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サルの商売②|猪の助言

「目標は、もう捕まらないことだな。」

あんまり深く考えず俺はこたえた。

「それって前提だから。なにが自分の幸せか、そのためにはなにを手に入れる必要があるのかちゃんと考えてみたら?」

「なるほど。」

こいつの名前は本田恵、通称ダケイ。身長は俺より低く、体重は重い猪のメスだ。けど、俺に遠慮せず的確なことを言ってくれる貴重な女友達でもある。

3つ離れているのでオレのことをニイニと呼ぶ。

痩せればそこそこ可愛いはずなんだ、ダケイちゃん。

前回①

俺が新宿で飛ばしを売ったり貸したりしていた頃、ダケイは埼玉で金融屋をしていた。

あと、地元じゃ喧嘩最強とか呼ばれてたこともあって(女の中で)、後輩が多かったから、そいつらを電話営業部隊に送り込んでピンハネして儲けてたこともあった。今では実家の商売を継いでいる。

こいつは俺が出所する少し前に親父さんの病気が悪くなって東京から地元に戻っていた。

腕毛の生えたダケイの前足、ではなく腕をみて相変わらず美意識のかけらもないよな、とか思いながら、俺は続けた。

「自由が欲しい。安定した自由。」

「時間の自由?お金の自由?」

「まぁ両方かな。」

その場でちょっと考えただけだけど本心だった。あと女、って加えようかと思ったけどやめておいた。言葉には出さないが、これまでダケイから好意を感じる場面が多々あったからだ。

それはいいとして、短い会話だったがその最中に悟ったことがあった。

俺は自分の過去に蓋をして、ないものとして生きていこうとしていた。嘘をついて、すかして、名前を検索されることを恐れて。俺の名字がかなり珍しいので、検索されると一発で出てくる。正直かなりのストレスだった。早く消せよ日経。

ダケイに言われるまで、自分の幸せをゴールって考えて、その実現方法を真剣に考えるなんて作業をしたことなかったし、社会復帰してからは特に幸せになることに消極的だったかもしれない。

もっと低次元のところでストレスを抱えてごにょごにょしていた気がする。

そうじゃない。

俺がまずしなければいけないのは、過去の自分を遡って何を考え何をしてきたかをしっかり思い出すこと。そしてその頃の自分の内面と正直に向き合って今の自分までにたどり着くこと。そう思った。

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なんでこんなことをnoteに綴ろうと思ったのか。

自分のやってきたことを回想してその頃の自分の内面と向き合うという作業は、やってみると案の定なかなか辛いものだ。

途中でやめたり、雑な作業にしないよう、思い切って公開して誰かに読んでもらおうと思った。

俺の投稿はきっと回顧録と日記が混ざったようなものになると思う。記憶を辿ってできる限り本当のことを綴るので時に退屈なものになるかもしれない。

もし目に留まって読んでいただけたら支えになります。

よろしくお願いします。

しんのすけ

つづく

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