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散文 ホームから飛び立てば、

体がスっと吸い込まれるように、私はふわりと浮こうとした。

自殺なんて考えたことない、とは言わない。いつでも辛くて死にたくなるし、生きてる意味ってなんだろうと思うことの方が多い。だけど、小学生の時に死ねない人間だとわかってから、失敗したあとの地獄のような日々を思って死ぬ努力を辞めた。

だから、私は死なない。

死にたいけど死にたくない。

なのに、私はひとり駅のホームで立ち、電車が滑り込んでくるのを眺めていると考えてしまう。

このまま飛び込んでしまったらどうなるんだろう。

魅力的な選択肢だと思えたのだ。だけど実際はそんなことなくて、ただただ人様に迷惑をかけるだけだ。

恋人と遊んで楽しかった。
友達と喋って楽しかった。
授業が勉強になった。

それらは有意義な一日で、美しい日々。
だけど、私は線路に吸い込まれる。死の美しさに導かれる。これは私の意思じゃない。

絶対に引っ張られない。引っ張られてたまるかと思う。思っているつもり。耳には好きな人の歌声、目には好きな人のつぶやき。不幸などない。

警告音、スーッと入ってくる電車。
隣に立つ女子高生、メガネのスーツ、ボサボサ頭の若い子。
マンションの光とホームの光。

私がそこに行くときっとここは真っ赤に染め上がり、血の匂いが巻き上がる。バラバラになった肢体がよりバラバラになる。命の尽きる瞬間を見せつける。誰もが目を離せず、体が軋む音に耳を傾け、五感全てを使い死を理解する。

そうすればきっと、私は彼らの中で死ぬ瞬間を生き続ける。永遠に死ぬ存在として生き続ける。

誰にも覚えて貰えないよりは、ずっといい。

誰かの心に棲み憑くことぐらい許されたい。

私は人に迷惑がかけたいのだ。まあ、かけないけど。大丈夫、死なないから。死なないからこの場の誰にも覚えて貰えない。それでいい。どうせは他人だ。私も誰のことも覚えてないし。誰かが死んだところで、私はその人の事を覚えない。

死を憶えるだけ。

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