列を作り始めたので自分もそれに倣い列に並び、パスポートコントロールや荷物検査を受けたのち駅に入った。仕事でお世話になっていて、鉄道のチケットを予約してくれた通訳の方に"この検査が厳しく待ち時間がかかるので1時間ほど前についていた方がいい"と言われたので発車時刻の1時間前についたのだが、意外にもあっさりと駅舎に入ることができた。これならもう少し寝られたのではないか、などど小言がよぎりそうになったが、余裕はいくらあっても困らないので親切な助言に素直に感謝することにした。
駅舎の中に入ると再び驚いたのが、なにがしメッセのような催事場と思わしき大空間に空港の搭乗ゲート前でよく見るようなベンチがずらーっと並べられていて、しかも柱が一本もなかった。どうやってこの大空間を支えているのかとても不思議でしばらく天井を眺めまわしていたが、結局わからなかった。

待つこと数十分、ホームへ入場できるようになった。スマートフォンに保存していたQRコードとパスポートを係員に提示しホームへ入ると、オレンジからもうすっかり金色に変わっていた日の光が白いホームを眩しく照らしていた。目を細めながら指定の車両を見つけ、乗車して自分の座席に座った(幸いにも窓側の席だった)。

数分ののち電車は動き出し、日本の新幹線と在来線の中間くらいのスピードで速度は安定した。車窓から見える景色は不思議と東海道線から見える景色にそっくりだった。広がる田園風景。違うところといえば、おそらくエビか淡水魚の養殖のためのテニスコート~陸上トラック大のため池がいくつか見かけられたことくらいだろうか。拍子抜けするくらい馴染みのある景色を見ていたら安心したのか猛烈に眠くなってきたので、荷物を窓側の車体に押し寄せ、それらへのアクセスを脚で妨害するようにして足を投げ出して寝た。が、心ばかりの対策が全く意味をなさないくらい熟睡してしまい、気が付いたらもう目的地のルアンパバーン駅に到着してしまった。

時刻は午前9時25分。

-S.O.


金盞香

キンセンカサク
立冬・末候

シンダート(Sin Dat)

「シン」が肉、「ダート」が焼くを表す、ラオス風焼肉。2週間のラオス滞在中に食べたラオス料理の中で一番おいしかったです。
鉄板はジンギスカンのようにドーム状になっていて、周囲を鳥だしのスープが囲っています。スープに野菜をたくさん入れて中央のドームの上で肉を焼くとその肉汁がスープに流れ出し、なんとも絶品な鍋に…。食べ応えとさっぱりを両立させるハイブリッド料理。思い出しただけでよだれがこぼれそうです。

ラオスに行かれた際は、是非ご賞味あれ。


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ルアンパバーン紀行 第1話:ラオス中国鉄道
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