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おすすめの一冊『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』

コーチングなど「聴くこと」についての書籍は、これまで何冊も読んできました。ゆえに今回の本を手に取ったときも、正直そんなに期待せずにいました。まあ、他の本でも書かれていることが、違う形で書かれているんだろうな…と。

しかし実際に読んでみると、その本の洗練された内容に、手を止めることができませんでした。こんなにも「聴くこと」を定義し、何故必要なのかを明確に説明し、その手順やステップを構造的に示した本に初めて出会った気がして、感動をしてしまいました。

結論、超オススメさせていただきたい一冊です。
特に「コーチングや傾聴など実践したけど、それだけじゃダメなんだよ!」と強く感じている現場の管理職の方にはヒントが満載です。そんな一冊が、こちらの本でございます。

<おすすめの一冊>
『まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』
櫻井将 (著)/日本能率協会マネジメントセンター
https://amzn.asia/d/6wzV1WC

聴くだけでは、現場は回らない?!

コーチングや1on1の技術に関する書籍も、数多く出版されています。このテーマも最初は「1on1、なにそれ?」だったのが、今ではその分野のナレッジとしては成熟しつつあります。

ゆえにコーチングの技術を見聞きした人、学んだ人も増えてきています。しかし実践した人の本音としては、

「聞くことは大事だろうけど、聞いているだけじゃ仕事は進まない」
「いつもミスばかりでチームに迷惑をかける人は、コーチング以前に指導しなければ始まらない」
「関係ない人なら聞けるけれど、利害関係が近い人だと、自分の感情が入ってしまい難しい」
「部下の話を聞くと、その話を叶えないといけなくなる。なので聞かないほうがよいもともあると思う」
「1on1で聴くことを意識するが、相手が何も話してくれない」

という声も上がるのです。やってみたからこそ起こるリアルな現実。だからこそ、大事ではないとは思わないけど、その壁にぶつかってこれまでと同じコミュニケーションを繰り返してしまう、、、。

それらの「聴くことをやってみたけどできない、ビジネスあるある」に対して、論理的かつ網羅的に、明確に回答を示した本が本書なのです。

本書の特徴

この書籍は、1on1トレーニングを企業に展開しているYELLの代表、櫻井将さんが書かれています。日本のビジネスシーンにおける年間3万件以上の1on1の知見が集まるからこそ、リアルなお悩みケースが集まり、そしてそれに対する答えも言葉にできたのだろう、と思います。
 この分野では、抽象的な事に終始しがちです。具体的な難しいケースは「それはケース・バイ・ケースだよね」で終わることも多いです。それらに対してバシッと明確答えるのはとても難しいのですが、そこを実践的な観点で言葉にして答えてくれていると感じました。

以下、本書の目次です。

【目次】
第1章 まず、ちゃんと聴く。
第2章 ちゃんと聴くを分解する
第3章 伝えるを分解する
第4章 「聴く」と「伝える」の黄金比 
第5章 「聴く」「伝える」「両立する」3つの技術を高める
第6章 3つの技術を高めた先にあるもの

学びになったこと

では、具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか? 
色々ありますが、個人的に私が学びになったと感じたことをいくつか紹介させていただきます。(詳しくは本書をお読み下さい)

「まず、ちゃんと聴く」の言葉に込められた意味

素晴らしいと思ったのがタイトルの、「まず」「ちゃんと」「聴く」という言葉の定義を明確にされていること。それぞれ、以下のように説明がされていました。

⚫️「聴く」とは?
 本書において「聴く」とは「自分の解釈をいれることなく、意識的に耳を傾ける行為」と定義しています。それを「withoutジャッジメントで、意識的に耳を傾ける行為」と言い表しています。具体的な違いとしては、このようなイメージで紹介されていました。

(例)「やっぱり子どもには小さな頃から英語を学ばせるべきですよね」に対して・・・
・withジャッジメント(聞く)→「そうそう、私もうそう思う!」(評価・分析・判断などの解釈が入っている)
・withoutジャッジメント(聴く)→「そう思っているんだね。そう思った背景をもう少し教えて」(解釈が入っていない)

P29より

このように明確にすると、何が「聞く」で何が「聴く」なのかの線引が明確になり、実践もしやすくなります。

⚫️「ちゃんと」とは?
次に「ちゃんと」という言葉です。ちゃんと聴くというと、「黙って・我慢して・従う」という意味に思われますが、そうではないと述べます。
 ここでいう「ちゃんと」とは「相手の言動の背景には、肯定的意図があると信じている状態で聴く」ことを、「ちゃんと聴く」であると定義をしています。肯定的意図とは、「全ての人の全ての言動の背景には、その人なりの肯定的意図があると信じるあり方」で聴くことです。
 たとえば、昔からの古い友人、自分の子どもが社会的に望ましくないことをしたとします。「おそらく何か理由があったに違いない」と考える、そのような信念を持つ姿勢が、相手のことを聴くことに繋がると述べます。
 そして、そのような聞き方は、信念を軸として、言語情報、非言語情報(身振り、手振り、声や視線など)に反映され、聴くスキルとして表出をしていきます。

⚫️「まず」とは?
最後に「まず」の言葉です。現場では「聞いているだけじゃ、仕事が進まない」「聞いているだけじゃ、部下が育たない」「ずっと聞いていても、愚痴ばかりでてきて、聴いていられません」などの声があります。
 どれも、”聴くことが大切ではない”と言っているわけではない。そうではなく「聴くだけではどうにもならない状況がある」と言っているわけです。

 聴くだけでは課題解決にならないことがある。確かにその通りなのです。しかし、その上で「聴く」が必要なときもある、というわけです。たとえば、未知のテーマ、葛藤や対立がある、話が複雑である、こだわりが強いテーマである、、、そうしたときに、「まず相手の話を聴く」ことが必要だ、と言っています。

 よくある開発と営業の間の葛藤などもそうでしょう。どちらもそれぞれの立場で真剣に考えていて、それぞれの理がある。そんな中で、立場が強いほうが「いや、これやってもらわないと困るから。以上」で終えたとして、問題が解決するかというと、きっとそれでは解決しない。そのときに「聴く」が大事なのです。そして、そういうケースはままあります。

 結果的に、何か強引に決めざるを得ないとしても、「”まず”聴く」こと。それが結果的に相手に役立つ情報を伝えられるかもしれないし、まだ見ぬ第三案も見つかるかもしれません。

フィードバックは「頻度:低」✕「貢献度:高」に注目する

次に印象に残ったことが「伝え方」です。

「聴いたほうが良いと思って、たくさん聴いたが、結局、部下の問題は解決しない」「褒めてもダメだし、叱ってもダメ、どうしたらよいかわからない」。じゃあどうすればいいのか?

コーチングを学んだり、傾聴や承認のスキルを学んだ人が困ってしまう現実があります。そこで、この書籍で語られている画期的な方法が「フィードバックマトリクス」です。

少し回り道になりますが、「人は否定形を理解できない」という心理作用があるようです。たとえば「こぼさないでね!」と子どもにいうと、”こぼす姿”を想像してしまうのでこぼす確率が高くなるとか、「駆け込み乗車はおやめください」というと駆け込み乗車をするシーンを想像してしまう、というアレです。

 そこで改善して欲しいメンバーがいたときに「発生頻度が低い」が「貢献度が高い(頑張ったこと)」という領域対して、貢献を見逃さずに言葉にすることを推奨しています。

 わかりやすくいうと「いつもミスをしている人」に対して、ミスがなくできたこと(貢献できたこと)に対して、「今回はミスせずできたね」と明確に口に出すイメージです。どんな人も失敗してばかりではなく、上手くいったときもあるはず、そこを口に出してフィードバックすることで、その望ましい行為が促進される、といいます。

 ちなみに余談ですが、ほんとうかよ?と思いそうですが、実際に私も家庭で試してみて、その通りと感じています。妻から「片付けてくれてありがとう」と言われると、私自身もう一度やろうという引力が働きます(天邪鬼な気持ちも顔を出しますし、照れますが)。
 また私から妻に「(微妙にいつも隙間がある)引き出しを、きちんと閉めてくれてありがとう」というと、いつの間にかきちんと閉めてくれるようになりました(よね?)。

P50より

まとめと感想

残念ながら、本書のポイントを自分の言葉で説明してみても、どうにも私が本書から感じた言葉の迫力を再現することができません。それくらい、著書の言葉がシンプルで、わかりやすく整理されている、ということでしょう。

また著者は元々理系のようで、この「聴く」という行為についての要素分解してくれています。かつ図解が極めてわかりやすく、ゆえに第三者が理解しやすく、かつ真似できる、再現性を持てるスキルへと分解されているのが素晴らしいと思いました。

抽象的な概念で終わってしまう「聴く」とか「伝える」という行為を、改めてわかりやすく理解できる書籍です。管理職同士の読書勉強会のテーマとしても非常におすすめしたい書籍だな、と感じた次第。

とても勉強になる一冊でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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