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今週の一冊『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』

こんにちは。紀藤です。お勧めの一冊をご紹介させていただく「今週の一冊」のコーナーです。今日は書籍をご紹介いたします。

<今週の一冊>

ダークサイドスキルとは何か

先日、ある懇親会を開催しました。そこでは人事、NPO代表、一部企業役員、副社長、外資系コンサル元パートナーなど、年齢も仕事もそれぞれですが、本当に尊敬できる人々が来ていただきました。
 そのとき、その中の人材開発で友人が「『ダークサイドスキル』っていう本、読書会でやって勉強になったんですよー」と語り、どんな本?と役員の方々を含め話していると、上場企業にて役員を務めている大御所のお二方が「ダークサイドスキルぅ・・・?そんなん当たり前やがな!」と言っていたのがたいへん印象に残ったのでした。

さて、前置きの話はそれくらいとして、インパクトあるネーミングの「ダークサイドスキル」というのは、一体何か? 以下のように説明されていました。

ダークサイト・スキル
・人や組織に影響を与え、動かす力
・空気を支配する力
・人を正しく見極める力
・厳しい意思決定を断行出来る力

『ダークサイドスキル』 P32より

ちなみに、ダークサイド・スキルに対して、一般的な事業を行う上でのスキルを「ブライトサイド・スキル」と本書で読んでおり、それらとの違い、またダークサイド・スキルがなぜ必要なのかについて語られた部分がありました。引き続き、以下引用いたします。

事業を行う上での〝スキル〟というと、論理的思考能力や財務・会計知識など、「ハード的」な側面を持つスキルがクローズアップされてきた。本書ではそれらを「ブライトサイド・スキル」と呼んでいる。 (中略) 
  しかしながら、生身の人間を説得し組織を動かしていくこと、強烈な慣性が働いている大きな会社を方向転換させていくためには、人に影響力を与えたり、時には意のままに操るような、もっと泥臭いヒューマンスキルが必要になってくる。
 こうしたスキルは、「コミュニケーション・スキル」や「ソフト・スキル」というようなきれいごとではない、もっと人間としてドロドロした自分自身の中にある闇の部分にまで手を突っ込んでいかなければ身に付かない。さらには、他人の闇の部分にまで思いをはせ、それらを巧く使いこなすことが必要である。それらを「ダークサイドスキル」をいかにしてミドルリーダーが身に付け、五年・十年先を勝ち抜いていく会社をつくっていくか、それらのヒントを書き記した。

『ダークサイドスキル』P4より

人に影響力を与え、意のままに操る、泥臭いヒューマンスキル、そしてそれは、自分や他人の闇の部分に手を突っ込んでいくようなもの。それが「ダークサイドスキル」なのですね。

ダークサイドスキルが必要である理由

本書のプロローグでは、著者が日本の行く末を憂うようなお話がされます。
まず、大きな傾向として、日本の大企業を見るとは1980年代より規模は大きくなったものの、「稼ぐ力」は低下傾向にあることを指摘します。稼ぐ力が低下しているものの、大規模なリストラが必要など、外科的手術を行うほどの危機的状況には至っていないものの、現時点では明確な症状として痛みが現れていない生活習慣病のような状態にある会社が、実は大半なのではないか、と指摘します。

そうした会社では、良くもなく悪くもない事業が存在しており、そうした事業が吹き溜まりのようになって、高収益の利益を食ってしまってしまう事も起こります。あるいは、利益が下がったら、研究開発費(R&D)や、人材開発費を削減するということになります。しかし、それは将来の利益の芽を育てないことになるため、結局そのツケは中長期的に未来に支払うことになるわけです。

組織が古くまた大きくなるほどに、慣性の力も大きくなり、トップは全体を見渡すことが難しくなり、方向転換が難しくなります。トップダウンで上手くいくようなユニクロのようなオーナー経営者ばかりでもない、構造的な難しさもあります。

では、どうすればいいのか? その答えの一つが「ミドルを起点とした改革」です。本書で問うているのが、そうした中庸の事業を強くするミドル、これまでの従来の減点されないことで出世してきた良い子でははなく、「清濁併せ呑む判断を積み重ね、反対派に立つ人や抵抗する人を、どれだけ巻き込み動かすことができたかという経験を積んだリーダー」を育てる事が必要では、ということでした。
そして、そうした判断をするためには、論理的思考力やなどのブライトサイドだけではなく「ダークサイドスキル」をミドルのリーダーが身に着ける必要があるとし、その内容をまとめています。

7つのダークサイドスキルのざっくり解説

では、一体、ダークサイドスキルとはどのようなものなのか?
以下、本書の言葉を引用させていただきつつ、7つのスキルについてポイントをまとめてみました。

その1: 思うように上司を操れ

●「情報の非対称性」を利用する
●前向きな「CND(調整・根回し・段取り)」をする 他

情報の非対称性(上位層は現場が見えず、現場は上が見えない)という状況を、ミドルとしてうまく操る。例えば、上位からストレッチ目標が降りてくる、そして現場はコンサバティブな目標を出してくる。情報の非対称性を利用してブラックにならない形で両者を上手くバランスをさせる、など。そうした中で上司にどのような情報を渡すかで、上手く上司を操ることも時には必要である。

その2: KYな奴を優先しろ

●KYな部下を育てる
●自分がKYになる 他

同質性が高い組織は「あうんの呼吸」で決められるため早いが、色々な人に忖度をする必要も出てくる。実際に稟議書のはんこを回す間に、様々な人に根回しをする必要もある。かつ、そうした状況だと「新しい発想がでない、意見を言えない」という状況に陥る。
その中で、「堂々と他とは違う意見を言える人間を意図的に許容する」ことも重要である。

その3:「使える奴」を手なずけろ

●借り物競争戦略をとる
●マスターオブ「アイ・ドント・ノウ」
●自分なりの神経回路(人のつながり)が将来の武器になる
●社外ネットワークは意識的に作るしかない
●自分を叱ってくれるメンターを探せ 他

人間は40歳を超えてくると、弱みの克服も難しくなったり、吸収力の低下も感じるようになる。その中で大切なのは、使える物は何でも使い、総合力で勝負する姿勢である。何か事をなそうというときに、役に立つ人を集めてチームを作るかが重要になる。つまり、他人の力をパクる、といえる。
「自分は知らない(アイ・ドント・ノウ)」と認め、知っている人を呼ぶことである。社内諜報戦を勝ち抜く人脈を作ることが必要である。

その4:堂々と嫌われろ

●「情報がそろわない」という先送りワード
●小さい意思決定から逃げるな
●時間軸の違いが嫌われるリスクを有無
●親しみやすさと敬意は両立しない

そちらを選択肢してもしこりが残る状況で、それでも決めなければ行けないのが上司というものである。しかし、単純に白黒を付けられないケースがどうしても出てくる。そのときに「情報が不十分だから」という言い訳が使われる。「問題先送り症候群」である。しかし、そこではある程度の経験と勘を働かせて物事を決めていかねば停滞してしまう。しかし、小さな意思決定から逃げてはいけない。そうしなければ組織が老化する。
 また、現場の人は「今日・明日」「半径3メートル」を見ている。しかしミドルになると長期的な時間軸、空間から見ることになる。リスクがある事がわかっている。しかし、本音だと衝突したくないので上司に「まあ、このままでいいんじゃない」という期待を持ちつつ、そうした答えをもらい「先送りのお墨付き」をもらうことになる。いずれにせよ「意思決定は嫌われる」ということを包含するということになる。
 部下から好かれることと、上司として敬意を払われることは違う。近づきすぎると好かれるかもしれないが、緊張感がなくなり、いざという時に厳しいことが言えなくなる。改革を推進するならば、好かれているだけでは責任は果たせない。

その5: 煩悩に溺れず、欲に溺れろ

●弱みや恐れと対峙する
●定期的に自分自身の棚卸しをする
●恥ずかしがらずにチームメンバーと共有する
●自分の中の「下世話な欲望」を知る

これは、仏教用語でいう「小欲を捨て、大欲に立つ」ことである。論理的に考えて答えが出ない時に、最後にものを言うのは自分の価値観である。
だから、まず己を知ること。自分が依って立つ価値観を知らずして、限られた情報をもとに、ブレない意思決定をすることはできない。自分の心の奥底にある自己の思いを知ることである。どんなときに弱くなるのか、どんな恐れがあるのか、それを直視する勇気が必要である。そして恐れや弱みを直視するからこそ、それをコントロールできるようになる。まさにダークサイドスキルである。
 またそれらの自分の価値観、心の奥底がわかったら、それをメンバーと共有することである。価値観の押しつけではなく、自分の考えの共有である。また将来どうなっていきたいのかというビジョンを語るのも大事である。そうした真面目な話は、日本人は得意ではないかもしれない。しかし、部下が深いレベルで自分を理解すれば、注文をつけなくても動いてくれる
 加えて、自分の煩悩(異性関係にだらしないとか、名声に弱い、お金にルーズなど)も理解しておくことも必要である。それは蓋をしてみないようにしても出てくるものであり、そうした事を自覚しなければ足をすくわれるからである。なくすのは難しいが、暴走しないように制御することである。

その6: 踏み絵から逃げるな

●お客の無理難題をはねつけられるか
●男気貯金を貯めろ
●部下はあなたをじっと見ている
●結果が出なくても我慢できるか

踏み絵とは「自分の信念が試される瞬間」である。部下に対して、自分はこういう人間だ、と話をしていると、そうした試される瞬間に、違ったことをした瞬間に、信頼は崩壊する。特に、その場面で多いのは「お客とモメたとき」である。こちらの非はさほど大きくないにも関わらず、無理難題をつきつけられてどうしようかというケースである。
 ただし、事業的な弱さがあると、顧客を失うわけにはいかないため、どうしてもはねつけられないことも起こりうる。そうすると、信念の強さも必要だが、事業としての強さも必要といえる。

その7:部下に使われて、使いこなせ

●改革のウインドウは、一瞬しか開かない
●地道な布教活動をして時を待つ
●情報を自分から取りに行く
●正しい答えではなく、正しい質問を繰り返す
●部下からのネガティブフィードバックで死角をなくす
●部下のために、7割の時間を使う
●執着できないなら、リーダーになるのはあきらめろ
最後は人間力の勝負 他

リスクを取ってチャレンジせよ、といっても、何もない平時の状態、凪の状態ではドラスティックに何かを変えるのは非常に難しい。会社が大きく古くなるほど、容易に方向転換できないからだ。しかし、改革のウインドウが開くときがある。リーマンショック、東日本大震災など、大きな外圧が起こった瞬間、有事のときである。その時にこそ、実行する機会が隠れている。

そして、最後は人間力の勝負である。肩書に頼るのではなく、自分とは何者か、何を実現していきたいのか、そこからリーダーシップを発揮していくことがダークサイド・スキルを駆使するリーダーのあり方である。

読んでみた感想

個人的に響いた言葉が、「踏み絵から逃げるな」という言葉です。
こちらを立てればあちらが立たず、そうした難しい局面に立たされた時に、どういった行動をするのか? それを部下は見ており、信頼に直結します。そうした、信念を試された時に、それを先送りにしたり、その言行不一致の行動をすると、それは部下の信頼を失ってしまうことになる、、こうした視線は部下からだけではなく、身内・お客様、あらゆるところからあるもの。我が身を振り返り、自分はどうだろうかと考えてしまいました(汗)。

また「自分の信念」を知るためには、自分自身の過去から今に至るものを深く内省することの必要性を強く語っているところも印象的でした。何を大切にし、何がゆずれないのか、論理的に考えて答えが出ないことが山程ある中で、自分の譲れない軸を自覚することが必要であると説きます。まさにリーダーシップの理論で、あらゆるリーダーシップの土台となるものが『自己認識』であるという話も思い出しました。

また最後には「人を動かすのは肩書ではなく、人間力である」という点はまさに、共感です。飲み会にも一緒にいきたくない、というのは人間として「あなたに興味はありません」と思わせているともいえる、と本にありましたが、たしかにな、、と思わされました。
 もし役職や立場があるから人がついてくるとしたとき、65歳で定年を迎えた後の人間関係は、果たしてどうなるのか? 人の幸せは「良い人間関係」であるという、ハーバードの研究も引用しつつ、仕事を超えた人生全体の話も伝えています。

本書のターゲットの読者としては大企業のミドルリーダー(40代)が中心と想定されているように見えますが、そうではない立場の私も勉強になりました。(特に5,6など)

本書は、経営共創基盤のパートナーであられ、多くの経営学の知識を海外のMBA等で学ばれている木村氏の著書です。企業の戦略パートナーとして、また会社の中枢を担う役割として、現場の泥臭い部分に実践者として多くの修羅場を超え活躍されてきた背景を感じる、言葉の力を感じた書籍でした。


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