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SS『天の川の距離』

彼と最後に話した日を私は覚えていない。毎日喧嘩をしていたから、きっと最後の日も喧嘩をしていたのだろう。今も彼のことが好きとかそういう可愛い話はないけれど、七夕の時期になると何故だか彼のことを思い出す。

地上に雨が降り続けるころ、夜空には大きな川が出来上がる。けれど私は一度もそれを見たことがない。その大きな川は、愛し合っていた織姫と彦星のの中を引き裂く。けれど、年に一回、七夕の日に橋が架かり2人は逢えるのだ、なんてロマン
チックなことこの上ない。

私たちの間に降った雨もそれはそれは大きな川を作り、私と彼の関係を終わらせた。

土砂降りの朝。憂鬱な気持ちで目を覚ます。いつも通り、テレビをつけニュースが流れる。七月七日、七夕です。そうアナウンサーが告げた。

「今は大雨ですが、なんと、夜は晴れるそうですよ」

やはり、織姫と彦星の思いの強さが起こす奇跡ですかね。

雨の日は電車に乗るのが疲れてしまう。濡れた傘に服が濡らされる。ビチョビチョになった服。グズグズの靴。全てが不愉快だ。だから帰るのも嫌だと思ったのに、外に雨は降っていなかった。

「とっくに梅雨は明けたよ」

そう言って、彼が私の横を通り走り去って行った。呆然と私は空を眺めるしか出来なかった。
梅雨の大雨が私たちを引き裂いたのではなく、元々離れていた私たちの間に川を作ってくれたのだ。もう関わらなくていいように。

そのことに気づいた私の頭上には天の川がかかっていた。

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高校生の時?に書いたものです。2日間七夕でお送りしております!

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