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SS『青に浮かぶ』

【強化お題】
2018年7月1日 『七夕』
日曜日 書き出し1文「子供の頃、どうしてだか入道雲が怖かった。」

子供の頃、どうしてだか入道雲が怖かった。そのときは、理由もなく何故かひたすら怖かった。だから、夏は嫌いで梅雨が開けるのが嫌だった。
小学校の行事で、毎年七夕の日は大きな笹にみんながお願いごとの短冊をつけて、運動場に飾った。とはいっても、まだ梅雨も明けていな
い七月七日。いつも雨が降っていたから、体育館やるのが普通であったけれど、何歳だったか、ある七夕の日梅雨が明けた。青過ぎる空をバックに笹の葉が揺れる。先生達は喜んでいたはずだ。もちろん児童たちも。
だけど僕は一刻も早く教室に帰りたかった。だって、僕には大きくてただ白い化け物が現れる気がしてならなかったから。
そうして、やはりそいつは現れるのだ。青、緑、白のコントラストに目がクラクラした。クラクラするのに何故だか目が離せなくなる。白くて白くて。想像もつかないぐらい大きくて、飲み込まれてしまいそうな。
雲がどんどん近づいて来る気がする。そしてその時。雲の中に光が走った。小さいけれど鋭い光が。僕はあやつり人形の糸が切れたように、力が抜けその場に倒れ込んだ。
目が覚めると保健室のベッドの中だった。窓の向こうから雨の音が聞こえる。立ち上がり外を見ると先程までの賑やかさは無くなり、笹が寂しそうにポツリと雨に濡れていた。
子供の頃、どうしてだか入道雲が怖かった。僕は今も入道雲が怖い。
けれどその恐怖は僕だけのものだ。

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