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サルの商売⑥|ドコモの折井くん

「アカン、しんのすけ。もう無理やわ。」

地元にいる吉村が突然電話してきてそう言った。

吉村は地元エリアで5指に入る大きなドコモショップの副店長をやっていた。俺が売っていた珍しい番号や飛ばしの一部は吉村やそのツテを介して手に入れているものだった。

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吉村を含めたドコモショップで働く人間は派遣会社の社員で、ちょっと抱き込めば契約手続きはザルだった。FAXで名義くんちゃんの身分証送れば1時間後には開通してたからな。

というか当時はルールそのものが緩くて、2006年に携帯電話不正利用防止法が施行されるまではプリペイド携帯なんか身分証なしで契約できたほどだ。

それがどういうわけか急に融通が効かなくなってしまったと言われているのが今の通話の状況だ。

「とりあえず俺は自主退社になるから。本当なら業務上横領だって言われてとるわ。」

「いま受けてる注文までは捌いてくれんか?」

「俺にはもう無理やわ、触らせてもらえん。東京の中野にいる俺の後輩を紹介するからそれで勘弁してくれ。」

「わかった、無理言ってすまんな。ありがとう。」

どうやら吉村の周辺で料金未納だったり悪いことに使われたりする番号が作られすぎたらしい。俺もあまりに手続きが楽だから雑にやりすぎていた。

その夕方すぐに、紹介を受けた吉村の後輩くん、折井に会いに行った。

折井は小柄で色白で眉が八の字に見えるような、こんな(´・ω・`)表情をした男だった。

この日から俺が逮捕されるまで、ときに露骨に嫌がりながら折井くんはウン百台分の契約を担当してくれた。結局彼も捕まるんだけど、それ聞いたときは気の毒に思った。

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それから、なんとなくそろそろ引っ越したかったのと、中野に行くことが増えたから俺も高円寺を出て中野の近くに引っ越した。

あと、これまでは吉村に任せ切りだった他の店の開拓も自分でもやることにした。いくつか分散させないとまた目立って潰されかねない。

午前はカラオケ屋で仕事をしつつ客の開拓、夕方以降は電話の開通と融通の利く店舗の開拓、夜は女の相手や後輩と飲みに出る。飲みに行かない日はジムに行く。

それが当時のルーティーンだった。

ケータイのシノギの身入りはカラオケ屋の収入を余裕で超えていたが、それでも店を辞めようとは思わなかった。楽しいのもあったし、カラオケ屋があるから朝ちゃんと起きたりある程度摂生できていたから。

それに、新しい契約名義用の女を絶やさず捕まえるにはこの仕事がちょうどよかった。

とはいえ、社員で1日8時間必ず身体をもってかれるのが流石にキツくなってきて、バイトに変えてもらうことにした。

つづく

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