見出し画像

脚本『最後のチャイム』

【高校の演劇部・学校の送別会】
 持ち時間10分
3年生を送る話に……。
2人劇

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
高坂 茜
女子高生 旭
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

茜 歩きまわっている。

茜「なんでみんなすぐにいなくなっちゃうの?三年間なんて短すぎるよ…… あのポニーテールが似合う女の子とずっと話してみたかったのに、一度も話せなかった。毎日学校の色んな所からみんなのことを見てた。でもだーれも私のことに気づいてくれない。寂しいなぁ」

茜が舞台端で悲しそうに。上手から旭出て来る。

旭「ねえ」

茜「ずっと私はここにいるのに」

旭「ねえ…」

一度旭の方を見る。でも、自分に問いかけられてると気づいていない。

茜「本当に誰もいなくなっちゃった」

旭「ねえってば!」

茜「え?!私に言ってるの?!見えてるの?!」

旭の言葉が自分に向けられていると気づき、飛び跳ねる。

旭「見えてるよ。三年間ずっと」

茜「え?!なんで」

旭「入学式の日、校長の後ろであんなに踊っていたら気づかないわけないじゃない。ほんと、あの時は笑いこらえるので必死だったんだから」

茜「え、え、え、ずっと見てたの?」

旭「毎回毎回新入生歓迎会でふざけ倒してるのも、文化祭で遊び回ってるのもみてたよ」

茜「でも、私あなたのこと…知らない。三年生?」

旭「そうか、今日卒業するんだよ。帰宅部だったからね、放課後とかすぐ帰ってたし」

茜「そうなんだ。みんなとのお別れしないでいいの?ほら外ではみんな、泣きながら抱き合ってるよ?」

旭「んー、私そこまで仲良くなかったから。それよりも、私はあなたと話したかった」

茜「なんで…?」

旭「これまで見かけるだけで、話すことができなかった。ほら、あなたに気づかれていないぐらい、私存在感薄いじゃん?最後の日に話す相
手もいなくて。だからあなたと話してみたかったんだ。あなたのことを教えて」

茜「私のこと?」

旭「そう、あなたのこと。あなたが好きな場所は?」

茜「この学校。あ、その中でもこの講堂が一番好き!入学式、新入生歓迎会、送別会、卒業式。一年がここで始まって、ここで終わる」

わくわくした声で、弾むように嬉しそうに語る。

旭「じゃあ、好きなことはなに?」

茜「わたし、わたしはね!この学校のみんなが好き!毎日、いろんなことに笑ったり、悩んだり、喧嘩したり。とっても楽しそうで」

旭「そんなふうに思えるんだ。私は楽しめなかったな」

茜「それはね、精一杯だったからだよ。毎日、誰になにを思われてるかとか考えるので精一杯だったから。私、毎日毎日、この学校の色んな
所からみんなのこと眺めてた! ソフトボール部の走り込みとか、軽音部の演奏の音、美術部の汚れたパレット。少林寺の揃った掛け声、バ
トン部の振りとか覚えちゃうぐらいみてた! みんな生きるのに一生懸命で…羨ましかった…輝いて見えた」

旭「……」

茜「また新しい子が入ってくるってわかってても寂しいなぁ」

旭「……」

茜「終わりだけど始まりだからね。羨ましいなぁ」

旭「……」

茜「私も卒業したい(ぼそっと呟くように)

旭「……!……ねえ、どうしてあなたはここにいるの?」

茜「……どうしてだったかなぁ、わからないんだ」

旭「……そっか。じゃあ……。高坂茜さん」

茜「え?なにそれ?」

旭「あなたの名前だよ」

茜「わたしの名前?なんで知ってるの?」

旭「なにもおぼえてないの?」

茜「なにを?何の話?」

旭「十年前、この学校のある生徒が卒業式の二日前に交通事故に有った。意識不明のまま一日が経ち、卒業式当日なくなった。そのある生徒っていうのが、あなた、高坂茜さんだよ」

茜「え…?あ…え…」

旭「もう終わっていいんだよ」

茜「なに?なにが…」

旭「もうここに執着しなくていいの。自分で言ってたでしょ、終わりは始まりだよ」

茜「終わっていいの?」

旭「終わっていいの。終わらないと始められないよ」

茜「終わっていいの…?」

旭「うん」

茜「……ありがとう。ずっとその言葉を待っていた気がする。あ、チャイムだ。最後のチャイム…」

旭「……」

茜「最後に、学校見て回ってくるね。きっかけをくれてありがとう。さようなら。卒業おめでとう」

旭「……。卒業おめでとう」

二人で微笑み合う。

茜、上手へはける。旭、中央に歩いてきて、胸花を置く。

旭「卒業おめでとう」

そのまま、下手へはける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?