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「管理職なりたくない問題」の全体像を整理してみました。

こんにちは。紀藤です。少し前に『管理職 罰ゲーム』という書籍を紹介させていただきました。管理職を取り巻く状況が丁寧に解説されている良書です。

こうした書籍が登場する背景には、「管理職に負荷が集中しており、管理職になるのはあたかも『罰ゲーム』のようだ・・・」と思わせる現状が、現代社会にはあるようす。

さて、そんな「管理職になりたくない問題」について、あるイベントで関わらせていただく機会があり、改めてその全体像を考えてみました。

今日はそんなお話について、共有させていただければと思います。


「人手不足」という背景

まず、「管理職になりたくない問題」の背景として、「管理職は忙しそう」という声があります。

そして、その背景にあるものが「人手不足」という文脈です。
労働人口が減っているという事実に加えて、2019年のパーソル総合研究所による「中間管理職の就業負担に関する定量調査」においては、「自分の組織は人手不足である」と答えた人は、50.8%となりました(n=2000)。

「働き方改革のしわ寄せ」は管理職へ向かう

そんな「人手不足」に加えて、世間ではまた新しい動きが起こってきます。それが「コーポレート・ガバナンス重視」とも呼ばれる動きです。

たとえば、コンプライアンスの強化(ハラスメントへの対策等)、人的資本経営による女性活躍推進、ダイバーシティへの対応、あるいはエンゲージメント施策など、組織の中で新しい施策が生まれていきました。

しかし、現場からすれば「これまでの仕事」は以前あるままで、そこに新しい業務が増えることになります。目的はわかるけど、増えた業務は誰が、いつやるのか・・・?

「働き方改革」の旗振りのもと、メンバーへの残業規制は強くなる傾向がある。ゆえに、物理的に増えた業務負荷は誰が引き受けるのか?は、結局、管理職が一手に引き受けることも少なくありません。そして、管理職の業務負担感が高まっていきます。

「働き方改革」により、管理職の働き方は負担が高まる。

どうやらこのような現状も見え隠れするようです。

メンバーの「こぼれ球」は管理職が拾う

「働き方改革のしわよせは管理職に向かう」。

このことをより丁寧に紐解く上で、あるキーワードがあります。
それが「こぼれ球」という話です。

先日、管理職に関する問題についての「生声データ」をみることがありました。すると、そこに頻繁に登場してくる言葉が「業務負担」そしてセットになって「こぼれ球」という言葉がよく見られました。たとえば、以下のようなものです。

メンバー数の不足、能力不足によって、「こぼれ落ちた業務」を、管理職が拾っている。働き方改革のもと、メンバーへ負担を増やすことが難しいため、結局そのしわよせは、管理職が引き受けている

なるほど・・・。

同じく上述のパーソル総合研究所のデータでも、管理職の「業務的負担感」において最も強く感じているものが「部下の手の回らない仕事をカバーする」となっていました。

一番右に注目

管理職の「役割増えすぎ問題」

次に、「役割増えすぎ問題」もあります。

これはいわゆる「プレイングマネジャー化」していること、「部下の人数が増えている」ということもありますが、加えて、上述のコーポレート・ガバナンスの影響から「コンプライアンス委員」「エンゲージメント向上委員」などの兼務が増える影響もあります。

さまざまな取り組み施策が増える中で、組織内の組織が増え、そこに兼務として役割をアサインされる、ということも起こっています。

そしてこれも当然、「人手不足だから任せる人がいない。だから、ごめん、この役割頼むよ」となっているのかもしれません。これも多くの場合、管理職にしわ寄せがいきます。

「ダイバーシティ」という名の負荷

そのように、業務負荷が高まっており、そもそも時間がとれない中で、もう一つのパワーワードが飛び込んできます。

それが近年よく耳にする「ダイバーシティ」への対応、つまり”多様な個々人に合わせたマネジメント”です。時短勤務など働き方に合わせてマネジメント行うこと、年上部下などの難しさを感じやすいマネジメント、メンタルヘルスへの配慮、、、。

様々な多様な個人への対応が求められ、また昨今の流れで、そうした個別対応をされるのは当然と見なされる傾向もあるようです。(もちろん大事なことです)

働きに見合わない賃金

そして極めつけが「働きに見合わない賃金」問題です。これを「管理職はコスパが悪い」と表現する人もいました。

役割が多い、こぼれ球拾いもするし、兼務もする。、物理的負担も精神的負担も多い。しかし、給与は十分にもらっていると本人が感じられれば、頑張ることもできるのかもしれません。

しかし、実際は、管理職になると残業手当がなく、メンバー時代よりも給与が下がってしまう、、、こんなことも起こっているようです。こうなっては溜飲の下げどころが見つからない、というのもわかる気もします。

ちなみに、海外と日本では、管理職との給与の差が大きく開いていることが示されているデータもあり、このあたりは日本の労働市場における課題なのかもしれません。(もちろん、こうするためには役割定義を明確にする、降格の仕組みがある、なども必要になるのでしょうが)

週刊ダイヤモンド 2021.8月号 日本企業の経営幹部の給料が「タイ・フィリピン以下」の衝撃、日本は出世するだけ損?

管理職にまつわる「人事システムの課題」

そして、環境や構造的な問題だけではなく、管理職自身にまつわる問題もあります。コミュニケーションが一方通行、マイクロマネジメント、部下との信頼関係が作れていない、、、などなど。

しかし、これも一言で「管理職ががんばってないから」と結論づけるのは早計です。

一般には、「管理職の教育の不足」が影響していることも考えられます。一方、そもそも「適性ではない人を管理職へ登用している」こともあるかもしれません。そしてその背景には「管理職の成り手が不足しているから、やむなく登用している」とか「年功型の管理職がこれまでの慣例だったから」という可能性もあります。

じゃあ、そういう人は降りていただけばよいのですが、一度管理職になった人に対して「降格する仕組みがない」というのも挙げられていました。

こうして、管理職のスキル不足についても、いくつかの要因が関わってくるため、「教育がないからダメ」だけでも片付けられなさそうでs.

「管理職なりたくない問題」を一般化しすぎない

大きな流れとしては、「人手不足・ガンバナンス重視」→「業務量・役割数増」→「働き方改革・ダイバーシティ対応など個別対応増」→「管理職の負担感増)」というような流れも見えてきます。

そしてその結果、管理職が疲弊→ 楽しくなさそう→ 部下からみて魅力的ではない→ 管理職になりたくない(管理職罰ゲーム化)という流れがいっちょできあがり、と見えなくもありません。

・・・と、本日の記事では大きなデータを一般化して伝えてみました。

ただ強調したいのは、「あるデータを一般化しただけ」です。
ゆえに、個社ごとの事情は、当たり前ですが違っています。

上述のデータでも「人手不足と感じている」のは50.8%ですが、逆に言えば「人手不足と感じていない」も同じように半数近くいるわけです。

すると、こぼれ球問題とか、役割増えすぎ問題とか、当社には当てはません、ということも多分にあるでしょう。ゆえに「管理職なりたくない問題」も一つのパターンだけに当てはめることは困難です。

大事なのは、個社ごとに、何が原因なのかを見極める必要がある、ということでしょうか。たとえば、

・「経営・人事が現場を把握していない」ことが問題なのか
・「管理職への業務サポートが不足している」のが問題なのか
・「管理職への精神的なサポートが不足している」のが原因なのか
・「管理職になった時の教育がない」のが問題なのか
・「管理職の役割定義があいまい」なのが問題なのか
・「管理職の登用・あるいは降格制度」が問題なのか

などなど・・・・

自分たちの会社の「管理職になりたくない問題」の、核となる問題、周辺問題はどこにあるのか、何がどう絡み合っているのかを検討すること。
月並みな結論ですが、データを見ながらそんなことを改めて思った次第です。

そして管理職の皆様は、実に大変なお仕事をされているのだな、そんなことも感じました(本当にお疲れ様でございます・・・)。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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